JEITA HOME


パリ駐在員報告
 【 2004年12月号 】



 仏における産業政策を巡る最新動向

  JEITAパリ駐在員 福田 賢一 (JETROパリ事務所)


T.産業政策に関する報告書

1.はじめに
現在、仏政府は産業の海外移転に歯止めをかけるための様々な対策を講じているが、それに合わせ、経済学者による報告書が発表されている。首相の諮問機関である経済分析評議会(CAE)は、11月15日、ラファラン首相に産業政策に関する2つの報告書を提出した。
今回提出された報告書のうちの一つは、「産業空洞化と海外移転」と題され、著者である経済学者のフォンタニェ氏(パリ第1大学)とトロレンツィ氏(パリ第10大学)は、この中で、企業の海外移転は「我々の経済の自然な現象」に過ぎず、仏の脅威となるのは産業空洞化であると指摘している。仏産業は、特にハイテク分野において過去10年間で急速に国際競争力を失いつつあり、政府がハイテク分野の育成に有効な産業政策を展開しない限りは、仏産業の低落傾向に歯止めはかからないと警告している。両氏の提案する行動指針は以下のとおりである。

  • 競争力中枢をよりわかりやすく定義し、国土開発整備委員会による入札を行う前に、既存のテクノポールで国際競争力を見込める所から3〜4箇所(クロール=グルノーブル、サクレー、トゥールーズ)指定する。

  • 競争力中枢内に、5年間、1年に1校の割合で科学技術大学を開校する。

  • EUにとって優先させるべき重要産業セクターのリスト作成を欧州理事会に求める。欧州法枠内での対象セクターの支援方法に関して、3人の企業者を集めたグループを作り(北欧の企業者を一人含ませる)、イニシアティブの提案を行う。

  • イノベーションの株式取引出資の規模を拡大するため、欧州でイノベーション株式市場を統合する。

  • 欧州レベルでのイノベーション技術の発掘・推進が可能な独立機関「欧州科学財団」を設置する。

  • 重要セクターにおいては、本社所在地は研究所の場所を決める際に戦略的な役割を担うことから、本社の移転については、産業委員長の諮問にかける。

  • 国境を越えた合併を監視する機関を創設し、EU法、企業法、財政法、税制法について幅広い考察を行う。


「R&D、出資と成長:EU内の仏の選択は?」と題されるもう一つの報告書は、経済学者のベトベズ氏(クレディ・アグリコル(仏銀行)会長の相談役)がまとめ、以下のような提案が行われた。

  • 健康、エネルギー経済、国土安全保障などのイノベーション分野において、中枢ごとに特化させ、構造化する国の大規模プロジェクト(安定成長協定の枠外とする)を立ち上げる。

  • 欧州R&Dの戦略諮問機関を新しく設置し、各国の政策を調整し、研究の優先課題を定義する。

  • ナスダック・ヨーロッパを作り、エンジェルビジネスが企業資本に参加しやすいようにする。その際、段階的な上場システムを導入する。

  • 「イノベーションへの投資共通基金」を柔軟化し、投資期間を2年から3年に延長する。

  • 仏版「スモールビジネス法」を適用し、中小企業がより一層公共市場に参入できるようにする。同様に、パイオニア企業については特許料を減額又は分割払いとし、全言語への翻訳義務をなくして欧州特許を簡素化する。

  • 仏中小企業については、研究減税措置を年間R&D費の15%まで引き上げる。また、「調整型又は市場導入型研究減税措置」(CIRM)を導入し、イノベーションに関心の高い顧客のパイオニア的購買意欲を促進する。

  • 企業及び個人に対し「研究財団」に投資する「選択型税」を導入し、その額を企業税及び財産連帯税の75%まで高める。

  • 企業が法人税の一部を、希望する研究室に投資することができるようにする。

  • 「研究を通じた産業上の研修協定」(CIFRE)を強化して、研究と産業のインターフェースを高める。

  • 研究者の待遇改善については、労働条件の簡素化、イノベーション収入からの賞与支給のメカニズム構築、企業創設に関する1999年法の改善などが挙げられる。

U.研究全国会議

10月28日と29日に「研究全国会議」が仏グルノーブル市で開催され、研究者、大学教授、企業関係者、主要政治家、関係大臣(財務・教育・研究)など約1000人が集まった。仏では今年のはじめに、公共部門の研究者達が予算制限やポスト削減への反対を訴えた大規模な抗議行動を実施していた。政府の公約に基づいて開かれた今回の会議では、抗議運動の中核メンバーが立ち上げた「イニシアチブと提案のための評議会」(CIP)が、数千人の研究関係者により国内各地で開かれてきた委員会の報告書を基に丹念に書き上げた「仏の研究システムを改善するための提案」が発表された。その内容は以下のとおりである。

  • 改善方法
    研究者の5つの社会使命(科学知識の向上、普及、社会経済分野における有効利用、職業教育、専門性)を果たすために、少なくとも、研究予算を最低5年間、毎年100万ユーロ増加させる。優先課題としては、多年次プロジェクト及び公務員の増加、研究職の不安定要因の削減が挙げられる。

  • 執行機関
    科学知識は「公財」であると認め、国はそれを推進する役目と保障する全責任を負う。「研究・高等教育・科学技術省」を作り、科学技術政策の執行を任せる。科学者と市民社会が参加する「高等科学諮問機関」を作り、研究政策についての国民の見解をまとめる。「研究技術者評価委員会」を設置し、定期的監査を行う。

  • 大学及び研究機関
    大学の役割を高めるためには大学運営の抜本的改革が必要である。研究機関の数と役割を見直す前に研究機関の相互調整に取り組むことが先決であり、「研究・高等教育中枢」を指定し、大学、公的研究、企業研究を地方レベルで結びつける。

  • 出資と評価
    管理メカニズムを簡潔化するための様々な対策を講じる(例えば、予算を事前に厳格に詰めるのではなく、執行後に評価することが上げられる)。予算や人事は、評価後、契約に基づき、4〜5年の期間で研究グループに割り当てる。国レベルでは、必ず評価を行い、国内及び海外の専門家に協力を依頼する。基礎補助金は各研究機関に与えられるが、独自の予算を持つ「科学プロジェクト財源委員会」にもプロジェクト支援ができるような権限を与える。

  • 人員
    「科学関連雇用のための多年次プラン」を作成し、若者が公共研究に集まるような努力を行う。博士号過程の学生や若い博士号取得者の待遇を改善し、博士号取得後「妥当な期間内」に「安定したポスト」に就けるようにする。研究者と教育者兼研究者の間の横滑り制度も充実させる。また、教育にかかる費用の削減により、若い講師が実のある研究に携わることができるようにする。

この提案書は、今回の会議で発表された後、11月9日に政府に上梓された。政府はこの提案内容を考慮し、2005年上半期中に具体策を盛り込んだ大綱法案を策定する方針である。


V.産業動向

<仏:高速インターネット接続契約大幅増>
 仏電気通信規制局(ART)は11月15日、2004年第U四半期の通信サービス市場の動向を発表した。インターネット接続契約数は約1,123万件で前年同期比13.7%の増加であったが、その内訳を見ると、高速インターネット接続契約数は約500万件となり、前年同期比104%と大幅に増加した。昨年第U四半期以降、高速インターネット接続サービス事業者の数が増加するとともに、価格の下落が進んだことが、契約数の大幅増につながったものと見られる。高速インターネット契約の内訳は、ADSLが約457万件で全体の91.5%を占めており、ケーブルは8.5%である。インターネット接続サービス事業者の売上は4億1,800万ユーロで前年同期比25.8%の増加であったが、部門別に見ると、高速インターネット接続部門が2億8,600万ユーロで前年同期比73.3%の大幅増となったのに対し、ダイヤルアップ接続部門は1億900万ユーロで前年同期比26.0%の減少となった。


W.政策動向

<EU:自動車用電気電子部品に係る指令が公布>
欧州委員会は11月16日、自動車用電気電子部品に係る指令を公布した。この指令は、自動車用電気電子部品の電磁環境適合性に係るもので、1972年に公布された指令を置き換えるものである。主な変更点は以下のとおりである。

  • アフターマーケット部品であり、安全上重大な機能に関係しないものについては、これまでの第三者認証から、製造者による自己認証とすることを可能にする。

  • 試験の規定や限界値については、国際的なハーモナイゼーション作業の結果を考慮する。

  • 国際無線障害特別委員会(CISPR)及び国際標準化機構(ISO)の最新の標準を採り入れる。これまでの指令で使われた時代遅れのイミュニティ及びエミッションの試験標準は置き換えられる。

  • 潜在的により危険な伝導エミッションに関する初めての規定を含める。

  • ブレーキ・バイ・ワイヤ、タイヤ空気圧監視システム、測距レーダーといった新技術については、安全に関係する機能や部品について、特段の配慮をする。

<仏:重要産業への外国企業の資本参加を事前許可制に>
仏議会は11月18日、国内重要産業の仏企業に外国企業が資本参加する場合に経済大臣の事前許可を義務付ける法改正を行った。重要部門への外資の投資については、これまでも経済省にこれを禁止する権限があったが、法文が不明確であるなどの理由から、実際にこれを適用することは困難であった。政令で重要産業が定められることとされているが、当地新聞報道によれば、省庁間会議で決定され、防衛、航空、エネルギー(特に原子力)、暗号、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、重要な情報を扱う情報システムが含まれている模様であるが、正確なところは不明である。



© JEITA,2004