
【 2003年6月号 】
〜 「米国における電子政府関連政策の動向」(その2) 〜
JEITAニューヨーク駐在(JETROニューヨーク・センター) 荒 田 良 平
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今月は、先月に引き続き米国の電子政府関連政策を巡る動向の(その2)として、連邦エンタープライズ・アーキテクチャの構築、電子認証、及び電子政府におけるオープンソースの採用を取り上げる。
本題に入る前に 〜先月号以降のフォローアップ
が、その前にまず、先月号(その1)でご紹介した連邦政府全体のIT支出予算(図表8)の数字が、OMBウェブサイト上でその後アップデートされているので、アップデート後のもの(図表9、10)を掲載しておきたい。
連邦政府全体のIT支出予算は、2003年度は対前年度比13.8%増の573億9,500万ドル、2004年度は同3.4%増の593億7,000万ドルとなっている。
図表9 連邦政府のIT支出予算

(出展: OMBウェブサイトから作成)
図表10 連邦政府のIT支出予算

(出展: OMBウェブサイトから作成)
上記のような連邦政府による巨額のIT支出予算がどこに流れているのかが気になるところであるが、Washington Technology誌が政府調達のデータを元に主契約者(prime contractor)ごとの契約額を集計し、そのランキングを毎年公表している。つい先日、最新の2002年度のランキングが公表されたので、図表11、12にご紹介しておく。(ただし、GSA(一般調達庁)によるデータ公開が間に合わなかったため、2002年度については実際は2001年度第4四半期〜2002年度第3四半期の数字となっているとのことである。)
図表11、12からわかるように、2002年度における連邦IT調達の主契約者トップ10社中6社が防衛関連であり、また2001年度に比べ2002年度の受注額を大幅に伸ばしている企業が多い。
図表11 FY2002における連邦IT調達の主契約者トップ30

(出展: http://www.washingtontechnology.com/top-100/ より作成)
図表12 FY2002における連邦IT調達の主契約者トップ10

(出展: http://www.washingtontechnology.com/top-100/ より作成)
なお、やはり先月号の図表5でご紹介した、各政府機関の電子政府への取組み状況の評価(スコアカード)についても、その後2003年3月時点での最新の評価が出ているが、ここでは割愛させていただく。御興味がある方はresults.govを御覧いただきたい。
1.連邦エンタープライズ・アーキテクチャ(FEA)の構築
(1) 連邦政府におけるエンタープライズ・アーキテクチャ構築の経緯
先月の本駐在員報告で、電子政府イニシアティブの検討・選定にあたり連邦政府のエンタープライズ・アーキテクチャの手法が活用されたと書いた。電子政府のような巨大なITシステム構築では、個々の要素システム間の相互運用性を確保するため、システム全体の設計図が重要になるのであるが、米国の電子政府イニシアティブでは、さらに踏み込んで要素システム間の重複の特定・排除(つまり業務自体の統合・簡素化)を目指して、連邦政府全体の設計図を描こうとしている。
そこで、以下に連邦政府のエンタープライズ・アーキテクチャについてもう少し詳しく触れておきたい。
エンタープライズ・アーキテクチャとは、CIO協議会の定義に基づけば、「組織の使命、それを遂行するために必要な情報及び技術、並びにそれらの必要性の変化に対応し新技術を導入する移行過程を定義する、戦略的情報資産基盤であり、現行アーキテクチャ、目標アーキテクチャ、移行計画を含む」ということになる。この定義に従えば、連邦政府のエンタープライズ・アーキテクチャとは、いわばITシステムの視点から見た連邦政府全体の業務設計図ということになる。
各省庁単位でのエンタープライズ・アーキテクチャ構築の動きは1990年代から始まっている。(発想自体は1980年代末にNIST(国立標準技術研究所)によって提唱されている。)クリントン政権発足に伴い1993年から行われた「国家成果評価(National Performance Review)」を踏まえ、1996年に連邦政府におけるIT投資の管理改善を図るための「1996年情報技術管理改革法(Information Technology Management Reform Act of 1996)」(いわゆるClinger-Cohen法)が成立したのであるが、このClinger-Cohen法において、各省庁に任命されたCIO(Chief Information Officer)が各省庁のITアーキテクチャ(エンタープライズ・アーキテクチャ)の開発・維持・導入促進に責任を負うこととなった。これを受けて、各省庁・機関のCIOがそれぞれのITアーキテクチャ(エンタープライズ・アーキテクチャ)の構築を進めることとなったのである。
こうした中で、各省庁のCIO等で構成されるCIO協議会は、各省庁・機関のITシステム間の相互運用性の確保や情報の共有などの必要性から、1999年9月に各省庁・機関がエンタープライズ・アーキテクチャを構築する際の基本的考え方やその大まかな構造を規定した「Federal Enterprise Architecture Framework - Version 1.1」を、2001年2月にはエンタープライズ・アーキテクチャの実際の構築・更新・利用のための実用的なガイドである「A Practical Guide to Federal Enterprise Architecture - Version 1.0」を策定した。
図表13 Federal Enterprise Architecture Frameworkの概念図
(出展: 「Federal Enterprise Architecture Framework - Version 1.1」)
この時点で既に連邦エンタープライズ・アーキテクチャ(Federal Enterprise Architecture)という言葉が使われていることから、連邦政府全体を統合したエンタープライズ・アーキテクチャの構築が1990年代から進められていたように思われるかもしれない。しかし、実際にはこの時点では、国防省、財務省、エネルギー省などの先進的な省庁におけるエンタープライズ・アーキテクチャ構築の経験を他省庁に提供して参考にしてもらうという域を出ていなかったようである。
そこで、先月の本駐在員報告で触れたように、ブッシュ政権下で2001年秋に省庁横断型の電子政府イニシアティブの選定にあたったクイックシルバー・タスクフォースは、連邦政府エンタープライズ・アーキテクチャの現状は「アーキテクチャの体を成していない」と断じ、電子政府イニシアティブの実行にあたっての主要な障害の一つとして「連邦アーキテクチャの欠如」を挙げて、その克服のためOMB(大統領府行政管理予算局)が政府全体のビジネス及びデータ・アーキテクチャの合理化を主導することとしたのである。
これを受けて実質的連邦CIOであるOMBのMark Forman氏は、連邦エンタープライズ・アーキテクチャ(FEA)を中央集権的に構築する体制を強化すべく、2002年2月6日に連邦エンタープライズ・アーキテクチャ計画管理室(FEA-PMO)を設置するとともに、ソリューション・アーキテクト作業グループ(SAWG)という専門家グループを組織して各省庁による電子政府イニシアティブの導入をサポートさせることとした。このFEA-PMOは、先月の本駐在員報告で触れたOMBのCTO(Chief Technology Officer)によって指揮されている。
(2) 連邦エンタープライズ・アーキテクチャ(FEA)の概要
連邦エンタープライズ・アーキテクチャ(FEA)の具体的内容は、FEA-PMOのウェブサイト(www.feapmo.gov)に記載されている。また、FEAに関する2002年7月25日付けのガイダンス「E-Gov Enterprise Architecture Guidance (Common Reference Model) Draft - Version 2.0」が公表されており、これにMark Forman体制下でのFEAの位置づけや従来の取組みとの関係、その他電子政府イニシアティブの共通基盤となる用語群、標準、技術モデルなどが取りまとめられている。
これらを見てまず目に付くのが、FEAを各省庁・機関のエンタープライズ・アーキテクチャの積み上げではなく、連邦政府全体として遂行すべき業務から展開していることであろう。FEAは、「連邦政府の各機関にまたがる業務体系におけるプロセスを簡素化し作業を統合する機会を明らかにする」ことを目的とした、「連邦政府の業務をそれを実施する各機関から切り離して説明する機能主体の枠組み」と位置づけられている。
ただし、これは理想論であって、現実には連邦政府全体のエンタープライズ・アーキテクチャが従来の蓄積を無視して容易に構築できるわけではない。そこで、上記の2002年7月25日付けガイダンスはとりあえずのステップとして、現行アーキテクチャやそこから目標アーキテクチャへの移行計画ではなく目標アーキテクチャそのものに重点を置いて概念的ガイダンスを記述しており、また当面の課題である省庁横断型の電子政府イニシアティブの推進に資するアプリケーション・技術レベルのガイダンスに重点を置いている。
さて、FEAの概要であるが、1999年9月のフレームワークでは、図表13からもわかるように、FEA構築のためのアーキテクチャ・モデルとして@業務アーキテクチャ(Business Architecture)、Aデータ・アーキテクチャ(Data Architecture)、Bアプリケーション・アーキテクチャ(Applications Architecture)、C技術アーキテクチャ(Technology Architecture)の4つの階層を規定していた。
一方、FEA-PMOのウェブサイトによると、現在FEAは業務参照モデル(Business Reference Model)など相互に関係を有する各種「参照モデル」の集合体として構築が進められている。(図表14参照)
4つの階層から5つの参照モデルへと構成が変化していて少しわかりにくいが、この参照モデルとは、複数省庁にまたがる分析を促進し重複投資・ずれ・協力機会を特定するためのものである。ここからも、FEAが各省庁・機関のエンタープライズ・アーキテクチャを踏まえつつ、電子政府イニシアティブの推進などを念頭に置いた現実的なアプローチをとっていることが窺える。
図表14 FEAを構成する各種「参照モデル」

(出展: FEA-PMOウェブサイト)
FEAを構成する各種参照モデルは、順次策定が進められており、業務参照モデル(BRM)については既に2002年7月にVersion 1.0が公表されているが、FEA-PMOのウェブサイトによると、成果参照モデル(PRM)、サービス要素参照モデル(SRM)及び技術参照モデル(TRM)については年内に公表される予定だという。また、データ・情報参照モデル(DRM)については公表予定は決まっていないということである。
以下に、FEAを構成する各種参照モデルの概要について述べる。
@ 業務参照モデル(BRM)
業務参照モデル(BRM)は、連邦政府の日々の業務運営を組織化された階層構造によって描写するものである。組織図、配置図など組織を描写する他の多くのモデルと異なり、BRMは機能主体のアプローチを用いて業務を表現する。
2002年7月に公表された業務参照モデル(BRM)のVersion 1.0では、連邦政府の全体としての機能に着目し、まず「国民へのサービス(Services to Citizens)」、「サービス提供の支援(Support Delivery of Service)」及び「内部運営・インフラ(Internal Operations/Infrastructure)」の3つの業務分野を規定している。
さらに、「国民へのサービス」として災害管理や研究開発・科学など22、「サービス提供の支援」として立法管理やIT管理など9、「内部運営・インフラ」として人事や会計など4、合計35の業務体系(Lines of Business)を規定し、それぞれについて82、32及び23、合計137の副機能(Sub-Functions)を規定している。
図表15は3つの業務分野と35の業務体系を示したものである。副機能も含めた詳細はFEA-PMOのウェブサイトに掲載されているが、ここでは割愛させていただく。
図表15 業務参照モデル(BRM)Version 1.0の概要

(出展: 「The Business Reference Model - Version 1.0」)
A 成果参照モデル(PRM)
成果参照モデル(PRM)は、連邦政府全体で共通に用いられる成果測定の枠組みである。PRMは、各省庁が連邦政府としての戦略のレベルで行政業務を管理することを可能とし、またFEAの目標アーキテクチャへの移行過程を計測する手段となる。
B サービス要素参照モデル(SRM)
サービス要素参照モデル(SRM)は、連邦政府各省庁を支える垂直型・水平型のITサービス要素を特定し分類する。SRMは業務要素やサービスを連邦政府全体で再利用することに役立つ。
C データ・情報参照モデル(DRM)
データ・情報参照モデル(DRM)は、プログラムや業務体系の運営を支援するデータ・情報を総体的に記述する。DRMは連邦政府と様々な顧客、有権者、取引先との間の相関関係ややり取りの類型を規定するのに役立つ。
D 技術参照モデル(TRM)
技術参照モデル(TRM)は、技術がどのようにサービス要素の実施を支援しているかを描写するための階層的基盤である。TRMは、要素ベースのアーキテクチャの採用・構築を集合的に支援する技術要素の全体像を規定する。
(3) 連邦政府のIT投資及びアーキテクチャ構築に関する原則
上述のように、2002年7月25日付けガイダンスでは、Mark Forman体制下でのFEAの位置づけや従来の取組みとの関係、その他電子政府イニシアティブの共通基盤となる用語群、標準、技術モデルなどが取りまとめられている。
ここではそのうち、連邦政府のIT投資及びアーキテクチャ構築に関する原則について、その概要を記しておく。これらの項目自体は1999年9月のフレームワークで定義されたものであるが、その後の技術進歩などを踏まえた解説が加えられている。
@ 標準 〜連邦政府の相互運用性標準の確立
連邦政府は、公開されており集団の合意によって維持されるインターフェース仕様によって構成要素の相互関係が完全に定義されるような、自主的な業界標準を採用し、これらの標準仕様を満たす構成要素のみを広く調達すべき。
非独占的(non-proprietary)なシステム・アーキテクチャ及びソリューションを目標とし、特に政府機関のITシステムにおいて作成される記録は、独占的(proprietary)なソフトウェアに依存してはならない。
A 投資 〜技術投資と連邦政府の業務およびアーキテクチャとの調整
投資の決定は、連邦政府の業務ニーズに沿った業務上・アーキテクチャ上の決断に基づくものでなければならない。電子政府ソリューションの威力は既存の機能や組織の境界を越えた統合によって発揮されることが多いことも踏まえることが必要。
B データ収集 〜データ収集の負担の最小化
共通の語彙およびデータ定義を含むデータの標準化は、達成困難ではあるが肝要。従来それぞれ隔離されたデータの集合となっていた各組織や機能の境界を越えて機能する電子政府ソリューションにとって、これは特に重要。
また電子政府ソリューションでは、新しい有権者による自動アクセスを通じた直接的なデータ収集が行われることも多いため、「1回の入力で何度も使用する」という原則に、これまでより広い枠組みの中で取り組むことが必要。
C 安全性 〜無許可アクセスからの連邦政府情報の保護
連邦政府情報への無許可アクセスを防止するために、リスクや緊急事態の分析、適切な緊急時対策の導入を含む、安全の監視と計画を適切に行うことが必要。
情報の安全性の要件は「信頼性のあるネットワーク」を構築するだけでは達成できない。
D 機能性 〜共通の機能および顧客に基づく標準化の活用
連邦政府諸機関は、特定の機能性を得るために設計された再利用可能な構成要素を開発または設計するか、アーキテクチャ構成要素を購入すべき。共通の機能や顧客に関する標準化は、連邦政府諸機関によるタイムリーな変化の導入に役立つ。
E 情報へのアクセス 〜情報へのアクセスの提供
連邦政府は、複数のアクセス・ポイントの設定や情報収集・取引・分析のサポートなどにより、政府の公開情報への多様なアクセスを奨励すべき。
情報へのアクセスと表示には、広範な利用者およびアクセス方法への十分な適応性がなければならず、これには知覚障害者によるアクセス可能な形式も含まれる。
F 実証済みの技術 〜実証済みの市場技術の選択と導入
システムは、世界的なデータ階層およびプロセス境界に基づいて開発され、柔軟性を最大化するために切り離されておくべき。新技術または実証済みの技術を導入する際にリスク軽減戦略を十分に考慮することは、諸機関が変化に対応する上で役に立つ。電子政府ソリューションは、業界・政府の広範な支持を得ている新たな主流技術に重点を置く必要がある。
G プライバシー 〜1974年プライバシー法の遵守
国民がデータを提供または入力する際には、必ず情報要請の目的を含むプライバシー警告が提供され、市民に情報を提供するか否かの選択権が与えられるべき。情報が当初の意図とは異なる目的に使われる場合には、別のプライバシー警告が提供され、この場合も市民は情報を提供するか否かの選択を許可されるべき。
また、政府が維持するプライバシー情報は、正しく保護されなければならない。
いずれの項目も「なるほど」と思わせられるものであるし、また標準、情報へのアクセス、プライバシーなど如何にも米国らしい内容を含むものもあって興味深い。
なお、標準については2002年7月25日付けガイダンスの別項で解説されており、さらに添付資料としてブラウザ、セキュリティ、プライバシー、障害者アクセスなどに関する「自主的業界標準」のリストが添付されている。
電子政府においては、あくまでもANSI(米国規格協会)、NIST(国立標準技術研究所)、IETF(Internet Engineering Task Force)、IEEE(米国電気電子学会)等の「開かれた(open)」(=妥当な料金で誰でも利用でき、合意過程が業界全体に開放された)標準が望ましいのであるが、W3C(World Wide Web Consortium)等の組織やJava、J2EE等の規格は「ある程度」開かれているに過ぎず、現実の世界は独占的(proprietary)な、部分的に開かれた、そして完全に開かれた規格の広範な組み合わせによって成り立っている。
そこで、ガイダンスでは開かれた標準ではなく自主的業界標準に重点が置かれているということである。
2.電子認証
(1) 連邦PKI(FPKI)
もう一つ、米国の電子政府イニシアティブ全体に関わる話として、電子認証についてここで簡単に触れておくこととする。
電子認証と言っても、PINやパスワードといった初歩的な方法からPKI(公開鍵インフラ)のような高度なものまであるが、電子政府の本格的な推進にあたってはやはり連邦政府としてのPKIシステムが必要不可欠であるとの認識のもと、クリントン政権時代から連邦PKI(FPKI)の検討・構築が進められてきた。
連邦PKI(FPKI)は、各省庁・機関のPKIシステムの相互運用性を「連邦ブリッジ認証局」(FBCA)を通じて確保していこうとするもので、FPKIに関する連絡・調整の場として各省庁・機関のPKI担当者による「FPKI運営委員会」(FPKISC)(www.cio.gov/fpkisc/)が、またGSA(一般調達庁)によって運営されるFBCAの監督のため、国防省、OMB(行政管理予算局)、財務省、商務省、GSA等の主要省庁による「FPKI政策委員会」(FPKIPA)(www.cio.gov/fpkipa/)が組織されている。
実際に各省庁・機関のPKIシステムの橋渡し(各省庁の窓口となる認証局(CA)間の相互認証)を行う連邦ブリッジ認証局(FBCA)(www.cio.gov/fbca/)は、プロトタイプの試験を経て2001年6月に運用を開始しており、2002年9月には、国防省、財務省、NASA及び農務省National Finance Centerの4省庁のPKIシステム間の相互運用性を確立している。
また、Government Computer News誌の2002年9月18日付け報道によると、GSAのACES(Access Certificates for Electronic Services)がFBCAに参加予定であり、これによってACESを利用している社会保障局、環境庁及び連邦危機管理庁(現在は国土安全保障省傘下)も含めた相互運用性が確保されるほか、イリノイ州、保健福祉省、労働省、退役軍人省、特許商標庁及びNIST(国家標準技術研究所)のFBCAへの参加も検討されているという。
なお、やはりGovernment Computer News誌の2003年4月21日付け報道によると、連邦政府のIT管理者100人への電話インタビューの結果、53%が所属機関でPKIを既に導入しており、また導入していない人(39%)のうちの21%(つまり全体の8%)が今後12か月以内での導入を予定している一方で、導入していない人のうちの58%(全体の23%)は今後12か月以内にも導入の予定はないという。
小さな政府機関では、まだPKI導入の必要に迫られてはおらず、また予算も人材も不足しているということのようである。
(2) e-Authenticationイニシアティブ
さて、こうした中で、先月の本駐在員報告で触れたように、ブッシュ政権下で省庁横断型の24の電子政府イニシアティブの一つとしてe-Authenticationイニシアティブが採択された。
e-Authenticationイニシアティブ(www.cio.gov/eauthentication/)は、連邦政府の全ての認証作業を連邦政府ポータルサイト「FirstGov.gov」経由で一元的に行えるようにしようとするものである。(図表16)
図表16 e-Authenticationの将来像
(出展: 「e-Authentication Initiative: Where We Are, How We Arrived」から作成)
具体的には、図表16にあるように、「e-Authenticationゲートウェイ」が設置され、このゲートウェイを通してPINやPKIなど様々な形式の電子認証の確認が行われるとともに、そのリスク/保証レベルが4段階で定義される。ユーザーは、ここで定義されたレベルに応じて、対応する各機関のウェブサイトへのアクセスが許されるわけである。(このe-AuthenticationゲートウェイはPKI等の認証プロバイダではなく、またPKIの相互認証を行うFBCAでもないので、念のため。)
e-Authenticationイニシアティブのプログラム・マネージャーであるSteve Timchak氏の2002年11月21日付けプレゼンテーションによると、e-Authenticationゲートウェイは2002年9月以降、プロトタイプの試験運用に入っており、既に農務省、財務省、GSA(一般調達庁)、社会保障局などの一部のアプリケーションで利用されているという。
2003年4月に公表された最新の「E-Government Strategy」によると、e-Authenticationゲートウェイの本格運用は2003年10月とされているが、Government Computer Newsなどの最近の報道によると、2003年度の各省庁の予算確保が予定を下回ったことなどもあって、本格運用は2004年にずれ込むようである。
3.電子政府におけるオープンソース採用に関する動向
最後にもう一つ、電子政府を巡るトピックスとして、電子政府におけるオープンソース採用に関する動向について取り上げる。電子政府におけるLinux採用の動きについては、本年2月の本駐在員報告でも簡単に御紹介したので、ここでは、その後の4か月間における動きについて触れることとしたい。
(1) 「オープンソースと電子政府」カンファレンス
去る2003年3月17〜19日、ワシントンDCのジョージ・ワシントン大学において、電子政府とオープンソースに関する「Open Standards/Open Source for National and Local eGovernment Programs in the U.S. and EU」というカンファレンスが開催された。
参加費無料(さすがオープンソース!)ということもあって、私も参加してみたので、気がついた点を以下に記しておく。
- 主催はThe Center of Open Source & Government(www.egovos.org)及びジョージ・ワシントン大学のCyber Security Policy & Research Institute(CSPRI)であるが、実質的には同センターの所長であり同研究所の副所長であるTony Stanco氏がすべてを切り盛りしているという印象。カンファレンス自体も「手作り」といった雰囲気。オープンソースは、Stanco氏のように「担いで走り回る」人が担っていることを実感。
- 参加者総数は約500人とのことであったが、実際には常時参加していた人は1/3〜1/4といったところか。ただし、「Linuxコミュニティのキーパーソンはかなり顔を見せていた」(Linux関係者)とのことであり、またワシントンDCという場所柄政府関係者も参加していた。さらに、カンファレンスの名称(”n the U.S. and EU”)からもわかるように、欧州からの参加者も目に付いた。毛色の変わった(失礼!)ところでは、資金の乏しい発展途上国におけるIT普及のためオープンソースに注目しているUNDP(国連開発計画)が参加。
- 日本からは唯一、経済産業省の牧内勝哉情報プロジェクト室長が最終日にプレゼンを行う予定であったが、米国のイラクに対する事実上の宣戦布告に伴い緊急帰国指令が出てドタキャンされたのが残念。
- 内容は、マル3日間にわたり5トラックのプレゼンが並行して行われ盛り沢山。DOD、NSA、GSAなど連邦政府諸機関におけるオープンソース採用の考え方、州・地方政府におけるオープンソース採用事例、IBM、HP、サン、デル、インテル、マイクロソフト、オラクル、Red Hatなど主要ベンダーのオープンソース/Linux戦略のほか、各種団体・大学・コンサルティング会社などの関係者が様々なプレゼンを実施。
- プレゼン数や参加者数が多くて驚いたのが、医療分野におけるオープンソース採用というテーマ。この背景には、米国の医療・保険制度の下で、病院/医師が患者の医療記録等の処理のためコンピュータを使う必要性が増している一方、経費節減のためIT投資は抑制したいという事情があるようだ。
- 残念だったのは、「オープンソースと電子政府」と銘打ったわりには、個々のプレゼン内容がオープンソースの話か電子政府の話の一方だけであることが多く、つまり「オープンソース」カンファレンスと「電子政府」カンファレンスを同時に行ったという感が否めなかったこと。もちろん、オープンソース関係者と電子政府関係者が一同に会すること自体が意義のあることではあるのですが。
- 全般的に、こうした場に積極的に参加し発信をすることがコミュニティに認知され発言力を高めるための唯一の方策であることを再認識。
- なお、Tony Stanco氏とは少しお話しをする機会がありましたが、同氏は現在、クライアント系Linux(つまりWindows/Officeの代替)を政府機関に普及させることに闘志を燃やしているとのこと。また、日本との連携についても関心があるようです。
以上、雑感ですがとりあえず。なお、ウェブサイト(www.egovos.org)によると、本カンファレンスは次回は欧州に会場を移し、フランスのパリで2003年11月24〜26日に開催されるようです。
(2) ソフトウェアの知的財産に関する新提案「O-STEP
本年2月の本駐在員報告で、Linuxの持続的な成長の鍵は知的財産問題が握っているのではないかと書いたが、上記カンファレンスにおいてこの問題に関し、主催者であるThe Center of Open Source & GovernmentのTony Stanco氏が、「O-STEP」という新しい枠組みを提唱したので、ここでご紹介しておきたい。(関連資料がウェブサイト(www.egovos.org)にも掲載されている。)
O-STEPとは、Open Source Threshold Escrow Programの略で、簡単に言うと、ソフトウェア企業がソフトウェアの販売にあたり、任意の売上上限額を設定してソフトウェアのソースコードをエスクロー(第三者寄託)し、売上が上限額に達したらソースコードがオープンソースとして公開されるというもの。
Stanco氏は、ソフトウェアに関する知的財産権保護の現状は、ソフトウェアのネットワーク効果(ユーザー数が多いほどその効用が高まる性質)によってユーザーの拘束(lock-in)が生じており、またベンダー間の競争が阻害されているという意味で、ユーザーよりも製作者を過度に保護することになってしまっていると指摘。議会や裁判所はこうしたインバランスを是正できていないという。
こうした中で、インバランス是正につながるGPLのようなオープンソースのライセンスが勃興しているのであるが、同氏は、オープンソースは逆に振れ過ぎ(製作者の犠牲が大き過ぎ)であると考えており、ソフトウェアのユーザーと製作者の利益を適切にバランスさせる新しい枠組みを現在の法体系下で私契約ベースで構築することが必要であるとの認識から、このO-STEPを考案したという。
O-STEPにおいては、ユーザーは将来にわたって拘束(lock-in)されてしまうという懸念なく新しいソフトウェア購入に踏み切ることができ、製作者はソフトウェアのオープンソース化のメリットを訴えつつその開発に投じた資金を回収することができることになるという。そして同氏は、O-STEPが有効だと思われる例として、マイクロソフトのWordに押されてすっかり影が薄くなってしまっているCorel社のWordPerfectを御指名している。(WordPerfectがO-STEPに参加したというわけではないので念のため。)
Stanco氏の現状認識に対しては、私としてはかなり共感できるし、O-STEPの仕組みもアイデアとしては非常に面白いと思う。ただし、大多数の一般的ユーザーの関心は、ベンダーによる拘束(将来的に高いソフトウェアを買わされること)以上に、やはり他者との互換性や将来の継続性ではないかと思うので、O-STEPだというだけでソフトウェアが売れるとも思えない。したがって、このO-STEPが実際に普及するためには、何らかの強力な推進力が必要ではないかと思う。Stanco氏は、政府機関や他の大手ユーザーがソフトウェア企業に対しO-STEPを求めるとともに、投資家がソフトウェア企業に圧力をかけることを期待しているという。
このO-STEPがモノになるかどうかはともかく、ソフトウェアの知的財産に関するこうした何らかの新しい枠組みが求められていることは間違いなさそうである。
(3) オープンソースの調達政策に関するStanco氏のニューヨーク市議会証言
上記のThe Center of Open Source & Governmentのウェブサイト(www.egovos.org)を見ていたら、Tony Stanco氏が2003年4月29日にニューヨーク市議会の「政府の技術に関する特別委員会」において行った、オープンソースの調達政策に関する証言が掲載されていた。内容は、政府調達にあたりオープンソースを平等に検討対象とすべきという手続き上の公平性の主張のほか、オープンソースが独占的(proprietary)なソフトウェアに比べて政府における利用に適している理由の説明であり、よくまとまっているうえ興味深い。既にjapan.linux.comというウェブサイトで和訳されているようなので、ここではオープンソースが電子政府に適している理由のポイントだけご紹介することとしたい。
@ 民主主義への影響
政府は社会における他の存在とは異なり、公共的な情報の完全性・機密性・利用可能性を常に守らなければならないという特殊な義務を負っている。したがって、特定のプロバイダと結び付いた非公開で独占的(proprietary)なデータ形式によって政府のデータを保存し取り出すことは特に問題が大きい。政府のデータの利用可能性・保守・永続性が民間サプライヤの善意や経済的存続性に委ねられるべきではない。
また、公的活動の透明性に関する国民の権利が、非公開で独占的(proprietary)なソフトウェアによって阻害される可能性あり。電子投票ソフトウェアはわかりやすい例で、立候補者が得票数集計ソフトウェアを検査することを妨げてでも独占的(proprietary)ソフトウェア企業の権利を守ろうとする人はいない。同様の公的活動は数多いので、むしろ独占的(proprietary)なソフトウェアを純然たる政府の環境で使用する正当性の説明責任を企業側にきちんと負わせるべき。
A プライバシー
ユーザーの明示的な同意なしに、第三者に個人データを送信したりコンピュータ・システムを制御・変更させるソフトウェアは、国民のプライバシーを侵害。
ソフトウェアは「ネットワーク効果」の原則に従い、ある限界点を超えると消費者が選択の自由を失って相互運用性のため同じ製品を使わされるようになるので、国民の権利は市場によって保護されず、政府による介入が適切。
B コスト
ここ数十年で最悪のIT不況下にあってもソフトウェアの価格が上昇しているのは異常。
ニューヨーク市長は予算不足のため市職員の大規模なレイオフを発表したが、赤字削減のため職員の仕事ではなくソフトウェアのコストを削減する可能性について調査すべき。オレゴン州のオープンソース公聴会で証言した人の報告によれば、いくつかの学区ではオープンソース・ソフトウェアの利用によって追加の教員を雇えるほど予算を節約できたという。
C 研究開発/技術移転
オープンソースは科学の世界に似ており、研究者が情報と成果を共有。研究開発に参加する敷居が非常に低いため、小さな学校や個人でさえ参加が可能。
またオープンソースでは、オープンでないライセンスによって研究の成果を共有したり他人に見せることさえできなくなるといったことは起きない。
D 教育
オープンソースは次世代のIT専門家を教育するための優れた方法であり、開発者は実物のシステムを動かしている実際のコードを見て学習することが可能。
また、オープンソースには、世界中の主要都市でコミュニティ・グループによって運営されている、アイデアやソフトウェアやプログラミング技術を共有するためのすばらしい啓蒙プログラムがあることにも留意すべき。大規模で活気に満ちたオープンソース・コミュニティを有するニューヨーク市にも、そうしたグループが数多く存在。
E 雇用創出
オープンソース・ソフトウェアのビジネスモデルは、法律、医療、エンジニアリングに似た専門的サービス業のビジネスモデル。そのため、政府のシステムをオープンソース・ソフトウェアに移行すれば、ニューヨーク市内のシリコン・アレーのインテグレータやコンサルタントが地元で高収入のITの仕事にありつくことになり、さらに派生的な経済的相乗効果によって他の多くのニューヨーク市民にも恩恵をもたらす。ソフトウェア資金が他州の企業に支払われずニューヨークに留まることによって、明らかに市や州の税収基盤を向上させる。
F セキュリティ
安全なシステムのためにはオープンソース・ソフトウェアの方が望ましいことは、世界中の防衛・諜報関係者にとって公然の秘密。バグや「スパイウェア」に対する懸念から、彼らは自分で(ソースコードを)調べてコンパイル(機械語に変換)できないソフトウェアは信用しないため、重要で機密性の高いシステムにはむしろオープンソース・ソフトウェアを使用。
以上、民間におけるLinux導入の是非に関する議論としてよく聞かれるコスト、セキュリティ、信頼性といった論点と、上記の(特に地方政府を意識した)政府調達における論点とは大きく異なっていることが御理解いただけるであろう。
特に米国らしいのは、上述の「連邦政府のIT投資及びアーキテクチャ構築に関する原則」の「標準」のところでも出てきたように、「民主主義への影響」の項目で、そもそも政府の活動は透明性が必要であるため独占的(proprietary)なソフトウェアは望ましくないという論理を大上段に振りかぶって展開していることである。
また、研究開発/技術移転、教育、雇用創出など、IT調達に直接は関係しない論点についても総合的に勘案して調達政策を決定すべきだという主張にも、注目すべき点がある。
なお、ニューヨーク市のような地方政府がオープンソースに関心を示し始めた背景として、上記「コスト」のところでも少し出てくるが、2003年3月にオレゴン州議会で州政府が新しいソフトウェアを購入する際にオープンソース・ソフトウェアを検討対象から排除してはならない(オープンソースを義務付けるわけではない)という法案が提出され、推進派と反対派が激しいロビイング合戦を繰り広げた(結局廃案になった)といった背景がある。同様の法案がテキサス州とオクラホマ州でも検討されており、財政状況の悪化に苦しむ多くの州・地方政府にとってオープンソースに無関心ではいられないというわけである。
今後、こうした動きは全米の州・地方政府に広がる可能性もあり、マイクロソフトをはじめとする反対派との攻防が一層過熱することが予想される。
おわりに
先月と今月の2回にわたり、ブッシュ政権における電子政府イニシアティブを中心に、米国における電子政府関連政策の動向を取り上げたが、オープンソースの部分を除いて、電子政府の動向というよりもまるで行政改革の手法の紹介のようになってしまった。
私は以前から、電子政府が単にインターネットによる国民への情報提供に留まらず業務プロセスの変革や行政のスリム化を促すものだとすれば、政府職員にとってその推進のためのインセンティブとは何なのだろうかと思っていた。そこで、先日GSA(一般調達庁)の担当者にインタビューする機会があったので、この質問をぶつけてみたところ、先方は苦笑いをしながら、「(省庁横断型の)電子政府イニシアティブに従わなければ(IT利用の)予算が取れないから仕方がないんだよ」と答えてくれた。
こうした予算プロセスによる強力な管理のほかにも、トップマネジメントによるコミット、連邦エンタープライズ・アーキテクチャの構築を通した各省庁・機関の重複排除など、ブッシュ政権下での電子政府には、トップダウン型での推進手法が目に付く。もちろんその背景には、「きちんと管理しなければ収拾がつかなくなる」という文化があるのかもしれないが、MBAを持つ最初の大統領であるブッシュ大統領のマネジメント手法がよく反映されているとも言えるのではなかろうか。
(了)
(参考文献)
「Federal Enterprise Architecture Framework - Version 1.1」(September 1999)
(http://www.cio.gov/documents/fedarch1.pdf)
「A Practical Guide to Federal Enterprise Architecture - Version 1.0」(February 2001)
(http://www.cio.gov/documents/bpeaguide.pdf)
「E-Gov Enterprise Architecture Guidance (Common Reference Model) Draft - Version 2.0」(7/25/2002)
(http://www.cio.gov/documents/E-Gov_Guidance_July_25_Final_Draft_2_0a.pdf)
「The Business Reference Model - Version 1.0」
(http://www.cio.gov/documents/fea_brm_release_document_rev_1.pdf)
「Four agencies achieve interoperable PKI」(Government Computer News:9/18/2002)
(http://www.gcn.com/vol1_no1/daily-updates/20056-1.html)
「PKI is gradually making its mark in e-gov」(Government Computer News:4/21/2003)
(http://www.gcn.com/22_8/departments/21737-1.html)
「e-Authentication Initiative: Where We Are, How We Arrived」(11/21/2002)
(http://www.cio.gov/eauthentication/presentations/forum_timchak.ppt)
「E-Government Strategy」(4/17/2003)
(http://www.whitehouse.gov/omb/egov/2003egov_strat.pdf)
「Transitioning An Industry to Open Source Software: O-STEP」(2/25/2003)
(http://www.egovos.org/ostep.ppt)
「Testimony on Open Source Procurement Policies」(4/29/2003)
(http://www.egovos.org/nytestimony.rtf)
(参照URL)
http://www.whitehouse.gov/omb/budget/fy2004/sheets/itspending.xls(図表9、10関連)
http://www.washingtontechnology.com/top-100/(図表11、12関連)
http://www.cio.gov/documents/fedarch1.pdf(図表13関連)
http://www.feapmo.gov/(図表14関連)
http://www.cio.gov/documents/fea_brm_release_document_rev_1.pdf(図表15関連)
http://www.cio.gov/eauthentication/presentations/forum_timchak.ppt(図表16関連)
本稿に対する御質問、御意見、御要望がございましたら、Ryohei_Arata@jetro.go.jpまでお願いします。
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