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(IS-09-情シ-5)   平成20年度ソリューションサービスに関する調査報告書
SLA適用領域の拡大に関する調査報告書


−エグゼクティブサマリー−


本委員会は、ソリューションサービス分野におけるビジネス環境の調査・検討、開発、提言、普及を目的として、ITサービスの利用者と提供者が共通認識をもちながら品質・コスト・リスクのバランスをとっていくことの重要性がますます高まっていくとの認識の下、SLA/SLMを中核テーマとして調査・研究活動を行っている。ITサービスの機能や範囲、品質、性能などを「見える化」し、コスト及びリスクとサービス品質との適正なバランスをとるためのツールとしてSLAを位置づけ、「民間向けITシステムのSLAガイドライン」(以下、「SLAガイドライン」と称す。)として出版し、SLAの普及に努めてきた。

2008年度は、2007年度から取り組んできた「ソフトウェア開発におけるSLAの活用」のさらなる検討として開発プロセスと運用・保守プロセスの連係評価指標の検討を行った。さらに、現在世界レベルの緊急課題である地球温暖化問題対策の一環としてのグリーンITへSLAを適用することを試みた。


1. ソフトウェア開発におけるSLAの活用

ITサービスの品質向上を目指す場合、ITシステムのライフサイクルにおける上流工程である「システム企画・開発」プロセスでのサービス品質が、下流である「システム運用・保守」プロセスのサービス品質に大きく影響するので、「システム企画・開発」プロセスでのサービス品質向上についても検討が必要である。

しかしながら、プロセス単位でのサービス品質向上活動では限界があり、「システム運用・保守」プロセスでの品質課題を、上流である「システム企画・開発」プロセスへフィードバックするPDCAサイクルをまわすことにより、ITシステムのライフサイクルを通したITサービス全体の品質向上が図れると考えた。

そこで、本委員会では、SLAの検討領域を「システム運用・保守」プロセスから「システム企画・開発」プロセスまで広げ、サービス品質の評価指標としてのSLAの活用ならびにSLMの適用について検討を行うことにした。


(1) 検討の主旨
本検討では、ITシステムのライフサイクル全体へのSLA/SLMの適用を視野におくが、まずは「システム開発」プロセスにおけるSLA/SLMの適用について検討した。また、「システム開発」プロセスのSLA/SLMを検討する上で、後続のプロセスである「システム運用・保守」プロセスのSLA/SLMへの連係を意識し、2つのプロセスが連動し、お互いのSLA/SLMがつながるような仕組みの実現を目指し検討した。

図1-1 ITシステムのライフサイクルにおける検討対象
図1-1 ITシステムのライフサイクルにおける検討対象


なお、システム開発において、システムの品質に一番影響を与えるのはソフトウェアであること、ならびに「ハードウェア」、「ネットワーク等の設備」に関しては、設計・設定はあるが、通常それらの開発までは含まないため継続した品質改善活動の必要性が低いことから、SLA/SLMの適用領域は「ソフトウェア開発」とした。

(2) 検討の内容
@システムライフサイクルの選定
ITシステムのライフサイクルは、「共通フレーム2007」および平成19年4月に経済産業省が発表した「情報システムの信頼性向上のための取引慣行・契約に関する研究会」〜情報システム・モデル取引・契約書〜(受託開発(一部企画を含む)、保守運用)〈第一版〉」(以下、「信頼性向上モデル契約」と称す。)のシステムライフサイクルを基にする(図1-2 参照)。

図1-2 システムライフサイクルとSLA/SLM適用範囲の対応
図1-2 システムライフサイクルとSLA/SLM適用範囲の対応


A品質評価指標の考え方
ソフトウェア開発における品質評価指標をサービスレベル項目(以下、SLOと称す。)とするにあたり、品質評価指標の性質を基に、以下3つの視点から検討した。
  • プロダクト
      ソフトウェアのプロダクト品質のうち、内部品質・外部品質を対象にした。
  • プロセス
      開発プロセスを進める上でのプロジェクトマネージメントを含むプロセス品質である。
  • リソース
      ソフトウェア開発におけるリソースとして、開発要員、組織の能力に着目する。

この3つの視点をソフトウェア開発におけるSLA要素とし、既存の指標の整理を行った。

B開発・運用プロセス連係評価指標の考え方
連係評価指標の検討を進めるにあたり、評価指標の利用シーンとして、ソフトウェア開発サービスの提供者とIT運用サービスの提供者および利用者が「導入・受入支援」、「運用テスト」を行う場合を想定している。
「開発」プロセスから「システム運用・保守」プロセスへの連係評価においては、ソフトウェア開発サービスにおいて取り決めたSLOで運用・保守に関連する項目を選択しそれをもとに評価を行うことが基本である。それを踏まえた上で、運用・保守を行う観点から、追加の評価指標として連係評価指標を検討した。


図1-3 連係評価指標の考え方
図1-3 連係評価指標の考え方


(3) 本検討の期待効果
ITシステムのライフサイクル全般を通したSLA/SLMを適用することにより、以下の効果が期待できる。
  • システム開発においてSLAを適用することにより、ITサービスの利用者と提供者間で、客観的な指標に基づく合意が図られ、サービス品質の可視化が実現できる。

  • SLAの適用によりSLMの運用が行われ、それによりシステム開発プロセスにおいて、利用者によるサービス品質のコントロールが可能になる。

  • 「システム開発」のSLA/SLMを「システム運用・保守」のSLA/SLMへつなぐことにより、ITサービス全体の品質を向上することができる。


2. グリーンIT領域へのSLA適用

(1) ITと地球温暖化問題
2005年2月に発効した「京都議定書」では、日本は温室効果ガスの排出量を、2008年から2012年の5年間で、基準年(1990年)に比べ平均で6%削減することになっている。
「京都議定書」での目標達成に向けての対策と施策の一つとして、ITを活用する様々なCO2削減効果が期待されている。ITを活用することで様々な企業活動・行政活動・国民生活における環境負荷を低減することができる。
一方で、ITの進展によってコンピュータ機器やネットワークの運用に伴う電力消費量が増加する結果として、CO2排出量が増加することも懸念されている。現在ITによるCO2排出量は全体の2%にしか過ぎないが、今後のITの進展による電力消費量の増加は避けることができず、様々な省エネルギー化に対する取り組みが行われている。

(2) グリーンITとは
本委員会では、「グリーンIT」を「地球温暖化問題の対策・施策の1つとしてITを上手に活用しようという取り組み」を指すこととする。つまり、「グリーンIT」とは「地球にやさしいITの活用」だと言い換えることができる。 この取り組みには、「ITの省エネ」と「ITを活用した社会の省エネ」の2つのアプローチがある。

(3) グリーンITによる地球温暖化問題への対応
ITは、地球温暖化問題に対してプラス(効果)とマイナス(悪影響)の2つの側面を持っている。
IT機器は電力を消費し、発熱をする。つまり、そのままではCO2排出量削減には貢献できない。そこで、IT機器の消費電力量や発熱量を削減することで、相対的にCO2排出量削減に貢献できることなる。一方、「ITを活用した社会の省エネ」は、経済活動や行政におけるCO2排出量の削減に貢献できる。
グリーンITによって、ITの地球温暖化問題へのマイナス面を抑え、プラス面を増大することでCO2排出量削減に貢献することが可能となる。

(4) 環境負荷低減の評価
グリーンITによる環境負荷低減を評価する際には、具体的な数値指標としてITによるCO2排出削減量を用いる。この値は「IT活用によるCO2排出削減効果量」と「IT使用によるCO2排出量」の差として求めることができる。

*

(5) グリーンITの推進
ITの利用者がグリーンITに取り組む場合、次のステップで行動していくことが望ましい。
  • 初めに、データセンターやサーバ室の電力量や温度・湿度などを「見える化」する仕組みの整備や制御方法などの仕掛け作りを行いながら省電力ハードウェア等の導入を検討することで、IT活用環境におけるグリーンIT化をスタートさせる。

  • 次に、IT活用環境だけでなく環境経営としてのグリーンIT化への体制作りと目標設定を行い、IT活用による環境貢献を意識した活動を進めていく。
上記2点を推進していくためには、ガイドラインを策定することが求められる。このガイドラインでは、IT投資における環境効果を指標とし、具体的な指標の設定から改善までのPDCAプロセスの策定が求められる。グリーンITを効果的に推進していくためにも、一般的な改善プロセスで使われるような「見える化」と「コントロール」が重要である。

(6) アウトソーシングによるグリーンITの推進
ITシステムを自社で構築・運用する際に、「ITの省エネ」と「ITを活用した社会の省エネ」を実践することが可能である。環境を配慮したIT機器を活用し、社内の様々な業務をコンピュータ・システム化すれば良い。ただし、非常に大きなITパワー(能力と工数)と多くのコストが必要となる。
そこで、グリーンITを推進する際の有効手段の一つとして、アウトソーシングの活用を考えてみる。ITの専門家であるITサービス提供者(アウトソーサ)にITシステムの運用を任せることで、より効率的・効果的なグリーンITの推進が期待できる。

(7) SLAの適用
アウトソーシングによってグリーンITを推進する場合に、SLAを適用することを考える。利用者・サービス提供者の合意手段としてSLAを適用することで、定量的かつ継続的な評価・改善が可能になり、グリーンIT推進の効果・効率を高めることが可能となる。また、SLAは利用者とサービス提供者の間の有効なコミュニケーション手段としても機能するため、より具体的で実現可能な合意点に到達することを助けることができる。

(8) サービスレベル指標の考え方
@サービスレベル指標
当委員会が編集・著作した「SLAガイドライン」で紹介されているサービスレベル項目は、ITサービスのサービスレベルを測定・評価するものなので、そのままグリーンITに適用することは難しい。そこで、グリーンITの視点からの指標を新たに検討することにした。
ITサービスの場合もそうであるが、グリーンITへの要求および目標はサービス提供者と利用者との間で認識の相違が生じることが多いため、利用者とサービス提供者それぞれの観点からグリーンITを「見える化」し、「コントロール」するためのツールとして、グリーンITにおけるサービスレベル指標について検討した。

A両者の視点でのサービスレベル指標
利用者の観点からは、最終的な環境負荷低減評価指標であるCO2排出削減量あるいはIT活用による省エネ効果を表すエネルギー(消費電力)削減効果量を、グリーンITにおけるサービスレベル評価指標として設定できる。サービス提供者(アウトソーサ)からの観点では、グリーンITへの貢献度という意味から自らのアウトソーシング・サービスがいかにグリーンITを実現できているかを示す値を設定することができる。

B3つのカテゴリ
アウトソーシングによってグリーンITを推進する場合も、「SLAガイドライン」でのサービスレベル項目と同様に3つのカテゴリ(リソース・サービス・プロセス)で指標を設定することにした。

(9) サービスレベル評価指標例
ITシステムをアウトソースする際に、グリーンITの推進度合いを評価する指標として利用できる評価項目の例をまとめた。

表2-1 グリーンITにおけるサービスレベル評価指標例
表2-1 グリーンITにおけるサービスレベル評価指標例


(10) まとめ
アウトソーシングにおいて、グリーンITを推進する場合に、ITサービス(アウトソーシング)にSLA(/SLM)を適用することで、ITサービス提供者・利用者間での環境負荷低減効果の「見える化」が図られ、グリーンIT推進の「コントロール」が可能となる。また、継続した品質向上活動により、更なる環境負荷低減効果の向上を行うことも出来る。
このような活動を行うことにより、利用者・サービス提供者双方の努力により地球温暖化問題の解決に貢献することができると考えている。


3. 今後の課題と取り組み

今後の規格化の動きや市場変化に対応した業界標準とするために、以下の事項の検討を進め、普及促進を図ることが必要であると考える。

(1) 経営者および利用者の視点によるSLA/SLMの検討
ITベンダとシステム運用者との共通指標として活用されてきたSLA/SLMの普及状況や事例等の関連情報を収集、整理するとともにSLA/SLMに経営者及び利用者の視点からの評価項目や指標を加えて、「SLAガイドライン」の見直しを行う。

(2) ITシステムライフサイクル全般へのSLA適用領域の拡大
ITシステムライフサイクル全般を通したSLAの適用およびSLMの運用がITシステムの安定稼動と品質向上に必要であり、以下の事項を課題として今後も継続的に検討を進めて行きたい。

@ ITシステムライフサイクルの残りプロセスへの展開(IT戦略、要件定義プロセス)
A ITシステムのライフサイクル全体を通したSLMの運用

(3) グローバルな視点からのSLA/SLMの提言・普及活動
itSMF等、関連機関や先進的海外企業と意見交換を行い、グローバルな視点からSLA/SLMの提言・普及活動を行う。


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