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ニューヨーク駐在員報告
 【 2002年3月号 】



  〜 「米国におけるB2B電子商取引の動向」(その1) 〜

JEITAニューヨーク駐在 荒 田  良 平


はじめに

 今回と次回の2回にわたり、米国におけるB2B(企業間)の電子商取引の動向について取り上げる。B2Bの電子商取引については、2000年の「ドットコム・バブル崩壊」を機に多くのeマーケットプレイスがそのビジネスモデルの脆弱性を露呈する中で、その将来見通しが下方修正されてきているものの、全体的には依然として将来有望な成長分野であることは間違いないのであろう。しかし、各論レベルになると、様々な事例と評価が飛び交い、なかなかその全体像がわかりにくい分野でもある。
 そこで、今回は、まず米国におけるB2B電子商取引の最近の全体的な動向について取り上げ、次回にいくつかの具体例と今後の展望を取り上げることとする。なお、本稿は、ガイアン・インターナショナル・ストラテジーズの原口健一氏に依頼してまとめていただいた原稿をもとにしている。


本題に入る前に 〜2003年度大統領予算教書におけるNetworking & IT R&D〜

 本題に入る前に、先月の駐在員報告において、Networking & IT R&D(NITRD)については2002年度の予算額は不明であると書いたが、その後2月4日に発表された大統領の2003年度予算教書の中におおまかな数字を見ることができるので、以下にご紹介しておく。
(出展:http://www.whitehouse.gov/omb/budget/fy2003/index.html


表1 Networking & IT R&D(2001〜2003年度)  (単位: 百万ドル)
省 庁 FY2001
実績
FY2002
見込
FY2003
提案
2002-2003
増減額
2002-2003
増減%
NSF 636 676 678 2 0%
HHS 277 310 336 26 8%
Energy 326 312 313 1 0%
Defense 310 320 306 △14 △4%
NASA 177 181 213 32 18%
Commerce 38 43 42 △1 △2%
EPA 4 2 2 0 0%
合 計 1,768 1,844 1,890 46 3%
(出展: 2003年度大統領予算教書)


 表1に示したように、米国連邦政府の2002年度におけるNITRD予算額は、対前年比4.3%増の18億4,400万ドル、また2003年度要求額は対前年比2.5%増の18億9,000万ドルである。
 ちなみに、この2002年度の伸び率4.3%というのは、NIHを除く非軍事R&D全体の伸び率6.0%(先月の駐在員報告の表5参照)に比べても小さい数字となっている。
 参考までに、2003年度のR&D予算要求全体では、対前年度比8%増の1,117億5,600万ドルが計上され、その中でITに関連する他のR&D予算を見ると、2003年度の国家ナノテク計画予算は、対前年度比17%増の6億7,900万ドルと大幅増となっている。
 経済・社会におけるITの実用化・普及が進む一方で、より基盤的な技術であるナノテク分野で日本に遅れをとりかねないという現状を反映した予算要求になっていると言うことができる。


表2 国家ナノテク計画(2001〜2003年度)(単位: 百万ドル)
省 庁 FY2001実績 FY2002見込 FY2003提案 2002-2003増減額 2002-2003増減%
NSF 150 199 221 22 11%
Defense 125 180 201 21 12%
Energy 88 91 139 48 53%
Commerce 33 38 44 6 16%
NIH 40 41 43 2 6%
NASA 22 22 22 0 0%
EPA 5 5 5 0 0%
Transportation 0 2 2 0 0%
Justice 1 1 1 0 0%
合 計 464 579 679 100 17%
(出展: 2003年度大統領予算教書)



1.B2Bの電子商取引の沿革

 さて、米国のB2B電子商取引であるが、まずeマーケットプレイスの動向を中心にその全体的な沿革についておさらいをしてみよう。

 B2Bの電子商取引は、そもそもは1985年に米国防総省が軍事物資をコンピュータ・ネットワークで調達するシステム構築を実現し、それが大企業に導入され、業務上データの電子的な転送が行われるようになったことに端を発すると言われる。大企業は同システムをCALS(Continuous Acquisition and Lifecycle Support)という名の下に、開発や設計、生産、保全までの情報交換に利用できるよう発展させた。その頃には、製造業界でもCADやCAM、CAEが利用され、ネットワーク上で転送するようになっており、こうした環境を背景に、企業間の専用回線によってデータ転送を効率化したEDI(電子データ交換)が、大企業における電子的なデータ転送の役割を担ったわけである。
 しかし、インターネットが普及する以前、米フォーチュン1,000社のうち98%がEDIを導入済みであったのに対し、その企業数は、約750万社におよぶ全米企業のうち25万社にとどまっていたと言われており、EDIが中小企業にとってどれほど手の届かないシステムだったかが容易に想像できる。
 その後、1990年代も半ばを過ぎると、インターネットの浸透によってローカル・エリア・ネットワーク(LAN)から派生したイントラネットおよびエクストラネットが発展し、パソコン主体のデータ転送が主流となった。そして、以前からEDIで電子的通信の基盤を持っていた大企業がインターネットに本格対応することで、B2Bコマースが一気に開花したという格好である。

 さて、パソコン価格やISP(インターネット接続業者)のサービス価格が低下し、ウェブサイトを使った安価なインフラが普及し始めると、B2C同様にB2Bの電子商取引でもベンチャー企業の登場が急増した。特に1998年から2000年にかけて、豊富なベンチャー・キャピタルを調達できた新興企業が次から次へと参入し、eマーケットプレイスが急速に発展、B2Bコマースの主要部門となったのである。
 従来のB2B電子商取引はあくまで、企業同士が既に築き上げてきた既存の販路(販売チャンネル)や調達の効率化を図るものだった。しかし、1999年以降、eマーケットプレイスは、業界の商習慣や慣例に支配されていたオフライン(インターネットを利用しない従来の方法)による企業間取引をオンライン化することで、市場の拡張と自由競争を持ち込もうとした。同時期に、多くの企業はコスト削減を目指してアウトソーシングを盛んに行い、その結果、企業は、事業ごとに提携先や取引先を変えることでより高い利潤を求める「バリューネットワーク」を形成するようになった。B2Bコマースはまさにバリューネットワークを実現するのに適した存在だったと言える。
 さらに、1999年から2001年にかけてB2Bコマース・サイトの勃興に拍車をかける要因の一つとして、B2Cコマースに対する不信感があった。B2Bより1年早く火がついたとも言えるB2Cが投資回収に苦しんだという事情が投資家たちを慎重にさせ、ベンチャー・キャピタリストたちがB2CよりB2Bに注目していった。それを受けて、起業家たちもB2Bの事業計画を携え、ベンチャー・キャピタル調達に奔走し、事業を立ち上げていった。その一方で、B2Cコマース事業者の一部が、企業向けサービスに絞ることによってB2B市場に注力するという現象も頻繁に起こっている。
 この時期は、企業によるIT投資が盛んでもあったことから、B2Bコマースへの期待も膨らんだ。例えば調査会社eMarketer(http://www.emarketer.com/)によると、1999年、米国内の中小企業がITに費やした費用は総額2500億ドルに達していたという。こうした市場動向を背景に、2000年のピーク時にはおよそ1,000に及ぶeマーケットプレイスが乱立するようになったとも言われる。

 第二次産業のeマーケットプレイスは当初、産業または企業ディレクトリ(案内)、製品データベース、カタログ掲示という基本的な情報を提供するにとどまっていた。こうした中でeマーケットプレイスの基盤を確立したのが、B2BコマースにおけるYahoo!にあたる存在となったバーティカルネット(VerticalNet)(http://www.verticalnet.com/)であった。
 バーティカルネットは、業種を縦割り(バーティカル)に整理して業界コミュニティを形成、膨大な情報を掲載すると同時に業界内での売り手と買い手をインターネット上で結ばせる役割を果たした。その後、おそらく主要なものだけでも何十種類という業界B2Bコマース・サイトが立ち上がり、コミュニティ・サイトという性格を薄れさせながら純粋なコマース(商取引)本位型のサイトを運営し始めたのである。

 そして次の段階が、企業の運営上での様々な部門や過程を電子化していくというシステム構築サービスで、その典型例がERP(統合業務パッケージ)、SCM(サプライチェーン・マネジメント)、CRM(顧客管理)となる。ここに至って、1980年代に大企業しか導入できなかった運営・経営システムがインターネットで中規模企業に浸透する環境ができあがったとも言える。SAPやIBM、オラクルはオフライン時代から、1プロジェクト1億円以上もするERPを大企業相手に販売していたが、eマーケットプレイスの隆盛後、最初からインターネットを利用した業務ソフトウェアならびに包括的なシステム、さらにはコンサルティングを含めた付加価値サービスを提供するi2テクノロジーズ(i2 Technologies)やコマースワン(Commerce One)といった企業が成長するに至った。



2.ネットバブル崩壊によるB2B電子商取引への影響

(1) 2001年から本格的な淘汰の時代へ

 さて、2000年までに乱立したB2Bコマース企業も、2001年に入り本格的な淘汰の時期を迎えることになった。Webmergers.com(http://www.webmergers.com/)の調べによると、2001年に閉鎖したドットコム企業は少なくとも537サイトにのぼり、そのうちB2Bコマース・サイトはおよそ40%を占めている。2000年におけるB2Bの割合は22%だったことからも、2001年がB2Bコマース・サイトにとって厳しい年であったことが伺える。
 こうした中、ネットビジネスのアナリストらはB2Cコマース市場での経験を基に、B2Bコマース市場でも統廃合が繰り返され、生き残れる企業は各分野で3社程度になるとの見方をしているようだ。また、調査会社フォレスター・リサーチ(http://www.forrester.com/)は、今後2年間で生き残るeマーケットプレイスはわずか100程度と見ている。


図1 ドットコム企業の倒産件数(2000年1月〜2001年12月)
ドットコム企業の倒産件数(2000年1月〜2001年12月)
(出展: Webmergers.com)


表3 ドットコム企業の倒産件数(顧客別)
顧客 2001年 2000年
企業 217 40% 49 22%
消費者 223 43% 165 73%
一般 86 17% 11 5%
合計 537 100% 225 100%
(出展: Webmergers.com)


 事業閉鎖に追い込まれていったeマーケットプレイスの失敗原因としては、既に様々な指摘が行われているが、主に次のようなものを挙げることができる。
  1. 業界の潜在顧客が保守的で、普及が困難
  2. パブリック・エクスチェンジの浸透が予想以下だった。
  3. ERP、SCM、CRMといったバックオフィス機能の統合に出遅れ
  4. 経済の低迷、ITへの投資が減少
  5. 競合他社が乱立する一方で、差別化が図れない
  6. 収益増を狙い、手数料が高額となり、売り手が離脱
  7. 採算が取れないニッチ市場への参入

(2) パブリック・エクスチェンジからプライベート・エクスチェンジへ

 パブリック・エクスチェンジは企業同士の従来関係にとらわれず、広く一般から売り手と買い手を集めて、オンライン上での取引を成立させる。パブリック・エクスチェンジが登場した当初は、業界内の商習慣や慣例によって価格や取引が決定されていた保守的な産業界に自由競争をもたらすと期待されていた。しかし、例えばオンライン・カタログを参照する企業数は増えたものの、実際の取引は行われなかった。結局、大口取引は、価格が問題なのではなく、やはり長年にわたって培われてきた取引先への信頼であるということが証明されることとなった。

 そこで、従来から取引を行ってきた企業間でオンライン取引による効率化を図ろうという発想で登場したのがプライベート・エクスチェンジだった。プライベート・エクスチェンジは、パブリック・エクスチェンジが大々的なマーケティングによって売り手と買い手を呼び込むことに傾注したのと全く違い、取引先の面々が最初からある程度わかっており、従ってどこと何をどれだけ取り引きするかというよりも、取引をどのように処理するかに重点が置かれる。
 また、こうした中で、コンサルティング業者が特定のプライベート・エクスチェンジのためにシステム構築やプラットフォームの開発と導入を手がけるという周辺サービス市場も成長した。プライベート・エクスチェンジの構築、管理を提供するソリューション・プロバイダとしては、IBMのほか、アクセンチュア(Accenture)、プライスウォーターハウスクーパース(PricewaterhouseCoopers)、デロイト・コンサルティング(Deloitte Consulting)などが名を連ねている。

 このように、結果として、2001年はB2Bコマース市場にとって淘汰の時期であると同時に、オープン市場の中の閉ざされた市場という特殊な環境を形成するプライベート・エクスチェンジへの転換期を迎えたことになる。調査会社AMRリサーチ(http://www.amrresearch.com/)は、プライベート・エクスチェンジの市場が2001年から向こう5年間で600億ドル規模に達すると見ている。

(3) ベンチャー・キャピタルの動き

 一方、ベンチャー・キャピタリストたちは、ネットバブル崩壊を受けてどのように対応してきたのだろうか。AMRリサーチによると、1999年にプライベート企業(未上場企業)へ流れたベンチャー・キャピタルは400億ドルだったが、2000年には1,000億ドルまで膨れ上がったという。しかし、2000年後半を境に、ベンチャー・キャピタリストらがIT事業から相次いで撤退し始めた。その一方で、わずかな投資はコンソーシアム、プライベート・エクスチェンジとそのソリューション・プロバイダーへと流れるようになったと言われる。経済の回復が見込めるまで、ベンチャー・キャピタリストらの動きは停滞するというのが大方の見方だが、その一方で、有望ビジネス・モデルの物色は続けられているという。

 では、ベンチャー・キャピタリストらの認識と彼らの考える有望ビジネス・モデルとは何なのだろうか。インターネット関連ベンチャーのメッカ、ニューヨーク・シリコンアレーのベンチャー・コミュニティを取材した原口健一氏によると、主な傾向としては以下のようになるという。


<認識>
  • 通信業界へのVCの流れが全盛期(1999〜2000年春)の5分の1以下になっている。
  • 以前なら1年半から2年でIPO(新規株式公開)を期待できたが、今では5〜7年は覚悟しなければならない。
  • テロで業界全体が悲観的になっているため、短期的結果を期待しない。
  • アイデア先行型では無理。資産となる技術が必要。
  • 特にテロ後、見通しが悪くなり、予測が困難になっている。
  • 90年代終盤にVCが立ち上がりすぎているため、淘汰される必要がある。

<作戦>
  • データ通信に関する技術やその他の軍事技術、あるいは保全技術、ストレージ事業に重点を移行させる。
  • IPOを狙うよりも、売却を考える。
  • 長期的成功しか望めなくなったため、せめてキャッシュ・フローが短期で黒字になるビジネス・モデルを探す。
  • 他にない技術を持っていること。
  • 単独投資を減らし、他のVCが複数入るように投資し、リスクを分散させる。
  • ベンチャー・ビジネスが回復するには1年〜1年半はかかるため、スタートアップの資金消耗率(バーン・レート)を抑える。

 悲観的な観測が大半を占めるが、それと同時に、新興ベンチャー企業(スタートアップ)の方もベンチャー・キャピタリストの方も淘汰されて、本当に競争力のあるところが残り、それは業界経済にとって望ましいことだという認識がベンチャー・キャピタリストたちの間に浸透しているようである。

 さて、表4をみると、インターネット事業への投資は明らかに激減している。ところが、2001年の後半になると、一概にそうとも言い切れなくなってきている。表5は、2001年7月から10月までにベンチャー・キャピタリストらが主要分野にどれほど投資したかを部門別・月別にまとめたものである。この表からわかることは、ソフトウェア開発分野へのベンチャー・キャピタル投資は安定しており、そして、景気後退から脱出していないにもかかわらず2001年第3四半期からすでに上向き基調に移っていることである。これは、遺伝子工学を中心とするライフ・サイエンス(生命科学)とワイヤレス(携帯電話とPDAによるMコマース市場に目をつけた結果)にも当てはまる。また、額は大きくないがコンピュータとインターネット取引関連のセキュリティ・システムも急速に伸びている。9月のテロ効果の一つといえる。
 一方、2000年に好調だった通信部門とeコマース・ソリューションが2001年には資金を調達できなくなっている。両部門とも淘汰が厳しく、ベンチャー・キャピタリストらは新規事業計画へは目を向けず、既に資金を注入している生存可能企業への追加注入という形が主流となっているようである。


表4 ネット関連ビジネスへのVC投資の比較
  投資総額 投資成立件数
2000年第1四半期 約265億ドル 1569件
2001年第1四半期 約125億ドル 725件
(出典: Venture Reporter誌 2002年1〜2月号)


表5 ネット関連ビジネスへのVC投資の比較
  2001年7月 2001年8月 2001年9月 2001年10月
ソフトウェア $6.59億(92件) $5.94億(76件) $5.97億(69件) $6.07億(80件)
遺伝子工学 5.06億(41) 7.58億(42) 3.31億(27) 5.10億(35)
ワイヤレス 3.49億(23) 1.44億(23) 1.68億(17) 4.47億(34)
セキュリティ 0.66億(6) 0.41億(7) 0.84億(8) 1.38億(11)
テレコム 3.09億(8) 1.94億(9) 0.46億(6) 0.35億(6)
コマース 1.53億(29) 0.96億(16) 0.69億(7) 0.04億(3)
(出典: Venture Reporter誌 2002年1〜2月号)



3.B2B電子商取引の市場動向

 上述のB2Bコマースをとりまく環境変化も踏まえながら、以下に米国のB2B電子商取引の市場動向について見てみよう。

表6 各調査会社による米国B2B市場規模の推移予測 (単位:10億ドル)
調査会社 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年
eマーケター 141.04 280.67 499.60 854.31 1,418.15
ヤンキー・グループ 740.00 1,180.00 1,670.00 2,210.00 2,780.00
ケナン・ビジョン 141.00 314.00 692.00 1,311.00 2,071.00
フォレスター・リサーチ 449.00 799.00 1,310.20 2,043.40 3,004.50
IDCリサーチ 100.80 188.00 338.00 607.00 837.40
ゴールドマン・サックス 294.00 522.00 782.00 1,113.00 1,500.00
(出典: eMarketer 2001年6月)

 調査会社によって大きく数字が異なっているのが気になるが、B2B市場が調査しづらいものであるうえ、そもそも何をもって「B2B市場」と定義するのかが調査会社によって異なることによると思われる。
 また、表6は2001年6月時点でeMarketerがとりまとめたものであるため、2001年のB2Bコマース淘汰の状況を過小評価している可能性が高いことにも注意が必要である。
しかし、こうした点を差し引いて考えても、B2B電子商取引は依然として高い成長性を有する分野であると言うことができよう。
 表6以外にも、ガートナーやジュピター・メディア・メトリクスなどの調査会社がB2Bコマースの市場予測を発表している。比較的新しいものとして、2001年9月にジュピター・メディア・メトリクス(http://www.jmm.com/)が発表した市場予測を図2に掲げておく。


図2 米国のB2Bコマースの市場規模とB2B市場における普及率
米国のB2Bコマースの市場規模とB2B市場における普及率
(出展: ジュピター・メディア・メトリクス 2001年9月)



4.産業別に見たB2B電子商取引の動向

 ジュピター・メディア・メトリクスによると、図2の2006年におけるB2Bコマース市場5兆4,500億ドルの半分は自動車産業によるものであるという。この例からもわかるように、現状、B2Bコマース市場は自動車産業とエレクトロニクス産業によるものが中心であり、逆に言えばこうした主要産業におけるB2Bコマースの動向の見方如何によって、B2Bコマース全体に関する市場予測なども大きく異なってきてしまう。
 そこで、以下に、主要産業におけるB2Bコマースの概要を見てみることとする。

 なお、参考までに、図3に米国経済を産業セクター構造(売上げベース)別に比較したグラフを掲げておく。図3からわかるように、米国では卸売り、製造、小売り、金融という4大産業が総売上高の70%を占めており、より高いリターンを求めるB2Bコマース事業者がそれらのセクターに乱立している。


図3 産業別に見た米国産業規模(売上げベース)
産業別に見た米国産業規模(売上げベース
(注)単位は10億ドル。価格は97年のドル価値ベース。総額17兆7,549億ドル。
(出展: 商務省経済分析局 2000年10月)

(1) 航空防衛産業

 4,000億ドル市場と言われる同業界では、B2Bコマースがどこまで一般企業や企業に対し恩恵を与えていくのか疑問視されている。オフラインでの商習慣が重要な業界であるため、大企業主導型で、今後も大手が、部品の調達を効率化できるインフラ作りに専念するものの、取引先以外の新規企業の受け入れには消極的になると考えられる。それにつれて、中小企業が自由に参加できるeマーケットプレイス(パブリック・マーケットプレイス)は今後も形骸化していく可能性が高い。
 例えば、同業界に期待していたスペースワークス(SpaceWorks)は2001年5月上旬、閉鎖的な市場に切り込むことができず、事業継続を断念している。一方、ボーイング、ロッキード・マーチン、レイセオン、BAEシステムズが共同で立ち上げたeマーケットプレイス、エクゾスター(Exostar)(http://www.exostar.com/)も低迷したままだ。これは、企業が大口契約を避け、個別に交渉したり、従来の流通チャンネルに依存していることが理由として挙げられている。つまり、オフライン取引を尊重しているのである。
 現在、同業界でeマーケットプレイスを推進するのは、GEの航空機エンジン部門とユナイテッド・テクノロジーズ(United Technologies)傘下のプラット&ホイットニー(Pratt & Whitney)の2社であり、それぞれが年間数億ドル相当の製品をオンラインで取引している。両社は新規顧客の開拓にeマーケットプレイスを利用するのではなく、あくまで既存取引の効率化に重点を置いている点で、新興企業のアプローチと異なる。
 フォレスター・リサーチによると、航空防衛産業におけるB2Bコマースは2000年は8%だったという。

(2) 農業関連

 年間8,250億ドルの売上げをほこる農業にもインターネットの波は押し寄せている。フォーブス誌によると、農家の50%がインターネットへ接続しており、乱立した各サイトもかなりのユーザーを初期段階から獲得できた。例えば、Farmbid.com(http://www.farmbid.com/)は、2000年第1四半期だけで9万人の会員を獲得している。
 業界コンソーシアムも結成されたが、そのうち、デュポンやカーギルが参加していたRooseter.comは閉鎖となった。現在、クラフト・フーズ(Kraft Foods)とダノン(Dannon)が酪農を相手にしたeマーケットプレイス、Dairy.com(https://www.dairy.com/)を運営している。
 ゴールドマン・サックスによると、農業におけるB2Bコマースは2000年は4%だったという。

(3) 自動車産業

 自動車産業界は航空・宇宙産業と同様に多数の部品メーカーを抱えており、調達システムの構築は必至となっていた。米国でB2Bコマースに乗り出したのは、ゼネラル・モーターズ(GM)とフォードで、それにダイムラークライスラーが加わって一大コンソーシアム、コビシント(Covisint)(http://www.covisint.com/)を形成した。その後、ルノー/日産やプジョー・シトロエンがコビジントへの出資を発表したほか、オラクル(Oracle)やコマースワン(Commerce One)といったB2Bコマース・プラットフォーム事業者も参入し、部品や原材料のサプライヤー(供給元)、そしてメーカー(自動車会社)の間でのeコマース・システム導入を実現させている。
 フォレスター・リサーチによると、自動車産業におけるB2Bコマースは2000年は3%だったという。

(4) 石油化学製品

 同業界の全市場規模は年間1兆ドルを軽く超えると言われており、今後どこまでB2Bコマースが普及するか注目を集めている。現在、ケムコネクト(ChemConnect)(http://www.chemconnect.com/)のほか、eケミカルズ(e-Chemicals)(http://www.e-chemicals.com/)、イーストマン・ケミカル(Eastman Chemical)(http://www.eastman.com/)、CheMatch.com(http://www.chematch.com/)が大手として君臨する。しかし、差別化が図れないeマーケットプレイスが相次いで閉鎖に追い込まれている一方、2002年1月にはケムコネクトがCheMatch.comの買収を発表するといった合従連衡の動きも続いている。
 ケムコネクトに買収されることとなったが、CheMatch.comは匿名方式のリアルタイム取引システムを導入して顧客の信任を勝ち取っており、独立系eマーケットプレイスの成功例としての評価は高い。具体的には、売り手と買い手の双方が匿名で入札し、取引が成功すると双方の身元が照会される。また、特定の企業を指定するプライベート・エクスチェンジ機能も兼ね備えており、参加企業の方針によって売買方法を選択できる。
 一方、下請けとだけ連動するプライベート・エクスチェンジを形成しているイーストマン・ケミカルは独自のeマーケットプレイス「イーストマン・マーケットプレイス」(http://www.eastmanmarketplace.com/)を開設し、逆オークションによる売買取引を仲介、最も単価の安い企業が販売権を獲得する仕組みとなっている。同エクスチェンジにはGEのインターネット事業部門GXS.comが技術提供業者としてシステム構築に参加しており、大手の後方支援のついたプライベート・エクスチェンジが勢力を伸ばしているという実態の典型例となっている。イーストマン・ケミカルは同サイトによって、入札要請から契約完了にかかる期間を以前の2か月から2週間に短縮し、さらに、得意業者との通信活動を含めて全購買額となる20億ドルの20%をオンラインで賄っているという。
 フォレスター・リサーチによると、石油化学薬品製造業界におけるB2Bコマースは2000年は1.9%だったという。

(5) コンピュータ/電機精密部品

 同業界は、メーカーの生産効率化と業者らの販路拡大という2つのオンライン化を最も早くから導入した業界である。初期段階では、受注生産方式(BTO)を導入し徹底的なコスト削減を行ったデル・コンピュータや、製造から発送までのSCMのオンライン化を徹底させたシスコ・システムズの成功が挙げられる。
 一方、700億ドル市場と言われる電子部品取引の市場規模の大きさに加え、部品在庫数は1,000万点におよび、メーカーが商品目録の情報を常時更新するという必要性から、取引のオンライン化が不可欠となっていた。そこで独立系のeマーケットプレイスに加えて登場したのが、販拡目的で立ち上げられた業界コンソーシアムだった。特に、IBMやシーゲート・テクノロジー、ソレクトロン、ノーテル・ネットワークスが設立したe2オープン(http://www.e2open.com/)や、コンパック・コンピュータ、ゲートウェイ、ヒューレット・パッカードといったパソコン関連メーカーが中心となったコンバージ(Converge)(http://www.converge.com/)が有力コンソーシアムである。
 e2オープンは単なるeマーケットプレイスとして機能するだけでなく、同業界で盛んなアウトソーシング事業を巧みに連動、設計から納品まで電子部品の製造で必要な全工程に関わる取引をオンライン提供する。互いのノウハウを交換することで自社の弱点(技術や市場)を捕足できるメリットは非常に大きいと言われる。
 フォレスター・リサーチによると、コンピュータおよび電子部品のB2Bコマースは2000年は28%だったという。

(6) 小売り

 小売り業界は米国経済を左右する巨大産業である。同業界最大手のウォルマート・ストアーズ(Wal-mart Stores)に代表されるように、同業界では顧客を対象にB2Cコマース、業者を相手にB2Bコマースの導入が積極的に行われてきた。これは、製造、卸し、販売に携わる企業が複雑に入り乱れ、業界の構造がモザイク化していたことから、各社が販路の簡略化によるコスト削減に乗り出したことが理由として挙げられる。
 同業界のB2Bコマースとしては、ロイヤル・アホールド、Kマート(2002年1月に日本の会社更生法にあたる破産法第11条を申請)といった小売り大手17社が結成したワールドワイド・リテイル・エクスチェンジ(WWRE)(http://www.worldwideretailexchange.org/)のほか、プロクタ−&ギャンブルやユニレバーが結成したトランソラ(Transora)(http://www.transora.com/)、シアーズ・ローバックやクローガーが設立したグローバルネットエクスチェンジ(GNX)(https://www.gnx.com/)といったコンソーシアムが乱立している。また、自ら独自のeマーケットプレイスを構築しているウォルマートも存在しており、独立系ベンチャーが同市場を席巻するのは厳しい。
 こうした中で、特にWWREは非営利団体として機能していることから、より安価にかつ効率良く小売り商品を購入したい企業が次々に参加する形となっている。一方で、WWREが膨大な情報を抱え込み、技術的な面で特殊なニーズに対応できないという問題が浮上している。実際に小売り業者が取り扱う商品は、規格が統一されている工業製品に比べて非常に在庫管理が困難である。コンピュータの互換性や業者間のシステムの互換性も、同業界でのB2Bコマースを発展させるために解決しなければならない課題となっている。
 フォレスター・リサーチによると、小売りのB2Bコマースは2000年は全体の1.2%に留まっていたという。

(7) エネルギー資源

 米国のエネルギー産業市場は年間1,360億ドルと推定されているが(eMarketer調べ)、2000年にオンライン取引額は全体の1.9%に過ぎなかったという。
 現在、同業界のeマーケットプレイスで最大規模を誇るのが、燃料、貴金属、金など幅広い先物商品を取り扱っているインターコンチネンタルエクスチェンジ(ICE)(http://www.ice.com/)で、BP、ロイヤル・ダッチ、シェルといった石油業界トップ3が参加している。ICEは原油から貴金属までを取り扱う巨大パブリック・エクスチェンジを運営しながら、従来の店頭取引を統合していった。また、競合するコンソーシアムには、ニューヨーク・マーカンタイル・エクスチェンジ(http://www.nymex.com/)があるが、先に起きたエンロンの破綻がどう影響するのか不確定要素が残されている。
 一方、エンロンの破綻を前に、すでに事業の失敗に喘いでいたのが石油メジャーのシェブロンだった。全米3位の石油メジャーとして君臨する同社は1999年、eビジネス専門の子会社シェブロンeビジネス・デベロップメント(CeDC)を設立、PetroCosm.comおよびSiliconValleyOil.com(SVOC)ほか、複数のeマーケットプレイスに出資し、B2Bコマースの基盤づくりに注力していた。しかし、2001年2月にSVOCを、同年4月にはPetroCosm.comを相次いで閉鎖し、石油関連B2Bコマース事業から事実上の撤退に追い込まれた。
 PetroCosm.comは、eマーケットプレイス・プラットフォーム大手アリバ(Ariba)とVCのクロスポイント・ベンチャー・パートナーズの共同出資によって設立。当初は、業界大手が他社に先駆けて立ち上げたことから有望視されていた。しかし、共同出資企業の将来に対する意見が分裂し、市場の流動性が停滞したこともあいまってとん挫した。また、潤滑油と軽油に特化したSVOCもほぼ同様の理由で閉鎖となった。
 現在生き残っている大手が今後、同様の危機に直面する可能性は否定できない。そのため、B2Bコマース市場の勢力図が二転三転することも考えられる。一方、従来の独立系サイトは、市場を拡張することが非常に困難となり、最終的に大手傘下に組み込まれてしまうと考えられる。

(8) 食品・飲料製品業

 小売り同様に巨大な市場として期待がかかるのが、食料品および飲料といった消費財の産業である。eMarketerによると、食料品産業の世界市場はおよそ8,000億ドルと見積られており、アルコール飲料だけでも6,000億ドルに上る。米国ではそれに加えて、調理済みの食料品を提供する、いわゆるフード・サービスが非常に盛んになっている。これは、多くの世帯が共働きという社会的背景を反映させたものであり、その配給市場だけでも1,750億ドル規模に達することから、B2Bコマース市場として有望視されている。
 しかし、実際にはB2Bコマースの浸透率は他の業界以上に低く、食料雑貨品(たばこを含む)および飲料水市場だけをとっても、米国内でのオンライン売上げは全体の1.1%にしか過ぎないという。(ゴールドマン・サックス調べ) いくつかの理由が考えられるが、主因は、業界の歴史が長く、そして巨大化したため、メーカー、卸売り、そして小売りをめぐって市場が断片化したことが挙げられる。
 現在、複数のeマーケットプレイスが存在するが、その中で巨大サイトとして業界を牽引するのが業界コンソーシアムである上述のトランソラ(http://www.transora.com/)である。同社は、コダック、コカ・コーラ、ケロッグ、クラフト・フーズ、プロクタ−&ギャンブルなど、世界各国から50社以上が参加している巨大コンソーシアムで、市場規模はおよそ5,000億ドルに達すると言われている。商品の取引からSCMまで統括したサービスを提供し、旧来のEDIとウェブの両システムに対応することで、業界をオンライン上で統括すると期待されている。

(9) 不動産/建設業

 エンジニア・ニューズ・レコード誌によると、2000年にオンラインで建設資材を調達した企業は全体の5.6%に過ぎなかったという。しかし、同業界が今後、B2Bコマース市場に期待するのは、そうした資材調達を含む取引というより、むしろコミュニケーションの発達と考えられる。必要となる人材を集たり、資機材を瞬時に集められる横のつながりを拡張できる点が重要となってくる。
 一方、不動産事業は以前からB2C市場を中心にオンライン化が進んでいたが、B2Bコマース市場は企業向けのショーケースや情報提供に留まっていた。そうした中、2000年5月にサイモン・プロパティ・グループら不動産大手11社が結成したコンソーシアム、コンステレーション・リアル・テクノロジーズ(Constellation Real Technologies)(http://www.constellationrealtechnologies.com/)を中心に、コスター・グループ(Costar Group)(http://www.costar.com/)、アビドエクスチェンジ(AvidExchange)(http://www.avidxchange.com/)といったeマーケットプレイスが同業界で台頭してきた。各サイトの機能は、不動産の売買から修繕や増改築に必要な資機材のオンライン取引に至っている。
 ゴールドマン・サックスによると、建設および不動産のB2Bコマースは2000年は全体の15%だったという。

(10) 金融サービス

 一般顧客向け金融商品の販売(B2C)はオフラインとオンラインを巧みに利用するチャールズ・シュワブ(The Charles Schwab)といったクリック&モルタル型の成功で市場に浸透してきたが、同業界でのB2Bコマース・サービスは、すでにオフラインのインフラが確立されているため、その普及が非常に遅れているのが現状である。主な業務としては、B2Cコマースを行う企業に対するオンライン取引決済のシステムまたはプラットフォームの提供や、エスクロー・サービスが挙げられる。
一方、モルガン・スタンレー、メリルリンチ、ゴールドマン・サックスといった証券大手が企業向け投資商品の販売や公債、モルゲージの売買を中心としたeマーケットプレイス、トレードウェブ(TradeWeb)(http://www.tradeweb.com/)を構築したほか、ブルームバーグも同市場へ参入を果たしている。
ゴールドマン・サックスによると、金融サービスのB2Bコマースは2000年は1.2%だったという。
(了)


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