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平成27年4月21日


「政府情報システムの整備及び管理に関する標準ガイドライン実務手引書」
に関するJEITA及びJISAの見解について


一般社団法人 電子情報技術産業協会
ソリューションサービス事業委員会
ITサービス調達政策専門委員会
法務・知的財産権委員会
政府委託・調達契約に係る権利帰属に関するタスクフォース
一般社団法人 情報サービス産業協会
政策委員会企画部会公共調達WG


 一般社団法人 電子情報技術産業協会(以下「JEITA」)と一般社団法人 情報サービス産業協会(以下「JISA」)は、政府情報システムの調達においては、「質の高い行政サービスの実現に資する情報システムを適正な価格・期間で構築する」ことが大命題であり、調達プロジェクトを成功に導くためには以下の3つの視点が重要であるとの基本認識のもと、これまで政府調達制度に関する課題提起・提言活動を行って参りました。
・発注者ガバナンスに応じた調達の実施
・企画段階で手戻りが少なく、質の高い要件(業務要件、システム要件)を確定する仕組み
・技術力・知見に優れた事業者の選定
 このようななか、平成26年12月に総務省から「政府情報システムの整備及び管理に関する標準ガイドライン(以下、「新ガイドライン」)」が公開され、JEITA/JISAでは、「再委託先情報の開示に関しては、実務手引書作成の過程で開示内容の見直しを図るべき」等の内容を骨子とする以下のコメントを平成26年12月に発表しました。
・「政府情報システムの整備及び管理に関する標準ガイドライン」に関するコメントについて
(JEITA 平成26年12月18日)
  http://home.jeita.or.jp/cgi-bin/page/detail.cgi?n=763&ca=1
・「政府情報システムの整備及び管理に関する標準ガイドライン」に関するJISA のコメント
(JISA 平成26年12月24日)
  http://www.jisa.or.jp/Portals/0/resource/opnion/20141224.pdf?141224a
 さらに、「政府情報システムの整備及び管理に関する標準ガイドライン実務手引書(以下「実務手引書」)」が平成27年3月に公表されました。JEITA/JISAとしても、新ガイドラインおよび実務手引書が、政府情報システム調達の実務において着実に運用・実装され、プロジェクトの成功に向かうよう、民間事業者の立場で実践・参画していく所存です。
 この度、実務手引書に関するJEITA/JISAとしての見解を取りまとめましたのでここに公表いたします。
1.「新ガイドライン」および「実務手引書」に関するJEITA/JISAの基本認識
 実務手引書は、新ガイドラインの内容を補完し、担当者の理解の深化、利便性の向上等を目的として作成されたものとされています。
 新ガイドライン冒頭に記載されているとおり、政府情報システムは、今や単なる行政事務処理の道具ではなく、行政運営の中核を成す「基盤」として存在するに至っています。
 政府情報システムは、本来の目的である「国民の利便性向上」や「行政運営の効率化」を達成するため、政府IT施策との整合性の確保や既存業務の見直し等が十分に行われた上で、整備されるべきものです。
 しかしながら、これまでは、それらの検討・取り組みが不十分なまま作成された要件定義、あるいはコスト削減に偏重した調達が実施されたことにより、遅延・停滞や投資対効果が明らかでないプロジェクトが散見されました。
 この度の新ガイドライン及び実務手引書では、業務の見直しをプロジェクト管理に組み込み、システムの企画・調達・運用・廃棄のライフサイクル全般を通して、政府IT施策との整合性の確保や行政運営の見直し・改善を、政府CIOが中心となり、政府が一体となって取り組んでいこうという意図が明確に反映されたものとなっていると評価いたします。
 政府情報システムが業務と密接に関連しその効果を発揮するには、政府における不断の業務見直し、業務運営の効率化に資するシステムの要件検討が行える発注者能力の向上が不可欠です。また、同時に事業者の持つ知見や技術を最大限活用することも必要であると考えます。これからの政府調達においては、透明性や競争性の確保のみならず、技術力及び知見に優れた事業者の選定や事業者の創意工夫を促すインセンティブの付与等に配慮した制度構築がより一層求められるべきであると考えます。
2.新ガイドライン及び実務手引書に対する評価
(1)両団体として評価する改善点
 冒頭で述べた、新ガイドラインに関する両団体のコメント(平成26年12月)で指摘した「原則としての分離調達の廃止」「例外的に随意契約を選択する場合の手順の明確化」「調達、評価における技術重視」「知的財産の帰属」等については実務手引書において、より実務的な補完がされたものと評価しています。
 また、新ガイドラインでは、契約書に「範囲の限度を記載する」ことのみが規定されていた損害賠償についても、実務手引書の記載例において「契約に定める契約金額を限度とする」と記載され、従来から両団体が要請してきた事項が反映された点も評価しています。
(2)事業者からみた実務的な課題
 しかしながら、新ガイドライン及び実務手引書には、事業者が実務的な対応を行ううえで、課題と思われる点があります。
 特に以下4点については、新ガイドライン及び実務手引書の運用面を含めた継続的な見直しと知見の蓄積が必要と認識しております。
1) 経費の見積り
 概算要求時点でファンクションポイントやLOC、WBSによる詳細な見積りを求めることが記載されていますが、詳細な見積りは、要件定義が完了し、詳細機能まで確定していることが前提となります。業界としても、ある程度定量性を持った根拠ある見積りが必要との考えは理解するところですが、不明確な要件や機能を基にした詳細見積りは意味をなさないことは明白です。
 上流工程での予算見積りの限界を許容し、その後の見積りの変更に柔軟に対応できる運用(例えば、追加予算措置等)の検討、及び事業者への要件提示方法の検討が必要と考えます。
2) 再委託先の審査・承認
 政府の情報システムの調達では、個人情報等を含むデータの取り扱いを適切に行う必要があり、情報セキュリティ確保の観点から関わる事業者の適切性を確保する観点が必要なことは理解いたします。また、発注者として調達する情報システムの品質確保の観点から、受注者側の実施体制の確認を行いたいとの意向を持つ事も十分に理解できます。
 一方、実務手引書においても、再委託先の承認を行う理由として、受注業者が不適切な再委託を行い、効率性を損なうことがないようにするために承認手続きが必要であるとされています。しかしながら、民間企業においては、ビジネス戦略上の観点から特定分野の業務を関係会社に移管し、企業グループ全体として経営資源の最適配分を図る事業構造を取っている場合も少なくありません。このような事業形態の企業が受注した場合の再委託先については、手引書が指摘する「不適切な再委託」とは本質的に異なるものであり、発注者の承認の対象範囲外とすべきと考えます。
 加えて、政府情報システム調達における契約は請負契約であり、請負人の仕事の完成に対価が支払われるものです。この場合、仕事の完成に至る請負人の体制等は問われないというのが民法の本質です。再委託先との契約内容の開示(特に契約金額及び契約金額が他者に類推される恐れがある情報の開示)は、原価等の営業上の秘密やノウハウが明らかになる等の競争上の地位、その他正当な利益が損なわれる恐れがあります。
 再委託の審査・承認には、上記契約内容の開示を求めるのでなく、情報管理、品質、納期順守に向けた請負体制の妥当性を確認する等の事項により、適切性を確認するよう要望いたします。
3) 柔軟な調達方法の採用
 新ガイドライン、実務手引書においては、一般競争入札が原則とされながらも、調達の内容・状況に応じて企画競争、公募といった手続きが可能となっていますが、未だ従前の活用の範囲内にとどまるものと認識しています。
 政府情報システムの目的である行政運営の向上、効率化を目指すためには、要件を確定し調達する一般競争入札よりも、事業者のノウハウや創意工夫を募り活用することのできる企画競争を調達期間の設定等の運用ルールを明確にした上で、今までよりも重視すべきと考えます。
 また、アプリケーションの保守などの開発事業者が最も効率的、安全に実施が可能と考えられる業務については、他の事業者の対応希望の有無を確認する公募を積極的に活用することにより、行政事務の効率化及び運用の安全性、継続性に寄与する点を踏まえた検討も必要と考えます。
4) 成果物に係る知的財産権(著作権)の扱い
 優れたシステムの調達には、技術力・知見に優れた事業者(ベンチャー等含む)の選定が必要です。そのためには調達において、受注者の独自技術が保護され、新規の成果物を活用できるインセンティブがあることが重要です。
 この点、新ガイドライン及び実務手引書には、産業技術力強化法の趣旨に基づき成果物に係る知的財産権につき受注者帰属が原則と記載されており、大いに歓迎いたします。
 しかし、例外的に発注者帰属になる場合として、「国の業務に特化した汎用性のないもの」に加え「継続的な機能改修が見込まれるもの」ともあり、これが広範に解釈可能なため、受注者のインセンティブや、原則の運用及び趣旨を損なうおそれがあると懸念します。
 新ガイドライン及び実務手引書に記載した原則の趣旨を調達の現場に浸透させていくためにも、例外的に国が知的財産権を持つべき成果物とはどのようなものか、今後官民で協議を深め、明確化していくことが必要と考えます。
3.新ガイドライン及び実務手引書の継続的な見直しに向けて

 新ガイドラインでは、実務手引書について、「内閣官房は、総務省の協力を得て、実務手引書の内容を継続的に見直し、事例の蓄積・更新(入替え)をし、本ガイドラインを使用する担当者の理解の深化、利便性の向上等に資するものとする。」としています。
 JEITA/JISAとしては、実務手引書の継続的な見直し、事例の蓄積・更新(入替え)等に事業者の知見も反映されることが必要との認識から、内閣官房・総務省との定期的な意見交換会の場の設定を希望します。
 質の高い行政サービスの実現に資する政府情報システムの整備の促進に向けて、両団体とも今後とも協力を惜しまない所存であります。
◆「政府情報システムの整備及び管理に関する標準ガイドライン実務手引書」に関するJEITA及びJISAの見解について同内容PDF版(PDF185KB)◆
以上


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