パリ駐在員報告


2005年(平成17年)報告書

「欧州におけるIT活用に関する調査研究報告書」


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【 要約 】

 欧州連合(EU)が現在直面している歴史的課題は、近代以降享受してきた世界における先進地域という地位を長期的に維持可能かという点である。欧州は世界の政治経済に対する影響力についてトップの座を米国に譲ってから久しいが、それでも欧米というように併称され、欧州は世界の先進地域であり続けてきた。しかし21世紀の初頭、大きな技術革新能力や自己更新能力を発揮する米国との差が拡大する一方、膨大な経済成長の可能性を秘めた中国やインドなどの追い上げにより、欧州のリーダーたちは自らの先進地域の地位が長期的に脅かされる危険をはっきり意識し始めた。
 EUが現在掲げている経済社会上の最大の目標は、通称「リスボン戦略」で示された2010年時点で世界で最も活発な知識立脚型経済社会となることである。戦略の柱は、「情報社会と研究開発に関する政策」、「競争力とイノベーションを促進する構造改革」、「域内市場統合の完成」の3点を通じ、知識立脚型の経済社会への移行を準備することとされ、平行して、高福祉型欧州社会の長所の維持、経済成長の持続可能性の追求を目指している。
 この中で、情報社会化の支えとなるITが、研究開発及び利用拡大政策の双方できわめて重視されるのは明白である。これを反映して、EUのIT政策の基本目標は、EUの企業、政府及び市民が、世界レベルで進行する知識情報立脚型経済の形成において主導的な役割を担うこととされている。
 EUは、2010年への中間点を前に2004年にリスボン戦略の進捗に関する評価を行った。評価によれば、現状ではリスボン戦略の達成は困難とし、知識立脚型経済社会の実現には一層の構造改革と研究開発努力の強化が必要とした。リスボン戦略の目標自体は維持しつつも、その達成にはより具体的な成果(特に研究開発投資(対GDP比3%に引き上げ)、経済成長率、雇用創造など)が必要とした。この中間評価を受け、EUはリスボン戦略の見直しを行い、2005年春のEUサミットで「成長と雇用:リスボン戦略のための新たなスタート」を承認した。

 このようなEUの社会経済政策の状況を踏まえ、本調査ではEUが進めるIT政策、技術開発政策について、その概要を調査、分析を行った。

1.eEurope及びi2010計画
 EUのIT政策における優先課題を特定し総合的に実施するためのeEuropeは、リスボン戦略の目標(2010年までにEUを世界でももっとも活発な知識立脚型経済社会とすること)を達成するための柱の1つとして開始された。第1期計画eEurope2002(2000-2002)、eEurope+(2002-2004)に続き、2005年末まで2期計画eEurope2005(2003-2005)が実施された。
 2005年6月、EUはリスボン戦略の見直しも踏まえ、これまでのeEuropeに代わる「i2010(情報社会2010)」行動計画を発表した。eEurope2002がハード(インターネット)の普及、eEurope2005がサービスやコンテンツも重視したインターネットの利用拡大を目指していたのに対し、i2010では2010年までの5カ年の行動計画として、情報社会と音声・映像分野における総合的なアプローチをとっている。
 i2010は、次の3つを優先テーマとし、それぞれのテーマ毎に全体目標と具体的な行動アジェンダを設置している。

  • 情報社会とメディアに関するオープンかつ競争力のある域内市場を促進する単一市場の完成(単一欧州情報空間)

  • 成長拡大と質の良い雇用のために、情報通信技術における研究開発投資とイノベーションの強化

  • 持続可能な経済発展と整合的であり、かつ公共サービスと質の高い生活を優先する成長と雇用創造を促進する包括的な欧州情報社会の達成  IT政策においても、情報社会技術の利用拡大を通じた知識集約型社会の実現という側面だけでなく、経済成長や雇用創設に直結する側面が強調されている。

2.2005年における法令の制定、改正等の動き
 2005年には、電子通信法規制フレームワーク指令パッケージ、無線周波数帯域関連、知的所有権関連、国境のないテレビジョン指令修正指令案、一般向け電子通信サービス提供における処理データの保存に関する指令案等について、法令の制定、改正等の動きがあった。

3.技術開発政策の動向
 EUの技術開発政策の中心となるのはフレームワーク計画である。フレームワーク計画は、欧州委員会が提示する研究開発計画に従って、募集されるプロジェクトをEU予算助成の下で実施する仕組みである。IT分野はフレームワーク計画の中心的なテーマである。
2002年に開始された第6次フレームワーク計画が2006年で終了することを受け、欧州委員会は第7次計画の骨子を定めた欧州委員会原案を2005年4月に発表した。情報通信技術分野(ICTプログラム)は引き続き重要な位置を占めている。第7次計画は、この原案に基づき、欧州委員会は欧州議会とメンバー国を代表する閣僚理事会の意見を踏まえて策定される。
 もう一つの欧州レベルの研究開発計画としてユーレカ計画がある。これはEU諸国政府が官民共同出資による国際共同研究開発プロジェクトを立ち上げるスキームである。


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