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パリ駐在員報告
 【 2002年4月号 】



 欧 州 動 向
   〜 フランスの経済力の源泉について 〜

 多くの点でフランスは欧州の中心である、と小生は思う。まず、政治的には、欧州の中ではフランスの力は強い。経済力、人口規模ではフランスよりも東西が合併したドイツの方が大きいが、2度の世界大戦以来の歴史的経緯からか、ドイツは自国が突出しないように気を使っているように感じられる。近年、ドイツはより自国の主張をするようになったように思うが、フランスの存在は無視できないようである。一方、英国については、欧州連合の一員ではあるがユーロ圏に入っていないことや、より米国との結びつきが強いことなど、英国と大陸側欧州はどこか一線を画した感がある。話題のレベルは極めて異なるが、実際のフランスでの生活感として、例えば家電製品や食料品を買った際に使用説明書や料理法の説明書きを見ると、一切英語表記はなく、仏・独・伊・西の4カ国語標記が基本で、時にはオランダ語やギリシア語が続くがそれでも英語表記はなく、欧州大陸では英国の“臭い”は感じられない。文化面においても、フランスは、中世以降の歴史的建造物、美術・芸術、素晴らしい食文化、ファッションに代表される現代文化等に優れ、フランス以外の欧州各国から同じ欧州人であるにも関わらずフランスに観光客がどっと押し寄せるのを見ると、色々な面でフランスはやはり欧州の中心なのかと感じてしまう。
 ところで、フランスには一見さして強い製造業があるように思えないが、なぜこのように繁栄しているのであろうか。IT分野をとっても、フランスは日本よりも弱い。この疑問は、フランスの駐在員に対して時々問われる質問の1つである。フランスは広大な平地による農業と、多くの観光収入があり、これらが経済の下支えになっているのではないか、おそらく日本同様の一般的な産業の他に日本とは異なる種類の産業が経済に大きく寄与しているのではないかと漠然と思ってきたのであるが、本当のところはどうなのであろうか。今回はIT分野とは直接関係ないが、このかねてよりの疑問についてレポートしてみたい。

 まず、議論の前提として、日仏両国の経済レベルを比較してみる。日本の名目GDPの値は大きいが、実際には日本の物価は高く、収入が若干高くても必ずしも生活レベルが高いとは言えない。このため、名目値ではなく購買力平価により補正した値で比較する。購買力平価による一人当たりのGDP(表1)は、フランスより日本の方が若干高いが、一方でフランス人は長期間のバカンスをとるため、年間実労働時間は日本人よりも少なく、日本の84.9%に過ぎない(表2)。


表1 購買力平価による一人当たりのGDP(1999年)
日 本 24,628ドル
フランス 22,067ドル
(出所:OECD)


表2 年間実労働時間(1999年)
日 本 1,840時間
フランス 1,562時間
(出所:OECD)


 そこで、仮にフランス人が日本人と同じ労働時間働いたとした場合の一人当たりのGDPを計算すると25,994ドルとなり、日本の24,628ドルと同レベル以上となる。フランスでは、ワークシェアリングが進んでいるということであるが、「フランスは本来日本と同レベルの経済力があるが、国民がプライベートの余暇を楽しむため、収入は若干減っても、より多くの休暇を得ることを選択している。」と見ることもできよう。日本のGDPの値は他の先進国より高く、日本は他国よりも繁栄しているのではないかと錯覚しがちであるが、日本のように、休暇は盆暮れの短期間しかなく、残業も多いという状況では、一人当たりのGDPの値は大きくなって当たり前なだけである。要するに、投入した単位労働時間当たりの労働生産性はフランスは日本と同レベルであり、以下において日仏両国は概ね同等の経済レベルにあるとの前提で両国を比較してよいと考えられる。
 やや脱線するが、フランス人(欧州人)の生活が優雅に感じられるのは、1ヶ月間の夏休みをとるといったバカンスの長さのためであろう。フランスでは、夏のバカンスの他にも、イースターやスキー休暇といった1週間単位の休暇を年に3回程度とるのが一般的である。日本では年次有給休暇は“とることができる”であるが、フランスでは実質上“とらなければならない”に極めて近い。有給休暇に関する法制度上では、日本と欧州には大きな違いはないが、制度適用の実態は大きく異なるのである。小生の事務所では、日本からの赴任者は日本流の休暇取得スタイル、かたや現地スタッフは欧州流の休暇取得スタイルであり、同じ人間であるのになぜこのように差があるのかと毎度思ってしまうが、彼らのプライベートな時間を思い切りエンジョイするというメリハリのある生活スタイルには、見習うべきものがあると感じる。日本も人生をより楽しみ得る社会に変わっていく必要があるのではないかと思う。

 以下では、フランスが日本よりも強い特徴的な産業を抽出し、両国を比較した。自動車産業などフランスが強い産業であっても、日本も同様に強い場合は対象外とした。各産業それぞれについて、その産業が経済に与えるインパクトの評価として、「当該産業の付加価値額の対GDP比率」と、「当該産業の生産額の対GDP比率」の2つを算出した。各産業が経済に与えるインパクトは、厳密には付加価値で測るべきであるが、一方で例えば缶詰食品製造業は缶詰の中身の食品加工という付加価値を創造することに加えて、缶詰の缶という中間生産物を製造する金属加工業にも波及効果を及ぼす。このため、インパクトを付加価値額の対GDP比率のみで測ることは過小評価しすぎである。他方、生産額の対GDP比率のみで測ることも、単純に各産業の値を合計すると、事業者間取引等により中間生産物を重複計算する場合があり、過大評価につながってしまう。このため、両比率を算出し、各産業の実際のインパクトはこの2つの値の間にあるものと考えた。
 なお、以下で使用するデータは極力1999年の値で統一するよう努めたが、データが入手できない場合は異なる年のデータを用いた。また、小生は経済分析の専門家ではないため、以下の分析に稚拙な点はあるかと思うが、この点はお許しいただきたい。


1.産業構造の概観

 GDPに占める農林水産業(第一次産業)、鉱工業(第二次産業)、サービス産業(第三次産業)の比率を比較してみた(表3)。
 フランスの農林水産業は日本よりも割合が高い。その差は1.51ポイントに過ぎないが、GDPに占める農林水産業の割合は各国とも低く、数字以上のインパクトがあるのかもしれない。(後述)
 鉱工業については、フランスは日本よりも10ポイントも低く、予想以上の低率である。フランスにはさして強い製造業があるように思えないと感じられることが、数字上でも裏付けられた感がある。
 サービス産業については、フランスの方が割合が高い。サービス産業の中で割合を押し上げている特徴的な産業を探してみたが、以下に述べる観光関連産業以外にはなるほどフランスらしいと思われる産業は見つからなかった。

表3 GDPに占める農林水産業、鉱工業、サービス産業の比率(1998年)
  農林水産業 鉱 工 業 サービス業
日 本 1.66% 34.55% 63.79%
フランス 3.17% 24.55% 72.28%
(出所:OECD)

(注)仏はSNA93に準拠、日本はSNA68に準拠

 農林水産業の対GDP比率の仏日の差は、数字上は意外と小さい。しかし、フランスでの生活実感からすると、フランスの生鮮食料品(一次産品)の価格は日本の半分近くであり(表4)、一方で工業製品の価格は日本と同等レベルであることを考えると、フランスではGDP統計上、農林水産業の付加価値の割合が日本よりも低めに表れるのかもしれない。また、フランスでは、定食屋(大衆レストラン)やクリーニングのような個人経営のサービス業の価格は日本の2〜3倍と高額であり、どの程度の影響があるのかは不明であるが、フランスのサービス業の割合が統計上日本よりも高く表れ、結果として農林水産業と鉱工業の割合を押し下げる要因の1つになっているのかもしれない。

表4 主要生鮮食料品の小売価格 (1998年、単位:ドル)
  人参1kg 馬鈴薯1kg 玉葱1kg 林檎1kg オレンジ1kg 牛肉1kg 豚肉1kg 牛乳1L
日 本 3.45 2.18 1.81 3.75 3.36 30.71 12.37 1.60
フランス 0.97 1.30 1.49 1.62 1.74 16.82 8.10 0.99
(出所:ILO)


2.各産業についての分析

(1)農業

 フランスはしばしば農業国であると言われる。パリ周辺でも、30kmも郊外に出れば広大な小麦畑が広がっている。ワイン原料のぶどう栽培や、チーズ等の乳製品に向けた酪農も盛んである。農産品(一次産品)と加工食品を合わせた食料品はフランスの重要な輸出品となっており、輸出高の10%以上を占めている。

表5 農業の付加価値額及び生産額の対GDP比率(1999年)
  付加価値額比率 生産額比率
日 本 1.09% 2.07%
フランス 2.77% 4.82%
仏日の差 1.68% 2.75%
(出所:INSEE、内閣府経済社会総合研究所のデータを元に算出)

 表5の統計上の仏日の差の値はそれほど大きくは感じられないかもしれないが、総合食糧自給率(供給熱量ベース)を見ると、日本は40%(1998年)に過ぎないのに対して、フランスは141%(1998年)であり、穀物(米・麦)に至っては200%を越えている。フランスは人間が生きていく上で不可欠な“食べる”ということに困らないわけである。
 参考までに、両国の食料品の輸出入の状況を表6に示す。日本は輸入が輸出を大きく上回っており、輸出入の差の対GDP比率は-0.81%となる。これは、日本では、仮に食料品の輸出収入の全てを輸入に充てたとしても、その他の産業分野で生み出された富をもって、GDPの1%近くを食料品の輸入に充てざるを得ないということを意味する。

表6 食料品の輸出入額(1998年) (単位:億ドル)
  輸 出 輸 入 (輸出−輸入)÷GDP
日 本 16.2 363.9 −0.81%
フランス 268.7 226.9 +0.30%
(出所:国連)

(2)食品産業

 豊かな農業と高い食文化に支えられたフランスの食品産業は、フランスの製造業で第1の産業になっている(表7)。EU15ヶ国の食品産業のうちでも、フランスは21.8%(1998年)のシェアを占め第1位である。

表7 フランスの食品産業と他の製造業の生産高の比較(1998年)(単位:10億FF)
食品産業 803
自動車産業 456
化学産業 470
電気・電子産業 370
機械産業 363
繊維産業 175
航空・宇宙産業 161
製薬業 99
(出所:ANIA(仏全国食品産業協会))

 フランスの食品産業は、ワイン生産、チーズ生産等の伝統的な活動から、ダノン・グループのような国際的な総合食品企業まで幅広い。表8に示すように、フランスの食品産業の生産高はGDPの10%近くに達している。しかし、意外と仏日間の差は小さい。考えてみれば、日本も高い食文化を誇る世界有数の国であり、スーパーマーケットにあふれる多様なブランドの食品を思い起こせば、日本も食品産業の発達した国の1つなのであろう。

表8 食品産業の付加価値額及び生産額の対GDP比率(1999年)
  付加価値額比率 生産額比率
日 本 2.81% 7.19%
フランス 2.73% 9.23%
仏日の差 −0.08% 2.04%
(出所:INSEE、内閣府経済社会総合研究所のデータを元に算出)

(3)観光関連産業

 フランスは、歴史的・文化的遺産という観光資源に恵まれていることに加え、南仏コート・ダズュール等に夏季の太陽を求めて南下するバカンス客や、アルプスやピレネーでの冬季のスキー客と欧州のバカンス観光を担う地の利にも恵まれ、観光関連産業が大きく発展している。パリには、年中外国人観光客があふれている。パリ以外の地方でも、ロワールの古城、プロヴァンスのローマ遺跡群、モンブランのあるアルプス地方、大西洋岸の名勝モン・サン・ミッシェル等々、国際的な観光地を数え上げればきりがない。また、ドイツ以北の北欧の人々は、夏季にフランスで長期滞在する。観光関連産業としては、交通、宿泊、飲食、レジャー施設等多岐にわたる。
 フランスは外国旅行者の受け入れ数で世界第1位、国際旅行収支の黒字幅でスペイン、アメリカ、イタリアに次ぎ世界第4位である。逆に、日本は国際旅行収支の赤字幅でドイツに次いで世界第2位である。


表9 観光関連産業の付加価値額及び売上高の対GDP比率(1999年)
  付加価値額比率 売上高比率
日 本 0.80% 1.60%
フランス 4.31% 8.62%
仏日の差 3.51% 7.02%
(出所:観光白書2001年版、Compte du tourisme 2001のデータを元に算出)

(注)売上高は、観光・兼観光消費。兼観光とは、業務、家事・帰省のついでに1泊以上付け加えて観光を行った場合をいう。日仏とも観光関連産業の付加価値額のデータが存在しないため、日仏とも全産業についての付加価値額/生産額の比率は約50%であることから、売上高の1/2を付加価値額と推計。


(4)航空宇宙産業

 航空機産業では旅客機市場で米ボーイング社とともに世界の2大航空機メーカの1つであるエアバス社、宇宙産業では衛星打ち上げ市場で世界市場の約半分を占めるアリアン・スペース社と、欧州の航空宇宙産業は米国に対抗しうる唯一の大勢力である。この中で、フランスは欧州の航空宇宙産業の中核である。エアバス社は英独仏西により構成されているが、航空機の主要部分の生産はフランスが担い、最終組立工場もフランス・トゥールーズにあるように、フランスが牽引している。アリアン・スペース社のアリアン・ロケットも、フランスのCNES(フランス国立宇宙研究センター)が技術的にリードして開発されたものであり、現在も打ち上げは南米フランス領ギアナから行われている。フランスの航空宇宙産業の生産額の対GDP比率は1.62%で、米国の1.64%(1999年)とほぼ同等であり、フランスのレベルの高さがお分かりいただけると思う。
 かたや日本の航空宇宙産業は非常に小さい。航空機産業は、例えば旅客機の場合、ボーイング社の航空機生産の一部を担当しているが、国産旅客機はかつてのYS11以来製造されていない。宇宙産業も、ロケットについてみれば、先頃価格競争力で他国にようやく太刀打ちできるH2Aロケットのテスト飛行に成功したばかりで、商業飛行には今暫く時間が必要であるように、現在の宇宙産業の規模は極めて小さい。


表10 航空宇宙産業の付加価値額及び生産額の対GDP比率(1999年)
  付加価値額比率 売上高比率
日 本 0.07% 0.28%
フランス 0.46% 1.62%
仏日の差 0.39% 1.34%
(出所:INSEE、GIFAS、(社)日本航空宇宙工業会のデータを元に算出)

(注)日本の付加価値額は、日本の生産額にフランスの航空宇宙産業の付加価値額/生産額の比率を乗じて推計。


(5)防衛産業(航空宇宙分野を除く)

 フランスは兵器輸出国であり、防衛産業はフランスが日本に比較して大きい産業の1つである。日本では武器輸出三原則により兵器の輸出は行われておらず、世界平和にとって素晴らしいことであるが、かたやフランスでは現実の問題として防衛産業が発達している。なお、防衛産業のうちかなりの部分を航空宇宙分野が占めるため、表11では航空宇宙分野以外の防衛産業のデータを示した。


表11 防衛産業の付加価値額及び生産額の対GDP比率(1999年)
  付加価値額比率 生産額比率
日 本 0.02% 0.04%
フランス 0.37% 0.74%
仏日の差 0.35% 0.70%
(出所:仏国防省、防衛庁、GIFAS、(社)日本航空宇宙工業会のデータを元に算出)

(注)航空宇宙分野を除く。フランスの航空宇宙分野以外の防衛産業の生産額は、全防衛産業生産額1,030億フラン(1999年)から、航空宇宙分野の防衛関連分26%(1999年)分を差し引いて算出。日本の防衛産業の生産額は、防衛庁資料に工業生産額の0.6%との記述があるため、第二次産業(建設業を除く)に0.6%を乗じて推計。この推計値から、日本の航空機産業の防衛依存度57%(1999年)分を差し引いて、日本の航空宇宙分野以外の防衛産業生産額を算出。付加価値額は、日仏とも生産額の1/2として推計。


(6)原子力関連産業

 フランスは、原子力最先進国である。70年代から核燃料サイクル技術の確立を目指した国策原子力計画を進めるとともに、石油ショック以降、石油依存度を減らし原子力発電を増強してきた。今日では、フランスの総発電量の76%(1999年)を原子力発電が占め、近隣諸国に電力を輸出するほどの原子力大国となっている。またこれに伴い、核燃料製造・再処理、原子炉製造等の原子力産業も発達している。日本の核燃料の再処理はフランスのコジェマ社が請け負っているが、プルトニウムの海上輸送で抗議行動が起こるのはこのためである。
 表12に、原子力産業及び原子力による電力輸出のGDPへの寄与度を示す。
 原子力産業については、当該産業全体を表す適当な統計項目がないことから、フランスでは「原子力産業、コークス化」と「ウラン採掘」の項目を抽出した。ただし、これには原子炉製造等は含まれていないようであるが、フランスの2大原子力関連企業であるコジェマ社(核燃料製造・再処理)、フラマトム社(原子炉製造)の売上高合計の対GDP比率は0.54%であり、前記統計項目の生産額の対GDP比率0.51%とほぼ同じ値であることから、本統計項目を使用した。
 原子力発電については、電源種別はともかく日仏とも自国需要分を100%自国で発電しているため、ここでは国内向けの原子力発電はGDPへの寄与分にカウントせず、フランスの電力輸出分についてのみ計上した。自国需要分もカウントすると数字上フランス側に圧倒的に有利になってしまうが、日本ではフランスの原子力発電に代わる代替措置があるわけであり、電源構成の違いすなわち原子力発電化率の差が経済力の差につながるとは考えられないためである。
 日本の原子力関連産業については、適当なデータが見あたらないが、電力輸出もないことから、フランスよりはるかに小さいと考えられる。


表12 原子力関連産業の付加価値額及び生産額の対GDP比率(1999年)
  付加価値額比率 生産額比率
フランス 0.39% 0.84%
(出所:INSEEのデータを元に算出)

(注)原子力産業については、フランスの国民経済統計から、「原子力産業、コークス化」と「ウラン採掘」の項目を抽出。原子力発電による電力輸出については、電力輸出額385億フラン(1999年)に原子力発電率76%(1999年)を乗じて算出し、付加価値額はこの1/2と推計。

 ちなみに、フランスでは原子力発電により、1999年には石油換算で8,000万トン/年、金額にして400億フランのエネルギー輸入を回避し、貿易収支の改善に貢献している(コジェマ社試算)。これは、GDPの0.45%に相当する。

(7)高級ファッション産業

 ルイ・ヴィトンのバッグ、エルメスのスカーフ、シャネルの香水・化粧品等のファッション関係の高級ブランド品は、フランスの特徴的な産業と言える。高級ファッション産業の経済的影響度は大きくはないが、やはりフランスを語る上で避けて通ることはできない。
 ここでは、ファッション産業全体ではなく、「高級」ファッション産業についてのみ評価することとした。これは、日本でも当然服飾産業等は存在するため、仏日の差の部分についてのみ着目することとしたためである。
 1999年に仏経済・財政・産業省が「数字で見るファッション産業」を発表している。この資料の高級ファッション産業の付加価値額と生産額の対GDP比率(表13)は、国民経済統計から算出した日仏のファッション産業の差(表14)に概ね一致しており、奇しくもファッション産業全体の仏日の差が、フランスの高級ファッション産業の部分に相当する形となっている。


表13 高級ファッション産業の付加価値額と生産額の対GDP比率(1997年)
  付加価値額比率 生産額比率
フランス 0.14% 0.45%
(出所:仏経済・財政・産業省の「数字で見るファッション産業」のデータを元に算出)

(注)衣料、靴・皮革、香水・化粧品、宝飾の各産業のうち、従業員20名以上の企業が調査対象。


表14 ファッション産業の付加価値額及び生産額の対GDP比率(1997年)
  付加価値額比率 生産額比率
日 本 0.78% 2.03%
フランス 0.86% 2.54%
仏日の差 0.08% 0.51%
(出所:INSEE、内閣府経済社会総合研究所のデータを元に算出)

(注)フランスは、国民経済統計から「衣料・毛皮」、「靴・皮革」、「石鹸・香水」の項目を抽出。数字で見るファッション産業の全ファッション産業(従業員20名以上)を対象にした値は、それぞれ0.72%、2.37%であり、本表のフランスの値は従業員20名未満の企業も含んだデータと考えて良いと思われる。日本は、国民経済統計から、フランスの項目に概ね対応すると思われる「織物・繊維」、「皮革・毛皮」、「身廻品」を抽出。


3.まとめ

 上記に解説したフランスの特徴的な産業の経済貢献度を表15にまとめた。ただし、食品産業はフランスの代表的な産業ではあるものの、意外と仏日の差が小さく特徴的とは言いにくいので、全体評価から除外した。


表15 フランスの特徴的な産業の経済貢献度
  付加価値額 生 産 額
  仏GDP比率 仏日の差 仏GDP比率 仏日の差
農業 2.77 1.68 4.82 2.75
観光関連産業 4.31 3.51 8.62 7.02
航空宇宙産業 0.46 0.39 1.62 1.34
防衛産業 0.37 0.35 0.74 0.70
原子力関連産業 0.39 0.39 0.84 0.84
高級ファッション産業 0.14 0.14 0.45 0.45
合計 8.44 6.46 17.09 13.10
(注)防衛産業は航空宇宙分野を除いた値。原子力関連産業には、国内供給向け原子力発電は含んでいない。日本の原子力関連産業と高級ファッション産業は、数字上は無視できる規模として仏日の差を設定。


 表15に示す6産業で、仏日間には付加価値額の対GDP比率で6.46%、生産額の対GDP比率で13.10%の差、すなわち概ね“GDPの約1割の経済力の格差”が生じている。

 それにしても、これら産業は日本にとっては真似をしたくてもできない、ある種特殊な産業ばかりだ。山がちで耕地面積の狭い日本では、フランスのように農業が発展することは期待できない。観光面においては、日本には近隣に観光客供給地となる先進国がなく、また極東の遠隔地にあっては欧米からの観光客の増加もなかなか期待できない。そもそも、熱帯並に蒸し暑い夏の日本に外国人観光客を期待するのは土台無理である。航空宇宙産業は、技術はあっても容易に参入できる分野ではないし、武器の輸出を行わない日本では防衛産業は国内需要分以上には発展しない。原子力は、技術・経験の蓄積が必要な分野で、わが国では近年事故やトラブルが続いたことによる国民の不信感もあり、地道な取り組みが必要である。また、海外との電力系統の連繋がなされていないわが国では、元々電力輸出も不可能である。高級ファッション産業は、パリ・コレやミラノ・コレクションといった言葉が表すように、フランスとせいぜいこれに続いてイタリアの独壇場である。我が国に比較して、フランスはこれら特殊な産業の分だけ、約1割の経済的な“ゲタ”を履いており、これがフランスの経済的繁栄の土台になっているように思う。
 “1割”、これはさして大きくはない数字に感じる方もいるかもしないが、実は大きいのではないか。数%の失業率で世の中は大問題化するものであり、こう考えれば1割のゲタというのは、如何に大きいかというのがお分かりいただけるのではないかと思う。
 特に、上位1,2位の農業と観光関連産業だけで、仏日の差は付加価値額ベースで5%強、生産額ベースで10%近くになっているが、これらは、さして研究開発投資を必要とするわけでもなく、安定的な収入源と言えよう。一方で日本が強い先端技術産業は、先進諸国との競争、韓国、台湾の追い上げなど、常に将来を見据えた投資を行っておかないと遅れてしまう性格のものであり、中長期的に見て決して安定的な産業とは言えない。
 フランスは、特殊な1割のゲタを履いた上で、あとは日本の産業と同じような一般的な産業で勝負できるわけである。今回の分析を通じて、日本は特殊産業のゲタを履いていない分、諸外国に比較して製造業を強化・発展させていく人一倍の努力が必要なのではないかと強く感じた。



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