
【 2002年10月号 】
T.ブロードバンドインフラを巡る最新動向
インターネットを快適に活用する上で、ブロードバンドインフラの整備は必要不可欠な条件である。コンテンツビジネスも、ブロードバンドの利用が一般化しないことには、本格的な立ち上がりは困難である。ブロードバンドインフラが早くに整備された国において様々なコンテンツビジネスが立ち上がり、それが後発の国に進出していく形態をとる可能性が高いように思われる。コンテンツビジネスの世界地図がブロードバンドインフラ整備状況によって相当程度左右されるのではないだろうか。
さて、最近注目されているブロードバンドインフラは、モバイル系ではUMTS、固定系ではDSLである。これらの最新の動向について報告する。
1.UMTS
UMTSについては、高額の免許料が通信事業者の経営に大きな影を落とし、サービスの円滑な開始が不安視されていたところであるが、この夏、ついにUMTSサービスの延期・撤退が相次いで発生し、不安が現実のものとなりつつある。
各国で起こったUMTSサービス延期・撤退の動きは、以下のとおりである。
■ ドイツ
独ヴォダフォンD2(英ヴォダフォン子会社)は8月8日、UMTSサービスの開始を当初予定の2002年秋から2003年初頭に延期すると発表した。
また、独モビルコム(フランス・テレコム系列)では、フランス・テレコムが9月12日の取締役会においてモビルコムへの支援打ち切りを決定したことから、倒産の可能性が高まっている。モビルコム経営陣はUMTS投資の放棄も含めた再生計画を模索している一方で、独政府は仏政府とフランス・テレコムに対してドイツでのUMTS事業への投資という義務を全うするよう訴えている。
■ スウェーデン
仏オレンジ(フランス・テレコム子会社)は8月6日、スウェーデンPTS(通信監督機関)に対し、UMTSサービスの開始を3年遅らせるよう申請した。PTSは秋に回答する予定である。
■ スペイン
西テレフォニカ・モビレス(西テレフォニカ子会社)は7月24日、スペイン以外(ドイツ、オーストリア、イタリア及びスイス)でのUMTS投資を全て凍結すると発表した。また、これにより生じる損失は48億3700万ユーロであるとしている。テレフォニカは、スペイン以外で所有するUMTS免許を売却する意向を示している。
■ フィンランド
フィンランドのソネラ(フィンランド政府が株式の過半数を保有)は7月25日、ドイツとイタリアにおけるUMTS投資を凍結すると発表した。ソネラは西テレフォニカと共同でドイツに子会社を設立し、UMTSサービスの前段階としてGSM及びGPRSによるサービスを開始したが、これが7か月で営業停止に陥っていた。フィンランド検事局は本件について現閣僚・元閣僚及び高級官僚に説明を求めている。
なお、フィンランド国内については、ソネラは8月30日、UMTS技術の立ち上がりが遅れていることから、2003年第T四半期にGSM/GPRSインフラとMMS(マルチ・メッセージ・サービス)端末を使った限定的なサービスを開始し、商用サービスは2003年中になると発表している。
通信事業各社は、もとより厳しい経営状況にあったところであるが、上記各社の2002年上半期の決算を見てみると(表1)、いずれも大きな純損失を計上している。テレフォニカ・モビレス及びソネラが赤字に転じたのは、いずれも国外でのUMTS投資の凍結に伴うコストによるものである。
表1 通信事業者の決算概要
(単位:百万ユーロ)

(出典)各社資料
こうした中で、通信事業者の中には他の通信事業者とUMTSインフラを共有することにより、コストを削減する動きが出てきた。ドイツ・テレコムと英mmO2(旧ブリティッシュ・テレコム・ワイヤレス)によるドイツ・英国での設備の共有に関し、EU委員会は9月10日、これに許可を出す旨発表した。欧州の通信の2大市場であるドイツと英国での設備共有が許可されたことは、他の通信事業者にとっても設備共有を前向きに考える追い風となるものと思われる。競争政策上は市場支配の強化につながる恐れも考えられるが、EU委員会がUMTSサービスを支援する意志を示したものと理解することもできよう。なお、ドイツ・テレコムとmmO2はこの設備共有により設備投資を最大30%削減できるとしており、またmmO2側はドイツで14億ユーロ、英国で6億ユーロのコスト削減が可能になるとしている。
2.DSL
固定系のブロードバンドにおいて、現時点でのラストワンマイルの主力はDSLとケーブルであろう。今回は、EU・米・日における両者の普及状況を整理するとともに、DSLにおけるLLU問題の動向について取り上げる。
(1)DSL及びケーブルの普及状況
ECTA(欧州競争電気通信協会)は8月12日、DSLの普及状況に関するデータを発表した。これを基に、DSLとケーブルの普及状況について見てみよう。(表2)
表2 ブロードバンドインフラの整備状況(2002年6月末)

(備考)オーストリア及びイタリアのDSL回線数は2002年3月末の数字。米国の数字は2001年12月
(出典)EUはECTA資料から、米国はFCC資料から、日本は総務省資料から、それぞれ作成
加入者回線のDSL導入率(加入者回線のうち、DSLが導入されているものの割合)で見ると、EU内ではベルギーが突出して高く、スウェーデン、デンマーク及びドイツがこれに続いている。EU・米・日では、日本はベルギーに次いで2位である。
人口1000人当たりのDSL回線数で見ると、スウェーデンが最も高く、ベルギー、ドイツの順となっており、日本は4位である。
逆にギリシャではDSL回線がなく、アイルランド及びポルトガルも極めて少ない。
DSL回線にケーブルを加えたもの、すなわち現状での固定系のブロードバンド接続形態のほぼ全体を占めるもので見ても、ベルギーとスウェーデンが他国を引き離している。米国はDSL回線はあまり多くないもののケーブルが多く、合わせてみると中位以上の位置にある。日本は米国よりもやや低い数字である。
表2の数字を、2002年2月末の数字と比較してみると、EUではDSL回線数が15.3%、ケーブルが23.5%の伸びとなっている。これは年率換算でDSL回線数が53.5%増、ケーブルが88.3%増に相当する。
(2)LLUを巡る動向
DSLというと必ず出てくるのは、既に加入者回線を保有している通信事業者が回線を公正に解放しないため、新規通信事業者が参入できないという問題、すなわちLLU(ローカルループアンバンドリング)の議論である。これを数字で見てみよう。(表3)
表3 加入者回線解放の状況(2002年6月末)

(出典)ECTA資料
スウェーデン、フィンランド、ドイツ及び英国では、9割以上の回線がLLUされたMDFに接続されており、これだけを見ると、これら4か国では新規通信事業者の参入チャンスは十分にあることになる。
しかし、DSL回線数で見ると、デンマーク及びフィンランド以外は、新規通信事業者によるDSL回線数の割合は1割にも満たず、既存通信事業者がDSL市場のほとんどを握っている状況となっている。
LLUが進みつつある中で何故新規通信事業者によるDSL回線数が増えないのか、当地のとある通信事業者に聞いてみたところ、既存通信事業者の要求する加入者回線使用料金が高すぎて、とてもビジネスとして太刀打ちできないとのことであった。
LLUに関しては、2002年12月18日に、EC規則「ローカルループのアンバンドルアクセス」が定められている。しかしながら既存事業者による対応が遅々として進まないことから、EU委員会は7月8日に既存通信事業者、新規通信事業者及び関係団体合わせて約20社・団体からヒアリングを実施した。新規通信事業者の主張に概ね共通しているポイントは、以下のとおりである。
- 既存通信事業者の提示する回線使用料の下では、新規通信事業者がISPに提示できる料金が、既存通信事業者のそれに比べて高くならざるを得ない。
- 回線使用料について、卸売価格と小売価格の関係が、既存通信事業者にとって有利な設定となっている。
- LLUが進まない一方で、既存通信事業者はDSLインフラを急速に構築しており、市場独占力が強まっている。
このヒアリングの場で、EU委員会のモンティ委員(競争政策担当)は、以下のように述べ、LLU推進に対する強い決意を示した。
- EUにおけるLLUの現状は、関係当局の努力にも関わらず、極めて失望的な水準にある。多くの国では、実験段階にすら到達していない。
- EU委員会にとってLLUは優先分野の1つであり、ローカルループへの効果的なアクセスを促進し、全てのプレイヤーにとって平等な市場となるよう、できることは全て実施する。
- EU委員会はこれまでアクセス権と価格の歪みに着目してきたが、近い将来、競争法やアンバンドリング規則の下、(子会社と他通信事業者の間の)差別問題にまで着目範囲を広げることもあり得る。
その後、EU委員会が関連する行動を起こしたという情報は確認されていないが、低水準にあるLLUが、EU委員会のイニシアチブの下、今後大きく進展することを期待したい。
(3)DSLサービスの価格
DSLの普及率については(1)で見たとおりであるが、普及に当たって大きな問題となるのはやはり価格であろう。また、(2)で見た新規通信事業者の参入障壁問題は、価格にも跳ね返ってくるものと考えられる。
そこでEUにおけるDSL価格の現状についてまとめてみた。DSLといっても方式、速度等のバリエーションがあり、どういった基準で取り上げるかは難しいところであるが、今回は以下の3つの理由からADSL方式で、下り速度500kbps程度のものをメインとして、整理を行った。
- ユーザ数が多いセグメントはホームユースと想定されること
- EU内の多くの事業者が下り速度500kbps程度のADSLをホームユース用として提供していること(1Mbps程度以上のものは、多くの事業者が事業所向けと位置付けている)
- 下り速度500kbps程度のADSLが、もっとも提供事業者が多いこと
EU内のADSLサービス事業者がいくつあるのか、またメジャープレイヤーが誰であるのかは必ずしも詳細には分からないが、比較的メジャーと考えられるところをまとめた結果を表4に示す。なお、下り速度500kbps程度のサービスが高価な場合には、参考として同256kbpsのサービスを併記した。
表4 ADSLサービス価格の例(2002年9月中旬現在)

(出典)各社資料から作成
(備考)1.デンマーク及び英国の事業者の価格については2002年9月18日の欧州中銀レートでユーロに換算し、()内に現地通貨額を記載した
2.価格の前に「*」印があるものはISPサービスなしの価格。他はISPサービスを含めた価格である
各事業社のサービス価格を円換算すると、4800円から6000円くらいが中心である。税込価格で記載しているので、日本の同種のサービスと単純に比較することは出来ないかも知れないが、それにしても日本に比べてかなり高い。
この中で、デンマークとスペインの例が興味深い。既存通信事業者(TDCインターネット及びテレフォニカ)に比べて、新規通信事業者(サイバーシティ及びテラ)の価格は1割強高いものとなっている。(2)で出てきた既存通信事業者の設定する回線使用料が高額なため、コスト的に不利であるという状況を端的に反映しているものと考えられる。オーストリアでは既存通信事業者(テレコム・オーストリア)の方が新規通信事業者(Inode)よりも高くなっているが、InodeのWebページによれば同社は独自のバックボーンを有している模様であり、それがコスト低減に寄与しているのかも知れない。
なお、フランス及びドイツにおいては、既存通信事業者(フランス・テレコム及びドイツ・テレコム)自身はISP業務を行っておらず、その子会社(ワナドゥー及びTオンライン)がISP事業者としてパッケージでADSL接続サービスを提供している。ワナドゥーの正確な利用者数は分からないものの50万人以上といわれており、またTオンラインのそれは122万人(2002年3月末現在。直前3か月で26万人増なので、同率で伸びているとすれば2002年6月末には155万人と予想される)である。表2のDSL回線数を見ると、この2社は国内DSL回線の過半数を押さえていることになる。
繰り返しになるが、LLUが早期に進展し、ADSLサービスの価格が低下することを期待したい。
(4)余談
小生はパリに赴任してからしばらくして、自宅にADSLを導入した。日本のインターネットラジオを流しっぱなしにしていることと、新聞社のWebに掲載されている多くのニュースを見ることで、日本の社会情勢などを知るには結構十分なように思える。日本との間でも無料でテレビ電話を楽しむことができ、動画コンテンツの販売もネット上で行われているので、国際電話事業者とレンタルビデオ事業者の将来が少々心配になってしまう。
U.産業動向
1.コンピュータ、インターネット
<欧:自動車メーカーの欧州Webサイト>
英国の調査機関オートメトリックスによると、仏ルノーのWebページは2002年第U四半期、8.8%の閲覧者シェアを占め、欧州11か国にある自動車メーカーのWebページのトップに立っている。ルノー・グループの電子商取引責任者によると、インターネットを利用する欧州ドライバー400万人のうち13%が同社のWebサイトを訪れている。ルノー・グループは世界に18のWebサイトを設け、自動車のモデル、色、オプション装備、エンジン・タイプなどを選んだり、購買ローンのシミュレーション、中古モデルの検索ができるようにしている。
なお、日本の自動車メーカーではトヨタが9位(シェア4.7%)、ホンダが11位(同3.8%、伊フィアットと同位)、日産が15位(同2.1%、伊フェラーリと同位)、富士重工が20位(同1.4%)にランクされている。
<欧:オンライン旅行販売>
オンラインの旅行販売(鉄道、旅客機、ホテル、レンタカー等)市場では現在、世界規模で大手業者への集約が進行中である。フランスに関するものとしては、トラベル・プライスが英ラストミニット・ドット・コムに、ヌーヴェル・フロティエールが独プロイザークに、アヴァス・ヴォワイヤージュが英トーマス・クックに、それぞれ買収されている。
欧州におけるインターネット上の旅行販売は年間60%の伸びとなっており、2001年の売上高は41億ユーロであった。仏市場は2001年は7億7500万ユーロの売上であったが、2004年には28億ユーロにまで増加が見込まれている。フランスにおいて最も利用が多いのは仏国鉄SNCFのサイトで、月に200万人の利用がある。
2.テレコミュニケーション
<仏:フランス・テレコムの経営危機>
仏フランス・テレコムは9月13日、2002年上半期の決算を発表した。売上高は225億ユーロ(前年同期比+10.0%)、営業利益は32億ユーロ(同+17.3%増)であったが、独モビルコムの償却等で多額の引当金を計上したため、純損失は122億ユーロ(前年同期は20億ユーロの純利益)となった。この結果、純負債額は697億ユーロに達し、同社のボン社長は株主に対して責任をとるため辞任した。
同社は自己資本が底をついたことから、新たな資金が必要な状況であり、筆頭株主である政府がその調達方法を検討している。仮に公的支援を行うとすればEU委員会の許可が必要であり、その場合にはEU委員会が企業再編を迫り、同社が解体に追い込まれる可能性もあるとの見方もある。
L.政策動向
<EU:「.eu」TLD管理団体の募集>
EU委員会は9月3日、「.eu」トップレベルドメイン(TLD)管理団体の募集を開始した。管理団体は非営利組織で、EU内の法規に基づいて設立され、本拠をEU内に置いていなければならない。公募の締切は10月25日で、その後、サービスの質、人的技術的資源、財政基盤、コンサルテーション力、(ICANN等に対する)代表力、ドメインネーム市場へのインパクト等の基準に基づき、選定が行われる。
<EU:データ保護>
電気通信分野におけるデータ保護に関するEUのフレームワーク決定草案に対し、英ステートウォッチ(EU市民の自由を守るために活動している組織)が強く反対している。ステートウォッチは、草案が電気通信網を介して伝送されたデータは全て12〜24か月保管する義務を課していることについて、私生活への重大な脅威をもたらすものと批判している。ステートウォッチによると、中央のデータバンクに集められたデータに対し、加盟国が一定の条件の下でアクセスできるようにされるという。現在のEU議長国であるデンマークは、誤解に基づく批判だとして、当面、拘束力が大きい新ルールが採択されることはないと説明している。しかし、最終合意のための草案があることは否定していない。
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