第一部 『成長する社会インフラ市場の開拓に向けた IT 産業の未来像に関する提言』 ソフトウェア事業戦略専門委員会ではこれまで、日本の IT 関連産業の持続的な発展に向けたあるべき姿を示し、その未来像を実現するための取り組みを提言してきた。昨年度は特に、「オープン・イノベーションの加速と個人の発想力の活用」を取り上げ、日本企業固有の強みや良さを生かした取り組みが必要であると結論付けた。本年度は、その具体的な展開として日本の IT 関連産業のグローバル市場における競争力を分析し、今後有望視される社会インフラ系 IT 分野への参入可能性について課題を整理した。その結果を踏まえ、日本の IT 関連産業の持続的成長に向けた事業戦略に関して提言をまとめた。 社会インフラにおける IT 関連産業の活動領域や役割は、インフラの整備段階に応じて、 変化していく。本委員会では、社会インフラシステムの発展段階を大きく「導入段階」と 「活用段階」の二段階に定義した。「導入段階」とは、社会の都市機能を円滑に回すための 仕組みを提供する段階と位置づけ、個別の社会インフラから得られたデータ等を複合的に 利活用し新たなサービスを提供する段階を「活用段階」とした。 本委員会では、日本の IT 関連産業の持続的成長に向けた事業戦略検討の第一段階として、「社会インフラ系 4 階層 IT モデル」を提示する。このうち下位 2 層が「導入段階」に相当し、上位 2 層が「活用段階」に相当する。活用段階では、クラウドコンピューティングを通じて様々な業界から公開される情報を、利用者はネットワーク経由でサービスとして利用することとなる。中国の天津エコ・シティーや、アブダビのマスダール・シティーなど、一部の新興国では都市全体で情報の利活用を可能にする都市開発が行われている。このような動きは、新興国、先進国に関わらず広まりつつあり、今後活用段階における IT 需要は加速すると考えられる。 日本は、「導入段階」で構築が進む高信頼だが閉じたシステムの開発力には秀でているが、 これまで IT 関連企業参入の余地は少なかった。しかし「活用段階」では、今まで各機器の中で閉じていた情報を、分野を超えて開示・交換する技術開発が必要となり、IT 関連企業の活躍の場が広がる。だが他方で、活用技術の確立、新市場を形成する提案力、多分野を統率するマネジメント力など、これまで日本の IT 関連産業が得意としていなかった力も求められるようになる。本委員会としては、次年度以降も、引き続きグローバルな社会インフラ市場における日本の IT 産業参入のため、下記の検討項目について深く堀り下げていくこととしたい。 (1)情報活用サービスの検討 (2)社会インフラの情報活用に向けた基盤技術の検討 (3)グローバル展開のための施策の検討 2011 年 3 月 11 日に発生した「東日本大震災」の影響によりライフラインである社会インフラの維持に対する不安が持たれている状況にある。震災に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げるとともに、この未曾有の状況の中、市民生活の安全性、および、企業の事業継続性の確保のためにも、IT の活用による社会インフラシステムの信頼性向上や、利便性が高く安心/安全なサービスの提供が求められていると考える。