
【 2001年7月号 】
はじめに
今回は、米国のブロードバンドの動向について取り上げる。
ブロードバンドについての報道は、米国では毎日のように新聞や雑誌を賑わせているが、その内容はその将来性に着目した前向きなものから顧客サービスの不備や事業環境の悪化を喧伝する後ろ向きなもの、果てはニューヨークのCATV会社タイム・ワーナー・ケーブルがライバルである地域電話会社ベライゾンのDSL(デジタル加入者線)サービスのCM放映を拒否したといった幾分ゴシップ的なものまで種々雑多である。
日本でも、今年に入ってDSLの加入者数が急増し、2001年5月末時点で17.8万人に達したという報道がある一方で、三井物産や米国リズムズ・ネット・コネクションズなど14社が東京都内で試験サービスを行なっていたADSL(非対称DSL)の事業化を断念するとの報道がなされている。
こうしたブロードバンド関連報道の加熱振りは、ブロードバンドがITを巡る当面の最大のキーワードの一つであることの証左であると言うことができるであろう。
前任の長谷川氏は1999年9月の駐在員報告でブロードバンドを取り上げているので、この報告を参考にしながら、以下にその後の米国におけるブロードバンドの進展を整理してみたい。
なお、本稿の執筆にあたっては、ガイアン・インターナショナル・ストラテジーズの原口健一氏に資料収集・整理などの面でお世話になっている。
1.ブロードバンドの契約者数
最初に、ブロードバンドの契約者数の現状をチェックしておこう。
先月の駐在員報告でも取り上げた、調査会社TRIのオンライン・センサスによると、2001年3月末時点におけるカテゴリー別のインターネット接続状況は、ケーブル・モデムが493万世帯、DSLが240万世帯となっている。先行するケーブル・モデムが着々と契約者数を伸ばしているが、有料ダイアルアップISPと比べるとまだ1割程度に過ぎない。
また、Kinetic Strategies社が提供するCable Datacom Newsも数字を出している。こちらはカナダを含めた数字であるが、2001年3月末時点における契約世帯数はケーブル・モデムが580万世帯、DSLが254万世帯、これが6月1日時点ではそれぞれ645万世帯、291万世帯に増えているという。
ちなみに、全米ケーブル通信連盟(NCTA)によると、米国のテレビ所有世帯数は約1億世帯、うち7,000万世帯弱がCATVに加入しており、CATV普及率は68%程度であるという。つまり、CATV加入世帯に占めるケーブル・モデム導入世帯の比率は7%程度に過ぎない計算になる。
米国のケーブル・モデムは契約世帯の絶対数だけを見ると相当普及している気がしてしまうが、普及率を考え合わせると、これを順調に伸びていると見るべきなのか、思ったほど伸びていないと見るべきなのかは悩ましいところである。
また、TeleChoiceが行なった調査によると、2001年3月末時点におけるDSLの契約件数は291万件、うち家庭(個人事業者を含む)向けが73%、事業向けが27%などとなっている。
なお、図1のグラフから読み取れるように、2001年第1四半期にはCLECsの契約者数が減少しているが、これはノースポイント・コミュニケーションズの破産法11条適用申請の影響であると考えられる。
米国のDSLの契約者数についても、順調に伸びてはいるものの、DSLが普及するきっかけとなったCLECsの参入によるILECsとの競争が、ILECsの勝利に終わる気配が強まってきた中で、こうした競争環境の変化が今後のDSLの普及にどのような影響を与えるかが注目される。
ちなみに、日本におけるブロードバンドの状況はどうだろうか。冒頭で、日本でのDSLの加入者数が急増し、2001年5月末時点で17.8万人に達したと書いた。総務省のホームページに数字が出ているので参考までに掲載しておこう。(図2) また、CATV網を利用したインターネット接続サービスの加入者数も出ているが、こちらは2001年3月末で78.4万人に達している。
2.ブロードバンド・サービスの状況
米国におけるブロードバンド・サービスの状況について、もう少し詳しく見てみよう。
まずケーブル・モデムによるインターネット接続サービスであるが、米国では上述のようにCATVが広く普及しており、AT&Tブロードバンド、タイム・ワーナーのような大手企業を筆頭に多くのCATV会社が存在している。しかし、CATV会社を通じてインターネット接続サービスを提供しているISPになると、実質的には300万世帯の顧客を有するエキサイト・アットホーム(サービスブランド名は@Home)と120万世帯の顧客を有するロードランナーの2社による複占状態にある。
エキサイト・アットホームは、1995年にCATV大手のTCI社の子会社アットホーム社として設立され、1999年のAT&TによるTCI買収に伴いAT&Tブロードバンド傘下に入った。1999年にインターネット・ポータルのエキサイト社を買収しエキサイト・アットホーム社となっている。
エキサイト・アットホームは、1997年にNASDAQに上場されており、AT&Tブロードバンドの他にもコックス・コミュニケーションズ、コムキャスト、ケーブルビジョン・システムズなど多くのCATV会社が資本参加している。つまり、ブロードバンド事業に求められる大規模な先行投資のための資金を賄うため、同社は資金の潤沢な親会社からの調達と公募による調達という「ハイブリッド型」の資金調達方法をとっているのである。
また、ロードランナーも、元々はタイム・ワーナー・ケーブルによって設立されたが、1997年にCATV大手メディアワン(2000年にAT&Tが買収)が、1998年にはマイクロソフトやコンパック、その他CATV企業が資本参加している。
なお、エキサイト・アットホームやロードランナーのサービスは、関連のCATV会社を通じて提供されており、料金はモデムのレンタル込みで月額約40ドル(一部の地域で異なる)、速度は最高でダウンロード2.8Mbps、アップロード128Kbps(実際には諸条件に応じて異なる)となっている。ISP別、CATV会社別、地域別の料金の詳細は、Cable Datacom Newsがまとめており、その概要は表4のとおりである。

(注)主なCATV会社のサービスのみ。また実際のサービスは都市単位であるが表では都市名を省略し州名のみ記した。
(出展: Kinetic Strategies)

さて、一方のDSLであるが、こちらは各地域でILEC(既存の地域電話会社、すなわちベビーベル)とCLEC(新規に参入した地域電話会社)やIXO(長距離電話会社)が激しい競争を行なっている。最近では、例えばCLECのノースポイント・コミュニケーションズが1月に破産法11条(日本の会社更生法に相当)の適用を申請し結局は10万人以上へのサービスを停止したとか、ILECのSBCコミュニケーションズが2月に利用料金を月額40ドルから50ドルに値上げしてアースリンクやベライゾン、ベル・サウスなど他社も追従しているといった、消費者にとって好ましくないニュースも多い。
DSLサービスは、料金が月額約50ドル(40ドルから値上がり)、速度がダウンロード0.6〜1.5Mbps、アップロード128KbpsのADSL(非対称DSL)が家庭向けの主流となっている。参考までに、ニューヨーク・マンハッタンの中心にあるJETROニューヨークで2001年6月現在受けられるDSLサービスを検索してみた結果を表5に示す。(なお、DSLは技術的問題からサービスエリアが中央電話局から電話線距離で2.5マイル=4km以内に限られており、ニューヨーク市でDSLサービスを受けられない人は50%に及ぶという。)
なお、私自身は、当初ターム・ワーナーのロードランナーに入ろうと思ったのだが、「英語版のWindowsとMac OS以外のPCはサポートしない」と言われ、不安になってやめた。(我が家にはWindows PCとMacがあるがいずれも日本語版である。)
そこで、DSLに方針を切り替え、ベライゾンのホームページを見たら、「あなたの住む地域は利用者が多いので現時点では新規加入はできない。7〜8月になれば可能になるかもしれない。」と書いてある。料金を10ドルも値上げしておいて、しかもこの調子では、本当に消費者がついて来るのだろうかと心配になる。
実際、DSLはなかなか工事してもらえないとかうまくつながらないという不満が多いようである。最近のニュースによると、ILECのベライゾンは、同社の加入者回線を利用してDSLサービスを行なっているCLECのコバド・コミュニケーションズが、自社のDSLサービスのトラブルはベライゾンの加入者回線に原因があるとの虚偽のトラブル・チケットを作成して責任をベライゾンに転嫁していたとして、コバドを訴えたという。
私は結局、ISPのアースリンク(通信回線はベライゾン)に申込みをしてあるのだが、我が家でブロードバンド環境が整うのはいつになるのであろうか。
3.ブロードバンドを巡る関係業界の動向
(1) AOLとタイム・ワーナーの合併
ブロードバンドに関しては、インターネット・サービス・プロバイダや通信事業者のみならず、コンピュータ、通信機、家電などの機器ベンダー業界、コンテンツ業界など様々な関係業界が関心を寄せており、戦略的提携やM&Aを通じた主導権争いが繰り広げられている。こうした中で、ここ1年の最大のトピックスといえば、AOLとタイム・ワーナーの合併であろう。
長谷川氏の1999年9月の駐在員報告に詳述されているAT&Tの積極的なブロードバンド戦略の展開に対抗するように、2000年1月10日、AOLとタイム・ワーナーの合併計画が発表され、その後連邦取引委員会(FTC)と連邦通信委員会(FCC)が精力的に審査を行なってきた。その結果、FTC(連邦取引委員会)が2000年12月14日に条件付きでこれを承認し、続いて2001年1月11日、FCC(連邦通信委員会)も条件付きで承認、世界最大の総合メディア企業AOLタイム・ワーナーが誕生した。
この合併は、総額1,060億ドルというメディア業界史上最高額の合併として注目されただけではなく、「ニュー・メディア(新メディア)」が「オールド・メディア(旧メディア)」を事実上買収したことで「歴史的」扱いをされている。(米国ではインターネット関連のメディアを「ニュー・メディア」と呼び、既存メディアを「オールド・メディア」と呼ぶ。)
| <AOLタイム・ワーナー傘下の主要会社ならびに主要サービス> |
| 【AOL】 |
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・オンライン・サービス(AOL:インターネット接続サービス)
・AOL MovieFone(オンライン映画情報とチケット販売)
・AOLTV(双方向テレビ)
・CompuServe(インターネット接続サービス)
・Digital City(オンライン・コミュニティ)
・ICQ(インスタント・メッセージならびにリアルタイム・コミュニケイション・ポータル)
・iPlanet E-Commerce Solutions(電子商取引ソフト開発)
・Netscape(ウェブ・ブラウザ)
・Netcenter(オンライン・ポータル・サイト)
・SHOUTcast(インターネット音楽サイト)
・Spinner.com(インターネット音楽サイト)
・Winamp(インターネット音楽サイト) |
| 【New Line Cinema(映画製作会社)】 |
| 【Time, Inc.(ニュース週刊誌出版)】 |
| 【Time Warner Entertainment】 |
| |
・HBO(映画専門のケーブルTV局)
・Road Runner(ケーブル・モデムによるインターネット接続サービス)
・Time Warner Cable(ケーブルTV会社)
・Warner Bros.(映画やTV番組の製作) |
| 【Time Warner Trade Publishing(書籍出版)】 |
| 【Turner Broadcasting System】 |
| |
・Atlanta Braves(メジャー・リーグ野球)
・Atlanta Hawks(プロバスケットボール)
・Atlanta Thrashers(プロホッケー)
・CNN(ニュース専門のケーブルTV局)
・TBS(ケーブルTV局)
・TNT(ケーブルTV局)
・Turner Classic Movies(クラシック映画専門のケーブルTV局) |
| 【Warner Music Group】 |
| |
・Atlantic Recording (レコード会社)
・Elektra Entertainment Group(レコード会社)
・London-Sire Records(レコード会社)
・Rhino Entertainment(レコード会社)
・Warner Bros. Records(レコード会社)
・Warner Music International(レコード会社)
・WEA(CD製作) |
AOLとタイム・ワーナーの合併は、おそらく現在考えられる新旧メディアの合併の相互業務補てんという意味では最高の例と言えるであろう。インターネット接続業務の他、ウェブ・ブラウザのネットスケープ、ポータル・サイト、コミュニティ・サイト、音楽サイトそれぞれの分野で最大手のインターネット・ビジネスのプロ集団AOLと、映画やレコードをはじめ、CNN、TIME誌、CATV事業といった従来型報道・娯楽の大手タイム・ワーナーが同一企業になることで、今後、既存テレビのデジタル化とインターネット接続のブロードバンド化が進む中、インターネット・ビジネス戦略ならびに技術、そしてコンテンツを一手に収める経営陣が誕生したことになる。3,000万人近い顧客基盤を持つAOLは、タイム・ワーナーと合併することにより、ブロードバンド接続の大容量通信が浸透する近未来に、映画や音楽、ニュース、雑誌といったコンテンツに事欠くことはあり得ない。
一方、旧メディアから新旧総合メディアに脱皮したかったタイム・ワーナーは、AOLとの合併によって、膨大なコンテンツのオンライン潜在市場を入手でき、デジタル・コンテンツ資産を有効利用できるようになる。例えば、タイム・ワーナー傘下の映画会社や音楽会社、CATV会社が、映画や楽曲、ニュース、スポーツ放送といったデジタル・コンテンツ商品をAOLの所有するウェブ・サイト上で売り出し、AOLが共同所有者を務めるiPlanet E-Commerce Solutionsが電子商取引技術を提供し、オンライン売買を完結させることも可能となる。映画や楽曲の著作権を持ち、販売場所を持ち、決済技術も持つという自己完結の可能なサービスを提供できる。
(2) FTCとFCCによる審査の経緯
さて、このようにブロードバンド関連業界に大きなインパクトを持つAOLとタイム・ワーナーの合併に対しては、FTC及びFCCの審査の過程で、利害関係者からの意見陳述も踏まえ慎重な審査が行なわれた。その概要について整理しておこう。
■FTCが課した条件
FTCは審議にあたって、2000年10月11日に両社の合併を承認したEU(欧州連合)による独禁法検証審議を参考にしている。EUの独禁法委員会は、タイム・ワーナーに対し、承認条件として、タイム・ワーナーが英レコード会社最大手EMIグループと合併する計画を破棄することと、AOLが独レコード会社最大手ベルテルスマンと仏レコード会社最大手ビベンディとの提携関係を断ち切ることを条件に課している。FTCは、EUによる審査を検証した結果、「オープン・アクセス」を条件にしている。そして以下のような条件を提示し、合意文書に盛り込んでいる。
1) AOLがタイム・ワーナー・ケーブルのケーブル網を利用してブロードバンド接続サービスを開始する前に、競合1社に同回線を開放すること。(その競合社にはアースリンクが選ばれている。)
最大争点は、一般消費者に複数の選択肢が与えられるかどうかで、FTCは、タイム・ワーナー・ケーブルがケーブル網をAOLの競合社に開放することで同問題が解決されると判断した。
2) AOLによるブロードバンド・サービスが開始されてから90日以内に、小規模市場において、AOLターム・ワーナーと提携関係にない別の競合2社にもケーブル網を開放しなければならない。
FTCはそれがちゃんと実行されることを確認するために、監視評議会(monitor trustee)を指名する計画である。同条件は向こう5年間有効になると規定された。
その背景には、全米世帯の95%以上に敷設される電話回線が、企業の所有物という解釈より「公共施設」という概念を適用されるのと同じように、今や約80%の世帯に敷設される同軸ケーブル通信網もケーブル会社の所有物ではなく、公共施設であるという解釈が支持されたことがある。FTCは承認後、「消費者の勝利である」「これで消費者は複数の高速ISPから好きな業者を選ぶことができる」と声明を発表した。
3) AOLタイム・ワーナーは、上記の条件が満たされた後、提携関係にあるISPにケーブル回線網を開放する際、非提携ISPと提携ISPの扱いを同一にし、非提携ISPに対し差別的契約内容を強いてはならない。さらに、AOLタイムワーナーは、DSLよりケーブル・モデム接続の方を優遇するような行為をしてはならない。(ここで言われる差別的行為とは、コンテンツの卸し業務(情報再販)に際し、AOLタイム・ワーナーの競合社に対してコンテンツ配信を拒否するような行為を指している。)
4) AOLタイムワーナーは、ロードランナーのサービス地域内と地域外の両方においてDSLサービスを提供しなければならず、さらにその際、両地域で同等価格をつけなければならない。ただし、回線使用料(ベビー・ベルへの接続料)の違いによる価格格差は認められる。
■FCCが課した条件
1) 将来、IM(インスタント・メッセージ)に新たな機能を付加する場合は、IMへの即時アクセスを競合1社に開放し、180日以内には更なる2社にも開放しなければならない。
AOLはIMを開放しない理由として、会員のセキュリティとプライバシー保護を挙げていたが、マイクロソフトを筆頭とするIM競合社は、市場占有率の大きさをてこにした不当競争であるとFCCに対し主張していた。ただし、FCCは、IM市場が将来変化することでAOLの独占懸念が解消されれば、同条件を緩和するという条項を盛り込んでいる。
IMは、電子メール・ソフトウェアを使うことなく、会員同士が簡単なテキスト・メッセージをリアル・タイムで交換できるシステム。メッセージを受け取ると、コンピュータ・スクリーン上にポップアップ形式で小窓が現れる。最近は企業でも重宝され、利用者人口が急速に増加しており、AOLとマイクロソフト、そしてヤフーのIM競争がし烈を極めている。
2) AOLタイム・ワーナーは、同社とは非提携の小規模ISPや地域ISPに対し、タイム・ワーナー・ケーブルの持つケーブル網を開放しなければならない。また、ISPに回線を卸す際、競合社のサービスを利用する消費者のアクセス時に最初に現れる画面をコントロールすることは許されない。提携関係のない純粋な競合社に開放した後、提携ISPにケーブル回線を卸す際には、非提携ISPに対するサービス契約内容と同じ契約を提示し、提携ISPを優遇するようなことがあってはならない。
競合社へのケーブル回線即時開放命令に対し、AOLは2000年暮れからアースリンクやジュノ・オンライン・サービシズと交渉し、両社への開放を公約している。アースリンクは近々タイム・ワーナー・ケーブルのケーブル回線網を利用したケーブル・モデム接続を一般消費者に提供し始めるとみられている。
また、FCCは、合併承認審議に際し、タイム・ワーナーの各部門の事業免許をAOLタイム・ワーナーに移行するにあたり、それが一般公衆に対し恩恵をもたらすかどうかを検証するために、学者や消費者団体代表を召還し、2000年7月に異例の公聴会を開いた。
さらに、上記の2つの条件とは別に、FCCは双方向テレビ市場が将来急激に拡大するという予測を踏まえて、別な管轄庁を設置して、同市場を専門に監視する規制考案機関として機能させることを発案している。双方向テレビが一般家庭に浸透すると、VOD(ビデオ・オン・ディマンド)市場が普及することが予測されるため、映画や音楽ビデオ、テレビ番組、ニュースといった膨大なコンテンツを所有するAOLタイム・ワーナーが、他社サービスと互換性のない独自のシステムで、会員だけが享受できる双方向テレビ技術を使って不当競争を強いる可能性を懸念したものである。
2001年1月12日付ワシントン・ポストによると、マイケル・パウエルFCC委員長(共和党)は、「IMが発達すれば、電子メールや電話に代わって、双方向テレビを利用したテレビ電話や映画ファイルの交換が可能となり、市場独占の土壌をつくることにもなりかねない」とが指摘している。
さて、FTCとFCCは上記のように、情報の流通チャンネルを牛耳る会社(AOL)と情報(コンテンツ)を牛耳る会社(タイム・ワーナー)が合併する際の初の実例として同件に対して厳しい慎重姿勢で取り組んだと言うことができる。業界専門家の中には、両社の根幹業務が異種業界になることから、合併申請を拒否することはないだろうという楽観意見もあったが、AOLとタイム・ワーナーの場合、インターネットという「ニュー・メディア」が、出版や娯楽という「オールド・メディア」と融合する方向に向かっていることから、審査が厳しくなった。AOLとタイム・ワーナーの合併の意味として、インターネット・ビジネス専門誌「Business2.0」は2000年10月10日付けで、「連邦政府は、ブロードバンド接続サービス業界において、一般消費者に選択肢を与えるようケーブルTV会社を監視する必要性に初めて迫られた」と書いている。
(3) AOLとタイム・ワーナーの合併の余波
AOLとタイム・ワーナーが合併したことで、それぞれの業界内戦略は軌道修正されることになった。
ダイヤルアップISPのAOLは、タイム・ワーナーとの合併決定以前からブロードバンド接続市場への進出を迫られており、旧ベル・アトランティック(現ベライゾン)やSBCコミュニケーションズとDSL接続契約を交わしていた。しかしその後、タイム・ワーナーとの合併を決定したこと、また、DSLの競争が激しくなったこと、タイム・ワーナーがロードランナーを運営していること、AT&Tがロードランナーの約4分の1を所有していること、「AOL Plus」(DirecTVとの提携による高速インターネット接続サービス。アップロードには電話回線を使いダウンロードには衛星を利用する。)をすでに立ち上げていること、といった様々な理由から、DSL戦略の方向性を再検討する必要が生じた。結局AOLはごく一部の限られた地域で試験的なDSLサービスを提供するにとどまっており、AOLのDSL進出計画は立ち消えになっている。
一方、タイム・ワーナーは、同軸ケーブル通信網をブロードバンド接続用インフラとしてすでに持ち合わせていたため、ケーブルTV大手のメディアワンをはじめ、マイクロソフトやコンパックの資本参加を受けて「ロードランナー」を立ち上げた。ロード・ランナーはタイム・ワーナー・ケーブルとメディアワンの合弁事業という形態をとっていたが、AT&Tブロードバンドが2000年にメディアワンを買収したため、エキサイト・アット・ホームをすでに買収していたAT&Tブロードバンドが、競合社のケーブル接続サービスを部分的に所有するという格好になっている。
また、タイム・ワーナーはAOLとの合併承認の過程で、ダイヤルアップISPのジュノ・オンライン・サービシズやアースリンクにケーブル通信インフラを開放することを約束した。そうなると、最大の競合相手であるAT&Tブロードバンドとともに所有するロードランナーの競争相手をケーブル回線の卸し先に持つことになる。
こうしたことを背景に、ロードランナーは2001年初めから内部事情が大幅に調整されており、タイム・ワーナー・ケーブルとAT&Tブロードバンドのどちらがロード・ランナー経営権を握るのか揺れていると言われる。
4.ブロードバンドを巡る今後の展望
(1) 競争政策
米国におけるブロードバンド発展のきっかけとなったのが、1996年の通信改革法であることはよく知られている。(ここではその詳細について改めて触れることは避けるが、ご関心の向きは、城所岩生氏著「米国通信改革法解説」(木鐸社)に詳しいので、御一読ありたい。) ブロードバンド分野における競争政策のあり方は、今後も同分野の発展に大きな影響を及ぼすであろう。
ケーブル・モデムによるインターネット接続に関する「オープンアクセス問題」については、FTCとTCCによるAOLとタイム・ワーナーの合併審査の過程で、前述のように一定の方向性が出されたと見ることができるであろうが、これはあくまで巨大企業同士の合併の際の条件であって、法制化ということになると話は別であろう。
また、ILECのブロードバンドへの投資を促進するためにはILECの長距離データ通信への参入を認めるべきであるとして、1996年通信改革法の見直しを求める動きもあるが、当然CLECは猛反対している。
ブッシュ政権がFCC委員長に指名したマイケル・パウエル氏は、前任のウィリアム・ケナード氏とは異なり、政府の関与(規制)よりも市場における競争を優先させる方針であると見られている。今後の動向が注目される。
(2) 新しいブロードバンド・サービス
本稿では、ブロードバンド・サービスとしてケーブル・モデムとDSLを中心に取り上げたが、これら以外の手段によるブロードバンド・サービスも出現している。そのうちいくつかを紹介しておこう。
その一つがレーザーを活用した無線通信サービスである。
テラビーム・ネットワークスは、無線通信技術を利用したブロードバンド・サービスをユーザーに提供しているが、この際、電波の代わりにレーザーを使っている。ユーザーはビルの窓際に特殊なレーザー送受信機を設置する。後は、無線通信のようにレーザー光線を送受信することでデータを転送する仕組みとなっている。送受信機が混雑の少ない転送経路を検知して自動的に切り替えるため、常に安定した転送速度を保てる。同技術は最高で1.25Gbpsのデータ転送を可能にする。最大のメリットは、敷設コストが大幅に削減できることである。
同社はルーセント・テクノロジーズから総額4億5000万ドルの投資を受けているが、一方、競合のエアーファイバーも通信機器メーカー大手ノーテル・ネットワークスの支援を受けて勢力を拡大しており、両社のぶつかり合いは必至とみられている。
サービスはまだ始まったばかりであり、今後どこまで市場を占有するかは不透明であるが、しかし、インフラコストが非常に安く、帯域幅が大きいことから、都心部にある企業向けのWANサービスとして発展していく可能性が高そうである。
もう一つは、衛星通信を活用したサービスである。
衛星通信事業者大手のディレクTVやエコスターは、他社と提携することによって、インターネット接続事業の拡張を試みている。しかし、衛星通信を活用する場合は、上り方向に電話回線を利用するため、衛星放送とISPの使用料金の両方が必要であり、このためDSLやCATVが利用できない地域などに限られてくる。
これに対し、スターバンド・コミュニケーションズは、双方向性のインターネット接続を提供する。ユーザーはモデムと送受信機を利用して、150局におよぶTV番組を視聴できるほか、インターネット接続(下り方向500Kbps、上り方向150Kbps)が利用できる。料金は月額59ドル95セントである。DSLやケーブルモデムに比べてデータ転送速度が遅いのと、月額使用料が高いため、他のサービスに比べて優位というわけではない。しかし、今後価格が下がればCATVやDSLの対抗製品となる可能性がある。
おわりに
日本でもやっとブロードバンドが普及し始めており、米国におけるDSLの値上げもあって、ブロードバンド利用料金で日本の方が安くなったという。しかし、先行した米国の状況を見てもわかるように、ブロードバンドは多額の先行投資を要するビジネスであり、日本でもいつかその壁にぶつかる時が訪れるかもしれない。
その壁を突き抜け、真の意味でブロードバンドがブレークするには、やはりコンテンツが重要だと思う。現状では、ブロードバンドの最大の牽引者は「コンテンツ」ではなく「常時接続」や「スピード」であるが、それだけでは高額なブロードバンドの普及には限界があるであろう。
「コンテンツ」勝負になった時に強いのは、豊富なストックを有するAOLタイム・ワーナーのような企業なのか、それともi-modeで流行ったキャラクター配信や着メロのような新しい大衆向けコンテンツを開発できる企業なのか。
まだブロードバンド分野での競争は始まったばかりである。(了)
本稿に対する御質問、御意見、御要望がございましたら、arataryohei@jetro.go.jpまでお願いします。
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