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IT×シェアリングエコノミー Special Interview
内閣官房シェアリングエコノミー伝道師
一般社団法人シェアリングエコノミー協会 事務局 渉外部長
石山アンジュ 様


デジタル化が進展しITへの社会課題解決への期待が高まる中、JEITA ソフトウェア事業戦略専門委員会では、2017年度の活動としてシェアリングエコノミーをテーマとして取り上げ、ITを活用した新たな価値創造の調査・検討を進めています。
今回は、シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを提案する内閣官房シェアリングエコノミー伝道師 石山アンジュ(いしやま あんじゅ)様にお話を伺いました。



シェアリングエコノミーによる共助の世界

−初めに、シェアリングエコノミーの目指すところについてお聞かせください。
シェアリングエコノミーについて、世界的に見ても定義が確立しているわけではありませんが、基本的な考え方としては、個人間でのものの貸し借りや売買など、個人が主体となる経済社会が、目指す方向性です。生産者であり消費者である個人が直接つながり、経済的な関係を持つことで、公助ではなく共助の社会ができていくのではないかと思います。私個人の考えですが、日本の人口が減少し財政的に厳しくなっていく中で、中央集権から地方分権、さらには、個人個人がより生活において助け合ったり、できることを自分たちでやったりするなど、公助に頼り過ぎない社会を目指すべきだと考えています。

別の観点で言えば、仕事とプライベートを切り離して議論すること自体がなくなっていくのだと思います。シェアリングエコノミーで起こっていることは、生活の中で稼ぐことでもあります。民泊の例がわかりやすいと思いますが、仕事に行くという意識ではなく、自分の暮らしの中で、シェアリングエコノミーのプラットフォームを活用して収入が得られるようになる。それによって、生活のコストが減るとともに、より個人同士がつながりあって助け合うネットワークができていくと見ています。もちろん、現在はシェアリングエコノミーによる収入だけで生活できるようにはなっていませんが、例えば、30年後のように長期的なスパンで考えると、生活の中で稼ぐライフスタイルが定着してくるのではないでしょうか。

−公助から共助へというお話がありましたが、民間企業の役割については、どうお考えでしょうか。
企業の果たす役割はこれまで以上に大きくなりますが、ありかたは変わっていくと考えています。これまでのような、製品を作り広告宣伝によって販売し収益を上げるというビジネスモデルから、個人がビジネスの主体として活動するためのプラットフォームになっていくだろうと。現状でも、お店や商品に対する個人のレビューが購買行動に大きな影響を与えるようになっています。つまり、企業側が価値を押し付けるのではなく、個人が価値と感じることを届けるような、個人の経済活動を支えていく役割を担う企業が必要とされるようになっていくのではないかと思います。

将来は、ひとつのIDで、シェアリングエコノミーのさまざまなサービスにアクセスできる世の中になるかもしれません。その際に、いろいろなサービスを提供する統合型のメジャーなプラットフォームも現れるでしょうし、同時に、特化型のサービスを提供するプラットフォームに分散していく流れも起こるのではないでしょうか。既に、クラウドソーシングの世界でロゴ作成に特化したサービス事業者や、クラウドファンディングで不動産に特化したサービス事業者なども出ていきています。さまざまなサービスを提供する事業者が競い合いながら、企業の多様性が維持されていくのではないでしょうか。

利用者の意識変革の必要性

−シェアリングエコノミーの進展には、利用者側の意識の変革も必要ではないでしょうか。
さまざまな側面があります。調査からわかっている事実として、日本では海外と比較してシェアリングエコノミーに対する認知度、利用意向度、実際の利用率のすべてにおいて非常に低い状態にあります。その一番の理由が、トラブルへの懸念です。理由はふたつあると思います。ひとつは、日本企業のサービス品質の高さです。中国などでは、Uberのようなライドシェアを使った方がタクシーよりも安心だと言います。日本の一般認識は逆ですね。もうひとつは、他人である個人からサービスを受けることにそもそも慣れていません。助け合いの文化はありましたが、知り合い同士や狭い地域内など閉じられたコミュニティの中で行われるもので、知らない人とコミュニケーションする文化が今まではあまりなかったことも一因だと思います。

前者の安心感の醸成については、シェアリングエコノミー協会として、認証マークの発行による優良事業者の認知度向上などに取り組んでいます。シェアリングエコノミー事業者自身も、安全なスキーム作りに積極的に取り組んでいます。例えば、子育てシェアの株式会社AsMamaでは、紹介制度で参加者を限定したり、全国で講演し啓蒙活動をしたりしています。シェアリングエコノミー認証マークも取得されました。後者のコミュニケーションの問題は、SNSなどの台頭によって、インターネットを介して知らなかった人ともつながっていく文化が根付いていくことで自然に解決していく部分もあるように思います。実際、2000年以降に成人となるミレニアル世代では、シェアリングエコノミーの利用意向度は高い傾向にあります。

−確かに世代による違いはありますね。
長野県でのシェアリングエコノミー実証実験の事例が象徴的です。その地域では、女性の流出による男性の既婚率が低いことが課題でした。その原因のひとつが、農業と子育てと家事で、女性の自己実現の時間がないことでした。そこで、シェアリングエコノミーのシステムを導入し、女性が気軽に子供のあずかりを頼めたり、家事を頼めたりすることで、時間を創出する取り組みを行いました。結果、参加した女性の満足度は非常に高かったのですが、一方で、今後の普及に向けて課題となったのは、夫や親などの家族、地域社会の理解でした。利用者にとって便利なサービスであっても、それを利用するには、周りに理解してもらうことが先決なのです。今後、シェアリングエコノミーが普及するには、世代間の対話も重要なポイントになると思います。

−自治体の取り組みのお話が出ましたので、シェアリングエコノミーによる地域活性化の動向について教えてください。
今後、人口減少が進む中で税収の減少が見込まれます。地方ではすでに切実な問題です。その中で、地方自治体は持続可能な政策を作っていかなければならない。そのためには、個人が地域の主体となることが必要と感じておられるのだと思います。例えば、雇用ですね。佐賀県の事例で、就業機会を創出する目的でクラウドソーシングを活用した事業があります。従来、雇用確保の政策といえば企業誘致でしたが、個人の力を活かすことを自治体が支援する、という形への変化が起きているのではないでしょうか。北海道のライドシェアの実証実験の事例もあります。ボランティア町民ドライバーの自家用車を利用した移動手段確保の取り組みですが、それだけでなく、人口減少の中でも生活をより豊かにするための新しい共助の仕組みの構築と位置づけられています。

−自治体としては自分の役割を縮小していくことにもなりますね。
その通りです。考え方が本当に難しい点だと思います。ただ、これはシェアリングエコノミーだけではなく、AI、ロボット、自動走行など、これらのテクノロジーを推進していくこと全般に言えるのではないでしょうか。一方で雇用が失われていく可能性をはらんでいますので。バランスと経済合理性を考えながら実現していく必要があると思います。

IT活用による価値の創造

−最後にITとシェアリングエコノミーの関係について伺います。昨今のシェアリングエコノミーの進展は、ITが身近になったことも大きな要因と考えますが、いかがでしょうか。
シェアリングエコノミーの進展は、インターネットと、それに個人がアクセスできるスマートフォンの登場が前提となっています。例えばですが、自分の家でお醤油が半分余っていて誰かに分けてあげてもよい、という状況において、今まではご近所にしか届かなかったものが、SNSなどを通じて、グローバルな不特定多数の方にすぐに知らせることもできるようになりました。個人が所有するあらゆるものを他者に届けることができるようになったことは、シェアリングエコノミーが発展するうえで欠かせない背景だと考えています。さらに、決済システムや位置情報、こういった技術が日々進化する中で、今以上にできることが増えていくと思いますので、シェアリングエコノミーのサービスのさらなる発展が期待できます。

昨年の熊本大震災でも、シェアリングエコノミーのプラットフォームが多く使われました。被災された方に何かしてあげたいと思った方が、空いている部屋を提供したり、ドライバーとして支援に入ったりと、シェアリングエコノミーのプラットフォームを介して直接個人同士がつながり合えることは、ITのプラットフォームがあってこそ実現できる世界なのだと思います。

−一方で、お年寄りなどITが使えない方もおみえになりますね。
シェアリングエコノミーに限らず、インターネットテクノロジーでいろいろなことが享受できる世界において、デジタルデバイトや情報格差は大きな問題になっていくと思います。それを、シェアリングエコノミー事業者だけの力で解決するのは限界があります。一方で、地方のライドシェアのように、シェアリングエコノミーのサービスを一番必要としているのは、お年寄りなどインターネットを使っていない方であることも少なくありません。このギャップを埋めていくためには、地方自治体のIT化の推進や、個人へのIT教育が必要です。国や自治体には、こういったことに、ぜひお金を使っていただきたいと思っています。社会全体がメリットを享受できるようにすることが、公助の役割として重要なことだと考えています。

−夢でも構いませんので、今後のITの進展に期待することはありますか。
可能性は無限大だと思います。例えばAI。シェアリングエコノミーの基本的なビジネスモデルは、個人の間で需要と供給のマッチングを行い手数料をいただくモデルになりますので、マッチング精度をいかに高めるかは、どの事業者にとっても重要な事業課題です。マッチング精度を高めるAIへの期待は大きいです。

音声認識の技術で、今はスマートフォンを使えない方でもシェアリングエコノミーのサービスが使えるようになる可能性もあります。スペースのシェアサービスで、バーチャルリアリティの技術を使い、事前に場所を確認できれば、利用者の数はもっと増えるでしょう。ウェアラブルデバイスとサービスの連携も考えられます。テクノロジーで解決できることはいろいろありそうですね。今後が楽しみです。


インタビュイー: 石山アンジュ 様
1989年生まれ。内閣官房シェアリングエコノミー伝道師。一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局渉外部長、クラウドワークス経営企画室のかたわら、世界各国のシェアサービスを体験し「シェアガール」の肩書で海外・日本でメディア連載を持ちながら、シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを提案する。

インタビュアー / 記事執筆: 白井克昌
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA) 情報・産業社会システム部会 ソフトウェア事業委員会 ソフトウェア事業戦略専門委員会 委員長

JEITA ソフトウェア事業戦略専門委員会では、2017年11月6日に、IT×シェアリングエコノミーで社会課題を解決するアイデアソンの開催を計画しています。石山アンジュ様にもご講演いただく予定です。多くの方のご参加をお待ちしております。



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