
【 2002年6月号 】
〜 「米国におけるバイオ・インフォマティックスの動向」 〜
JEITAニューヨーク駐在 荒 田 良 平
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はじめに
今回は、米国におけるバイオ・インフォマティックスの動向について取り上げる。
近年、「バイオ・インフォマティックス」が大きく脚光を浴びている。ヒトゲノムの解読においてITが決定的な役割を果たしたことがその背景にあるのは言うまでもない。折からのIT不況もあって、「ITの次はBT(バイオ・テクノロジー)」といった声も聞かれる中、ITとBTとが重なる領域(の一部)であるバイオ・インフォマティックスに熱い視線が注がれるのは無理からぬところであろう。
本稿では、こうした中で、ITベンダー側から見たバイオ・インフォマティックスの現状と主要各社の取組みに焦点をあててみることとしたい。なお、本稿の執筆にあたってはワシントン・コア社の協力を得ている。
1.バイオ・インフォマティックスの現状
(1) バイオ・インフォマティックスとは
本題に入る前に、まずバイオ・インフォマティックスという言葉について触れておかなければならないだろう。
近年、様々な新聞、雑誌、ウェブサイト等で「バイオ・インフォマティックス」という言葉が使われているのを目にするが、どうもその定義はまちまちで、「コンピュータを活用して遺伝子情報を解析する技術」といった狭い意味から「ライフサイエンスとITが融合する研究領域」といった広い意味まで様々な意味で使われているようである。
ちなみに、Bioinformatics.Org(http://bioinformatics.org/)という団体のウェブサイトを見ると、以下のようになっている。
- 狭義のバイオ・インフォマティックス:
- "古典的な"バイオ・インフォマティックスとは、生体分子(遺伝子を構成する核酸や遺伝子による生成物であるたんぱく質を含む)の組成や構造をコンピュータを用いて蓄積・検索・分析・予測すること。(コンピュータの進歩により"シミュレートすること"も含まれる。)
- ポスト・ゲノム時代の"新しい"バイオ・インフォマティックス:
- 生物種による遺伝子の類似点・相違点を調べることによって生物の進化を研究する比較ゲノミクス
- 発育段階や病状、組織の相違等によって異なる遺伝子情報の複製数(遺伝子の発現レベル)の相対的相違を計測するDNAマイクロアレイ
- 遺伝子の機能を直接的・大規模に解明する機能ゲノミクス
- 遺伝子生成物(たんぱく質)同士の比較からその構造や機能を解明するプロテオミクス
- たんぱく質の立体構造を解明・予測する構造ゲノミクス
- 特定の分子や患者に関するあらゆる医学的実験データを管理する研究/医学インフォマティックス
- 広義のバイオ・インフォマティックス:
- 医学的画像化・画像分析
- 生物学的知見に基づく情報処理(遺伝的アルゴリズム、人工知能、ニューラル・ネットワーク)
- 生物学的に得られた大量の情報の処理を行うもの
すなわち、もともと生物学の中でも「分子生物学」において早くからコンピュータの高度利用が進められてきており、「バイオ・インフォマティックス=コンピュータを利用した分子生物学」であったが、ヒトゲノム計画の成功を機に、その過程で確立した配列分析手法などの情報技術の応用が期待される新たな分野が「分子生物学」領域の内外に広がってきたということである。さらに、ヒトゲノム解読によってゲノム創薬やテーラーメイド医療などの可能性が膨らみ、バイオ・医療分野全体がITにとって非常に有望な成長市場として再認識されるようになったことから、バイオ・インフォマティックスを非常に広く捉える見方まで出てきたということであろう。
もちろん、「ニューラル・ネットワークまでバイオ・インフォマティックスに含めるのは如何なものか」という声もあるであろう。例えば調査会社IDCは、ライフサイエンス分野で活用される情報技術(つまり広義のバイオ・インフォマティックス)を「バイオIT」と呼んでいる。
本稿では、「バイオ・インフォマティックス」を概ね狭義(ただし上述の"新しい"バイオ・インフォマティックスを含む)の意で用いることとしたい。

図表1 バイオIT市場に関連するライフサイエンス分野
(出所: IDCの資料をもとにワシントン・コア作成)
(2) バイオ・インフォマティックスの発展の経緯
バイオ・インフォマティックスが大きく注目される契機となったヒトゲノム解読の顛末は、あまりにも有名な話ではあるが、念のため以下にごく簡単に触れておく。
人間の全遺伝子情報(ヒトゲノム)を国際共同研究によって解読することを目指した国際ヒトゲノム計画は、1990年に正式にスタートし、2005年の完了を予定していた。しかし、当初米国衛生研究所(NIH)でこのプロジェクトに参画していたクレイグ・ベンター氏を迎え1998年に設立されたセレーラ・ジェノミクス社が、1999年9月に実際の解読作業を始めてから1年も経たない2000年4月に、ヒトゲノムの読み取りをほぼ終了したことを明らかにした。結局、2000年6月26日にクリントン大統領、国際プロジェクトを代表するフランシス・コリンズNIH所長、及びセレーラ社のベンター社長が共同で、ヒトゲノムの解読完了を宣言したのは記憶に新しい。
セレーラ社の解読結果については、精度が低いといった批判もある。しかし、いちベンチャー企業であるセレーラ社が国際プロジェクトを出し抜かんばかりの成果を挙げたことは、世界中に衝撃を与えた。
セレーラ社は、10億ドルとも言われる資金を調達し、パーキンエルマー社(現半導体関係者にとっては懐かしい名前ですね)製の300台の最新型DNAシーケンサを並べ、コンパック(旧DEC)社製の700CPUを接続したスーパーコンピュータと70TBのストレージを導入し、「全ゲノム・ショットガン法」という力任せの解読方法の採用を可能とするアルゴリズムを開発して、これを実現した。
このセレーラ社の成功によって、バイオ・インフォマティックスの重要性とその将来性が広く認識されることとなったわけである。
2.バイオ・インフォマティックスの市場動向
(1) バイオ・インフォマティックスの市場規模
では、バイオ・インフォマティックスの市場規模はどうなっているのであろうか。
調査会社IDC(http://www.idc.com/)が2002年3月に発表したバイオIT市場の成長予測によると、2001年の市場規模は130億ドルであったが、2005年までに年平均24%の伸びを示し、2006年には380億ドルまでに成長するという。(図表2)

図表2 バイオIT市場の成長予測(2001〜2006年)
(出所: IDC)
IDCによると、このバイオIT市場の2006年における分野別規模ではストレージ・システムがもっとも大きく118億ドルとなる見通しで、バイオIT市場全体の31%を占める。そしてサーバー・クライアントが80億ドル、支援サービスが72億ドル、解析ソフトウェア構築が68億ドルと続く。
ストレージ・システムの市場成長が最も大きい理由は、ポストゲノム時代の研究において取り扱うデータが幾何級数的に増大しているためである。例えば、ヒトゲノムを構成している塩基数は約30億と言われ、この中に数万から10万と言われる遺伝子が点在しているが、こうした膨大なデータを処理し複雑な分析を行うためには、その前提として巨大なストレージ・システムが必要となることは明らかである。民間企業としては世界最大規模と言われるグローバル通信大手SBCコミュニケーションズ社のデータ・ウェアハウスが125TBであるのに対し、今やセレーラ・ジェノミクス社は250TBのストレージ・システムを有していることからも、この分野におけるストレージ・システムの需要の大きさが伺える。
また、膨大なデータの複雑な解析が必要となるに従い、サーバー・クライアントに対する需要も増加する。ギガビットまたはそれ以上のネットワーク・インフラストラクチャに対する需要も同様に増大し、さらにデータとアプリケーションの統合やプロセス・リエンジニアリング、システム設計・構築、コンサルティング・サービスへの需要も増える。これにより、ネットワーク分野では33%、支援サービス分野では33%の成長が見込めるという。
さらに、エンド・ユーザー別で見ると、製薬、バイオテクノロジー、基礎研究が、インフラ整備のために多額の投資を行っており、インフラストラクチャへの投資額で見た場合の上位ターゲットとなっている。(図表3)

図表3 エンド・ユーザー別の成長予測(2001〜2006年)
(出所: IDC)
IDCは、「バイオ・インフォマティクス分野は、IT業界における利益を押し上げる推進力となる。高速処理コンピュータとサーバー、ストレージ・システムとデータ・マネジメント、ナレッジ・マネジメント、データベース技術とツール、可視化のためのツール、アプリケーション・ソフト、それに伴う開発・導入・サポート・サービスなど、ITベンダーが提供できる商品とサービスの幅は非常に広い。少なくとも今後10年は需要が続くだろう」としている。
(2) ユーザー業界の動向 〜 製薬
バイオ・インフォマティックスのユーザー業界側の状況についても以下に触れておこう。
まず製薬業界についてであるが、図表4のように、特に米国の医薬品業界の売上高は、年率10%を超える高い成長が見込まれている。

図表4 世界の上位10医薬品市場の今後の成長予測(2000年)
(出所: 厚生労働省「医薬品産業ビジョン(案)」)
この米国の医薬品業界は、年間200億ドルを超える研究開発費を支出しており、研究開発費の売上高に対する比率も増加傾向にある。(図表5、図表6)
当然のことながら、医薬品業界の売上高は国の医療保険制度によって大きく影響を受けるため、米国民の薬剤費負担増への批判も強い中で米国医薬品産業の年率10%を超える伸びが続く保証はないとしても、IT業界にとって医薬品業界は現状では非常に有望な市場であることは間違いなさそうである。
また、調査会社ガートナー/データクエスト(http://www.gartner.com/)は、販売・マーケティング向けなども含めた医薬品業界のIT支出は、2000年の30億ドルから2005年には55億ドルに拡大すると(IDCに比べるとかなり控えめに?)予想している。

図表5 日米の医薬品産業の各研究開発費
(出所: 厚生労働省「医薬品産業ビジョン(案)」)

図表6 研究開発費及び研究開発費の売上高に対する比率の日米比較
(出所: 厚生労働省「医薬品産業ビジョン(案)」)
(3) ユーザー業界の動向 〜 バイオテクノロジー
次に、バイオテクノロジー業界についてであるが、バイオテクノロジー産業協会(http://www.bio.org/)によると、同業界の2000年の企業数は1,379社、総収入は250億ドルで、研究開発費を138億ドル支出しているという研究開発型産業である。(図表7)

図表7 バイオテクノロジー業界の動向
(出所: Biotechnology Industry Organization)
図表7を見ると、バイオテクノロジー業界は順調に成長を続けていることが伺えるが、さすがに2000年は"バブル"だったようで、Signals誌(http://www.signalsmag.com/)によると、同業界が調達した資金は2000年に314億ドルにのぼり、その6割が株式市場から調達されたという。バイオテクノロジー産業協会(http://www.bio.org/)によると、2001年における資金調達状況は図表8のとおり総額150億ドル強で、株式市場の低迷を受けてIPO(新規株式公開)が非常に少なくなっている一方で、ベンチャーキャピタルから全体の25%に相当する38億ドルを調達している。

図表8 バイオテクノロジー業界の資金調達先(2001年)
(出所: Biotechnology Industry Organization)

図表9 ベンチャーキャピタルの投資動向
(出所: PricewaterhouseCoopers/Venture Economics/
National Venture Capital Association)
なお、図表9は米国ベンチャーキャピタル協会(http://www.nvca.org/)他によるベンチャーキャピタルの投資動向であるが、株式市場の低迷を受けてベンチャー投資額が2000年第1四半期をピークに大きく落ち込む中で、バイオテクノロジーへの投資は比較的堅調であり、2001年合計でバイオテクノロジー30億ドル、医療機器設備を加えると50億ドルを超える投資がこの業界に投じられている。
バイオテクノロジー業界のようなベンチャー比率の高い業界では、多様な資金調達手段の確保のため株式市場の活性化が不可欠である。ドットコムや通信に比べると株価崩壊の影響は少なかったとはいえ、やはり図表10に見られるように2000年をピークとした株価低落傾向は続いており、バイオテクノロジー業界は、将来性の大きい業界であることは間違いないものの、一層厳しい選別の時代を迎えていると言えるであろう。

図表10 NASDAQ指数(バイオテクノロジー)(5/10/1999〜5/8/2002)
(出所: Signals Magazine(http://www.signalsmag.com/))
(4) ユーザー業界の動向 〜 基礎研究
最後に、バイオ・インフォマティックスに関する基礎研究の動向について触れておこう。
米国におけるライフサイエンス関連の基礎研究費の太宗は国立衛生研究所(NIH)の予算として支出されている。図表11からわかるように、近年NIHのR&D予算は非軍事R&D予算の中で突出して急増しており、2002年度のR&D予算は対前年度比15.8%増の228億ドルに達している。
景気後退やテロリズム対策のための財政支出増の影響で、米国の財政収支が急速に悪化する中で、今後もR&D予算拡大のトレンドが続くことが許容されるのかについては予断を許さない。またライフサイエンス以外の分野の研究者から「もっと分野別バランスの取れたR&D予算を組むべきだ」との声が強いのも確かである。しかし、こうした点を考慮に入れたとしても、今後も引き続きライフサイエンス関連のR&D予算が非常に重視されることは間違いなく、その中でバイオ・インフォマティックスをはじめバイオIT関連分野にも相当の予算が回ってきそうである。

図表11 米国連邦政府の非軍事R&D予算の推移(1976〜2002年)
(出所: AAAS)
3.バイオIT市場におけるITベンダー
(1) バイオIT市場における主要ITベンダーのポジショニング
バイオ・インフォマティックスを含むバイオIT市場全体における主要プレイヤーとしては、IBM、Compaq、Sun Microsystems、HP、EMC、Oracleなどが挙げられるであろう。
調査会社IDC(http://www.idc.com/)による、主要ITベンダーのバイオIT市場におけるポジショニングの分析によれば、ITベンダーのポジショニングは、提供ソリューションの範囲(scope)と、クライアント企業の組織および業務内容の複雑性に対するサポート力(Support of organizational complexity)で見ることができるという。
図表12は、IDCによる主要ITベンダーのポジショニングを示したものである。

図表12 バイオIT市場における主要プレイヤー
(出所: IDC)
図表12からわかるように、IBM、Compaq、Sun、HPは提供ソリューションが幅広く、クライアント企業の組織および業務内容の複雑性に対するサポート力も高い。たとえば、さまざまな研究部門を有する大企業に、ハードウェア、アプリケーション、コンサルティング、サポートといったさまざまなソリューションを提供できる。
データベース提供会社であるOracleやコンピュータ・メーカーのDell、スーパーコンピュータを提供するSGI、ストレージ・システム業界のリーダーであるEMCなどは、提供ソリューションの範囲はあまり広くなく、クライアント企業の組織および業務内容の複雑性に対するサポート力は中程度である。
提供ソリューションの範囲が狭く、かつクライアント企業の組織および業務内容の複雑性に対するサポート力も低いのは、ネットワーク・ストレージ・システムやコンテンツ配信をビジネスとする Network Appliance, Inc.(http://www.netapp.com/)、ライフサイエンス分野の研究サポート・インフラを提供するBlackStoneComputing(http://blackstonecomputing.com/)、データ・ストレージ機器メーカーのStorage Technology Corporation(StorageTek)(http://www.stortek.com/)、コンピューティング・ソリューションを提供するPlatform Computing Inc.( http://www.platform.com/)などである。
ITベンダー以外では、大手コンサルティング会社のPricewaterhouseCoopers、Accenture、Cap Gemini Ernst & Youngも、バイオIT市場におけるソリューション提供者としてビジネスを展開している。
(2) 主要ベンダーの強み・弱み
図表13は、主要ITベンダーの強み・弱みを分析したものである。
例えばIBMの強みは、高性能コンピュータを含むさまざまなコンピュータの提供、研究インフラの構築、提供ソリューションのスケールの大きさなどで、バイオ・インフォマティックス市場の優位なポジションに位置しているが、IBM製品中心の販売方針や価格帯が高いことなどがマイナス点となることがある。
CompaqはIBM同様、高性能コンピュータを含む幅広い製品ポートフォリオをもち、早い時期にバイオ・インフォマティックス分野に進出して成功を収めてきた。Compaqは、2002年2月に発表されたIDCの『2001年度 技術システムおよびサーバーに関するレビュー・レポート(Technical Systems and Servers 2001 Year in Review Report)』で、マーケットシェア22.8%、売上11.5億ドルを達成し、ハイパフォーマンス・サーバーの売上において2年連続でコンピュータ業界トップの業績を上げた。
(http://www.compaq.com/newsroom/pr/2002/pr2002030402.html)
このことからも、AlhaServerを柱とした高性能コンピューティング分野で優位を保っていることがわかる。しかし、2001年6月25日に、ハイエンド・サーバー用チップ「Alph」の生産事業から完全撤退を発表し、Alphaサーバーにインテルのチップ「Itanium」を使うことを決定したこと、HPとの合併話で今後の行方が不透明なことなどが弱みとなっている。
SunのバイオIT市場における強みは、シングル・アーキテクチャ・アプローチ、ソフトウェア、拡張性の高いストレージ・システム、JavaとXMLに豊富な経験を持っていることなどが挙げられる。また、データベースのリーディング企業であるOracleとの強い関係も、Sunの強みを支えている。Sunは、ライフサイエンス分野での高性能コンピュータ(HPC)市場全体60億ドルのうちの約20%、つまり12億ドル相当をSunのHPCが占めることを目標としている。
図表13 バイオIT市場における主要ITベンダーの強み・弱み
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強み |
弱み |
| IBM |
・高性能コンピュータを含む幅広いポートフォリオ
・研究インフラ構築
・スケール
・特定専門領域への特化
・チャネルとエコシステム開発
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・IBM製品中心
・価格が高く、利用がむずかしい
・DB2問題
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| Compaq |
・早期の市場進出と成功
・高性能コンピュータを含む幅広いポートフォリオ
・特定専門領域への特化
・エコシステム開発
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・ハイエンド・サーバー用チップ「Alph」の生産事業から完全撤退
・HPとの合併問題
・チャネル開発
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| Sun |
・サーバー・システム
・オープンソース、標準団体に焦点
・学術・バイオテクノロジー分野に強い
・Oracleとのパートナーシップ
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・システム・ベンダー
・ストレージ
・スケール
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| EMC |
・企業向けストレージ・システム
・技術と組織の複雑さに対応
・特定専門領域の専門知識
・エコシステム開発
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・チャネル開発
・ローエンドとミッドレンジの製品提供
・提携強化
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| Oracle |
・企業向けデータベース
・商品の普及率
・特定専門領域の専門知識
・増加製品機能とパフォーマンス
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・製品導入および利用がむずかしい
・価格構造
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| HP |
・高性能コンピュータに強い
・製品の幅広さ
・特定領域における専門知識
・エコシステムとチャネル開発
・製造および製薬メーカーに強い
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・投資とコミットメント
・提携をてこにしたビジネス展開を活用していない
・市場での限られたプレゼンスとブランド認知
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| Dell |
・クラスタ・サプライヤーとしての市場への浸透
・値段とパフォーマンス
・簡単な操作とアクセスの容易性
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・特定専門領域への特化なし
・スケール
・提供製品ポートフォリオの幅広さ
・オープンソース・標準化団体における限られたプレゼンス
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| SGI |
・化学と可視化(visualization)分野で先行
・特定領域における専門知識
・高性能コンピュータ・ポートフォリオで強み
・可視化ハードウェアとビジュアル・サービング戦略
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・スケールおよびニッチ・プロバイダとしての力量
・エコシステムとチャネル開発
・ストレージ戦略
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(出所: IDCその他の資料をもとにワシントン・コア作成)
4.主要ITベンダーの動向
4.1.IBM
(1) 取組体制・戦略
ライフサイエンス分野の組織強化
IBMは2000年に入って、バイオIT市場をターゲットとしたライフサイエンス分野の組織体制を強化した。2000年8月、バイオテクノロジー、医薬研究、ゲノミクス、プロテオミクス、ヘルスケアなどの分野の研究者たちの研究開発活動を支えるITインフラを提供することを目的として、ライフサイエンス・ソリューション事業部門を立ち上げた。ライフサイエンス部門をバックアップするリサーチ・センターとして、IBM Computational Biology CenterとIBM Deep Computing Instituteがある。さらに2001年3月には、新たなコンサルティング・グループとして「グローバル・ライフサイエンス・コンサルティング&ソリューション」を設置し、クライアント企業やビジネス・パートナーがより効率的に研究開発を進めていくためのサポート体制を作った。

図表14 IBMライフサイエンス・ソリューション事業部
(出所: IBMの資料をもとにワシントン・コア作成)
ビジネス・パートナーとの連携によるソリューション提供
IBMのハードウェアおよびインフラストラクチャと、パートナー企業が提供するアプリケーション、研究開発ツールを統合し、クライアント企業のR&D生産性向上、R&Dプロセス効率化、市場競争力強化、将来性に対する柔軟性、科学的発見のためのコスト低下を目指すソリューション・サービスをクライアント企業に提供していくことが、IBMにおけるライフサイエンス・ビジネスの戦略である(図表15)。

図表15 ライフサイエンス分野におけるIBMの戦略
(出所: IBM)
2000年8月にライフサイエンス・ソリューション部門を設置した際、バイオテクノロジーや製薬メーカーなどとの提携を進めるための総額1億ドルの投資を決定したが、このシードマネー1億ドルのうちの約半分は、すでにカナダのMDS Proteomics、ベルギーのDevgen、アメリカのStructural Bioinformaticsを含む、バイオテクノロジーおよびバイオ・インフォマティックス関連6社の直接投資に充てられている。
IBMは、「バイオテクノロジーは高性能コンピューティングのけん引役であり、IBMはライフサイエンス分野に参入している他のどのIT企業よりもこのバイオIT分野に投資している」としており、2001年11月には「IBMは直接投資から、Burrell & CoやOxford Bioscienceのような、ライフサイエンス分野に特化したベンチャーキャピタルファンドを通じての投資に移りつつある」と述べている。
提供ソリューション
IBMは、ライフサイエンス分野において、@データ管理およびナレッジ・マネジメント、A研究開発を支える高性能の情報インフラ(ハードウェアおよびソフトウェア)、Bコンサルティングを含む支援サービス、CEビジネスなどのサービスを必要に応じて統合的なソリューションとして提供することを目指している。図表16は、IBMが提供するソリューションのイメージ図である。

図表16 IBMが提供するライフサイエンス・ソリューション
(出所: IBM)
(2) 主な事業活動
たんぱく質構造情報データベース構築
2000年11月29日、IBMは三次元たんぱく質モデリングなどのComputational proteomicsにおける世界のリーディング企業であるStructural Bioinformatics, Inc(SBI)(http://www.strubix.com/)に資本投資することを発表した。SBIへの投資は、2000年8月にライフサイエンス・ソリューション部門設置以来の最初の投資となった。従来、一つの新薬を開発するために5億ドルのコストと15年の歳月を必要としたが、IBMとSBIのコラボレーションにより、その費用やサイクルタイムを短縮していくことを目的とする。そのコラボレーションの一つとして、世界中の研究者がインターネットを通じてたんぱく質構造情報データベースにアクセスできる仕組みの構築・提供がある。
ゲノム解析用のスーパーコンピュータ開発
2000年12月、IBMはNuTec Science(http://www.nutecsciences.com/)と、ゲノム解析用の世界最大規模の商用スーパーコンピュータを構築することを発表した。NuTecはヒトゲノム・プロジェクトに関わるコンピュータ作業を迅速化するためのアルゴリズム研究を専門としており、同社が設計したソフトを使えばゲノム解析の時間は大幅に短縮される。IBMは1秒間に7兆5000億回の演算が行えるスーパーコンピュータ・クラスタの構築を目指しており、このスーパーコンピュータとNuTecのソフトウェアを組み合わせることで、ゲノム研究に不可欠なパワフルなコンピューティング環境を提供できることになる。
たんぱく質分析用の研究データベース構築
2001年1月30日、IBMはたんぱく質を研究するプロテオミクスのリーディング企業であるMDS Proteomics(http://www.mdsproteomics.com/)との戦略的提携を発表した。IBMとMDS Proteomicsは、共同で製薬メーカーや大学機関の研究者がインターネットを通じてアクセスできる、たんぱく質分析用の研究データベースを構築する。また、バイオテクノロジーの研究における複雑で大量計算が必要とされる課題の解決のためのプロジェクトも共同で行っていくという。この提携では、IBMはMDS Proteomicsに資本を投入することとなる。
データベースの統合利用促進
2001年11月28日、IBMはドイツのハイデルベルグに本拠をおくLION Bioscience AG (http://www.lionbioscience.com/)と新薬の開発促進を目指して提携することを発表した。LIONはバイオ・インフォマティックスのスペシャリストであり、この提携によりLIONはバイオ・インフォマティックスのコンサルティングに焦点をあて、IBMはITシステム提供を行うという。両社は、これにより主要製薬メーカーや研究機関がヒトゲノムの解読からのデータをもっと簡単で便利に抽出できるようになることを目指している。これにより、IBMのDiscoveryLinkでLIONのSRSプラットフォームを提供することで、1回の照会でGenBankやSwissProtなどを含む450以上の公共および民間のデータベースから同時に必要な情報を探すことができるようになる。
4.2.Compaq Computer
(1) 取組体制・戦略
Compaqでは、ハイパフォーマンス・テクニカル・コンピューティング(HPTC)グループ内でライフサイエンス分野のビジネス展開を行っている。

図表17 コンパック・ソリューション・グループ
(出所: コンパックの資料をもとにワシントン・コア作成)
Celera Genomicsのシステム構築による市場への早期参入
Compaqは1999年、ゲノム情報提供のトップ企業であるCelera Genomics (http://www.celera.com/)のシステムを構築した。CeleraがCompaqのシステムを活用して、設立わずか2年後にヒトゲノム情報を解読したことで、Compaqのライフサイエンス分野におけるプレゼンスが早々に確立された。
その後Compaqは、バイオ・ベンチャー企業のスタートアップ時に直接あるいは間接に投資することで、バイオ・インフォマティックスを含むライフサイエンス分野でのCompaqのプレゼンスを高める長期戦略をとった。2000年9月26日、同社は、ゲノミクスやバイオ・インフォマティックスのベンチャー企業を対象とした1億ドルの投資プログラムを創設することを発表した。ベンチャー企業への直接投資とベンチャーキャピタルを通じた投資とともに、研究用インフラストラクチャとしてCompaqのAlphaServerシステムやStorageWorksシステム、研究開発ソリューションや支援サービスのベンチャー企業への提供も含まれた。これにより、有望なライフサイエンス・ベンチャー企業の早期立ち上がりの支援を行うことでライフサイエンスの発展に寄与し、ゲノミクスやバイオ・インフォマティックス分野におけるCompaqのシステムの有益性を示し、結果的にAlphaSeverやStorageWorksシステムの需要が伸びることを期待するものであった。
提供ソリューション
ライフサイエンス分野における提供ソリューションは、Alphaサーバー・ファミリーを中心とする高性能コンピュータ・システムと、SAN(storage area netowrk)であるStorageWorksシステムを中心に、クライアント企業が必要とするアプリケーションを組み合わせるというものである。Compaqは、ライフサイエンス分野におけるアプリケーション・デベロッパーとして、図表18のような企業と戦略的関係を結んでいる。
図表18 Compaqと戦略的関係を結ぶデベロッパー
| アプリケーション |
デベロッパー |
| データベース・マネジメント |
Oracle Corporation |
| 分散リソース・マネジメント |
Platform Computing |
| データ解析 |
Lion BioScience, Informax, Accelrys/GCG |
| データ統合 |
Lion BioScience, Informax |
| データ提供 |
Celera Genomics, Incyte Genomics, Structural GenomiX, Entelos |
| LIMS |
Thermo Lab Systems, Applied Biosystems |
| グリッド技術 |
Platform Computing |
(注)LIMS:Laboratory Information Management Systemの略(検査室情報管理システム)
グリッド技術:個人情報端末やパソコン、高性能コンピュータ、大容量データセンター、可視化装置、観測装置等をインターネットをベースとしたネットワークによって結び、これらのシステムを統合してあたかも1つの巨大な仮想コンピュータのように扱う、分散型コンピュータ構築技術。
(出所: Compaq)
(2) 主な事業活動
「バイオ・ファクトリー」をめざすCelera Genomicsとのコラボレーション
Compaqは1999年末、ゲノム情報提供のトップ企業であるCelera Genomicsのゲノム研究として、Compaqのスーパーコンピュータ、ストレージ・システムなどを含むデータセンターを設計・構築し、Celera Genomicsのゲノム解読完了に貢献した。その時点でCelera Genomicsに設置されたシステムは、毎秒1兆3000億回の浮動小数点演算が可能なCompaq 64ビットAlpha プロセッサなど700CPU、70TBのデータベースを管理するCompaq StorageWorks システムなどであったが、その後、100TBのデータベースを管理できる、900以上の相互接続されたAlphaプロセッサとStorage Worksシステムなどに増強されている。
新薬発見・開発のバーチャル・ラボ環境の構築
2001年8月15日、CompaqとEntelos(http://www.entelos.com/)は3年間のIT契約を締結したことを発表した。Entelosは米カリフォルニア州メンロパークに本拠をおく、新薬の発見・開発のためのコンピュータ内での予測バイオ・シミュレーションを行うリーディング企業である。同社は複雑な慢性疾患の大規模な数学モデルを開発しており、実験室や臨床では数か月あるいは数年もかかる可能性のある実験を、仮想の患者・ターゲット・治療薬を使ってコンピュータで実験シミュレーションするサービスを提供している。この契約でEntelosはTru64 UNIX が稼動するCompaq AlphaServer システムと、Linux が稼動する Compaq ProLiant サーバーを導入し、新薬発見と開発プロセスを統合する新しいバーチャル・ラボ環境を構築する。Compaqは演算およびストレージ・プラットフォームとソリューションを提供することで、Entelosのコンピューティング機能強化を支援する。また、両社はジョイント・マーケティング活動も展開し、共同でカスタマー・サポートも行うという。
たんぱく質解析用の次世代スーパーコンピュータ開発
2002年1月29日、Compaqは米エネルギー省のSandia国立研究所と米Celera Genomicsと提携し、遺伝子やたんぱく質の全機能解明に向け、十分な処理能力を有するスーパーコンピュータの共同開発を行うことを発表した。この提携で、Compaqとサンディアはシステム・ハードウェアとソフトウェアに関する共同作業、CeleraとSandia国立研究所はバイオロジー研究のための先進アルゴリズムと高スループットの機器からの膨大な実験データを解析するための新しい可視化技術の創出を行うとともに、Compaq、Sandia国立研究所、Celeraの三者でシステム・ハードウェア、ソフトウェアのインテグレーションおよびパフォーマンスの最適化の作業を行うという。Compaqは毎秒100兆回の演算処理能力を持つスーパーコンピュータを製作することを目標としており、これが達成できると現在の世界最速マシンの約30倍の速度で演算処理可能なスーパーコンピュータとなる。2004年までプロトタイプを完成させ、2010年には毎秒1,000兆回のレベルまで到達させたいとしている。
おわりに
バイオ・インフォマティックスは、バイオテクノロジーとITの融合(バイオテクノロジーへのITの適用)が成功した例である。そして、その発展の過程を見ると、多くの示唆を含んでいる。
特に米国のバイオ・インフォマティックスを支えている医薬品業界やバイオ・ベンチャー、連邦政府のR&Dなどを見ると、日米の違いに愕然とせざるを得ない。バイオ・インフォマティックスの成功は、単にバイオとITがうまく出会ったというにとどまらず、医薬品業界の合従連衡と積極的な投資、創造的なベンチャーを生む土壌や制度、そこに資金を供給する資本市場、異分野の研究者間の交流や研究者の流動性、そしてそれらを根底で支える膨大な政府支出といった諸要因が重なり合って実現したものである。第一ステージで完敗したと言われる日本が巻き返すのは容易なことではない。
去る2002年3月12日から14日にかけて、ボストンで"Bio IT World Conference & Expo"というイベントが開催されたので、のぞいてみた。(http://www.bioitworldexpo.com/)(次回は11月12〜14日にSan Diegoで開催されるようです。) 第1回目ということだったが、100社を超える展示があり、3,000人を超える参加者があったということで、なかなかの盛況であった。
参加した印象としては、参加者もIT業界、医薬品業界、バイオ・ベンチャー、大学の研究者、ベンチャー・キャピタリスト、マスコミなど様々で、セミナー自体も技術的な内容のものからビジネス・モデルまで様々であり、総花的という感が否めなかったが、第1回目ということでもあるし、そもそもそれがバイオITなるものの特徴なのであろう。
様々なプレゼンテーションを聞いていて強く感じたのは、「コラボレーション」と「ナレッジ・マネジメント」がこの業界にとって非常に重要なキーワードであるということである。ますます巨大化するデータや知識をマネージしスピードを重視した研究・製品開発を行わなければ生き残れない環境下にあって、時として企業や大学といった組織を超えて研究者間、技術者間でITを活用した「コラボレーション」と「ナレッジ・マネジメント」が必要になってきている。バイオとITが融合したこの業界では、ITによる組織革命も早く進展しそうである。 (了)
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