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パリ駐在員報告
 【 2005年3月号 】



 欧州におけるIT研究開発政策の動向


はじめに

 欧州における研究開発政策は、フレームワーク計画(以下、「FP」)とユーレカ計画を柱として進められている。FPは1984年に開始され、現在は第6次FP(2002〜2006年。以下「FP6」)が進行中である。
 FP6の5年間の総予算額は175億ユーロで、政策実施予算を除いた113億ユーロが7つのプログラムに配分されている。IT分野のプログラムであるISTの配分額は36億2500万ユーロ(約5000億円)であり、プログラム全体の31%を占める最大分野である。FP6の前身であるFP5でも、ISTには36億ユーロが配分されており、IT分野を重視する欧州連合の姿勢が伺える。
 さて、欧州委員会は2005年1月、ISTの1999〜2003年の評価報告書を発表した。この報告書を基に、欧州におけるIT研究開発政策を見ていく。また、次期FP(FP7)に向けた動きを見ていく。


FP6におけるIST

 FP6全体の特徴は、以前よりも絞られた数のプロジェクトに予算を集中し、大規模化することにある。実際に以前の数倍以上(数百万ユーロ規模)のプロジェクトが立ち上げられている。
 FP6におけるISTでは、優先分野は以下のとおりである。かっこ内は現在進行中のプロジェクト数である。

  • 応用研究 (157)
  • 通信・コンピュータ・ソフトウェア技術 (87)
  • コンポーネント・ミクロシステム (58)
  • 知識・インターフェース (36)
  • 未来・最先端技術 (22)

 FP5と比較すると、技術の用途別に市民向けと企業向けに分けられていたものが、応用研究として1つにまとめられている。逆に、基盤技術・インフラ技術は、通信・コンピュータ・ソフトウェア技術と、コンポーネント・ミクロシステムの2つに分けられた。これらは、FP5に比べFP6が長期的な研究開発に重点を移していることを反映したものである。
 上記優先5分野の中に、合計26の重要研究開発項目(戦略的目的と呼ばれている)が定められており、プロジェクト公募はこれを基に行われている。戦略的目的別にプロジェクト数を見ると、欧州において取組の厚い分野と薄い分野が、それぞれどこであるかが分かる。具体的には、以下のとおりである。


【 取組の厚い分野 】
  • ネットワーク化されたビジネスと政府
  • eヘルス
  • モバイルユーザ及び労働者のためのアプリケーションとサービス
  • 第3世代以降のモバイル・ワイヤレス技術
  • ネットワーク化されたAVシステムと家庭内プラットフォーム
  • ミクロ/ナノ・システム

【 取組の薄い分野 】
  • リスク管理
  • 製品・サービスの開発エンジニアリング
  • ディスプレイ
  • 認識システム

 ISTは欧州委員会の中では情報社会総局が担当しており、同局がほぼ完全に運営・決定を握っている。これを反映して、同局職員の75%以上がISTに係る業務にあたっている。


FP6後半でのISTの変化

 ISTの後半の実施要領である「2005〜2006年度ワークプログラム」では、戦略的目的のうち、以下の3つを優先することとしている。

  • 無限小と無限大を求める。
    具体的にはナノ技術によるSoC、ブロードバンド通信とグリッド・コンピュータなど。

  • 他の技術領域と重なる領域を開拓する。
    具体的には、ミクロ/ナノ・システム、健康関連、認識システムなど。

  • 技術開発とサービスを緊密に連携させる。
    具体的にはモバイル通信や、ミクロ/ナノ・システムなど。

 また、同ワークプログラムでは、中小企業の参加に大きな注意を払うこととしている。ISTの最初の公募では、中小企業を1社でも含むプロジェクト提案は全体の25%しかなく、しかも採択されたプロジェクトで見ると、この割合は15%に過ぎない。FP5の下のISTでは実施プロジェクト全体の約3分の2に少なくとも1社の中小企業の参加があったことと比較すれば、中小企業の参加は極めて低下している。特に、研究開発の成果を製品やサービスに利用するローテク中小企業の参加の低下として現れているという。このため、ワークプログラムでは企業に対する財務条件の緩和等の措置を講じ、中小企業の参加率を大幅に引き上げることとしている。


FP7に向けた動き

 2007年から開始される予定の次期FP(FP7)については、2004年より準備作業が本格化し、同年6月に欧州委員会から「科学と技術、欧州の未来の鍵」と題する将来の研究開発政策のガイドラインを発表した。また、同年秋には優先テーマの選択に関して、研究界や産業界からヒアリングが実施された。欧州委員会はこれらをとりまとめて2005年初めにFP7の骨格を発表する予定である。(2月上旬時点で未発表。)
 ガイドラインでは、欧州連合が2010年までの戦略目標としている世界で最も活発な知識集約型経済の実現には、研究開発規模の拡大が重要であるとし、5つの項目(予算強化、計画実施の目標、欧州連合拡大への対応、優先テーマ、運営の効率化)について基本的な方向を示している。
 なお、予算強化に関して、欧州委員会は2004年2月に、欧州連合の次期予算(2007〜2013年)に関する基本提案を閣僚理事会及び欧州議会に行っている。これは、研究開発予算を現行の約2倍の年間約100億ユーロ規模に強化することを提案している。欧州連合は2010年までに研究開発費をGDP比3%まで引き上げることを目標としており、そのうちの1%が政府予算、2%が民間ということで政治的合意が成立している。


FP7におけるIST

 情報社会総局は2004年9月、「協力を通じた競争力強化」と題する文書により、上記ガイドラインに対する見解を示している。
 同文書は、ITの経済発展への貢献、市民生活の改善、他の研究開発分野に対する基盤性等を説明した後、研究開発規模の拡大の必要性を指摘している。また、ITに係る最近の動向として、以下の2点を指摘している。

  • 複雑化:
    横断的な成果やノウハウの活用が必要で、一企業あるいは一国が技術チェーン全てを有することは少ない。故に、複数の企業・研究所が協力して、初めて世界レベルの競争に太刀打ちできる。

  • 技術、製品及びサービス間の相互依存の増大:
    製品やサービスに予め技術的解決策が盛り込まれていることが重要。また、市場は複数国にまたがるのが普通である。故に、研究開発が当初から国際協力の下で行われることが成果の実用化を助けるとともに、標準の設定にも有用である。
さらに、FP7におけるISTの活動分野として、次の6分野を提案している。
  • 複雑さ、拡張性、パフォーマンス限界の向上についての理解:
    10億ゲートのSoC、ネットワークとコンピュータシステムの収斂、認知システム等。

  • 他の科学技術分野との交配の加速:
    ナノテク、メタ材料、バイオコンピューティング、認知システム、神経科学等。

  • インテリジェントな環境の実現:
    システムデザイン手法、行動のモデル化とシミュレーション、再構成性と依存性等。

  • 多くのアプリケーション領域でのITを利用したイノベーションの促進:
    企業内での利用(設計、流通、仮想企業等)、健康、安全等。

  • 新しい研究や知識のインフラの支援:
    研究ネットワーク網の整備・強化、研究施設の共同利用の促進等。

  • 国際研究協力の促進:分野ごとに特定の活動に絞った国際協力の実施。



©JEITA,2005