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平成23年度 ソフトウェアに関する調査報告書Ⅰ(IS−12−情シ−5)要旨
我が国IT関連産業の持続的成長に向けた事業戦略に関する調査研究報告書

 本委員会ではこれまで、我が国のIT 関連産業の持続的な発展に向けたあるべき姿を検討し、その未来像を実現するための取り組みを提言してきた。昨年度の調査では、社会インフラ分野の市場成長に注目し、社会インフラ市場動向や社会インフラ分野の役割等を調査した。調査の中で、社会インフラシステムの発展段階を、インフラシステムを高信頼かつ効率的に稼働させるための仕組みを提供する「導入段階」と、個別のインフラシステムから得られたデータ等を複合的に利活用し、安全・安心で快適な生活を営むための社会インフラサービスを提供する「活用段階」の二段階に分類し、両者を実現するIT のアーキテクチャを社会インフラ系4 階層IT モデル(I−model;キャピタルアイモデル)として提言した。特に、「活用段階」はソフトウェアやデータを中心とした情報処理技術がキーテクノロジーであり、今後、ソフトウェア産業の有望市場となることが予想される。そのため、「社会インフラのデータを利活用した新しいサービスの提供」分野において、我が国IT 産業が競争優位を確立していくための方策が求められている。
 一方、2011 年3 月11 日に発生した東日本大震災により、安全・安心に対するユーザーのニーズがさらに高まっており、災害時の情報提供のあり方やIT の活用による社会インフラシステムの信頼性向上、安全・安心を前提とした便利で快適なサービス提供など、情報利活用の在り方を見直す契機となっている。
 そこで、今年度は、東日本大震災に関する事例調査(東日本大震災時に活用された情報利活用サービス、東日本大震災時に直面した課題)、情報利活用に関する基盤技術の調査を通して、社会インフラ分野における情報利活用のニーズに応えるための情報利活用基盤のあり方を整理し、I−model の機能強化に向けた検討を行った。さらに、これらの調査を踏まえ、当該分野において我が国IT 産業が競争優位を確立していくための方策を検討した。
 まず、東日本大震災時に活用された情報利活用サービスの調査として、震災時に提供された情報利活用サービス事例をWEB および文献から収集し、震災時における情報利活用の実態を調査した。その結果、被災者や支援者個人が発信した情報がSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通して有効に活用されたほか、平時では提供されない公共データが提供された。また、大量データ(ビッグデータ)を処理する技術もネット系企業などを中心に活用された。
 さらに、東日本大震災時に顕在化した課題の調査では、報道機関の情報を中心に震災時の課題を収集し、社会インフラ分野における情報利活用の社会的・技術的な課題や制約を整理した。その結果、重要なインフラ系データの消失や雑多なデータ提供による混乱などのデータ提供に関わる課題、情報インフラの欠如や新しい情報処理技術へのニーズなど今後の技術開発のための課題が明らかになった。
 また、情報利活用に関する基盤技術の調査では、国内外の主要IT 企業の社会インフラ分野への取り組みやスマートコミュニティプロジェクトへの参入状況や、国内外の主要IT企業がめざすスマートな社会像とそれを実現するための技術・機能等を調査した。その結果、各社各様ではあるものの、社会インフラデータを活用した技術やサービス提供の強化という技術開発の方向性は共通であることがわかった。
 上述の調査を踏まえ、安全・安心・快適な社会の実現に貢献するための次世代情報利活用モデルとして、I−model に求められる機能や技術を整理、検討し、I−model を強化・再定義した(図 1)。昨年度のモデルとの差異は、震災の経験を踏まえた安全・安心を実現する機能の充実や、SNS などのコミュニケーション機能への配慮などである。モデルの中では特に、下位2階層で発生する公共機関・企業・個人などに関わる「社会インフラ情報」の提供と、これらを有効に処理する「I−プラットフォーム層」が重要だが、現時点ではこれらを活用する環境が整っているとは言えない。
 そこで、これらの環境整備に向けて、社会インフラ情報の提供を実現するための「情報開示・共有の仕組みづくり」と、これらを有効に処理するための技術開発強化に関わる「情報利活用基盤の整備」の2つの課題を提言した。
次年度も引き続き、上記2つの課題解決に向け、以下の2項目を中心とした調査研究を実施していく。
(1)情報利活用のための情報利活用基盤の整備
様々な社会インフラ情報を利活用する情報利活用基盤を整備するために、社会インフラ分野の情報を状況と必要性に応じて選別・活用できる仕組みの整備について検討する。
(2)情報開示・共有の仕組みづくり
災害時の情報提供、スマートコミュニティに対応した情報開示や共有のあり方、個人情報保護や情報セキュリティを担保するための仕組みなど、情報の開示・共有のための仕組みづくりについて検討する。

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