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 【 2001年5月号 】



 欧 州 動 向
   〜フレームワーク計画におけるIT分野の取り組み(ISTプログラム)〜


T.フレームワーク計画におけるIT分野の取り組み(ISTプログラム)

 欧州諸国における産業技術開発助成施策は大きく3つに分けられる。@EUのフレームワーク計画による支援、Aユーレカ計画による支援、B各国独自の政策ツールによる支援である。ちなみに小生が駐在するフランスではBはさらに2つに分かれ、経済・財政・産業省によるANVAR(国立研究開発公社)を通じた支援と、研究省によるRNRT(技術研究ネットワーク)を通じた支援がある。
 フレームワーク計画は、欧州委員会が助成金を支出する市場前段階における研究開発に対する支援スキームである。一方、ユーレカ計画は、欧州委員会は原則として助成金を支出せず、各国政府が助成金を支出する市場指向性のある技術開発に対する支援スキームである。ユーレカ計画では、歴史的には半導体の技術開発を行ったJESSI計画、MEDEA計画などが有名である。(ユーレカ計画については次号に特集する)
 フレームワーク計画本体の全体像については、各種文献等において紹介されているが、この中で情報通信分野でどのような取り組みがなされているかについては、ユーレカ計画におけるJESSIのような代表的なプロジェクト名を聞かないこともあり、意外と知られていないような気がする。このため、今回は第5次フレームワーク計画における情報通信分野の取り組み(ISTプログラム)について解説する。



1.フレームワーク計画の概要

 本論に入る前に、フレームワーク計画を簡単に紹介しておく。フレームワーク計画はEUレベルでの研究開発支援スキームであり、1984年に開始された。以来、4年毎の計画が繰り返される形で進められ、現在は第5次フレームワーク計画(1998年〜2002年)が実施中である。第5次フレームワーク計画における研究開発支援対象分野は表1の通りである。予算総額は149.6億ユーロであり、表1の右側の数値は各分野に与えられる予算割合である。


表1 第5次フレームワーク計画の構成
  <テーマ分野別プログラム>
@生活の質と生活資源の管理 16%
Aユーザ・フレンドリーな情報社会(ISTプログラム) 24%
B競争力のある持続可能な成長 18%
Cエネルギー、環境及び持続可能な発展 14%
D原子力分野(EURATOM) 7%
  <共通プログラム>
E欧州研究活動の国際的役割 3%
Fイノベーションと中小企業の参加の促進 2%
G人的研究能力と社会・経済知識基盤の改善 9%
Hジョイント・リサーチ・センター 7%

 表2にフレームワーク計画における助成方式を示す。このうち、「(a)費用分担活動」が助成手段の中心であり、「研究技術開発プロジェクト」が通常の研究開発支援にあたる。


表2 フレームワーク計画の助成方式
(a) 費用分担活動(Shared-cost actions)  
 ・研究技術開発プロジェクト ※補助率:50%
 ・実証プロジェクト ※補助率:35%
 ・研究開発・実証総合プロジェクト ※補助率:35〜50%
 ・中小企業共同研究プロジェクト ※補助率:50%
 ・中小企業初期研究資金 ※補助率:70%
(b) 教育訓練奨学金(Training fellowships) ※補助率:最大100%
(c) テーマ・ネットワーク(Thematic networks) ※補助率:最大100%
(d) 調整・協調活動(Concerted actions) ※補助率:最大100%
(e) 付随措置(Accompanying measures) ※補助率:最大100%
 ・Take-up活動、等  


2.ISTプログラムの概要

 第5次フレームワーク計画においては、IT関係プロジェクトはそれまで情報分野と通信分野とに分けられていたプログラムが、”IST(Information Society Technologies:情報社会技術)プログラム”として一つにまとめられて運営されている。表1に示すように、第5次フレームワーク計画の全予算のうち24%がISTプログラムに充当されている。
 ISTプログラムは、7つの基本分野から構成される。まず、@「市民のためのシステムとサービス」(キー・アクション1)、A「新しい業務方式と電子商取引」(キー・アクション2)、B「マルチメディア・コンテンツとツール」(キー・アクション3)、C「重要な技術とインフラ」(キー・アクション4)の4つのキー・アクションがある。4番目の「重要な技術とインフラ」は、特定のアプリケーションに限定されない共通の基礎的な技術やインフラに関する研究開発であり、最終的には「市民のためのシステムとサービス」、「新しい業務方式と電子商取引」、「マルチメディア・コンテンツとツール」のうちのいずれかの応用分野での活用につながるものを対象としている。さらに、ISTプログラムにはこの4つのキー・アクションの他に、3つの柱がある。上記のキー・アクションの対象とならない基礎的な技術の研究開発であるD「未来技術」(FET:Future Emerging Technologies)、研究開発サポートとして研究奨学金や研究ネットワーク作り(情報インフラ整備も含む)を目的とするE「リサーチ・ネットワーク」(RN:Research Networking)、さらにISTの立ち上がり期に、これらのアクションを通してそのうちの最低10%を横断的なテーマに当てることが決定され、これが7番目の柱のF「プログラム横断的アクション」(CPA:Cross-Programme Action)となっている。これらの関係を図1に示す。


1
出典:IST Workprogramme 2001

図1 ISTプログラムの構成

 ISTプログラム全体の予算は36億ユーロである。このISTプログラムの総予算にはプログラム運営のための7.5%の事務経費が含まれており、これを除いた純粋に研究開発に充てられる予算は33億3,000万ユーロである。表3に1998年から2002年にわたる第5次フレームワーク計画の実施期間中の各年度の分野別予算配分を示す。


表3 ISTプログラムの予算 table3

 個々のキー・アクションは広範な範囲を含むが、例えば第1キー・アクションの「市民のためのシステムとサービス」であれば、「健康」、「高齢者・身体障害者を含む特別なニーズのある人々」、「行政」、「環境」、「交通と観光」の5分野に分けられている。さらに、その下にアクション・ラインとして、例えば「健康」においては、「市民の健康管理のためのインテリジェントな環境」、「治療の連続性のためのインテリジェントな共同環境」、「eヘルスにおける最良実施・トライアル」という3つのアクション・ラインが設けられ、これらのアクション・ラインはI.1.1, I.1.2, I.1.3と整理される。アクション・ラインは全ISTプログラムにおいて数十を数え、個別プロジェクトの募集はこうしたアクション・ラインを指定して行われている。ISTプログラムでは、4年間で合計8回のプロジェクト公募が行われるが、現在は第6回目の公募が4月15日に締め切られたところである。
 一般にフレームワーク計画は「トップダウン方式」、ユーレカ計画は「ボトムアップ方式」と言われるが、実際にはISTプログラムは、例えば我が国の第五世代コンピュータ・プロジェクトやリアル・ワールド・コンピューティング・プロジェクトのように政府が研究開発プロジェクトの内容を設定するのではなく、年2〜3回の個別プロジェクトの公募により支援対象が決定される。対象分野を上記で説明した分野に限定することがトップダウン方式と呼ばれる所以であるが、我が国で一般に思われているトップダウン方式とは概念が異なり、むしろ「分野設定型の提案公募(ボトムアップ)方式」である点に注意を要する。
 フレームワーク計画では、後段で説明するように、個々のプロジェクトが小粒であり、ともするとテーマが発散しがちになるという問題点を有しており、政府がイニシアチブをとって大規模プロジェクトを推進することが比較的有効であったと考えられる80年代までは、フレームワーク方式が有効であったかどうかは議論があるところであろうが、現在の情報通信分野では、政府が研究開発内容を設定するのではなく、個々の研究者・企業の自由な発想を支援対象として反映させることが重要と考えられ、この点でISTプログラムの運営方式(政府側が重点分野を提示しつつ、その枠内で多様なテーマを支援対象とする)は、情報通信分野の特性に適合したものではないかと思う。



3.分析

 ISTプログラムに限らずフレームワーク計画におけるプロジェクトの実施状況が把握しにくいのは、正確な統計データが不足しがちなことが一因にあるのではないかと思う。ISTプログラムだけでも年に2〜3回行われる公募の準備、応募プロジェクトの審査、それを受けた契約作業など、事務局側のプログラム運営のための作業量は大きい。このため、そうした作業が次々と流れていく中で一定の時期を切り取って細かな統計データを整理することは容易ではないためである。応募プロジェクトが審査され、支援候補プロジェクトとしてランク付けされた後も、実際に助成がなされるのは、上位プロジェクトから契約手続きがなされ予算枠が許す範囲内までであり、下位にランクされたプロジェクトは助成がなされないことがある。従って、1回の公募に対して全体の採択プロジェクトが決定されるまでには、かなりの作業時間が必要となっている。実際、第1回公募(1999年6月締切)でランク付けされたプロジェクト総数は641件であるが、最終的に採択(契約が成立)されたプロジェクト数は558件であり、2000年3月末時点で契約を終えていたのはそのうち474件であった。
 このような状況であり、一般的にはなかなか一定時点での状況分析というのは難しいが、以下の解説では、IPPAレポート(Integrated Programme Portfolio Analysis,2000年5月)、欧州委員会の2000年度の研究活動報告書(2000年12月)を参考にした。IPPAレポートでは第1回公募で採択された558プロジェクトと第2回公募でランク付けされた249プロジェクトを、2000年度の研究活動報告書は2000年3月末の時点での契約済みプロジェクト(第1回公募採択プロジェクト)を対象としている。表3の予算配分より、これら初期2回の公募によるプロジェクトが、ISTプログラムの主要プロジェクトと考えられる。
 ただし、表4に示すように第1回公募の対象は研究開発プロジェクトが中心であったのに対し、第2回公募では付随措置の中のTake-up活動が大きな割合を占めることに留意を要する。Take-up活動は、研究開発プロジェクトで開発された技術の普及や利用を促進するものであり、市場導入試験(トライアル)、利用例におけるうちでも最良例の奨励促進、新製品の評価という方式により支援が行われる。補助率は100%だが、プロジェクト規模は一般的に小さい。



表4 第1回及び第2回公募における助成方式の内訳
table4

3.1 プロジェクト規模

 ユーレカ計画では、過去においてはJESSI計画、MEDEA計画、現在ではMEDEA+計画などの有名な大規模研究開発プロジェクトが存在しているが、フレームワーク計画では個別の有名な研究開発プロジェクト名は頭に浮かばない。そこで、ISTプログラム傘下のプロジェクトの規模について分析してみた。
 フレームワーク計画では、個別プロジェクトの公募の都度、各キー・アクションやその傘下のアクション・ラインの大まかな予算配分がなされている。この中で特定のアクション・ラインにおいて、他の平均的なプロジェクトに比べて数倍規模のプロジェクトが採用されるのは実際問題としてかなり難しいように考えられる。
 また、プロジェクトの実施期間も研究技術開発プロジェクトの場合、長いもので通常36ヶ月であり、フレームワーク計画の期間である足かけ5年を越えるものはない。これもプロジェクト規模が大きくならない要因の1つと考えられる。もっとも、現在の情報通信技術は非常に進展の速度が速く、従来のような多額の設備費を必要とするハードウェアを主体とする研究開発が中心ではないため、期間の短さは決してデメリットではないと思われる。
 表5に、2000年3月末までに契約が完了したプロジェクト(第1回公募採択プロジェクト)について、最も一般的で中心的な助成方式である「費用分担活動」の「研究技術開発プロジェクト」の規模に関するデータを示す。ISTプログラムにおける標準的な研究技術開発プロジェクトの規模は、助成金額が182万ユーロ(=約2億円)であり、補助率は原則50%であることから、これを単純に2倍すればプロジェクトの平均規模は364万ユーロ(=約4億円)に過ぎないいうことが分かる。しかも、これはプロジェクト実施に係る複数年間の値であり、また1プロジェクトへの平均参加者数は7〜8であるため、1参加者当たりの単年度毎の規模は更に小さな値となる。従って、ISTプログラムの各プロジェクトの規模は比較的小さく、我が国のリアル・ワールド・コンピューティング・プロジェクトといった大規模なものではなく、提案公募形式の個別プロジェクトのイメージに近いことが分かる。


表5 ISTプログラムにおける研究技術開発プロジェクトの規模
table5

 分野(アクション)別にもプロジェクト規模は若干異なり、KA1からKA3に対してKA4(重要な技術とインフラ)のプロジェクトの規模が大きく、一方で未来技術に関するプロジェクトの規模は比較的小さい。
 IPPA報告書では、プロジェクトの規模について、第1回公募と第2回公募の研究開発プロジェクトを通じて、助成規模はほぼ200万ユーロとだけ簡単に記されている。
 なお、実際の個別プロジェクトの規模については、ISTプログラムのホームページにおけるプロジェクト紹介の標準フォーマットには、プロジェクト・コストの項目がないため確認できない。また各アクション毎のホームページには、それぞれ独自のプロジェクト紹介が行われているが、プロジェクト・コストが記されているのは、FETにおける一部プロジェクトのみである。FETにおけるプロジェクトのうち、プロジェクト・コストを示しているものをみると、期間が36ヶ月で総コストが200万ユーロ以上のものは大きい部類に属するように思われる。


3.2 対象技術分野

 図2に第1回公募採択プロジェクト及び第2回公募ランキング・プロジェクトの技術分野別のプロジェクト数を示す。


2
図2 第1回及び第2回公募における技術分野別プロジェクト数

※1:”Call 1”は第1回公募、”Call 2”は第2回公募"
※2:以下は横軸の技術分野


1 ソフトウェア・エンジニアリング、ツール、パッケージ
2 ミドルウェアとインターオペラビリティ
3 知識エンジニアリングと情報管理
4 セキュリティ、同定技術、スマートカード
5 エージェント技術
6 グループウェア、ワークフロー
7 シミュレーション&CAD/CAM
8 仮想現実を含むヒューマン・インターフェース
9 UMTS(次世代携帯電話),ソフトウェア・ラジオ
10 GPS,GSM端末
11 ワイヤレス・アクセスOPN/ワイヤレスLAN
12 光ネットワーク、物理的アクセス・ネットワーク
13 ネットワーク管理
14 マルチメディア情報アクセス・ツール
15 部品設計と製造
16 半導体生産プロセス/設備/材料
17 マイクロシステム
18 マイクロ波デバイスとアンテナ
19 ディスプレイ

 図2から、特に次の3つの技術分野に属するプロジェクトが多いことが分かる。
  ◆ ソフトウェア・エンジニアリング、ツール、パッケージ
  ◆ 知識エンジニアリングと情報管理
  ◆ 仮想現実を含むヒューマン・インターフェース

 全体の30%ほどはこれら3つの技術分野のいずれかに関するプロジェクトである。この傾向は2回の公募を通じて共通している。なお、第1回公募と第2回公募を比べると、第1回公募では多かったネットワーク管理と半導体製造に関するプロジェクトが、Take-up活動の割合が多い第2回公募では少ないという特徴が現れている。


3.3 対象応用分野

 図3に第1回公募採択プロジェクト及び第2回公募ランキング・プロジェクトの応用分野別のプロジェクト数を示す。


3
図3 第1回及び第2回公募における応用分野別プロジェクト数

※1:”Call 1”は第1回公募、”Call 2”は第2回公募
※2:以下は横軸の応用分野

1 行政/非営利/公共セクター
2 ソフトウェア市場
3 金融・保険
4 製造
5 小売
6 サービス
7 身体障害者を含む健康保健
8 広告を含むメディア
9 教育
10 家電製品を含むエレクトロニクス産業
11 ネットワーク/サービス・オペレーター
12 通信機器・設備
13 航空宇宙
14 自動車業
15 建築、エンジニアリング、建設
16 交通輸送
17 エネルギー/環境
18 農業・食品セクター
19 繊維
20 家庭市場
21 観光

 図3から、次の3つの応用分野を対象にしたプロジェクトが多いことが分かる。なお、この分類において分類不可能であったプロジェクトは全体の12%であった。
  ◆ エレクトロニクス産業
  ◆ サービス
  ◆ 通信機器・設備

 これらに関するプロジェクトが全体の36%を占めている。ただし2回の公募の間ではかなり大きな違いがみられ、Take-up活動の割合が多い第2回公募では、行政/非営利/公共セクターに向けたプロジェクトが多かったことが特徴的である。
 プロジェクト開始からプロジェクト成果の市場化までに必要な時間の分布は以下の通りである。
  ◆ 3年以内:20%
  ◆ 3年〜5年:57%
  ◆ 5年〜10年:20%
  ◆ 10年以上:3%

 プロジェクト開始から5年以内に成果の市場化を目指すものが、全体の3/4以上を占めている。PIMレポート(IPPAレポートに先立つ1999年9月のレポート)では、5年〜10年ほどの中期目標のプロジェクトの不足を指摘しており、IPPAパネルは成果利用を10年以上先に据えた長期目標のプロジェクトの割合が低すぎるとしているが、情報通信分野は技術革新のスピードが速く、研究開発から商業化までの”距離”が短いため、これらの指摘が的を得たものかどうかは疑問であり、上記の分布は現在の情報通信技術としては当然の結果のように思われる。このあたりは、欧州委員会の官僚が、従来型の研究開発の観念から抜け切れていないようにも感じる。



4.ISTプログラムの課題

 ISTプログラムに対しては、多様なアプリケーションと多様な参加者が支援対象になっているという長所が認められている一方で、以下の課題が指摘されている。これらの多くは、フレームワーク計画全体についても言えることと考えられる。

(1)プロジェクトの規模

 フレームワーク計画のプロジェクトとして特に思い浮かぶプロジェクトがないように、ISTプログラムの個々のプロジェクトの規模は小さい。小生は、1件当たり4億円程度のプロジェクトでは、多様なソフトウェア開発への支援としては適当であっても、研究開発の種類の中には多額の資金が必要なハードウェア関係の研究開発もあるはずであり、プロジェクト規模の制約に問題点があるのではないかと考えていた。これは、小規模プロジェクトから巨大プロジェクトまで多様な規模のプロジェクトを有するユーレカ計画とは対照的である。実際、多額な資金が必要な次世代半導体の開発プロジェクトであるJESSI、MEDEA、MEDEA+はユーレカ計画の方で対応されている。
 想像した通り、フレームワーク計画においては、「フレームワーク計画のプロジェクト成果が、世界市場で一定のインパクトを与えるようになるには、プログラム内で特定の目的の研究開発が一定の規模を獲得できるような配慮が必要」という指摘がなされている。これは、必ずしも個々のプロジェクト規模の拡大を意味するものとは限らないが、ユーレカ計画においてJESSI計画終了前後に大型プロジェクトの立ち上げが難しくなった際、解決策となったのは、多数のサブ・プロジェクトを予定した「クラスター」を一つのプロジェクトとして認め、サブ・プロジェクトがすべて決定する前からユーレカのラベルを認定することであった。上記の指摘は、フレームワーク計画のプロジェクトとと言われても特に思い浮かぶプロジェクトがないような現状を意識して、プロジェクトのサブ・プロジェクト化からクラスターを作る流れのようにも思える。この問題は単なる規模の問題を越え、プログラムの優先分野の設定等にも関係してくると考えられる。規模の問題は現在、EUの研究開発戦略においてきわめて重要な検討につながっていることを指摘しておく。

(2)優先分野への重点化

 ISTAG(ISTプログラムの運営に関する有識者・専門家により構成されるアドバイザリー・グループ)は、第1回公募の後、優先分野のコンセプトとして”Ambient Intelligence”(自然に取り巻くインテリジェントな情報通信技術環境)を提示し、その後10個のキー・テクノロジー(Enabling technologies)を発表している。これについては次節で紹介するが、ビジョンやキー・テクノロジーの提示は、上記(1)のプロジェクトの規模の問題とも密接に関係していると考えられる。即ち、重点化領域の設定により、研究開発の取り組みを一定の領域に集中させ、クラスターとして一定の規模を確保することにもつながるためである。

(3)市場ニーズと技術シーズの調和

 情報通信分野では市場ニーズと技術シーズによる新しい可能性を調和させることが難しくなっていることが指摘されている。市場の動きは急速であり、例えば電子商取引の登場によってビジネス慣行などが変わり、そこからさらに新しいニーズが生まれるというように市場ニーズの変化は大きい。他方、技術の側でも、大きな技術進歩から思いがけない可能性をもたらすが、この両者がうまく出会うためには、技術領域と有望市場の間に一定の可能性のリンクを構築することが必要である。このためPIMレポートでは、第1回公募プロジェクトの技術分野と応用分野の相関関係を探ったりしている。
 ニーズとシーズのマッチングは、”言うや易し、行うは難し”の感はあるが、情報通信分野の研究開発における世界共通の特徴的課題であろう。

(4)中長期的視野でのプロジェクトの強化

 3.3後段で述べたように、ISTプログラムの研究開発プロジェクトの大部分が、成果の市場化までの時間を5年以内としている。このため、研究開発成果の市場化までの時間が5年以上の中長期的目標でのプロジェクトの強化の必要性が指摘されている。しかし、既に述べたように小生としては、技術開発から商業化までの”距離”が短く、技術革新のスピードが速い情報通信分野では、5年以内となるのは当然のことであり、やや本件に関する指摘は的が外れているように感じる。

(5)その他

 その他の課題として、多くのプロジェクト間での重複の排除、情報通信分野の市場の進展速度に対応するための公募回数の増加と審査の迅速化、新規参入者の参加の必要性等が指摘されている。



5.ISTキー・テクノロジー

 ISTAGは1999年9月、上記の課題を背景とし、ビジョン提示の形でISTプログラムの方向付けを行うため、ISTプログラムがターゲットとすべきキー・コンセプトとして”Ambient Intelligence”(自然に取り巻くインテリジェントな情報通信技術環境)を提示した。その後、ISTAGは検討作業を継続し、2000年5月に10個のキー・テクノロジー(Enabling technologies)を発表している。現在の2000年以降のプロジェクト公募については、このキー・テクノロジーに適合するように進められている。以下に、この10のキー・テクノロジーを紹介する。

◇ KET 1 ◇
組み込み型インテリジェンス:住環境、職業環境、移動環境、レジャー環境等において、アプリケーションの快適性、安全性及び機能性を向上させ固定/モバイルに共通利用できるネットワーク化された組み込み型システム(とソフトウェア)の開発及び利用。
◇ KET 2 ◇
ミドルウェアと分散システム:プラットフォーム間のインターオペラビリティ、相互の間での作業、オープン性、アプリケーションとサービスの統合を可能にする多層アーキテクチャー。これには、Javaやコブラのようなアーキテクチャーやコンポーネントをベースとしたソフトウェアの開発、新しい価値連鎖の発達を支援する企業や組織間を横断する敏捷かつ一体化されたプロセスを展開するビジネスを可能にする技術や方法論も含む。
◇ KET 3 ◇
IPモバイルとワイヤレス:モバイル電子商取引や電子労働などの分野における、モバイル/ワイヤレス・インターネット技術、IPv6の進展、次世代のノマドなIPソリューションなどのambient intelligenceの発展を支えるIP技術。
◇ KET 4 ◇
マルチ・ドメイン・ネットワーク・マネージメント:マルチ・ドメインにおけるサービスの質や透明性を確保するためのネットワーク資源やネットワーク統合に関する動的最適化。ワイヤレス、固定、モバイルといった各種機器間の相互接続が増加する中での動的ネットワーク管理、パラメーター自己設定ネットワーク、分散型ネットワーク管理などによるアプローチを含む。
◇ KET 5 ◇
ネットワーク・コアとネットワーク・アクセス:ネットワーク・インフラの統合、相互運用、インターオペラビリティ。ネットワーク(固定、モバイル、ワイヤレス)へのアクセスとそのコア、及び、統合広帯域ネットワーク技術を含む。
◇ KET 6 ◇
マイクロ・エレクトロニクスとオプト・エレクトロニクス:高速通信とよりよい接続性と移動性のためのマイクロ・エレクトロニクスとオプト・エレクトロニクス。情報通信端末、通信システム、ネットワークのためのチップレスの知的所有権をベースにした開発やSOC(systems-on-a-chip)の開発を含む。
◇ KET 7 ◇
信頼性:プライバシー、安全性、ユーザとサプライヤの権利をサポートする技術とアプリケーション、及び、技術とインフラの依存度、適応度、寿命を改善するツールと方法論。
◇ KET 8 ◇
メディア横断的コンテンツ: オンライン・サービス/技術と放送サービス/技術の統合や、娯楽、広告、出版、教育・訓練の分野におけるオーサリング・ツールやアプリケーションの統合等を含むコンテンツの生産と配信。コンテンツの文脈ベースでの検索やアクセスは、ambient intelligence環境での鍵の一つとなる。
◇ KET 9 ◇
マルチ・モード対応・適応型インターフェース:言語、動作、視覚触感、感情、拡大合成された仮想現実など、マルチ・モードの統合・利用を通じ、人、情報機器、情報サービス間のインターラクションを改善するための技術。チャレンジングな領域におけるインターフェースの個人対応や直感を含む。
◇ KET 10 ◇
多言語対話モード:ISTアプリケーションとサービスについての自然なインターラクションを可能にする会話・言語技術。文脈性さらには高度な意味論的情報分析、及び、言語横断的情報検索やカテゴリー化を含む。


6.第6次フレームワーク計画に向けて

 欧州委員会はすでに第6次フレームワーク計画(2002年〜2006年)の準備を開始しており、2001年2月、総予算175億ユーロとする計画の大枠に関する提案を行った。この予算は第5次フレームワーク計画に比べて17%の増加である。このイニシアティブの概要決定に際しては、欧州の大学や企業には、世界レベルの競争のためには十分な大きさに達していないプロジェクト規模、研究開発努力の分散、優れた科学者を引きつける魅力に欠けること(頭脳流出)などの欠点が指摘されていた。欧州委員会の提案では、第6次フレームワーク計画はこれらの問題に次の3つから対応するとしている。

  ◆ 欧州にとって鍵となる少数の優先分野への予算の集中
  ◆ 研究チームがネットワークの中で一層緊密に作業するための支援
  ◆ 研究者の流動性と世界レベルの研究のための場所としての欧州の魅力の改善

 また世界の他の地域に対して欧州の研究を開くための活動を重視することも特別に言及されている。
 第6次フレームワーク計画全体のキー・テクノロジーと優先研究分野としては次の7つが挙げられている。


健康のためのゲノミクスとバイオテクノロジー:最近のゲノム配列の解読によるブレークスルーを基に、治療困難であった重大疾患の解決に取り組むとともに、欧州のバイオインダストリーを強化する(20億ユーロ)。
情報社会技術:欧州産業を強化するとともに、知識立脚型社会の発達による恩恵を欧州市民が享受できるようにするためにキーとなる情報技術の開発を行う(36億ユーロ)。
ナノ・テクノロジー、インテリジェント材料、新生産手法:将来の知識・知能ベースの製品、サービス、製造プロセスのための先端技術からの恩恵を欧州産業に行き渡らせる(13億ユーロ)。
航空・宇宙:航空宇宙分野における欧州の先進性を維持するため最近の成功をさらに進めるとともに、安全性と環境保護に関して更なる向上を目指す(10億ユーロ)。
食料安全と健康リスク:安全で健康な食料品生産、食料と環境変化に関するリスクのコントロールに必要な科学的ベースを確立する(6億ユーロ)。
持続可能な発展と気候変動:欧州が持続可能な発展を実現し得るために必要な科学技術能力の強化と、気候変動を理解し制御するための国際的取り組みへの大きな貢献を目的とする(17億ユーロ))。
欧州社会における市民と統治:経済、政治、社会、人文科学の研究能力を動員して、欧州の異なる文化を通じた知識立脚型社会の出現による課題の理解と解決に取り組む(2億ユーロ)。

 これらの優先テーマに充てられる104億ユーロの他、漁業政策、交通・運輸とエネルギー政策、環境政策の特定の側面に関わるもの、及び、EUが取り組むその他の案件に関して欧州の政策決定を支援する研究に対し予算が充当される。
 また、中小企業、イノベーション、研究者の移動、加盟国のアクションのネットワーク化のためにも固有の措置が設けられる予定である。中小企業の研究開発促進については、第5次フレームワーク計画では全体予算の10%が中小企業の研究開発に使用されることが目標とされているが、第6次においては15%に目標が引き上げられる。イノベーションについては、研究成果を新しいビジネスや雇用に結びつけるため、知的所有権、ベンチャー・キャピタルへのアクセス、他の加盟国におけるパートナー探しの支援などが予定されている。研究者の流動性を促進する措置は、第5次フレームワーク計画において大きな成功を収めていると認識されており、第6次においては予算を倍増し、欧州内における研究者の移動・交流の活発化と、世界レベルの研究者を欧州に引き寄せることが目指される。
 フレームワーク計画の運営に関する改善としては、複数プロジェクトをまとめた統合プロジェクト(クラスター)や研究機関のネットワーク化により、プロジェクト数の縮小を通じた事務作業量の軽減が提案されている。こうしたクラスター・プロジェクトに関しては、長期研究開発プランの提案が求められており、上記に述べたISTプログラムの課題への対応として反映されている。またプロジェクト規模についても、プロジェクトの必要に応じたオーダーメードとなると言われており、規模の大きなプロジェクトの設置が狙われている。さらにフレームワーク計画の予算を、欧州にとって重要と判断される加盟国の研究開発プログラムに投入する措置の導入も提案されている。欧州委員会はこれらの措置提案が受け入れられれば、フレームワーク計画の予算に含まれる運営事務コストの削減提案を行うとしている。プロジェクトのクラスター化を通じた大型プロジェクトの可能性、プロジェクト数の削減、さらに加盟国の研究開発プログラムに対するフレームワーク計画予算の投入は、先行フレームワーク計画の準備過程で一部加盟国と欧州委員会から提案されてきたが、大国の研究開発に利されるのを恐れる小国の加盟国の反対などから全体の政治的合意が得られず実現されてこなかったものである。
 今後は今回の提案を基に2002年前半の最終合意を目標に作業が進められることになる。これまでの経緯から、総予算や運営ルールの修正については、今後まだ多くの紆余曲折が予想される。


U.CeBITを視察して

 欧州のIT分野最大の国際見本市であるCeBITが3月22日〜28日にドイツのハノーバー市で開催され、会期中に約83万人がCeBITを訪れた。ハノーバーはメッセ(見本市)で有名であり、会場は昨年ハノーバー万博が開催された場所でもある。会期中は、ハノーバーから半径100km以内の都市のホテルはすべて満室となったほどの一大イベントである。
 小生は初日にCeBITを視察した。26もの展示ホールに68ヶ国から8,015社/団体が出展した。会場は非常に広く、小生は1日かけて見て回ったが、それでもほとんど駆け足で”とりあえず一通りは見た”という感じであった。このような訳で、個別の出展内容については報告できるほど詳細な情報は持ち合わせていないが、全体としての雑感を3つ御報告する。

@ NTTドコモのiモードのブースは、大変な人気であった。他社のブースよりも明らかに多くの人をひきつけていた。同ブースでは、iモードの疑似体験ができたり、次世代携帯電話(W-CDMA)端末によるテレビ電話などの実演展示があったが、欧州ではWAP(我が国のiモードに相当)が思うように普及せず、また次世代携帯電話の普及も我が国から1年以上遅れそうな状況であり、NTTドコモのブースの人気は、モバイル・インターネットで先行する日本に対する欧州の関心の高さの現れであったように思う。

 携帯端末の展示では、アルカテル等の欧州系のメーカの製品より、日本企業のものの方が圧倒的に優れていたと思う。日本製では携帯電話のiモード・スクリーンがフルカラーで高精細なのに対し、欧州製のWAP端末は未だに白黒の従来型スクリーンである。細かな漢字を表示しなければならないという高い要求が日本製品の質を高めているような感がした。

A 台湾企業、韓国企業の進出が著しかった。台湾・韓国の企業の台頭は今に始まったことではないが、エーサー社のような”大手”ではなく、名前も知らないような企業が多く出展しており、これらの国の活力を感じた。実際、台湾からはドイツ以外の各国中で最大の522社が出展し、我が国よりも多い。
 日本人がこのような台湾・韓国の進出を見ると”おおー”という危機感みたいなものを感じるが、実は40年ほど前には欧米は日本の進出に対して同じような感覚を持ったのであろう。しかし、よく考えてみれば歴史は巡るものであり、この台湾・韓国もいつまでも新興勢力ではなく、また別の国が新たな新興勢力として現れてくるのであろう。歴史の流れを感じるようであった。このような中で我が国はどのようにして産業活力を維持していくべきなのであろうか。

B 軽い話題を1つ。裸眼で見える3次元立体テレビや、メガネ型のコンパクトなテレビ等の未来型AV製品の展示があった。これら自体は今年初めて登場したものではないが、近い将来、家庭のAV環境が大きく変化するのではないかと実感した。


V.産業動向

1.インターネット

<独:電力網利用インターネットが可能に>
 独連邦参議院は、電力網を利用したインターネット・アクセスを認める法令を採択した。独RWE(電力)などをはじめとする欧州の電力会社は、パワーラインと名付けられた本技術のテストを行なっており、今後年末までにサービスが開始される予定。

2.テレコミュニケーション

<欧州:携帯電話メーカ>
 欧州の携帯電話端末市場は、現在ノキア(フィンランド)が一人勝ちの様相を呈している。これに対し2位の米モトローラと3位のエリクソン(スウェーデン)はシェアを低下させた。ノキア以外では、独シーメンスがこの1年でシェアを伸ばした唯一のメーカである。

3.その他

<独:IT見本市のCeBITが開催>
 ドイツのハノーファー市で3月22日〜28日に、IT分野の国際見本市であるCeBITが開催された。世界68カ国から、コンピュータ、ICカード、電気通信機器、ソフトウェアなど8,015の企業・団体が出展した。ドイツ企業が約半数を占めたが、ドイツ以外からの出展では台湾が522でトップで、以下、米国(502)、英国(342)、スウェーデン(129)と続いた。

<仏:フランスにおけるITの経済効果>
 フランス銀行(中銀)は4月4日、情報通信分野の状況と経済波及効果に関する報告を発表した。中銀は、2001年にもIT分野が製造業の成長のけん引役を果たす見込みだと指摘している。
 この中で、2000年の実績として工業部門の売上高増加率(10%)の五分の一、同部門の設備投資増加率(6%)の二分の一が、ITにより達成されたとしている。IT関連企業の場合、増収率は25%、設備投資増加率は58%、従業員増加率は約10%にそれぞれ達している。
 2001年については、IT分野の増収率は15%に上り、工業部門全体の6.1%をはるかに上回り、従業員数増加率も6.3%と、工業部門全体の1.2%を大きく上回る見込みだ。ただし、IT分野における設備投資は、2000年に大幅増(50%超)を記録した反動で、12%の減少となる見通しだ。工業部門全体では、4%の設備投資増が見込まれている。

<欧州:ナスダック、EASDAQを買収>
 ナスダックは3月27日、EASDAQ(汎欧州新興店頭株式市場、本部ブリュッセル)を買収すると発表した。ナスダックはEASDAQ買収を欧州進出の第一段階と位置づけており、今後欧州の証券取引所統合で中心的役割を果たすと表明、このために他の欧州大陸の取引所と話し合いを始めるとしている。ただしナスダックは、昨年ロンドン証取とフランクフルト証取が合併した後の新取引所と提携しようと企てたものの、合併自体が失敗に終っており、EASDAQ買収は欧州進出のための次善の策との見方がなされている。
 一方EASDAQは欧州の他の新興株市場(ノイアー・マルクト、ヌーボー・マルシェ等)との競争で旗色が悪く、EASDAQ側にとってナスダックのオファーは渡りに船ということになる。今後EASDAQは「ナスダック・ヨーロッパ」と名称を変更し、ナスダックの世界網に組み入れられることになる。すでにナスダック・ジャパン、ナスダック・カナダが存在し、ナスダックは世界中で24時間開設している市場を作ることを目標にしている。


W.政策動向

<EU:”Go Digital”中小企業支援計画を発表>
 欧州委員会は、中小企業のオンライン化、電子商取引を支援するための新たなプロジェクトとして”Go Digital”計画を発表した。これは、eEurope計画の一環として実施されるものである。

<EU:情報社会における著作権保護に関する欧州指令を採択>
 「情報社会における著作権保護に関する欧州指令」が4月9日に採択された。



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