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パリ駐在員報告
 【 2003年1月号 】



 欧州におけるeLearningの状況(その1)


T.欧州におけるeLearningの状況

1.はじめに

 2000年3月、eEurope2002行動計画の一部として、マルチメディアリソースやインターネットの利用と、これによる遠隔地間での通信により学習の質の向上を目指す「eLearningイニシアチブ」が欧州委員会から提案され、同年6月の教育担当閣僚理事会で支持が表明された。その後、2001年3月に同イニシアチブの下、実施手法を示した2001〜2004年の行動計画「eLearningアクションプラン」が欧州委員会から発表された。EUのeLearningへの取り組みは、このアクションプランに基づき進められている。
 今般、eLearningに関して、関係団体EIfEL(European Institute for E-Learning)、eLearningコンサルティング・インテグレーションを行っている企業BJI及びeLearningサービスを行っている企業Vektorから話を伺う機会を得た。先のアクションプランとの関係では、マルチメディアを活用した教育訓練へのアクセス促進のためのPROMETEUSパートナーシップ(アクションプランで位置付けられている)からも話を伺いたかったのだが、PROMETEUSにアプローチしたところ「むしろEIfELに話を聞いていただいた方がよい」とのことであった。聞くと、PROMETEUSのeLearning関係の実務は、EIfELがやっているということのようである。
 今回はEIfELについてお伝えし、次回BJI社及びVector社についてお伝えする。

2.EIfEL

 EIfELは2001年2月に設立された非営利団体で、欧州全体をカバー、eLearning実務者の専門性の発展に寄与することを目的としており、約300の会員から成る。
 eLearningの範疇について、EIfELは、WBT(Web Based Training)に代表される「学習」にとどまらず、ナレッジ・マネージメントに近い部分、すなわち「知識の共有」までも含むものとし、組織のパフォーマンスを向上させるためのソリューションであると位置付けている。
 また、eLearningを構成する要素として、技術、コンテンツ、サービスが挙げられるが、EIfELは、市場の中で技術の占める割合は低下しており、ラフな数字として技術が約2割、コンテンツが約2割、サービスが約5〜6割くらいであると見ている。一部にコンテンツの充実が重要課題だとする意見もあるが、コンテンツ作成に苦労した時代は既に終わっており、今やコンテンツは既存のリソースの活用で相当程度賄えるという。このため、eLearningにおける重要な要素は、「designer」から「decider」、つまりコンテンツ作成から的確な学習環境の決定へとシフトしてきているという。
 eLearningの大きな特徴の1つとして、教師や専門家と学習者が直接結ばれることにより、教師や専門家から学習者への一方通行ではない、いわば「ラーニングコミュニティ」が形成されることを挙げている。この観点からは、如何なるコミュニティを作るかというコンサルティング・サービスが重要であり、技術やコンテンツは別途外部から調達可能という意味ではプライオリティが下がる。EIfELは、eLearningに使うツールが仮にフリーになったとしても、コミュニティ作りをはじめとするサービスで稼ぐことができ、Linuxと同じビジネス形態が成立し得ると見ている。
 eLearningのもたらす効果として、EIfELは以下の3つを挙げている。

 @ 変革:知識から行動への変化と、バリューチェーンの変革が起こる
 A 説明責任:学習データにより教師、学習者の行動が証明される
 B 知識の共有:組織内の知識の共有が進む

 小生はBの結果として@が生じるものと思う。知識の偏在により生じていた価値が消滅し、知識を持って何を行うかというところに価値の中心が移るという意味である。また、Aは面白い効果であると思う。学習者のやる気や、教師の能力は、学習データから相当程度定量化されるであろうし、そのことから教育・訓練の質の向上を期待することもできるのではないだろうか。
 さて、eLearningからは少々離れるが、教育・訓練に関する欧州内での国ごとの事情として、EIfELは興味深い2つの話を挙げた。1つは生涯学習に関しては北欧及び英国で盛んであることが、Eurostat(欧州委員会統計局)の数字で示されているということ。もう1つはフランスでは企業に対して従業員の職業訓練の実施が義務付けられており、実施しなかった場合には総賃金の一定割合を税金として支払わなければならないことが職業訓練に対するインセンティヴスキームとして機能しているということである。
 まず、前者について、Eurostatのデータを確認してみよう。一見して北欧が高く、南欧が低いと分かる。(表1)

表1 生涯学習の受講率(2000年)
受講率受講率
EU15か国平均8%ドイツ5%
スウェーデン22%スペイン
デンマーク21%アイルランド
英国イタリア
フィンランド20%ルクセンブルグ
オランダ16%フランス3%
オーストリア8%ポルトガル
ベルギー7%ギリシャ1%
(注)
1.受講率とは、25〜64才の人口のうち、過去4週間以内に教育・訓練に参加した者の割合
2.オーストリア及びアイルランドのデータは1997年
(出典)「The social situation in the European Union 2002」(Eurostat)


 生涯学習の受講率が20%以上の4か国(スウェーデン、デンマーク、英国及びフィンランド)は、英国を別とすると、企業における電子商取引の利用率が高く(2002年9月号掲載の拙稿参照)、DSLとケーブルを合わせたブロードバンドの人口普及率も高い(同2002年10月号参照)。すなわち、企業・国民ともにIT利活用の素地が整っていると見ることができる。
 生涯学習においては、自宅で学習したい、不定期な空き時間を柔軟に活用したい、理解度に応じて進度を調整したいといったニーズが相当程度あるものと想定され、従前の教室形式の学習よりは、ITを活用した学習形式の方が適している場合も多いのではないかと考えられる。現時点で生涯学習の受講率が20%を超えている4か国では、英国を別として、IT利活用の素地も整備されていることから、生涯学習の場でeLearningが大きく普及する可能性を秘めているのではないかと小生は思う。
 さて、後者は1970年の全国労働協約に基づく、フランス独自の制度である。従業員に対する職業訓練の費用に係る部分だけ簡潔にまとめると、以下のようになる。

@従業員10人以上の企業
 前年度の総賃金の0.9%について、以下のいずれかに充てなければならない

 ・従業員の職業訓練又は職業能力検定の費用
 ・政府公認の徴収機関への支払
 ・公認訓練機関への援助 等々

A従業員10人未満の企業
 前年度の総賃金の0.15%又は0.25%を徴収機関に支払わなければならない。徴収された金は、使用者主導による従業員の職業訓練の財源として使用可能である。
 つまり、総賃金のある割合を従業員の職業訓練に使用しなければ、その分は税金等の形で支払うこととなってしまう。それならば自社の従業員の訓練に投資する方がよいと考えるのではないか、というインセンティブスキームである。BJI社によれば、本年からeLearningを用いた職業訓練も本制度の対象として扱われるようになったとのことである。
 日本では、一定の要件の下に職業訓練を行った際に事業主に対して助成金が給付される制度があるが、職業訓練を行わなくとも金銭的損失が発生するわけではないので、フランスの制度ほどにはインセンティブスキームとして機能しないのではないかと思われる。
 産業競争力強化の観点からは、職業訓練を行わなかった場合に税金等として徴収するだけでなく、漫然とした職業訓練についても徴収除外の対象とせず、企業戦略として職業訓練を活用する場合においてのみ徴収除外とするスキームなども考えられそうな気がするのだが、いかがであろうか。


U.産業動向

1.コンピュータ、インターネット

<仏:B2C市場、大幅に拡大>
 仏ACSEL(オンライン商業サービス協会)は11月14日、フランスのB2C市場動向調査の結果を発表した。これによると、2002年第3四半期のB2C取引利用者数は510万人、ネット利用者の31.4%に達した。また、ACSEL加盟ネット販売業者のうち大手13社を見ると、ネット取引件数は43%の増加(2002年第3四半期、対前年同期比)となった。
 なお、UNCTAD(国連貿易開発会議)が11月18日に発表した「電子商取引と発展」によれば、世界の電子商取引(B2B及びB2C)売上高の約42%を米国が、約25%を西欧が、約15%を日本が占めている。

2.テレコミュニケーション

<仏:フランス・テレコム再建計画発表>
 仏フランス・テレコムは12月5日、同社の再建計画「FT2005」を発表した。FT2005では700億ユーロに達する同社の債務を削減するため、2003年から2005年の3年間に150億ユーロのキャッシュフロー増加を図るとともに、150億ユーロの増資を行うとしている。
 キャッシュフローの増加は資産売却とコスト削減で賄うこととしている。資産売却に関しては、戦略的側面と財務的側面から判断していくとしている。コスト削減に関しては、主として仏国内固定電話部門(コスト削減全体に占める割合40〜45%)と移動体通信子会社オレンジ(同35〜45%)で実施するとしているが、注目される雇用に関しては2003年6月まで新規雇用を凍結するとしたのみで人員削減については言及していない。同社従業員約12万人のうち約10万人は、公務員であり、解雇できない。しかし、メール経済・財政・産業相が「将来、企業戦略上要求されるならば、フランス・テレコムへの国の出資が50%を切ることも想定される」と述べた(現在の国の出資率は56.4%)ことから、民営化、ひいては公務員資格に守られた従業員の雇用削減につながるとして、従業員の間に懸念が広がっている。
 150億ユーロの増資については、仏政府が90億ユーロ分参加することとなるが、仏政府は、企業に対する公的援助を制限しているEU競争規定との関係では問題ないとしている。一方、欧州委員会は12月12日、当該仏政府支援に係る調査を開始するか否かの決定には数週間かかると発表した。仮に調査が開始され、公的援助に当たると判断された場合には、フランス・テレコムはその返還を命ぜられる可能性がある。また、仏政府によるフランス・テレコムの増資に関して仏ブイグ・テレコム(通信)が欧州委員会に訴えを起こした模様であるが、ブイグ・テレコム及び欧州委員会競争総局ともに本件に関するコメントを拒否しているとの報道がある。

<仏:ヴィヴァンディ、セジェテルの経営権を掌握>
 仏ヴィヴァンディは12月3日の取締役会で、英ブリティッシュ・テレコムが保有する仏セジェテル(仏通信2位)の株式(26%)を40億ユーロで買収することを決定した。英ヴォダフォンがヴィヴァンディ、ブリティッシュ・テレコム及び米SBCが保有するセジェテル株式の買収を提示していたところであるが、今回の決定でヴィヴァンディの持株率が44%から70%となり、同社がセジェテルの経営権を掌握した。一方、ヴォダフォンはSBCの保有するセジェテル株(15%)を買収し、持株率を30%とした。ヴォダフォンのジェントCEOは「我々はセジェテルに対する企業戦略を持っているが、ヴィヴァンディは財務戦略しか示さない。銀行も、ヴィヴァンディの経営陣も、通信事業の専門家ではない。」と述べている。

<独:モビルコム救済策、合意>
 経営危機にある独モビルコムと、フランス・テレコム(モビルコムの28.5%株主)の10か月に渡る交渉は11月22日、ようやく合意に達した。合意ではフランス・テレコムが76億ユーロを支払うこととなっており、28.5%株式の買収額を合わせると、フランス・テレコムのモビルコムへの投資額は113億ユーロとなる。これと引き換えに、シュミット前モビルコムCEOとフランス・テレコムは、互いに告訴を行わないこととした。また、モビルコムはUMTS事業からの撤退を決定した。


V.政策動向

<EU:保健関連Webサイトの品質基準ガイドライン案>
 欧州委員会は12月9日、保健関連のWebサイトの品質基準に関するガイドライン案を発表した。ガイドライン案に関して、欧州委員会のリーカネン委員(企業・情報社会担当)は、「欧州には10万以上の保健関連Webサイトがあるが、提供されるサービスが高い品質基準を満たすことが不可欠である。我々の推奨する基準が欧州の産業界と利用者の双方に歓迎されると信じている。」と述べている。また、同バーン委員(保健・消費者保護担当)は、「確かで、意義があって、役に立つオンライン情報を、信用できない、あるいはインチキなものと区別する方法がカギである。今回の基準は、そのための第一歩である。」と述べている。
 ガイドライン案は、@透明性と公正性、A根拠、Bプライバシー、C最新性、D責任、Eアクセシビリティー、の6つの品質基準から構成されており、加盟国が保健関連Webサイトの品質保証措置を導入する際の手引きとすることを目的としている。双方向のWebサイトだけでなく、情報を提示するだけの単方向のWebサイトも対象としている。また、加盟国と国・地域の保健当局に対して、品質基準を導入するとともに、品質基準導入の方法についての情報交換を行うよう求めている。
 欧州委員会は、基準の導入についてeEurope2005行動計画の一環として監視することとしている。

<瑞:UMTS通信網の整備期限の延長を拒否>
 スウェーデンPTS(通信監督機関)は11月25日、ヴォダフォン・スウェーデン(英ヴォダフォン子会社)が申請していたUMTS通信網整備期限の2年延期を拒否した。ヴォダフォン・スウェーデンは延期申請の理由としてUMTSアンテナ設置に時間がかかるとしていたが、PTSは当初から分かっていたはずと説明している。なお、スウェーデンでは仏オレンジが本年9月、3年間の延期をPTSに拒否されている。



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