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(IS-10-情シ-4)   平成21年度ソリューションサービスに関する調査報告書T
SLA適用領域の拡大に関する調査報告書



−エグゼクティブサマリー−


 本委員会は、ソリューションサービス分野におけるビジネス環境の調査・検討、開発、提言、普及を目的として、 ITサービスの利用者と提供者が共通認識をもちながら品質・コスト・リスクのバランスをとっていくことの重要性が ますます高まっていくとの認識の下、SLA/SLMを中核テーマとして調査・研究活動を行っている。ITサービスの機能や 範囲、品質、性能などを「見える化」し、コスト及びリスクとサービス品質との適正なバランスをとるためのツールとして SLAを位置づけ、「民間向けITシステムのSLAガイドライン」(以下、「SLAガイドライン」と称す。)として出版し、 SLAの普及に努めてきた


1.経営者視点・利用者視点のSLA

1.1 背景

 本委員会では、基本的にITサービス利用者の視点に立ち、SLAの検討領域を 「システム運用・保守」プロセスから「システム企画・開発」プロセスまで広げ、 サービス品質の評価指標としてのSLAの活用ならびにSLMの適用について検討を行ってきた。
SLAの活用においては、本委員会が作成した「SLAガイドライン」を含め、 一般的に使われているサービスレベル項目の多くはITサービス提供者(IT部門やITサービスベンダ)の 視点から策定されているものが多く、以下のような課題がある。
・サービスレベルの評価指標の考え方が、経営者や利用者とは観点が異なる。
・サービスレベル項目が、経営者や利用者が理解しづらい表現を用いている。

そこで、本委員会では、IT(サービス)利活用の効果を正確に評価するために、 ITサービス提供者の視点だけでなく、経営者・利用者の視点を加えたSLA/SLMの検討を行うことにした。

1.2 目的

 本検討の最終目的は、ITサービスがビジネスや利用者の満足度向上等に貢献していることを客観的な指標で表すことにより、 ITサービス品質を適正化し、IT投資効果を高めることである。言い換えると、 ITサービスをビジネス/業務/ITの観点から評価することであり、そのための評価項目と目標(値)を 整合性のある形で体系化することである。
 サービスレベル(サービス品質)の見方は、見る人の立場(役割・責任)の違いによっても異なる。 つまり、だれ(視点)が、何(対象)を見たときのサービスレベルなのかによって、サービスレベルの 評価方法(評価項目や目標値)が異なると考える。

視点・対象の2軸で整理した結果、今回は図1-1に示す部分を検討範囲とした。


図1-1 サービスレベル(サービス品質)の見方と今回の検討範囲


(1) 経営者視点のSLA
本検討は、経営者がIT投資の評価を行う際に、 IT(サービス)がいかにビジネスに貢献しているかを理解し易くするための 指標を提供することを目的とする。IT投資の評価観点は大きく、 (A)IT(ITの効率化・コスト削減等)、(B)業務(業務効率化・コスト削減等)、 (C)ビジネス(事業の成長等)に分けられる。経営者視点の評価観点と指標例を 表2.1-1に示す。

  表1-1 経営者視点の評価観点と指標例
(A)ITサービスを評価する(B)業務を評価する(C)ビジネスを評価する
IT効率業務効率新商品開発
ITコスト業務コスト市場開拓
IT要員コスト人件費顧客関係
先進性業務改善顧客満足
信頼性生産性売上・利益
安全性活性化遵法
   情報共有経営機能
   従業員満足競争優位


IT投資は、最終的には「(C)ビジネス」に結びつくが、一般的にビジネス成果はIT自体で直接的に達成できるものではない。 そのため、まず「(A)IT(ITの効率化・コスト削減等)」に主眼を置いて検討を行うこととした。

(2) 利用者視点のSLA
本検討は、利用者にとって理解し易い業務と結びついた言葉でサービスレベル項目を記述し、 ITサービスの品質が業務遂行に貢献していることを可視化することを目的とする。ITサービスの利用者は、 利用するITサービスと、遂行する業務の2つの異なる対象を評価することになる。利用者視点の評価観点と指標例を表2.1-2に示す。

  表1-2 利用者視点の評価観点と指標例
@ITサービスを評価するA業務を評価する
利便性(使用性)業務効率
応答性生産性
正確性情報共有
安全性コスト
信頼性満足度
完全性   

業務そのものに対する評価の仕方は、業務の対象となる商品やサービスで大きく異なる。 業務の種類や業態・業種によっても性格が違う。そこで、今回は共通的に扱うことのできるITサービスに 主眼を置いて検討することにした。

1.3 経営者視点のSLA

(1) 基本的な考え方 企業や組織でITを活用するためには、経営戦略に合致したIT戦略を立て、 確実に遂行していくことが必要である。ITサービス提供者は、[ サービスの利用者に対してITサービスを提供することで、ビジネスの効率化やコスト削減を実現している。 この時、ITサービス提供者は、IT戦略立案から目標設定、実施、評価の状況を経営者に報告し、経営に活かすことが求められる。
本委員会では、「経営者視点のSLA」を「ITの効率化やコスト削減をターゲットとし、 ITガバナンスの観点で、ITサービスのレベルを評価するための経営者とIT部門との間の取り決め」と定義する。 経営者とIT部門との間で、この評価指標を様々な場面で活用して適切な報告を行うことで、 ITの効率化やコスト削減等のIT投資の評価ができる。

(2) 「経営者視点のサービスレベル評価指標」検討のアプローチ
経営者視点のサービスレベル評価指標を検討するにあたり、以下の手順で実施した。
 1) ITサービス提供者が経営者に対し報告が必要とされている項目を、COBITなどのITガバナンスに関する各種文献から、 評価指標として利用可能な物を選択した。
 2) 次に、経営者が理解できる言葉を用いることを重視し、ITの専門用語や技術的な用語を使わないように表現を見直した。
 3) 最後に、各項目を経済産業省「IT経営ポータル(ITの戦略的導入のための行動指針)」に示してある7つの機能で分類した。

(3) 評価指標と測定方法
「経営者視点のサービスレベル評価指標」として採用可能なものを48項目抽出し、 それらを一覧表にまとめた。その一部を表1-3に示し、各項目について説明する。

表1-3 経営者視点のサービスレベル評価指標



@ IT経営ポータルの機能分類:評価指標の分類

経済産業省「IT経営ポータル」
(http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/it_keiei/index.html)では、 経営者がIT活用の仕組みを理解し、競争力の強化や生産性の向上を実現するために「戦略的導入のための行動指針」 (7つの機能と20の行動指針)を提示している。7つの機能に分類することで、サービスレベル評価指標の活用しやすさを 狙っている。7つの機能は以下の通り。
 1) 経営戦略とIT戦略の融合
 2) 現状の可視化による業務改革の推進とITの活用による新ビジネスモデルの創出、ビジネス領域の拡大
 3) 標準化された安定的なIT基盤の構築
 4) ITマネジメント体制の確立
 5) IT投資評価の仕組みと実践
 6) IT活用に関する人材の育成IT人材育成・活用
 7) ITに起因するリスクへの対応

A 指標名:評価指標の名称

B 内容:指標の具体的な説明

C 測定方法:指標を定量的に測定するための具体的な測定方法や計算式。


1.4 利用者視点のSLA

(1) 基本的な考え方
利用者視点のSLAは、図1-2に示すように、ITサービス提供者から利用者に提供されるITサービスを、 業務遂行への貢献の観点から定義したものである。


図1-2 利用者視点のSLAの考え方


利用者から見た場合、ITサービス提供者が定義するSLOは、 システム寄りのもので理解しにくい項目が多く、これがネックとなって、 SLA締結を敬遠することにもなっていると思われる。また、 内部統制面等からITサービス品質の見える化が必須であり、 SLAは見える化のツールとして重要なコンポーネントでもある。

(2) 「利用者視点のサービスレベル評価指標」検討のアプローチ
「利用者視点のサービスレベル評価指標」を検討するにあたり、以下の2段階のアプローチで取り組むこととした。
 @ISO/IEC TR 9126-2
「Software Engineering -- Product Quality -- Part 2:External metrics」
をベースにSLA定義を行う。ISO/IEC TR 9126-2は、ソフトウェア製品の品質に関する規格であり、 その外部測定法は、利用者視点に近いと判断した。これにISO/IEC TR 9126-4 「Software Engineering -- Product Quality -- Part 4: Quality in use metrics」
を加え、 利用者視点のサービスレベル評価指標として取捨選択した上で、専門委員会メンバー企業のノウハウを加味して、 定義一覧を完成させた。
 Aさらに、定義したサービスレベル評価指標に、「SLAガイドライン」のSLOをマッピングし、 両者の過不足を補うことで、利用者視点のSLAを完成させる。 (3) 評価項目と測定方法 「利用者視点のサービスレベル評価指標」として採用可能なものを31項目抽出し、それらを一覧表としてまとめた。 その一部を表1-4に示し、各項目について説明する。

表1-4 利用者視点のサービスレベル評価指標の定義


@ 特性、副特性:評価項目の分類
ソフトウェア製品の品質特性等を参考に、特性として「満足度」、「保守性」、「信頼性」、 「使用性」、「効率性」に分類した。さらに、特性をブレークダウンして、副特性として分類した。
・満足度:提供されるサービスに対する満足の度合い
・保守性:サービスの変更要求に対応するための労力の度合い
・信頼性:サービスが正常に提供され続ける度合い
・使用性:サービスの分かりやすさ、使いやすさの度合い
・効率性:サービス提供のために使用する資源の度合い

A 指標名:評価指標の名称。

利用者視点のサービスレベル評価指標

B 内容:指標の説明。

C 測定方法:指標を定量的に測定するための具体的な測定方法や計算式。


2.民間企業におけるSLA利用実態調査


国内の民間企業242社を対象に、@SLAの利用実態、AITILの適用・活用状況、BIT投資状況、 それぞれについてアンケート調査を実施した。

2.1 SLAの利用実態

2009年度の傾向について見ると、「SLAあり」の企業は前回調査よりも減少し、30.2%に止まり、 また、SLAに準ずる「管理指標(サービスに関する取り決め/ルール等)」も13.6%であった。 両者をあわせると前回調査時を下回る水準であった。



図1-2 利用者視点のSLAの考え方


一方、SLA・管理指標の導入(締結)を検討している企業は、前回調査よりも若干増え、 また、前回「わからない」と「SLAは必要ない」で26%が、今回「今後も設ける予定はない」の35.1%と増加している。
なお、従業員数5,000名以上、年商5,000億円以上といった大企業においてはSLA・管理指標の活用が80%を超えていることが 確認できた。

2.2 ITILの適用・活用状況

ITILの適用・活用の有無に関して尋ねたところ、「ITILに基づいたサービス管理を実施している」は15.3%であった。 「ITILを参考にしつつ、独自のITサービス管理を実施している」の13.6%を加えても、 何らかの形でITサービス管理を実施している企業は3割に満たない状況であった。

「ITILについて知らない/初めて知った」は3割を超え、「ITILの適用は考えていない」を含めると、 全ユーザの5割に達し、ITILの認知不足に加え、ITILそのものへの関心も非常に低いという結果になった。


図2-2 ITILの適用・活用状況 (N=242, %)

ただし、従業員5,000名以上の企業では、「ITILに基づいたサービス管理を実施している」が41.7%もあり、 「ITILを参考にしつつ、独自のITサービス管理を実施している」を加えると55%を超えている。
年商規模5,000億以上の企業にもほぼ同様の傾向が見られ、大企業の間にはITILが浸透していることがわかる。

2.3 IT投資状況

今回の調査では、すべてのアンケート回答者(242社)に対して、新規システム導入に関わる費用と、 既存システムの運用保守に関わる費用の比率を尋ね、227社の有効回答を得た。

その結果、2008年度のIT投資の比率は、全体平均で、「新規システム投資」が28.6%、「運用保守費」が71.4%であった。


図2-3 IT投資内訳(新規システム投資/既存システム運用保守)(N=227, %)


既存システム運用保守に関して、費目で整理すると、「ソフトウェア/ハードウェア償却費」は ソフトウェア償却費(10.7%)とハードウェア償却費(9.4%)を合わせて20.1%となり、 「ソフトウェア/ハードウェア保守費」はソフトウェア保守費(12%)とハードウェア(12.1%)保守費を 合わせて24.1%となる。「保守人件費」は内部要員人件費の保守(4.1%)と保守外部委託費(5%)を合わせて9.1%となる。 また、「運用人件費」は内部要員人件費の運用(7.2%)と運用外部委託費(4.5%)を合わせて11.7%となる(図2-4参照)。


図2-4 IT投資内訳(費目別)(N=227, %)


3.課題と今後の取り組み


今後の規格化の動きや市場変化に対応した業界標準とするために、以下の事項の検討を進め、 普及促進を図ることが必要であると考える。

(1) 「経営者視点・利用者視点のSLA」の検討継続
今年度行った「経営者視点・利用者視点のSLA」の検討を継続する。利用者視点のサービスレベル指標と 「SLAガイドライン」のSLOのマッピングを行い、両者の過不足を補うことで、 利用者視点のSLAを充実することが可能と考えている。その際には、 サービス提供者視点で定義されている「SLAガイドライン」のSLOの利用者視点に考慮した表現への 読み替えや、「SLAガイドライン」で不足する項目に対して業務要件からの評価項目を定義すること等を検討していく。

(2) ITシステムライフサイクル全般へのSLA適用領域の拡大
ITシステムライフサイクル全般を通したSLAの適用およびSLMの運用がITシステムの安定稼動と品質向上に 必要であり、以下の事項を課題として今後も継続的に検討を進めていきたい。
 @ ITシステムライフサイクルの残りプロセスへの展開(IT戦略、要件定義プロセス)
 A ITシステムのライフサイクル全体を通したSLMの運用

(3) グローバルな視点からのSLA/SLMの提言・普及活動
ソフトウェアメトリクス高度化プロジェクト、itSMF 等、関連機関や先進的海外企業と意見交換を行い、グローバルな視点からSLA/SLMの提言・普及活動を行う。


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