
【 2001年8月号 】
〜 米国におけるITソリューション・ビジネス 〜
JEITAニューヨーク駐在 荒 田 良 平
|
はじめに
日本でも「ソリューション」という言葉が広く使われるようになって久しい。米国企業は1990年代、ITソリューションを最大限に活用することにより、生産性の向上、売上拡大、マーケットシェアの増大などを果たし、国際競争力の回復を見事に実現していったと言われている。ITソリューションは、経営革新、ロジスティクス、業務プロセスの再構築といった分野において効果を発揮し、米国産業の基盤強化や力強い成長に計り知れないインパクトをもたらしたのである。さらに21世紀に入ってからも、米国企業はITソリューションを活用することでさらなる業務プロセスの改革を進めており、柔軟で迅速な経営体制、海外競争力の強化を目指し飽くなき努力を続けている。
今回は、米国におけるITソリューション・ビジネスについて、市場動向とともにいくつかのケーススタディを取り上げる。なお、本稿は、ワシントン・コアに依頼してまとめてもらった原稿をベースにしている。
1.ITソリューション市場の動向
(1) ITソリューションの定義
最初に、ITソリューション市場の規模やトレンドなどの全体動向について見てみることとするが、その前に、ITソリューションの定義について触れておこう。
米国を代表するITサービスの業界団体であるInformation Technology Association of America(IIAA)によると、ITソリューションは、@システム・インテグレーション、Aインターネット・ソリューション、BIT専門人材派遣、の3つの分野に大別されるという。
表1 ITソリューションの定義
| ITソリューション |
含まれるサービス |
代表的企業 |
| システム・インテグレーション |
ITプロジェクト管理、システム設計・導入、 ITコンサルティング、ソフトウェア・インテグレーション、 アプリケーション開発・管理 |
EDSCSCIBM ビッグファイブ 等 |
| インターネット・ソリューション |
ウェブ・インテグレーション インターネット・コンサルティング |
ScientViant 等 |
| IT専門人材派遣 |
ITコンサルタント、エンジニアなどの派遣、 紹介 |
Modis and HallKinion & Associates 等 |
(出典: Information Technology Association of America)
ただし、最近では米国では「ITソリューション」という呼称はあまり使われず、一般には「ITサービス」という言葉が使われているようである。参考までに、IT専門投資コンサルティングのCherry Tree & Co.が用いているITサービス企業の分類は、表2のようになっている。
表2 ITサービス企業の分類
| 分類 |
概要 |
細分類 |
| 専門的コンサルティング |
企業レベルでのビジネスや戦略のコンサルティング |
− ITコンサルティング
− 戦略的マネジメント・コンサルティング
− ビジネスプロセス・コンサルティング |
| プロジェクトベース・サービス・プロバイダ |
提供される商品や期間がより明確なプロジェクトベースのITサービス |
− アプリケーション / システム開発
− インプリメンテーション / インテグレーション
− ウェブ開発 |
| アウトソーシング |
プロセス自動化サービスやファシリティの管理運営 |
- プラットフォームITアウトソーシング
− ユーティリティ / ビジネスプロセス・アウトソーシング
− アプリケーション・アウトソーシング |
| 人材派遣 |
一時的又は長期のIT専門家派遣 |
- 純粋なIT人材派遣会社
- IT人材派遣会社によるプロジェクトベースでの高付加価値な人材派遣
- 財務・経理等を含む一般的な人材派遣会社によるIT人材派遣 |
| 教育訓練 |
カスタム・ソフトやパッケージ・ソフトを導入した企業に対する教育やヘルプデスク・コンサルティング |
|
| インターネット・インフラ提供 |
データセンター・ホスティングやインターネット接続を提供する企業によるウェブ・ホスティングやアプリケーション・ホスティングなど |
|
(出展: Cherry Tree & Co.)
「ITソリューション」と「ITサービス」の違いはわかりにくいが、もともとITは何らかの「ソリューション」を提供するという性格を持っているので、これらの違いが不明確なのは無理からぬところであろう。強いて言えば、増大する一方の「コンサルティング」や「アウトソーシング」のどこまでを含めるかという点で、ITサービスの方が少し広いで使われるような気がする。
(2) ITソリューション市場の規模
さて、用語の定義はさておき、ITソリューションの市場であるが、IT関連業界の中でも最も急速に成長している分野として注目を集めている。米国企業は、ビジネスプロセスの効率化、市場シェア拡大、新規商品開発、意思決定のスピードアップ、コスト削減、売上・収益拡大、新規市場への参入といった多岐にわたる経営戦略を実現するため、ITソリューションを至るところに導入している。また、IT人材の不足は深刻化しており、社内のITプロジェクト実施に必要な人材を持たない米国企業は、外部のITソリューション企業に大きく依存している。さらに、目まぐるしく変化する市場に迅速に対応するため、社内の情報システム部門が従来手がけてきた戦略性の低いIT事業は次々とアウトソーシングするという傾向も依然として強く、ITソリューション市場の急成長に大きく貢献している。
調査会社スタッフィング・インダストリー・アナリスツ(Staffing Industry Analysts)によると、米国のITソリューション市場は、1990年代後半から順調に成長を続けている。1997年には1,119億ドル規模であった同市場は、2000年には1,712億ドルにまで成長しており、2002年には2,178億ドルに達すると予測されている。また、ITソリューション市場の規模を分野別にみると、システム・インテグレーションとIT専門人材派遣が緩やかな成長をみせているのに対し、インターネット・ソリューションは爆発的な成長を遂げており、1997年には事実上ゼロに近かった市場規模も、2000年には212億ドルに達しており、2001年にはIT専門人材派遣を抜いて、300億ドル規模に達するとみられる。
図1 米国ITソリューション市場の分野別規模(単位:億ドル)
(出典: "IT Services Business Report" Staffing Industry Analysts)
インターネット・ソリューション市場の拡大は、年成長率の推移を見るとさらに明らかとなる。システム・インテグレーションが1998年以降は6〜8%程度で成長を続けている一方、インターネット・ソリューション市場は、1999年後半に3ケタ台の成長率を記録し、2000年に入ってからは幾分成長率も下がっているものの、2001年には50%、2002年には30%という高成長率を維持している。さらに、IT専門人材派遣が、1999年から2000年にかけて一時、成長が減速するものの、IT人材不足の深刻化を反映して、2001年以降は再び成長率が上がると予測されている。
表3 米国ITソリューション市場の分野別成長率推移
| |
97-98 |
98-99 |
99-00 |
00-01 |
01-02 |
| システム・インテグレーション |
15% |
6% |
8% |
6% |
8% |
| インターネット・ソリューション |
200% |
120% |
75% |
50% |
30% |
| IT専門人材派遣 |
23% |
11% |
10% |
15% |
18% |
| 合 計 |
21% |
11% |
14% |
13% |
13% |
(出典:"IT Services Business Report" Staffing Industry Analysts)
もちろん、ドットコム・バブルの崩壊や2000年の後半から始まった米国経済の減速の影響で、米国企業はIT投資を軒並み削減する中で、IT業界は大きな打撃を受けており、ITソリューション企業、とりわけサイエント(Scient)、レーザーフィッシュ(Razorfish)といった新興のウェブ・コンサルティング企業などは、急激な売上低下に見まわれるなど厳しい事業環境下に置かれている。しかし、業界関係者は、ビジネスの伸び悩みはあくまで一時的なものであり、経済成長減速においてもITソリューション市場は堅実な成長を続けると強気の姿勢を崩していないようである。その背景には、ますます激化する競争に打ち勝つためには、良質のカスタマーサービスを通した顧客定着率の向上、サプライチェーン・マネジメントによるコスト削減といった課題が今までにない重要性を帯びてきており、こうした方面でのIT投資は景気に関わらず今後も着実に伸びるはずだとの見方があるのであろう。
(3) ITソリューション市場のトレンド
米国におけるITソリューション・ビジネス市場の最近の特徴としては、以下の点を挙げることができる。
成長を続けるウェブ・ソリューション
企業のeコマース事業を支えるウェブ・ソリューションは、依然として人気を集めている。当初は、ウェブサイトのデザインをはじめとするフロントエンドのソリューションを専門に提供するウェブ・インテグレーター(iXLエンタープライズ、マーチファースト(2001年4月13日に破産法11条を申請)など)が大きく成長したが、最近では、ウェブサイトやサーバーの管理を手がけるホスティングやセキュリティといった、ウェブサイトの運営・インフラ管理を中心とするバックエンド・ソリューションが成長している。
ニッチサービスに特化したソリューション企業の登場
ITソリューション市場では従来、大手企業がアウトソーシングやシステム・インテグレーション、コンサルティングといった多岐にわたるソリューションをまとめて提供するのが通例であった。しかし最近では、特定のニッチ分野に絞ってソリューションを提供するプロバイダーが登場しており、成功を収めている。こうしたプロバイダーには、インターライアント(Interliant)、クエスト・サイバー・ソリューションズ(Qwest Cyber Solutions)といった、アプリケーションのレンタルサービスを手がけるASP(Application Service Provider)、サイトロック(SiteRock)、シルバーバック・テクノロジーズ(Silverback Technologies)に代表される、社内システムのモニタリングサービスを提供するMSP(Management Service Provider)などが挙げられる。
大手と新興ソリューション企業の競争
ITソリューション市場は、EDS、CSC、IBM、米国の5大監査法人である「ビッグファイブ」といった大企業が長い間、市場を独占してきた。しかし、eビジネスの爆発的成長をきっかけに、大手ソリューション企業が持たない柔軟性とスキルを武器に新興のソリューション企業が相次いで登場している。セキュリティ・ソリューション企業のサイトスミス(SiteSmith)、オンライントレーニング・ソリューション企業のカリバー(Caliber)に代表されるこれらの新興企業には、大手で長年経験を積んだベテランが優れたスキルを持つ部下を引き連れて独立し、企業を興したというケースが多い。
活発なM&A、戦略的アライアンス
大手ITソリューション企業は、従来のデータセンター管理やコンサルティングといった事業に加え、M&Aや戦略的アライアンスを通し、eコマースの戦略コンサルティングやインフラ構築といった新たな事業にも積極的に進出している。とりわけ、特定のソリューション市場で定評のある中堅プロバイダーを買収し、自社の事業拡大を行う大手企業が目立つ。例えば、EDSは2001年、ドイツの中堅ソフトウェア・コンサルティング企業であるシステマティクス(Systematics)を買収し、CSCは同年、財務ソフトウェア開発会社のマインド(Mynd)を買収している。
2.主要ITソリューション企業のプロフィール
(1) EDS(Electronic Data Systems)
| 本社 |
5400 Legacy Drive Plano, TX 75024 |
創立 |
1962年 |
| CEO |
リチャード・ブラウン |
| Phone |
972-604-6000 |
売上 |
192億2,700万ドル |
| URL |
http://www.eds.com/ |
従業員数 |
12万2,000人 |
【 沿革 】
テキサス州プラノに本拠地を置くEDSは、米国最大のシステム・コンサルティング専門企業である。1962年にロス・ペロー氏によって設立されたEDSは、12万人を超える従業員を抱え、システム・インテグレーション、アウトソーシング、データセンター管理といったサービスを民間企業および政府機関に提供している。また、EDSは、1995年に買収し、子会社として傘下に収めたA.T.カーニーを通して経営コンサルティングサービスも提供している。EDSの顧客には、シェブロン、ベルサウス、米国海軍などが含まれる。同社は1996年、親会社であったゼネラル・モーターズからスピンオフされたが、現在でも売上の20%はGMへのサービスが占めている。
【 サービス内容、M&Aなど 】
EDSは、データセンターや通信システムの管理、アウトソーシングといった従来のITソリューション事業に強い企業として知られてきた。しかし、同社は1999年、米国通信事業者第2位のワールドコムと170億ドル規模のアライアンスを形成し、Eコマースコンサルティング市場に参入を果たした。アライアンスでは、資産、従業員、サービスなどの交換に加え、ワールドコムのITコンサルティング子会社「MCIシステムハウス(MCI Systemhouse)」を16億5,000万ドルで買収している。2001年に入り、EDSは、旅行予約システム開発で定評のあるセーバー(Sabre)(注)1の持ち株会社と22億ドル規模のサービス契約(10年間)を締結しており、同社が持つ航空会社向けインフラのアウトソーシング事業を買収している。
(注)1 アメリカン航空が開発したオンライン旅行予約システムとして誕生し、その後、他の航空会社に同システムを提供する企業として独立した。米国の主要航空会社が使用するオンライン旅行予約システムは、全て同社が開発を手がけている。
表4 EDSの提供サービス概要
| ビジネスプロセス管理 |
カスタマーサービス、意思決定、アウトソーシング |
| ITソリューション |
システム・アプリケーションのインテグレーション、ASP、EDI、ウェブホスティング、ウェブサイトデザイン・導入、ワイヤレス・バンキング |
| 経営コンサルティング(A.T.カーニー) |
Eビジネスコンサルティング、IT計画、人材紹介 |
| システムサポート |
アプリケーション開発・管理、通信システム管理 |
(出典: EDS)
【 最近の大型契約 】
表5 EDSの最近の大型契約
| 契約企業 |
契約成立時期 |
契約金額、期間 |
サービス内容 |
| テルストラ(通信事業者) |
2001年3月 |
3億ドル5年間 |
ソフトウェア開発・管理 |
| J.Crew(アパレル) |
2001年2月 |
4,000万ドル7年間 |
データセンター、デスクトップ、通信サービス管理 |
| ダウケミカル(化学薬品) |
2000年12月 |
14億ドル7年間 |
通信インフラ導入・管理 |
| オクラホマ州政府 |
2000年11月 |
1億200万ドル7年間 |
医療情報管理システムの構築 |
| 米国海軍 |
2000年10月 |
70億ドル*(注)5年間 |
イントラネットの運営・管理 |
*(注)連邦政府IT契約では最大
(出典: EDS)
【 今後の展望 】
このように、EDSは、Eコマースコンサルティングやオンライン旅行システムのアウトソーシングといった成長市場に積極的に進出する一方、従来のデータセンター管理といった事業もバランスよく行っており、新興のコンサルティング企業が景気減速により大打撃を受ける中、堅実な成長を続けている。
(2) CSC(Computer Sciences Corporation)
| 本社 |
2100 E. Grand Avenue El Segundo, CA 90245 |
創立 |
1959年 |
| CEO |
バン・ハニーカット |
| Phone |
310-615-0311 |
売上 |
93億7,100万ドル |
| URL |
http://www.csc.com/ |
従業員数 |
5万8,000人 |
【 沿革 】
カリフォルニア州エルセグンドに本拠地を置くCSCは、世界を代表するITソリューション企業である。EDSの最大のライバルとして知られるCSCは、アウトソーシング、経営コンサルティング、システム・インテグレーションといったサービスを提供しており、具体的には、アプリケーション開発、ビジネス・プロセス・リエンジニアリング、ネットワーク管理アウトソーシング、Eコマースコンサルティングなどを手がけている。CSCは政府機関へのITサービス提供で定評があり、売上の25%は米国政府が占める。その他の顧客には、AT&T、エンロン(エネルギー)、ノーテル・ネットワークス、米国郵政公社が挙げられる。
【 サービス内容、M&Aなど 】
CSCは、従来からの大規模ITアウトソーシングを最も得意とする一方で、競合社のEDSやIBMグローバル・サービシズと同様、Eコマース関連のソリューションサービス開発にも力を入れている。とりわけ、ウェブホスティングや情報セキュリティといった分野でのソリューション提供に焦点を当て、顧客企業のEコマース事業を包括的にサポートする体制を整えている。さらに、CSCは積極的なM&Aにより事業拡大を進める戦略を実施しており、過去15年間に買収した企業数は65社にのぼる。CSCは1998年、イタリアのInformatica Group、フランスのKPMGピートマーウィック、ドイツのPergamon、オランダのSYS-AIDといった欧州を代表するコンサルティング企業を相次いで買収し、欧州市場での地位を一気に拡大した。また、2000年には会計ソリューション企業の大手であるMyndを5億7,000万ドルで買収し、財務ソフトウェア・サービス事業の充実を図っている。
表6 CSCの提供サービス概要
| アウトソーシング |
アプリケーション開発、コールセンター、デスクトップ、データーセンター管理、ネットワーク運営、システム分析、ウェブホスティング |
| システム・インテグレーション |
システム設計、開発、導入、統合 |
| 経営コンサルティング |
ビジネス・プロセス・リエンジニアリング、Eビジネス戦略立案・実行、IT戦略 |
(出典: CSC)
【 最近の大型契約 】
表7 CSCの最近の大型契約
| 契約企業 |
契約成立時期 |
契約金額、期間 |
サービス内容 |
| レイシオン(航空・防衛) |
2001年3月 |
3億5,000万ドル8年間 |
デスクトップ・アウトソーシング |
| 米国国務省 |
2001年1月 |
1億ドル9年間 |
信用情報サービス提供 |
| BEAシステムズ(航空・防衛) |
2000年11月 |
12億ドル6年間 |
ITインフラ構築・管理 |
| クープ銀行 |
2000年5月 |
4,400万ドル5年間 |
アプリケーション、インフラ、コールセンターの運営・管理 |
| イクイロン*(注)(石油) |
2000年2月 |
3億9,000万ドル7年間 |
ITインフラ構築・管理 |
*(注)シェル、テキサコなど大手石油会社のジョイントベンチャー
(出典: CSC)
【 今後の展望 】
CSCは政府との取引が多いため、民間セクターのように景気に左右されることなく、安定した成長を続けている。しかし、Eビジネスやウェブソリューションといった新しい事業では参入を果たしたばかりであり、今後、顧客企業のEビジネスを包括的にサポートするソリューションを開発できるかに注目が集まっている。
(3) IBMグローバル・サービシズ(IBM Global Services)
| 本社 |
New Orchard Rd. Armonk, NY 10504 |
創立 |
1914年(IBM) |
| CEO |
ダグラス・エリックス |
| Phone |
914-499-1900 |
売上 |
320億ドル |
| URL |
http://www.ibm.com/services/ |
従業員数 |
13万8,000人 |
【 沿革 】
IBMグローバル・サービシズは、IBMのサービス部門として同社の中でも急成長を遂げているITソリューション・プロバイダーである。IBMグローバル・サービシズの強みは、IBMが誇るハードウェア、ソフトウェアと各種サービスをパッケージとした「トータル・ソリューション」を提供できる点である。ITサービスを提供する際にも、コンサルタントは自社のハードウェアやソフトウェアに精通しているため、各顧客企業のニーズに見合ったサービスを効果的かつ効率的に提供することができる。
【 サービス内容、M&Aなど 】
IBMグローバル・サービシズが現在、力を入れている分野が、中小企業向けソリューションとウェブソリューションの2つである。同社は2000年末、中小企業向けのB2B Eコマースソリューション「Tradelert」を発表している。同ソリューションでは、オンライン取引サイトの構築からセキュリティ、保険といった多岐にわたる機能が含まれており、資金力が限られている中小企業でもEコマースを実現できる。さらに、ERPベンダー大手のJ.D.エドワーズと戦略的アライアンスを形成し、流通および公共セクターの中小企業向けのウェブベースITソリューションパッケージを開発している。ウェブベースソリューションでは、ERP、CRM、SCM、オンライン調達、ナレッジ・マネジメントなどが含まれている。また、2000年7月には、マーケティングやブランド創造のコンサルティングを専門に手がけるアラゴン・コンサルティング(Aragon Consulting)を買収し、Eビジネス向けのマーケティングソリューションの充実を図っている。
表8 IBMグローバル・サービシズの提供サービス概要
| ビジネスイノベーション |
法人向けアプリケーション(CRM、ERP、SCM)、ウェブアプリケーション開発、セキュリティ、ナレッジマネジメント、オンライン・マーケティング |
| 技術インテグレーション |
Eビジネスインフラ、ITコンサルティング、テクニカルサポート、製品トレーニング |
| 戦略アウトソーシング |
アプリケーション管理、データセンター、デスクトップ、ウェブホスティング、ネットワーク管理 |
(出典: IBM)
【 最近の大型契約 】
表9 IBMグローバル・サービシズの最近の大型契約
| 契約企業 |
契約成立時期 |
契約金額、期間 |
サービス内容 |
| アストラゼネカ(医薬品) |
2001年2月 |
17億ドル7年間 |
ITインフラアウトソーシング |
| 米国エネルギー省 |
2000年10月 |
3,100万ドル5年間 |
電子政府構築サポート |
| ソレクトロン(IT機器製造) |
2000年8月 |
18億ドル10年間 |
Eビジネスインフラ構築 |
| ニューパワー(エネルギー) |
2000年5月 |
15億ドル10年間 |
バックオフィスインフラ構築・管理、ウェブホスティング |
| テキサコ(石油) |
2000年5月 |
1億ドル5年間 |
デスクトップ、ネットワークインフラ管理 |
(出典: IBM)
【 今後の展望 】
IBMグローバル・サービシズは現在、ウェブホスティングやEビジネスソリューションに加え、情報セキュリティソリューションの開発にも力を入れており、最先端のEコマースソリューションを提供している。とりわけ、PKI(公開鍵暗号)インフラの開発では定評があり、他のITソリューション企業にはないユニークなソリューションとして注目を集めている。PKIは、電子政府の構築や大規模な企業間Eコマースシステムに不可欠なセキュリティ技術として急成長しており、IBMグローバル・サービシズの最も重要なサービスの1つとして今後が期待されている。
3.ユーザー企業のケーススタディ
以下に、ITソリューションを導入することで業務改革を実現し、現在もさらなるエクセレンスを追及しているフォーチュン500級企業をケーススタディとして取り上げる。
(1) デュポン(E.I. du Pont de Nemours)
| 本社 |
1007 Market St. Wilmington, DE 19898 |
創立 |
1802年 |
| CEO |
チャールズ・ホリデー(Charles Holiday) |
| Phone |
302-774-1000 |
CIO |
トーマス・コネリー(Thomas Connelly) |
| URL |
http://www.dupont.com/ |
売上 |
282億6,800万ドル(2000年) |
| 主要事業 |
化学薬品製造 |
従業員数 |
9万4,000人(2000年) |
| |
《 ITソリューション・プロジェクト 》
IBMのグループウェア「Notes」を導入し、社内の電子メールプラットフォームを統一、さらに、世界各地に散在する研究員、社員がウェブベースで情報を共有できる環境を構築した。これにより、リアルタイムでプロジェクトを進めるための協同作業が可能となり、新製品の開発サイクル短縮、事務処理コストの削減などを達成した。 |
【 沿革 】
デラウェア州ウィルミントン市に本拠地を置くデュポンは、米国最大の化学薬品メーカーである。デュポンは、世界70カ国に生産拠点を持ち、食品、ヘルスケア、農業、アパレル、建設、エレクトロニクスといった多岐にわたる業界に化学製品を提供している。デュポンが提供する製品には、被覆剤、ポリマー、ナイロン、特別繊維、ポリエステル、除草剤、医薬品、バイオテクノロジー関連製品などが含まれる。
デュポンは最近になり、中核事業である化学薬品製造に力を入れるため、戦略的重要性の低い事業部門の切り離しを行っている。同社は1999年、エネルギー部門の「Conoco」をスピンオフしており、現在は、医薬品部門のスピンオフを検討中である。デュポンは、ITソリューションという言葉が聞かれるようになる前から、戦略的なIT導入を推し進めて業務改革を行ってきた先駆者として知られる。デュポンのIT導入に影響を受け、他の化学薬品メーカーも相次いでITソリューションを導入するようになり、業界全体の情報化、競争力強化が一気に進んだ。
デュポンは、1990年代後半から順調に売上を伸ばしており、1996年には230億ドルであった売上が、1999年には260億ドルを突破し、2000年には282億ドルを記録している。
図2 デュポンの売上高推移(単位:億ドル)

(出典: デュポン)
【 ITソリューション導入の背景 】
デュポンの中核事業である化学薬品製造は、大きく分けると、@大量生産される一般化学薬品、Aカスタム製造が中心の特殊化学薬品、B急成長するライフサイエンス部門、の3つの分野から構成される。これら3つの分野における競争は今までになく激しさを増しており、デュポンでは、生産性の向上、業務の効率化が課題となっていた。
まず、一般化学薬品では、低コストでの大量生産を武器に成長を続ける中小メーカーが相次いで市場に参入しており、競争が激化している。そのためデュポンは、コスト削減、生産プロセスの大幅な効率化を求められていた。また、特殊化学薬品では、一般化学薬品のようにコスト切り下げの圧力は少ないものの、研究開発やマーケティングといった戦略が重要となり、社員間の協力体制構築が不可欠となった。そして最後に、デュポンが幅広く手がける事業の中でも急成長を遂げているライフサイエンスでは、新製品開発のための研究活動が鍵となるため、多岐にわたる研究分野の専門家を結集し、知識や情報の共有を促進する環境づくりが重要になった。
このようにデュポンでは、市場競争に打ち勝つため、コスト削減、研究・生産活動の効率化、研究者やその他社員間の情報共有の促進といった対策を講じる必要性が高まっていた。さらに、1990年に同社のCIOに就任し、社史上初の女性幹部となったシンダ・ホールマン女史が、投資収益率の高いIT導入プロジェクトを促進するための幹部委員会「Business Information Board」を1995年に設立し、社内でのIT活用による業務改革の動きが一気に高まった。その結果、社員間のコラボレーション(協同作業)を実現するためのITソリューションの導入が決定された。
同社では、従来から各事業部門が独自の電子メールプラットフォームを使っており、部門間でシンプルなテキスト以外のメッセージ交換が行えないという問題を抱えていた。そのため、物理的に離れたオフィスや研究所にいる社員同士は、電話やファックスといった通信手段に依存しており、効率的な情報交換が行えない状況にあった。そこで、ウェブベースのコラボレーションツールを導入することにより、世界中どこにいてもオンラインでリアルタイムの情報交換が行え、プロジェクトを進行できる環境づくりが開始された。
【 導入戦略 】
デュポンが「C3P(Communication, Collaboration, and Coordination Program)」と呼ばれるオンライン・コラボレーションのプロジェクトに着手したのは1995年までさかのぼる。同社は当初、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)をアプリケーション開発のパートナーに、IBMをソリューションパートナーに選び、システム・インテグレーションはCSCにアウトソーシングした(注)2(図3参照)。デュポンは、オンライン・コラボレーションのツールとして、グループウェア(注)3の代表格であるロータスの「Notes」を選び、1995年の後半に局部的な導入を開始した。ロータスシステムの導入を含めたアウトソーシング契約は、総額40億ドルという前代未聞の規模となり、化学業界関係者らを驚かせた。
(注)2 デュポンは、オンライン・コラボレーションのプロジェクトに加え、1997年にCSCと巨大アウトソーシング大アウトソーシング契約を締結している。42億ドル規模と言われる同契約では、CSCがデュポンのITインフラ管理を一括して担当しており、メインフレーム、デスクトップ、通信サービスなどを提供している。さらにCSCは、アプリケーション開発も手がけており、デュポンにおけるSAP R/3ソフトウェアの導入も実施している。
(注)3 企業などの組織内のコミュニケーションや情報共有を効率的に行うためのソフトウェアである。グループウェアには、電子メール、スケジュール共有、文書共有などの機能を持つものが多いが、最近では単なる情報共有だけでなく、アイデアやノウハウの蓄積などにも活用されるようになっている。また、従来は社内専用ネットワーク上での利用に限られていたが、現在はインターネット技術を取り入れ、インターネット経由でブラウザを利用してグループウェアの機能を利用する製品が増えている。
1997年には、企業全体のオンライン・コラボレーションを最も効率的に導入・展開するためのアプローチが検討され、Notesの本格的導入が始まった。1998年には6,000人への導入が行われ、その後、1万人を超える社員へのシステム展開が進められた。しかし、社内のIT部門だけでは、世界各地に散在する何万人もの社員へのNotes導入が困難となり、システムのアーキテクチャ設計や迅速な導入において豊富な経験を持つIBMが、サーバーなどのハードウェア機器とソフトウェア提供だけでなく、導入・展開戦略のパートナーを兼任することになった。
図3 デュポンのオンライン・コラボレーションプロジェクト概要

(出典: ワシントン・コア作成)
IBMは、グローバルな規模でのNotes導入プロジェクトをいくつも手がけており、他のITソリューション企業とは比較にならないほどの経験とノウハウを持っていたため、デュポンのプロジェクトにおいても活躍した。また、単なるNotesの導入だけでなく、システム・セキュリティの強化、サービスレベルアグリーメント(Service Level Agreement=SLA)(注)4に関するコンサルティングといった包括的ソリューションサービスを提供している。
デュポンは、2000年末において6万人の社員へのNotes導入を完了しており、2002年には合計8万人の社員がNotesを利用できる見込みとなっている。
(注)4 情報通信サービスを提供するプロバイダーが、顧客に対してサービス品質を保証するための契約を指す。契約条件が守られない場合には賠償金を支払うといった措置がとられる。
【 導入効果 】
Notesの導入をはじめとしたオンライン・コラボレーションの整備は、デュポンに大きな変化をもたらした。まず、Notesの導入により、世界各地の研究者らがオンライン上に集まり、アイデアの交換や共同作業を行えるようになったことで、研究プロセスに費やされる時間が大幅に削減されたのに加え、事業において重要な意思決定を下す幹部らがオンラインで情報の交換・共有を行うことで、意思決定にかかる時間が50%以上削減されたケースも報告されている。さらに、業務プロセスや価格の変更といった作業も短時間で行えるようになり、市場の急速な変化に素早く対応できる体制が整えられた。
デュポンは今後、2002年末までにNotesの導入を完了し、世界中の社員がNotesを利用できる環境を整備する予定である。その後には、SAPのERPソフトウェアであるR/3とNotesを5年かけて統合し、社員全員がNotesを通して企業全体のデータベースにアクセスし、業務の進捗状況をリアルタイムで把握できる体制づくりを進めると意欲をみせている。
(2) DHLワールドワイド・エキスプレス(DHL Worldwide Express)
| 本社 |
333 Twin Dolphin Drive Redwood City, CA 94065 |
創立 |
1969年 |
| CEO |
ビクター・ギナッソ(Victor Guinasso) |
| Phone |
650-593-7474 |
CIO |
ショーン・ファシチ(Shawn Farshchi) |
| URL |
http://www.dhl.com/ |
売上 |
51億ドル(1999年) |
| 主要事業 |
エキスプレス配送サービス |
従業員数 |
6万3,600人(1999年) |
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《 ITソリューション・プロジェクト 》
IBMのミドルウェア「MQ Series」、グループウェア「Notes」を活用し、顧客向け多機能ウェブサイト「DHL Connect」を構築した。最新ウェブサイトでは、競合社に配送を依頼した小包も含めたトラッキング、配送コストの見積り、海外配送の際の必要税関文書の作成といった作業を、顧客が一括してセルフサービスで実施できる。DHL Connectの立ち上げにより、同社は年間400万ドルにのぼる経費削減を達成できるとみている。 |
【 沿革 】
カリフォルニア州レッドウッドシティに本拠地を置くDHLワールドワイド・エキスプレスは、世界最大の海外エキスプレス配送業者である。DHLは、米国内のエキスプレス配送を手がける「DHL Airways」と、海外のエキスプレス配送を手がける「DHL International」の2部門から構成される。DHLがカバーする配達地域は230カ国を超えており、63万5,000都市へのエキスプレス配送を行っている。
DHLは最近になり、グローバル・ロジスティクス管理といった付加価値サービスを提供しており、単なる荷物配送だけではなく、包括的なロジスティクス・ソリューションを提供する企業へと転身を図っている。DHL Internationalは、欧州最大の配送業者であるドイツポストとルフトハンザ航空がそれぞれ25%ずつを所有しており、今後、ドイツポストが持ち分を51%に拡大する見込みである。
DHLの売上高をみると、1990年代を通して堅実に成長を遂げているのがわかる。同社の1995年の売上は38億ドルとなっており、1997年には48億ドルに、最新データである1999年の売上は51億ドルとなっている。
図4 DHLの売上高推移(単位:億ドル)

(出典:hoovers.com)
【 ITソリューション導入の背景 】
エキスプレス配送市場は、フェデラル・エキスプレス、UPSといった大手業者が熾烈な争いを繰り広げるダイナミックな市場である。また、大手配送業者は、より正確でより速い配達、良質のカスタマーサービスなどを実現するためにITを積極的に導入することで知られており、他社との差別化のためにいかに戦略的にITを活用するかが競争の鍵を握っている。
そこでDHLは、新規顧客の獲得、顧客定着率の向上といったフロントエンドの充実を図るため、顧客企業の配送業務やロジスティクス管理をサポートするウェブサイト「DHL Connect」の構築を決定した。DHL Connectは、配送荷物回収のスケジュール設定、宛先ラベルの作成・印刷、輸出関連文書の作成、荷物のトラッキング、配送コストの見積りまで、企業の配送業務に必要となる作業の全てをオンラインで行える画期的サイトである。
【 導入戦略 】
DHL Connectの構築が決定されたのは1995年である。ウェブサイトの構築決定当時は、ダイアルアップ接続を利用したアーキテクチャが検討されていた。しかし、その頃ちょうど急成長を遂げていたインターネット技術を取り入れるべきとの声が高まり、アーキテクチャが大きく変更され、多岐にわたる付加価値サービスを提供できるサイトの構築が始まった。
DHLは、DHL Connect構築のソリューションパートナーとしてIBMを選んだ。同社はまず、サイト構築に必要な新アプリケーションとDHLのレガシーシステムを統合するために、IBMのミドルウェア(注)5「MQ Series」を導入、端末のインターフェースにはロータス「Notes」が選択された。
同社は1996年、DHL Connectのテスト版を構築して実験的導入を実施、しかし、ウェブベースの本格的システム構築には、当初の予想を大幅に上回る資金と人材が必要となることが明らかとなり、プロジェクトが一時中断した。しかし、DHLは迅速にプロジェクト体制の立て直しを実施し、1997年末にはサイトのベータ版を完成させた。ベータ版テストが終了した後、1998年5月には、800社を超える中小の顧客企業がDHL Connectを使用するまでに至った。さらに、1998年7月には同サイトの最終版が完成し、数カ月後には7,000社にのぼる顧客企業がDHL Connectへアクセスできるまでになった。
DHLがウェブサイト構築プロジェクトを迅速に実施できた背景には、同社の積極的なビジネスプロセス改革が存在する。とりわけ、DHL Connectを実施する上で最も重要となる@カスタマーサービス、A取引処理といった業務のプロセスは徹底的な見直しが行われた。カスタマーサービスでは、従来の電話による質問・苦情対応が大幅にカットされ、荷物回収のスケジュール設定や梱包材料の注文などが全てオンライン化された。さらに、荷物のトラッキングサービスにおいては、DHLだけでなく、競合社のフェデラル・エキスプレスやUPSを使って送った荷物のトラッキングも1つのページから行えるという画期的な機能を提供し、注目を集めている。顧客企業の多くは、国内航空輸送、海外輸送、地上輸送など、輸送のタイプ別に配送業者を使い分けている場合が大半であり、全業者のトラッキングをまとめて行えるサービスは人気を博している。
(注)5 OSとユーザー・アプリケーションの間に位置するソフトウェアの総称である。ミドルウェアを利用すると、ハードウェアやOSの種類に関係なく共通して使えるアプリケーションを開発できる。
【 導入効果 】
DHL Connectの導入による経費削減効果は、サイトの立ち上げ直後から如実に表れることとなった。同社が独自に行った調査によると、DHL Connectの導入により、取引当りのコストが75セント〜1ドル節約できるようになった。DHLは、オンラインでの取引が全体の取引総数の10%を占めるまでに成長していると報告している。同社が年間に扱う取引総数が4千件を超えることを考えると、DHL Connectによる年間の経費節約総額は400万ドルにのぼる。
また、DHL Connectの導入効果は、経費削減だけでなく、新規顧客の獲得といった恩恵ももたらしている。例えば、フェデラル・エキスプレスの大型顧客であった某銀行は、オンライン上での請求書の情報入力にかかる時間が、フェデラル・エキスプレスは6分であるのに対し、DHLではその半分の3分で済ませられるということから、フェデラル・エキスプレスとの契約を破棄し、DHLと新たな取引関係を結んでいる。
(3) サターン(Saturn)
| 本社 |
100 Saturn Parkway Spring Hill, TN 37174 |
創立 |
1985年 |
| CEO |
シンシア・トゥルデル(Cynthia Trudell) |
| Phone |
800-553-6000 |
CIO |
ラルフ・ジジェンダ(Ralph Szygenda) |
| URL |
http://www.saturnbp.com/ |
売上 |
1,846億ドル(GMの数字) |
| 主要事業 |
自動車製造(GM子会社) |
従業員数 |
38万6,000人(GMの数字) |
| 主要事業 |
エキスプレス配送サービス |
従業員数 |
6万3,600人(1999年) |
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《 ITソリューション・プロジェクト 》
CRMソフトウェアの導入およびフロントエンドの業務プロセス改革によるカスタマーサービスの向上を目指す。同社はシーベル・システムズのCRMソフトウェアを活用し、顧客1人1人に行き届いたサービスを提供し、顧客定着率の上昇ひいては企業収益の向上の実現を狙っている。 |
【 沿革 】
テネシー州スプリングヒル市に本拠地を置くサターンは、ゼネラルモーターズの子会社として、サターンブランドの自動車を製造している。1990年から自動車製造を開始したサターンは、現在までに220万台にのぼる自動車を製造しており、ドルベースに換算すると総額220億ドルを超える。同社は、衝撃に強いポリマー仕様のボディパネルといったイノベーションで知られており、最近では世界初の3ドアクーペである「SCシリーズ」を発表し話題を集めている。
サターンは、環境や安全性を考えた車づくりと良質のカスタマーサービスで定評がある。同社の製品は、エンジニアリングなどの分野で数々の賞を受賞しており、最近では、サターンの主力製品である「Lシリーズ」の最新モデルが、環境への配慮を取り入れた設計により「Automotive Market Environmental Sensitivity Award」を受賞している。さらに、同社のきめ細やかなカスタマーサービスは自動車業界でも1、2位を争うと言われており、5年ごとにサターン本社で開催されるオーナー向け感謝パーティーには、4万人を超えるオーナーが全国各地から集まると言われており、顧客の定着率の高さを物語っている。
サターンはGMの完全子会社であるため、独自の財務データは発表していない。そこで、サターンも含めたGM自動車部門の売上高推移をみると、1997年には13億7,000万ドルを記録しており、1998年には12億9,000万ドルと一時的に下がるものの、1999年には再び盛り返しており、14億6,000万ドルとなっている。
図5 GM自動車部門の売上高推移(単位:億ドル)

(出典: GM)
【 ITソリューション導入の背景 】
1990年代を通して急成長を遂げてきたサターンでは、カスタマーサービスに寄せられる電話や電子メールの件数が急増していた。また、同社のアグレッシブなマーケティング戦略が効を奏し、車種や関連サービスに関する問い合わせの電話も殺到するようになった。そのため、カスタマーサービス・スタッフへの負担が増加し、顧客1人1人に行き届いたサービスを提供することが困難となった。事実、自動車メーカーの格付けを行うJ.D. Power Associatesによると、サターンは1995〜1998年まで「顧客満足度」で首位に君臨していたものの、1999年には6位に急落している。
そこでサターンは、カスタマーサービスのスタッフを増員せずに、顧客1人1人とのコミュニケーションを効率的に管理する体制を整えるべく、CRM(Customer Relationship Management)(注)6ソフトウェアの導入に踏み切った。
(注)6 顧客関係管理と訳される。顧客と接する機会のある全ての部門で顧客情報とコンタクトの履歴を共有・管理し、どのような問い合わせがあっても常に最適な対応ができるようにするためのソフトウェアを指す。マーケティングから見込み顧客の発掘、商談成約、商談成立後の保守サービスや問い合わせ対応といった商談のライフサイクル全体にわたって顧客関係を深め、企業収益の向上に結びつける狙いがある。CRMソフトウェアの代表的ベンダーとしては、シーベル、バンティブ(Vantive、2000年にERPベンダー大手のピープルソフトに買収された)などが挙げられる。
【 導入戦略 】
サターンは、CRMソフトウェア導入のパートナーとしてEDSを選んだ。EDSは、CRMソフトウェアの大手ベンダーであるシーベル・システムズ(Siebel Systems)のソフトウェア導入を手がけ、サターンの販売、マーケティング、コールセンターといった業務の統合を進めている。CRMソフトウェアの導入に加え、EDSは、サターンのカスタマーサービスのプロセスを抜本的に改革すべく、現状や問題を徹底的に分析し「One-Call Resolution」と呼ばれる新戦略を立案した。One-Call Resolutionは、顧客と直接コンタクトのあるスタッフへのトレーニング戦略である。戦略では、顧客からの問い合わせに答えられるよう必要なスキル、知識を身につけさせ、さらに、CRMソフトウェアの効率的な利用方法に関するトレーニングを行うといった狙いがある。
また、サターンは2000年1月、CSCをはじめとするIT企業数社と契約を結び、CRMソフトウェアと既存のディーラー向けシステムを統合する計画を発表した。サターンは通常、親会社GMとのつながりが強いEDSをIT導入における技術パートナーとして選択することが多い。しかし最近では、EDSの競合社であるITソリューション企業も検討するようになっており、自社のニーズに最適なサービスを提供できるソリューション企業を選ぶ傾向が強まっている。
計画では、異なる事業にまたがったウェブベースの業務管理システムの構築が進められる。CSCとの契約では、システム開発に15カ月を費やし、その後1年で導入、残りの5年はシステムサポートサービスを提供することになっている。新業務管理システムが完成すれば、サターンの取引先企業や消費者は、自動車修理履歴の閲覧から自動車ローン、リース情報の入手といった一連の作業をウェブ上でセルフサービスで行うことが可能となる。
【 導入効果 】
サターンは、ITソリューションを導入してカスタマーサービス部門を一新したことにより、顧客からの問い合わせや苦情を効率的に管理できるようになった。例えば、カスタマーサービスに寄せられる電話や電子メールのうち、全体の95%がその場で対応できるようになり、迅速な対応が可能となった。
おわりに
日経ビジネスなどを読んでいると、日本の企業においても様々な形でITソリューションが導入され成果をあげており、今回取り上げたようなITソリューションの導入事例は、もはやそれほど目新しいものではないかもしれない。また、当然のことながら国によって、また企業によって業務プロセスやビジネスプロセスが異なり、ITソリューションの導入により解決すべき課題も異なるので、今回取り上げたケーススタディのまねをしても意味がないだろう。
しかしながら、ケーススタディにおいてITソリューション導入が成功した要因となっている、明確でわかりやすいITソリューション戦略の設定、ITソリューション企業との密接な関係の構築、経営トップの強力な関与、IT導入にあわせた業務プロセスやビジネス・プロセスの思い切った変革、などといった点は、大いに参考とすべきであろう。
来月の本報告で詳述するつもりだが、先日、電子政府関連のイベントである「e-gov 2001」で、米国連邦政府GAO(General Accounting Office)長官のDavid Walker氏のスピーチを聞く機会があった。彼は質疑応答の中で、電子政府推進にあたり最大の課題は「人」であり、次に「業務プロセス」であり、その次が「技術」だと言っていた。電子政府とは言わば政府へのITソリューションの導入であるから、この言葉はそのままITソリューション全般にもあてはまるであろう。
ITソリューションに関して日本は米国よりも遅れていると言われるが、その原因はITソリューション企業の技術力や提案能力の低さだけの問題ではない。ITソリューションを導入する企業の、社員のIT教育や業務プロセスの変革が伴わなければ、ITソリューションはうまくいかないであろう。このような点で如何に日本の産業界が変わっていけるかに、日本のITソリューション・ビジネスの発展の鍵があると思われる。(了)
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