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ニューヨーク駐在員報告
 【 2003年1月号 】



  「2002年の回顧と2003年の展望」

JEITAニューヨーク駐在 荒 田  良 平


はじめに

1年前の「回顧と展望」で、IT革命の「始まりの終わり」は2001年で終わって欲しいと期待を込めて書いた。しかし、どうも2001年では終わらなかったようだ。個人生活や事業活動におけるITの利用は着々と進んではいるものの、IT関連産業はテレコム・バブル崩壊の影響のみならず広く米国経済を覆った企業会計不信の影響なども受けて苦闘を続けており、長いトンネルの出口は一向に見えてこない。

本稿では、2002年時点における米国のIT利用の現状やIT産業の現状について振り返るとともに、2002年の回顧として、日頃IT関連のニュース等をチェックしているアシスタントのMatthew Vetrini君に選んでもらった「ITを巡る2002年の10大トレンド」を記載する。


1.米国におけるIT利用の現状

まず、2002年時点での米国におけるITの利用状況の現状について、適宜日本との比較も交えながら数字をチェックしておくこととする。

米国におけるインターネット人口は、Nielsen//NetRatingsによると、2002年4月時点で約1億6,600万人である。これを利用率に換算すると約59%ということになる。(これはインターネット接続が可能な世帯の構成員全員(乳児は除く)をカウントしている数字なので注意が必要である。)(図表1)
 同時期における日本のインターネット人口が約5,100万人、利用率が約40%(携帯電話からのインターネット接続を含まない)であるので、依然として米国が日本をリードしているということになる。
 ただし、同社の調査によると、米国のインターネット利用人口が2001年以降ほとんど増えていないように見える一方で、日本のインターネット利用人口は最近では6,000万人近くまで増えているようなので、その差は少しずつ縮まっていると言えるであろう。


図表1 インターネット人口の日米比較(2002年4月)
図表1
(出展: Nielsen//NetRatings)


参考までに、少し古いデータであるが2001年9月時点での米国におけるインターネット利用率の年齢別分布を見ると、概ね10歳から60歳までの過半数がインターネットを利用している。(図表2)
 特徴的なのは、特に10代半ばから後半の学童年齢におけるインターネット利用率が高いということであって、前クリントン・ゴア政権時代に始まったe-rateプログラムなどにより教育現場へのインターネットの普及が着々と進展していることを窺わせる。


図表2 インターネット利用率の年齢別分布(3〜80歳)
図表2
(出展: DOC「A Nation Online」)


なお、日米のインターネット利用率の差が縮まってきている要因の一つとして、PCの世帯普及率の差が無くなってきていることを挙げることができそうである。図表3は、日米のPC世帯普及率のおおまかなトレンドを見るためそれぞれの数字を重ね合わせて作成してみたもの(調査対象、調査時点等が異なるので厳密な比較はできないことに注意)であるが、米国の普及率が思ったほど高くない一方で、日本の普及率が近年急速に伸びていることが窺える。


図表3 PCの世帯普及率
図表3
(出展: 米国・DOC「A Nation Online」、日本・内閣府「消費動向調査」)


米国における2002年9月末時点のブロードバンド普及状況は、Kinetic Strategiesによると、CATVを通じたケーブル・モデム接続が約1,000万件、既存の電話線を通じたDSL(デジタル加入者線)接続が約500万件、計1,500万件である。(図表4)
 このように、米国ではケーブル・モデムがDSLに対してリードを保っているが、2001年7月の本駐在員報告でも触れたように、もともと米国では大雑把に言ってテレビ視聴1億世帯中CATV視聴世帯が7,000万世帯弱もあること、一方で人口密度の低い米国では電話局から数km以上離れるとサービスを受けられないDSLには限界があることに留意する必要があろう。
 ちなみに、総務省が公表している日本におけるブロードバンド接続サービスの数字を見ると、2002年9月末時点でケーブル・モデム接続が180万件、DSL接続が420万件、計600万件となっており、契約者数で見るとまだまだ米国が日本をリードしている。しかし、世帯普及率では既に良い勝負というところまで日本が追いついて来ている。


図表4 2002年9月末時点のブロードバンド契約者数
図表4
(出展: Kinetic Strategies)


この米国におけるブロードバンド契約者数の2001年12月末から3か月毎の推移を示したのが図表5であるが、3か月毎に伸び率で10%強、実数で計150万件程度ずつ着実に増加していることがわかる。
 ただし、日本と比較すると、日本では特にDSLが実数で3か月毎に100万件弱という、米国のケーブル・モデムと同程度、米国のDSLの倍の伸びを続けており、「勢い」において日本が勝っていると言うことができるであろう。


図表5 米国におけるブロードバンド契約者数の推移
図表5
(出展: Kinetic Strategies)


米国における携帯電話の加入者数は、Cellular Telecommunications & Internet Association(CTIA)によると、2002年6月末時点で約1億3,500万人で、普及率は50%をやや下回っているという状況である。まだ音声通話中心ではあるものの実感としてかなり普及が進んだ気がする米国の携帯電話であるが、2002年に入って伸びが急速に鈍化したように見えるのが気になるところである。(図表6)
 なお、日本における加入者数は、(社)電気通信事業者協会によると、2002年6月末時点でPHSを含め7,600万人で、普及率にすると約60%ということになる。


図表6 米国における携帯電話の加入者数の推移
図表6
(出展: CTIA)


米国の小売業における電子商取引額は、DOCのCensus Bureauによると、2002年第3四半期には約110億ドルで総売上高の1.3%を占めている。(なお、電子商取引とは、発注又は価格・条件交渉がインターネット、エクストラネット、電子データ交換(EDI)、電子メールその他のオンライン・システムで行われた商取引を指し、支払いがオンラインで行われたか否かは問わない。)(図表7)
 この1.3%という数字を大きいと見るのか小さいと見るのかは難しいところであろうが、実感としては消費行動の中に電子商取引は着実に組み込まれてきている。(我が家の2002年の家計を振り返っても、外食を除く消費のうち電子商取引の占める割合は1%をはるかに上回っていると思われる。)
 また、GパンやYシャツなど、従来の発想では電子商取引になじまないと思われていた商品までオンラインで販売するビジネスモデルが現れるなど、その内容にも新しい動きが見られる。


図表7 小売業における電子商取引の動向
図表7
(出展: U.S. Census Bureau)


以上、ごく断片的なデータしか取り上げていないが、全般的に見て2002年に米国においては、IT利用は2000年頃までの勢いは無いものの着実に進展したと言うことができるであろう。ただし、日米におけるIT利用度の差は、教育現場におけるインターネット利用など一部を除いて急速に縮まってきていると思われる。



2.米国のIT産業の現状

IT利用が着実に進展した一方で、ITのサプライ・サイドであるIT産業にとって2002年は、当初は後半から緩やかな回復が期待されていたものの、テレコム・バブル崩壊の歯止めがかからなかったことや不正経理問題の影響から、結局は前年に続き非常に厳しい年となった。こちらもいくつか関連の数字を取り上げてみたい。

米国の民間IT投資は、DOCの経済分析局によると、2001年第4四半期前後に底を打ち、2002年第3四半期には実質値で見ると2000年のピーク時に近い水準まで回復した。ただし、これは実質値にはハードウェアの価格性能比の急速な向上(デフレータの急速な低下)が反映されるためであり、名目値で見ると、着実に回復してはいるものの、ピーク時には程遠いと言わざるを得ない。(図表8)


図表8 米国の民間IT投資の推移
図表8
(注)金額は季節調整済み年換算額(名目値)。
(出展: DOC経済分析局)


2002年は、ITの大手需要先の中でも特にテレコム・バブル崩壊に伴う通信事業者の不振が著しかった。株高を背景に多額の資金を調達し急速に設備を拡大してきた新興通信事業者は、資金繰りの行き詰まりや不正経理問題の影響などから、2002年に入っても次々に連邦破産法11条(日本の会社更生法に相当)の申請に追い込まれた。(図表9)


図表9 連邦破産法11条を申請した主な通信関連事業者
図表9
(出展: 各種資料から作成)


2002年の米国のコンピュータ・電子製品製造業の出荷額は、DOCのCensus Bureauによると、2000年のピーク時から2割以上落ち込んだまま、回復の兆しを見せていない。


図表10 コンピュータ・電子製品製造業の出荷額の推移
図表10
(出展: U.S. Census Bureau)


2002年の米国におけるPC出荷台数は、Gartnerによると、第2四半期まで低迷していたが、第3四半期に対前年比8.6%増を記録した。しかし、これはテロ事件のあった前年との比較であるため、今後の動向を引き続き注視することが必要である。また、メーカー別に見ると、デルの一人勝ちが続いている。(図表11)


図表11 米国市場におけるメーカー別のPC出荷動向
(上段台数(千台)、下段対前年同期比(%))
図表11
(出展: Gartner)


以上、こちらも断片的なデータしか取り上げていないが、全般的に見て米国のIT関連産業は通信関連を中心に引き続き厳しいIT不況下にあると言えるであろう。



3.ITを巡る2002年の10大トレンド

昨年に続き、今年もアシスタントのMatthew Vetrini君にITを巡る2002年の10大トレンドを選んでもらったので、彼のコメントも敢えて原文の直訳のまま記載する。もちろん項目の選定やコメントにはMatthew Vetrini君の主観が反映されているが、米国におけるITに対する一般的な見方を表している一例として御参照いただきたい。また、各項目に私のコメントも付記しておく。

(1) マイクロソフト案件
ソフトウェアの巨人マイクロソフトを分割しないというColleen Kollar-Kotelly判事の11月の裁定の結果、1910年代のスタンダード・オイル分割以来の大騒動は尻すぼみに終わった。
しかし、これでマイクロソフトの訴訟問題が片付いたわけではなく、同社は引き続き「同社に継続的な圧力を課す強制力のある条項を含む、5年間有効な和解条件に従わなければならない。加えて、マイクロソフトは引き続きサン・マイクロシステムズ、AOLタイムワーナー他により提起された反トラスト訴訟に巻き込まれている。マイクロソフトはまた、全米の消費者からの100を超えるクラス・アクション訴訟(集合代表訴訟)に直面しており、さらに欧州連合(EU)の規制当局が同社の行動を調査している。」(Seattle Times、11/3/02)また、マイクロソフトはウェスト・バージニア州及びマサチューセッツ州による控訴と、カリフォルニア、コネチカット、アイオワ、フロリダ、カンサス、ミネソタ、ユタ各州及びワシントンDCが求めたより厳しい罰則にも対処しなければならない。
訴訟・和解費用の負担(マイクロソフト負担2,860万ドル、うち裁判費用2,500万ドル、今後の執行費用360万ドル)や、上記の2州の控訴、7州とワシントンDCが求めた厳しい罰則、欧州連合の調査、クラス・アクション訴訟及び数社による訴訟などの問題が残されたにもかかわらず、マイクロソフトは完全勝利ではないにしても戦術的勝利を収めたように思われる。


⇒ 4〜5割という驚異的なマイクロソフトの営業利益率を可能ならしめている「独占状態」は、反トラスト法の観点からは当面は揺らぐことはなさそうである。
 となると、マイクロソフトを脅かす次なる脅威は何であろうか。ビル・ゲイツ氏は「ライバルはIBM、AOLタイムワーナー、ソニー」(日経ビジネス2002年11月18日号)と言っているようだが、これはまさに同業他社に敵が無い同社の現状を表していると言えよう。
 ただ、以下の項目にも出てくるように、電子政府におけるLinuxの採用など、「勝ち過ぎの弊害」とも言えるような動きも出てきている。

(2) ITトレード・ショーの終焉
ITエコノミーが栄光の日々から遠くかけ離れてしまったことを表すしるしはまだ不十分だと言わんばかりに、ITトレード・ショーの規模と参加者がそれを明確に表している。ショーのすべてではないとしてもその大部分が、2000年のピーク時のほぼ3分の1から4分の1の規模になっている。この傾向の大きな原因は、単に引き続き生き残ってイベントに参加し資金負担するIT企業の数が著しく減ってしまったということである。
トレード・ショーの打撃が非常に大きかったため、「Comdexを運営するKey3Media社(同社は他のハイテク・トレード・ショーも運営している)は先週、四半期ベースで巨額の損失を発表し、破産申請をせざるを得ないかもしれないと語った。」(Wall Street Journal、11/18/02)
しかし、多くの人々はトレード・ショーは巧妙に仕組まれた誇大宣伝に過ぎないと思っているので、景品をばら撒いたり交際費をかけるよりも、もっと簡素化した方が実際には成果が上がるかもしれない。


⇒ ITバブル時代に乱立したインターネット関連のトレード・ショーの凋落は目を覆うばかりであるが、スポンサー企業も出展企業も来場者も集まらないのではトレード・ショーが成立するはずはない。この世界でも「バブル」がはじけ、淘汰が進んでいるということであろう。
 ただ、それなりの歴史を有するComdexの不振は、単なるバブル崩壊を超えた意味を持つのかもしれない。私の率直な印象を言えば、「PC」をメインテーマに据え発展してきたComdexが、マイクロソフト支配が確立されてしまった現在、皮肉にもその故に逆に訪れる者をワクワクさせる輝きを失いつつあるのではないかという気がする。

(3) IT市場の回復
主要なIT市場調査会社やIT企業自身によると、IT市場(またはいわゆるニュー・エコノミー)は回復途上にあるという。確かにITエコノミーのいくつかの分野(最も顕著なのは世界のサーバー市場)の指標には再生の兆候を示し始めているものがあるが、ニュー・エコノミーのピーク時の支出や投資の水準まで回復することを表すほどのものではない。

⇒ IT市場が引き続き厳しい状況にあることは2.で触れたとおりである。「ニュー・エコノミー」という言葉も今やすっかり影をひそめてしまった。

(4) WiFi
ニュー・エコノミーのピーク時には、インターネット・ユーザーは将来どこでもいつでもモバイル・インターネットを使えるようになると期待された。それは少なくとも期待されたようには実現しなかった。通信分野における投資(過剰投資と言う人もいるだろう)及び結局は通信企業自身が変調を来たし始めて失敗に終わったので、ワイヤレス・インターネットは一応始まったがお粗末なものである。
また、その始まりの規模は、生物学的進化と同様、小さいものである。最初は、小規模の技術愛好家たちが手近な部品と自宅のケーブル・インターネット(場合によってはDSL)を使って家庭内ワイヤレス・ネットワークを構築するところから始まった。ニューヨーク、ロサンゼルス、シアトルといった都市におけるこうした動きによって、通常では望ましくない近接した建物が、これらの都市の非常に重要な地区全体をカバーする安全ではないが近接したWiFiネットワークを構築する効果を持つことがわかった。
この状況はケーブルやDSLのサービス・プロバイダ(ISP)の知るところとなり、最も有名なAOLタイムワーナーは、同社の言うところによる契約者適正利用規則違反を発見すると直ちに、インターネット接続を基本的に無料ワイヤレス・ネットワークを提供するために利用している者に対して、そうした利用をやめなければインターネット接続を停止し可能な法的措置をとると通告した。この一件は、家庭内ブロードバンドWiFiネットワークの利用に大きく水を注すこととなった一方で、WiFiに対する世間の関心を一層高めることとなった。


⇒ WiFiについては2002年8月の本駐在員報告で触れたところであるが、IT関連分野にあって数少ないホット・イシューの一つである。去る12月5日には、AT&T、インテル、IBM等の出資により全米規模でWiFiネットワークを構築しホットスポット事業者や企業内利用向けに卸売りを行うCometa Networks社(http://www.cometanetworks.com/)が設立された。WiFiネットワークの収益モデルは今ひとつ見えないのであるが、Cometaはとりあえずインフラ整備で主導権を握っておいてブレークを期待しようということなのであろうか。いずれにしても、2003年も引き続き要注目である。

(5) 真のP2P
米国レコード産業協会(RIAA)がNapsterを抹殺したことによって、業界がNapsterとその何百万というユーザーが普及させた半P2Pシェアリングから被ってきた頭痛と減収から解放されるはずだった。しかし不運にも、それは最も有名なKazaa、BearShare、Madsterなど、何百万ものユーザーが音楽のみならず動画やソフトウェアも共有する数多くの真のP2Pネットワークを生み出してしまった。
中心となるサーバーを用いていたためどのファイルが共有されたか追跡・記録が容易だったNapsterとは違ってますます頭の痛いことに、今や完全なP2Pネットワークは誰が何を共有したかという痕跡を残さない。
これまでのところRIAAの対応は、冷たく迎えられた有料音楽サービス(既に失敗に終わったものもあるし、利益が出ているものは一つも無い)と、大手ISPに1998年デジタル・ミレニアム著作権法(DMCA)を著しく侵害した契約者の氏名を公表させたこと(多くの人がプライバシーの著しい侵害であるばかりでなく、不法な捜査・検挙からの保護を謳った憲法の著しい侵害であると考えている)だけである。


⇒ P2Pは、米国におけるブロードバンドを支えるキラー・アプリケーションであると言っても良いであろう。こうした変化はいわば不可逆変化であり、無料ファイル交換の味を占めた人が有料音楽サービスにお金を払うとは思えない。

(6) セキュリティ
DARPAの計画が今日我々の知るインターネットへと進化して以来、セキュリティは常に存在する問題である。9月11日に我々はセキュリティの重要性を思い出させられた。
セキュリティ(主にスマートカードの形での建物への物理的アクセスや他の本人確認技術)への支出が急増した。しかし、この増加分はネットワークやコンピュータのセキュリティを犠牲にすることによって賄われており、Infosecure 2002 (12/10/02〜12/1202、ニューヨーク)に参加したネットワーク・セキュリティ管理者の大多数によると、それへの支出は減少しており現在のネットワーク・インフラに対する障害となっているという。


⇒ サイバー・セキュリティの重要性が叫ばれる一方で、企業にとってそれがコストである状況は変わっておらず、ブッシュ政権はサイバー・テロリズムの脅威を訴えているが、それを誇張だとする声も根強い。2002年9月に大統領重要インフラ保護会議は「National Strategy to Secure Cyberspace」と題するサイバー・セキュリティ国家戦略のドラフトを発表したが、連邦政府自身のR&D等への取組みの他は、州・地方政府や大学、民間企業に自発的協力を求める内容で、しかも「ドラフトの発表」という形態になってしまった。「安全」とは、結局は「何も起きなくて当然、何か起きたら他の誰かの責任」という宿命を負ったテーマであるという構図は、テロ事件を経ても本質的には変わっていないということであろうか。

(7) Tablet PC
マイクロソフトや他のPC関連業界が低迷する企業収益や株価を押し上げるべく強力なニッチ市場の創造を期待する中で、待望のTablet PCが2002年11月7日に盛大な宣伝と興奮とともに発売された。
現時点でのTablet PCメーカーはエイサー、NEC、富士通、東芝であり、今後パナソニックとサムソンが加わる予定である。ソニーは、Tablet PCを製造しておらずまた当面その計画も持っていない唯一のメーカーである。
Tablet PCで注目すべきなのは、マーケッティングが成功すれば、ビジネスや教育の世界においてノートブック支配を終わらせる可能性があるという点である。


⇒ 皆さんはTablet PCをどう思われますか。

(8) ブロードバンド
破産や業界再編といった問題に見舞われながらも、米国の家庭におけるブロードバンド接続は、特にITエコノミーの多分野との比較において穏やかな成功以上と思われる十分着実な伸び率で増加を続けている。
Cable Datacom Newsを出版するKinetic Strategies Inc.によると、「米国及びカナダにおける家庭向けのケーブル・モデムとDSLの契約者数は第3四半期末で1,800万人を超えたと見込まれ、現在の設置速度からすると、2002年末には業界にとって重要なマイルストーンである2,000万人に達するだろう。」(Cable Datacom News、12/1/02)
ケーブルとDSLは依然として市場シェアを争っており(現時点ではケーブルがかなり差をつけている)、ニュー・エコノミーの消費者ベースでのゆるやかな復活が期待されている。


⇒ ブロードバンドの契約者数の動向については1.で触れたとおりである。768kbps/128kbpsのDSLに月50ドルも払わされている私としては、日本のDSLユーザーの皆さんがうらやましい限りであるが、日本のDSL事業者の皆さんからすると、米国の状況がうらやましいということになるのであろうか。

(9) AOLタイムワーナー
如何にして巨大企業は没落したのか。かつて、AOLタイムワーナーの合併はインターネット界とメディア界の巨人同士の融合でありAOLの方が巨大だと思われた。今やAOLの契約料収入以外の主要収入源であるオンライン広告収入の減少が、この巨獣を直撃し跪かせている。
タイムワーナー側の人間にとってAOLの問題はまとわりついて離れない過去の烙印となっている。そこで何度かトップ・マネジメントの交代が行われており、今ややり損なった外科手術のように見えるようなことはやらないという宣言までしている。AOLの株主にとって誠に遺憾なことに、よく見るとAOLタイムワーナーはAlan Greenspanが「根拠なき熱狂(irrational exuberance)」と呼んだものの幾多の事例の一つになってしまっている。
AOLは米国の最大のISPの一つであり、エンロンのように一夜にして崩壊してしまうことはない。しかし同社は市場における地位を取り戻すべく灰燼の中から自力で立ち上がらなければならないだろう。


⇒ AOLとタイムワーナーの合併も株式交換方式で行われており、結果的に損をしたのはAOLやタイムワーナーの株主である。でも、金融工学が発達し、機関投資家が機械的に各種銘柄をポートフォリオに組み込んでいる現在、「損をした株主」とは誰なのかと思ってしまう。ストックオプションの権利を行使し損ねた経営陣が得をし損ねたのは確かであろうが。

(10) オープンソース対マイクロソフト
かつてメインフレームとサーバーには様々なOSが使われ、その多くがハードウェアの所有物であった。その後標準化戦争が始まると、ハードウェア・メーカーはソフトウェア・メーカーと提携・合併したり、自社のソフトウェア部門をOS開発に特化させた。その後、マイクロソフト社が快適なグラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)と多くの既存のサーバー/メインフレームOSに匹敵する安定性を兼ね備えた手頃な価格のWindows NTを携えて参戦したため、企業や政府はマイクロソフトを導入するしかなかった。
この関係は多くのビジネス界幹部を満足させたように見えたが、今やサーバー、メインフレーム、ワークステーションの大きなネットワークとなった世界の奥深くで現実に進行していることとは反りが合わなかった。静かに革命が始まり、LinuxをはじめとするオープンソースコードOSが生み出された。
Linuxは当時あまり持っている人がいなかったコンピュータ技能を必要としたため、マイクロソフトは最初はLinuxを脅威とはみなしていなかった。その後Linuxが成長の余地を示すと、マイクロソフトはオープンソースは本質的にそれが組み込まれるシステムにとってセキュリティ上の危険因子だと公言した。(マイクロソフトは後にLinuxユーザー集団がマイクロソフト自身のアーキテクチャにおけるセキュリティ・ホールを公表すると、先の公言を後悔することとなった。)
マイクロソフトのエゴに対する最新の打撃は、米国連邦政府がLinuxを受け入れたこと、特に国家安全保障局(NSA)が最も重要なコンピュータ・システムにLinuxベースのシステムを採用することを宣言したことである。


⇒ 米国の電子政府分野におけるLinuxの採用は、クローズドソースOSへの依存による調達コスト増やセキュリティへの懸念に基づくものであり、欧州などに見られる特定ベンダーへの依存を回避したいという意図的なものとは意味合いが異なる。しかし、IBMやHPなどがこぞってLinuxのサポートを強化する中で、もはやLinuxが一つの大きな潮流になりつつあるのは明らかである。



おわりに〜2003年の展望

今年は残念ながら「COMDEX Fall 2002」に行くことが出来なかったが、新聞、雑誌、インターネットなどの各種報道等を総合すると、昨年にも増して寂しいものだったようだ。入場者数は事前の主催者見込みで12万5,000人とされていたが、実際に行った人の印象によるともっと少なかったのではないかとのことであり、ビル・ゲイツ氏の講演も空席が目立ったという。
こうした中で、ITを取り巻く2003年の展望は総体的には当然厳しいものにならざるを得ない。しかし、上記の10大トピックスからも感じられるように、WiFi、P2P、Linuxなどの新しい世界は着実に広がってきている。また、COMDEXの不調は、マイクロソフトが主導して大きな発展を遂げたPCという商品が成熟した徴であるとの見方もできるであろうし、さらに、同社が反トラスト法訴訟をほぼ乗り切ってその地位を安泰にしたかに見える一方で電子政府市場でLinuxが好まれ始めているという現象は、いわば潮目が変わりつつあるということかとも思える。
ITと言えば、良くも悪くもアップダウンの激しいニュースに目を奪われがちだったここ数年であるが、2003年は、緩やかに、しかし着実に進展する変化にもしっかりと目を向けていきたい。
(了)

(参照URL)
http://www.nielsen-netratings.com/pr/pr_020422_eratings.pdf(図表1関連)
http://www.ntia.doc.gov/ntiahome/dn/Nation_Online.pdf(図表2、3関連)
http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/0203fukyuritsu.xls(図表3関連)
http://www.cabledatacomnews.com/dec02/dec02-1.html(図表4、5関連)
http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/021031_7.html(図表4、5関連)
http://www.wow-com.com/pdf/june2002release.pdf(図表6関連)
http://www.census.gov/mrts/www/current.html(図表7関連)
http://www.bea.gov/bea/dn/nipaweb/index.asp(図表8関連)
http://www.census.gov/indicator/www/m3/hist/naicshist.htm(図表10関連)
http://www3.gartner.com/5_about/press_releases/2002_10/pr20021018a.jsp(図表11関連)

 本稿に対する御質問、御意見、御要望がございましたら、Ryohei_Arata@jetro.go.jpまでお願いします。



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