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パリ駐在員報告
 【 2002年12月号 】



 欧 州 動 向
   〜 2002年の欧州IT5大ニュース 〜


T.2002年の欧州IT5大ニュース

 今回は、今年1年間の総括として、IT分野についての2002年の欧州5大ニュースについて振り返ってみることにする。

1.eEurope2005行動計画決定
 eEurope2002行動計画を引き継ぎ、欧州大での情報社会政策を進めるに当たっての2005年末までの政策目標を示した「eEurope2005−全ての人のための情報社会」行動計画が、本年6月21〜22日にセビリアで開かれた欧州理事会で合意された。
 eEurope2002行動計画がインターネットの普及を主眼としていたのに対し、eEurope2005行動計画では、インターネットの経済活動での利用とそれによる新規市場の創出、コスト削減及び生産性の向上を主眼としている。具体的には以下の4項目を2005年までに実現するとしている。

  1. 現代的なオンラインサービス(電子政府、遠隔教育、遠隔医療)
  2. 活力あるeビジネス環境
  3. 競争的な価格でのブロードバンド接続の広範な提供
  4. 安全な情報インフラ
 時を同じくして、日本でも本年6月18日のIT戦略本部で「e-Japan重点計画−2002」が決定された。このe-Japan重点計画−2002では、以下の重点政策5分野に集中的に取り組むこととしている。
  1. 世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成
  2. 教育及び学習の振興並びに人材の育成
  3. 電子商取引等の促進
  4. 行政の情報化及び公共分野における情報通信技術の活用の推進
  5. 高度情報通信ネットワークの安全性及び信頼性の確保

 並べてみると、両者は基本的に同じ方向を目指していることが分かる。すなわち、ITを用いた経済社会の幅広いインフラの構築と、その利活用による豊かな国民生活・事業活動の実現である。また、両者とも政策項目それぞれについて、それを誰がいつまでに実施するかを明示している点で、非常に具体性のある計画となっている。残されたのは迅速な実行であり、計画の前倒し・深化も含め更なる積極的な取り組みを期待したい。

2.UMTS事業免許料高騰の後遺症
 2002年からのサービス開始に向けて、2000〜2001年にUMTSサービス事業者の選定が欧州各国で行われた。競売方式により事業者選定を行った国では落札価格が高騰したため、事業者の経営に影を落とすとともに、予定どおりの2002年のサービス開始が困難となるのではないか不安視されていた。残念なことに、この不安は現実のものとなってしまった。
 ノルウェーでは、スウェーデンのテレ2がUMTS免許を政府に返却した。これで、ノルウェーのUMTS事業者は当初の4社から、2社になった。
 スペインでは、西テレフォニカ・モビレスがスペイン以外(ドイツ、オーストリア、イタリア及びスイス)でのUMTS投資を全て凍結した。また、フィンランドのソネラはドイツとイタリアにおけるUMTS投資を凍結した。独でも独モビルコムがUMTS投資を凍結した。
 さらに、UMTSサービス開始時期の延期の動きも相次いだ。独では独ヴォダフォンD2がUMTSサービスの開始を2003年初頭に延期したほか、ドイツ・テレコムと英mmO2も2003年下半期に延期した。フィンランドではソネラが商用サービスを2003年に延期した。ポルトガルではオプティムスが2003年秋までの延期を通信当局に求めている。一方、スウェーデンでは仏オレンジが3年間の事業延期を通信当局に申請したが、拒否された。
 UMTS事業免許料はあまりに高額であった。最高は独の508億2200万ユーロ(対GDP比2.5%)、次いで英368億7800万ユーロ(同2.4%)、伊138億1500万ユーロ(同1.2%)である。この独の免許料は同国携帯電話サービス市場規模の3倍を超えるもので、免許料に加えUMTSの設備投資が必要であることを考えれば、事業者の体力をあまりにも超えるものである。結果として多額の債務を抱えることとなった欧州の代表的な移動体通信事業者の多くは今も格付けBBBの状態である。
 他方で、高額な事業免許料は、各国政府にとって一時的ではあるものの財政収支の改善に寄与した。慢性的な財政赤字に悩む独の場合、Eurostat(欧州委員会統計局)の分析によるとUMTS事業免許料収入がなければ2000年はGDP比1.3%の財政赤字になっていた計算であるが、実際には1.2%の黒字であった。
 ところで、主要電気通信事業者においても、業績の大幅な悪化が見られた社がある(表1)。独ドイツ・テレコムでは米ボイスストリーム(移動体通信)ののれん代償却費(180億ユーロ)、仏フランス・テレコムでは独モビルコムののれん代償却費(73億ユーロ)、西テレフォニカでは国外でのUMTS事業からの撤退に伴う引当金(47億ユーロ)が、それぞれ大きな要因となって、赤字を計上する結果となっている。

表1 欧州主要電気通信事業者の2002年1〜9月の業績(単位:億ユーロ)
表1
(出典)各社資料

3.ブロードバンド・インターネット普及と進まない加入者回線網自由化
 欧州でのブロードバンド・インターネットは本年、急速に普及が進んだ。DSLとケーブルを合わせたものをブロードバンド接続回線として、本年に入ってからの普及動向を見ると、表2のとおりになる。

表2 ブロードバンド接続回線数の推移(単位:万回線)
表2
(出典)EUはECTA資料、日本は総務省資料

 この伸び率がそのまま続くと仮定すると、既にEUにおけるブロードバンド接続回線数は1000万の大台に乗っており、2003年1月末には1200万回線を超える計算となる。
 他方で、加入者回線網の自由化については、2000年12月のEC規則で義務付けられたにも関わらず、DSL回線での新規事業者の参入・競争が一向に進まない状況が続いている。7月に欧州委員会が行った加入者回線網の自由化にかかるヒアリングでは、新規通信事業者の多くが、回線使用料が高すぎる上、既存通信事業者がDSLインフラを急速に整備し市場を独占していると主張した。同ヒアリングの場で欧州委員会のマリオ・モンティ委員(競争政策担当)は、「EUにおける加入者回線網自由化は、極めて失望的な水準にある。」と述べた。実際、ECTA(欧州競争電気通信協会)の資料によれば、本年1月に3%であった新規通信事業者によるDSL回線の割合は、本年9月も4%と僅かに上昇したに過ぎない。
 日本の例では、加入者回線網が自由化され、安価なサービスを提供する新規事業者が参入した結果、DSLサービスの価格が大幅に下落し、普及が加速した。小生の赴任地フランスでは、仏フリー(ISP)が自由化加入者回線を使った下り速度512kbpsのADSLサービスを月額29.99ユーロで開始し、仏ワナドゥー(仏フランス・テレコムの子会社)の同種のサービス(月額45.42ユーロ)に大きく差を付けたのを皮切りに、仏クラブ・アンテルネット(ISP、独Tオンライン傘下)が月額35ユーロのサービスを始めるなど、本年秋になって急に競争が始まったところである。しかし、日本とフランスの人口当たりブロードバンド回線数は既に2.5倍もの開きがある。少し時が遅かったのではなかろうか。

4.携帯電話の普及頭打ち、新たなサービスへ
 ここ数年、欧州では携帯電話の普及が一直線に進んできた。EU15か国では人口普及率が既に固定電話を超え、多くの国で8割前後に達したところであるが、本年になって、普及の頭打ちが数字の上でも明らかになった。
 英では2001年の終わりに世帯普及率が80%に達した後、本年は横這いで推移している。また、仏でも2001年終わりに人口普及率が62%に達し、本年は小数点以下の変動となっている。
 普及率の右上がりが望めなくなった現在、移動体通信事業者は、固定されたパイの中での加入者争奪か、加入者当たりの利用金額増加を狙わざるを得ない。魅力的なコンテンツを提供すれば、加入者と利用金額の両方の増加が期待できるのだが、移動体通信各社は財務状況が厳しく、巨額の投資は困難な状況にある。
 本年、日本発のiモードサービスが欧州で相次いで開始されたのは、GPRSベースの端末に既に日本で確立したプラットフォーム及びアプリケーションを移植することで、低いコストと短い時間で参入でき、多彩なコンテンツを提供できることが理由であろう。本年3月に独Eプラス(蘭KPNモバイルの子会社)がサービスを開始したのに続き、4月に蘭KPNモバイル、10月にベルギーのベース(蘭KPNモバイルの子会社)、11月に仏ブイグ・テレコム(仏移動体通信3位)がiモードサービスを開始した。独・蘭では2002年9月末までに14万2500のユーザーを獲得した。
 ところで、KPNモバイルがiモードサービス開始後に行った調査によれば、iモードユーザーの中心は20〜35歳で、ユーザーの78%がサービスに満足し、86%が知人に勧めたいと思っているとのことである。「文化の違う欧州でiモードが受け入れられるのか?」という見方もあるが、この調査結果や、独・蘭でのユーザー獲得状況を見る限りでは、iモードが受け入れられる素地はあるものと思われる。移動体通信事業各社が軒並み新商品を投入する年末商戦でのiモード端末の売れ行き如何が、来年の欧州でのiモード普及を占うこととなるものと見込まれ、注目される。

5.次期フレームワーク計画決定
 欧州議会及び欧州閣僚理事会は6月27日、EUの産業技術研究開発政策の中心をなすフレームワーク計画の第6次計画(2003〜2006年)を決定した。
 第6次計画は現在実施中の第5次計画(1998〜2002年)に続くものである。期間中の予算総額は175億ユーロで第5次計画の17%増(インフレ分を除いた実質ベースでは8.8%増)、EU15か国の政府予算合計(2001年)の約3.9%に当たる。予算のうち120億4500万ユーロが、次の7つの重点分野に割り当てられている。

  1. ライフサイエンス、ゲノム、バイオテクノロジー
  2. 情報社会技術
  3. ナノテクノロジー、ナノサイエンス
  4. 航空宇宙
  5. 食品の品質と安全
  6. 持続可能な成長、グローバルな変革、環境システム
  7. 知識ベース社会の市民と統治

 この中で情報社会技術には全体の30%に当たる36億2500万ユーロ(約4350億円)が割り当てられており、予算額的には最大の分野となっている。1年当たりにすると約1100億円となり、日本の情報通信分野の科学技術関係予算額1155億円(2002年度)と奇しくも同額である。しかし、欧州においてはフレームワーク計画以外にユーレカ計画等でも研究開発が行われており、情報通信分野の研究開発に対する政府の取り組みは日本よりも強力に推進されていると見なければならない。
 その後、欧州委員会は9月11日に「MORE RESEARCH FOR EUROPE Towards 3% of GDP」と題した文書を発表し、研究開発投資の拡大に向けた議論を開始した。欧州委員会のフィリップ・ビュスカン委員(研究開発担当)は、「科学技術への投資を増やすことが欧州の将来にとってカギである。明日の成長と雇用をもたらすイノベーションのために、もっと研究開発に投資することが必要だ。米国とEUの研究開発投資のギャップは拡大している。」として、研究開発投資拡大の必要性を訴えている。
 また、欧州委員会のエルッキ・アンテロ・リーカネン委員(企業・情報社会担当)は、11月4日に開かれたIST2002会議で「生産性と知識の競争:欧州はどこにいるのか?」と題するスピーチを、また同5日に開かれた欧州投資フォーラムで「欧州のIT投資を刺激するために」と題するスピーチを、それぞれ行っている。この2つのスピーチは表題こそ異なるものの本質的には同じ主張をしている。それは、「経済活性化のためにはイノベーションと起業が不可欠であり、そのための最も有効な手段はITの利活用である。ITの発展は他産業や社会へ波及効果が大きく、研究開発や人的・金銭的投資を重点的に行うことが必要だ」というものである。
 これを支える大きな柱がeEurope2005行動計画であり、第6次フレームワーク計画である。
 本年は欧州のIT分野における研究開発について、その重要性が再認識され、取り組みを新たにした年であったと言えるのではないだろうか。


U.産業動向

1.コンピュータ、インターネット
<仏:ソフトウェア及び情報サービス産業の見通し>
 ソフトウェア及び情報サービス産業の仏業界団体SYNTEC INFORMATIQUE(会員企業・グループ数480以上)は10月23日、仏における同市場の現状と見通しについて発表した。これによると、2001年には13%の成長であったものの、2002年は2〜5%の減少に転じ、総売上高は202〜209億ユーロになるものと予想している。また、2003年上半期については2002年下半期と同水準に止まり、急速な回復は望めないと見ている。

2.テレコミュニケーション
<仏:ヴォダフォン、セジェテル買収の動き>
 英ヴォダフォンは、仏セジェテル(仏通信2位)の株式を保有する仏ヴィヴァンディ(44%)、英ブリティッシュ・テレコム(26%)及び米SBC(15%)に対し、その株式の買収を提示した。ヴィヴァンディがこれを拒否したため、ヴォダフォンは12月10日を回答期限に、株式の買収を再度提案している。ヴィヴァンディはブリティッシュ・テレコム及びSBCが保有するセジェテル株式の先買権を有するが、その行使については未定である。仮にヴィヴァンディが先買権を行使せず、ヴォダフォンがブリティッシュ・テレコム及びSBCから株式を買収すれば、ヴォダフォンのセジェテルへの出資率は現在の15%から56%となり、セジェテルの経営権は実質的にヴォダフォンが取得することとなる。その場合、仏SFR(仏移動体通信2位、セジェテルの80%子会社、ヴォダフォンが20%株保有)の経営権もヴォダフォンが実質的に取得することとなり、ヴォダフォンは英独伊西に加え、仏での携帯電話事業を手にすることとなる。ヴィヴァンディは170億ユーロに上る債務の縮小のため出版部門の売却等を進めているが、セジェテルに係る態度は決定していない。


V.政策動向

<EU:共同体特許制度案、合意に達せず>
 11月14日に開かれたEU競争力理事会において、共同体特許制度案について議論されたものの、裁判管轄権の問題から合意に達せず、引き続き検討されることとなった。理事会終了後、欧州委員会のフレデリック・ボルケスタイン委員(域内市場担当)は、「リスボン特別欧州理事会で定めた期限を1年過ぎているにも関わらず、今日の理事会でこの極めて重要な案件に合意できなかったことにひどく失望した。」と遺憾の意を表明した。

<仏:ソフトウェア産業活性化の報告書>
 仏計画総局は10月17日、「ソフトウェア経済:フランスの活性化」と題する報告書を発表し、仏のソフトウェア産業の活力を強化するための方策を勧告した。現在、仏ソフトウェア産業の雇用者数は27万人、成長率は15%であるが、更なる活力を与えるために報告書は2つの方針を提案している。1つはイノベーションで、官民のR&Dの支援や、革新的なビジネスを行う者の保護、標準化等の推進を挙げている。もう1つは政府自身の取り組みであり、行政の近代化・サービス改善のためのソフトウェア購買が挙げられている。



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