欧州電磁波調査団報告
日本電子工業振興協会(JEIDA)
VDT対策専門委員会
1999年 3月
日本電子工業振興協会(JEIDA、電子協)のVDT対策専門委員会は1999年2月に電磁波の健康影響に関する最新の情報を入手する為に、調査団を派遣した。
このホームページはその調査報告書をまとめたものである。
1.調査結果の概要
今回の調査を通して得られたことを簡単に要約すると次のようになる。
1.WHO(世界保健機構)及びスウェーデンの学者及び識者レベルではVDT(表示装置)のEMF(電磁界)問題は、もはや最優先的に健康問題としてとりあげるべき労働環境に関する検討課題ではなく、十分検討して言えば、「もはや問題ではない」との共通理解に至っている。
WHOでは本件について公開資料Fact Sheet 201を発行して積極的な活用を願っている。スウェーデンでもマスコミに対して積極的な広報活動を期待している。
2.標準化については、スウエーデンの規格(SS436 1490:通称MPRV)を欧州の電気関係共通あるEN規格に昇格する手続きにおいて、現在、prEN(EN規格の草案)にはなっているが、既存のTC(技術委員会)による標準化作業の着手が実現しなかったため、Vilamoura手順によって、スウェーデンのNC(National Committee:国の委員会)主導による標準化作業として進行している。
スウェーデン側では各EU諸国よりかなり良好な反応を得ているとの感触を持っているようだが、CENELEC事務局サイドでは実現を疑問視している向きがある。99年6月15日に現在進行中のUAP(CENELECで行われている規格審議の手続きの一つ)が完了する予定であり、3月15日までに有力なコメントが出ない限り、EU諸国での投票が行われる。
SEKでは、標準化を進めているものの、基礎としたスウェーデン規格の内容に少なからず問題点を見出している。基準値の導入と、対象機器をVDTに限った点である。
EN規格となることが決まった時点でIEC(国際電気標準会議)へ報告され、IEC規格の策定作業が開始されるが、否定的意見が主要国から出されることは想像に難くない。
3.スウェーデンでのTCO(スウェーデン労働組合連合)の勢力は想像以上に大きく、市場の90%以上のVDT関連製品がTCO認証を受けている。 TCOでは認証部門を子会社化することにより、その勢いを更に伸ばそうとしている。スウェーデン市場におけるVDTの"性能向上"に大きく貢献してきたとの自負しており、WHOによるFact Sheet 201の発行、学者によるVDT EMFの無害説にも今のところ耳を傾ける様子はない。学者・識者とTCOとの認識のギャップは大きく、ほぼ相反していると言える。
4.当委員会としては、これらの国際的動向を考慮して、電子協のガイドラインの見直しはCENELECの動きを見ながら時間をかけ慎重に行うべきであると考えている。また、並行して、WHOの動きの紹介、スウェーデンにおける学術的見解の紹介などを適宜情報発信していく予定である。
5.JEIDA VDT対策専門委員会が、ITE(情報技術装置)のVDT EMFについて、日本でリーダーシップを発揮していることを各訪問先に理解された。のこの活動を単発的なものとして終わらせず、今後も海外各関連組織と公式あるいは非公式窓口として、適宜通信を継続し、タイムリーに世界的に整合した動きをとるようにする。
2.調査団の概要
2.1 目的
VDT対策専門委員会は、1990年に設立後、VDTに関連する健康問題に関して、業界としての対応等を協議してきた。それらの活動の結果として、静電気や低周波電磁界に関するガイドラインを発行した。最近では、これらのガイドラインの改版作業にも着手している。
こうした一連の作業に関連して、電磁波の生体影響に関しては先進的な研究が行われている欧州を訪問し、以下の事項を目的として欧州訪問による調査を行った。
1) 最新のVDTに関する電磁波の研究状況に関して、研究者から生の声を聞くこと等による最新の研究情報の調査2) WHOで進行中の国際EMF(電磁界)プロジェクトの中で、VDTや低周波電磁界の問題がどうなっているかの調査
3) CENELECなどで検討中のVDTから発生する低周波電磁界の規定に関する審議状況と、これら規定の策定に関連する情報入手
4) 当委員会の活動状況を欧州の各関係機関に紹介による、今後の情報交換のルートの確立
1.2 日程:
以下の日程で、関係各機関を訪問した。
1999年
2月6日 成田発 London経由 Geneva へ移動、 Geneva泊2月7日 事前打合わせ
2月8日 WHO本部の国際EMFプロジェクトとIEC本部を訪問
・WHOでは低周波電磁界の生体影響および電磁界暴露基準の説明を受けた。・IECでは国際規格の制定手順やCENELECとの関係について説明を受けた。
夕方 Geneva から Bruxellesに移動、 Bruxelles泊
2月9日 CENELEC(Comite Europeen De Normalisation Electrotechnique)本部を訪問
夕方 Bruxellesから Stockholmへ移動、 Stockholm 泊2月10日 Combinova社、IBM Scandinabia社を訪問
・Combinova社でprEN50279の動向と低周波電磁界の測定機器の紹介を受ける。・IBM Scandinabia社にてNIWL (National Institute for Working LIFE)の研究者やSITO(Swedish ITCompanies' Organization)と会談
2月11日 TCO訪問、SEMKO訪問
・TCOにて、TCOの認証の実績や今後の活動について説明を受ける。・SEMCOにて、SEMKOの概要を聞くとともに、カロリンスカ研究所の研究者と会談した。
2月12日 SEK(Svenska Elektriska Kommissionen)訪問
・MPRUやSS、prEN50279のの制定の経緯の説明を受ける。午後 Stockholmから Londonへ移動、 London 泊
2月13日 London発
2月14日 成田 着、 解散。
1.3 参加メンバー:
今回の調査は以下の4社と事務局1名の合計6名で行った。
沖電気工業(株) 1名日本IBM(株) 2名
日本電気ホームエレクトロニクス(株)1名
(株)日立製作所 1名
1.4 プレゼンテーション
以下の内容を訪問先で、説明を行った。
1)JEIDAの紹介
電子協の概況、会員会社数、主な活動内容、委員会活動の概要などを紹介した。英文の電子協のパンフレットを配布した。
2)VDT対策専門委員会の活動の紹介
今回の出張の目的を含めて、VDT対策専門委員会の設立の趣旨、構成委員、委員会活動の方針、過去の主な活動内容、作成した静電気・低周波電磁界に関するガイドラインの概要、ガイドラインの改訂作業状況などを紹介した。
3)JEIDAの低周波電磁界に関するガイドラインの改訂版の紹介
JEIDAの静電気と低周波電磁界に関するガイドラインは、1998年3月に改訂に着手した。これは欧州統合規格としてprEN50279が審議始めたことがきっかけである。JEIDAのガイドラインの改定草案の英文版を提示し、その概要を説明した。
4)VDT対策専門委員会で行った電磁波曝露の実態調査の紹介
VDT委員会の会員会社に働く人に被験者となってもらい、携帯型の測定器Dosimeterを使った低周波磁界曝露の状況を調査した。結果として、低周波磁界曝露量に関してVDTの使用は支配的要因ではなく、「通勤手段」や「自宅と高圧電線との距離」、「職場に置かれている他の電子機器(例:レーザープリンタ)」といったものの方が関与の度合いが高いことが分かった。
一般に各被験者の曝露する磁界の最大値は電車などによる通勤時に多くみられた。また、最も強い磁界の場所での磁束密度は10〜20μT程度であった。
5) 労働安全衛生から見たVDT作業時間と自覚症状に関する知見の紹介:
日本IBMにおける定期健康診断を利用した調査を紹介(平成10年日本産業衛生学会で発表)
平成2年より、8年間にわたって定期健康診断時の問診票による社員約17000名以上を対象として、VDT作業に関する自覚症状の訴えを調査し、自己申告による使用時間との関係を検討した。
結果は、一人一台使用の作業環境で、長時間使用の割合が増加しているにもかかわらず年々自覚症状の訴え率の低下が見られることは注目に値する点である。これは使用開始時に比べ、VDT使用に慣れてきたことや社内の教育によりVDT作業自主管理が推進されたこと、さらにVDT機器本体の性能向上により見易さが向上したためと推定される。また、40代以降の年代での視力低下の訴えが顕著であるが、高齢化に伴う焦点距離調節機能の低下が大きいと考えられる。
3.打ち合わせ内容
3.1 WHO(World Health Organization)
面会者:Dr. Michael Repacholi (前列中央)
1)確認事項
* WHOがFact Sheet 201(VDTからの電磁界に関する健康影響に関する見解)を発行した理由は、人々は依然として低周波電磁界(EMF)の健康影響に関心を持っており、WHOが自らの見解を発行することがおそらくより良いことであろうと判断して発行した。
* Fact SheetはWHOの最高決議機関で決定された公式の文書である。Fact Sheet 201はインターネットWeb site と新聞で発表をした。
* WHOは必要であれば、技術的な測定法等では国際電気標準会議(IEC)と、曝露に関する基準値等に関しては国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)と、国際的整合を目的として協調していく。 もし時間があるならば、担当を紹介するので、すぐそこにあるIECの本部を訪問する事を奨める。(ということで急遽IECを訪問することになった。)
* IEC、CENELECの発行するものは、測定方法の基準に限定したく、次のFact Sheet 201の改版時には、それらに関して言及したい。健康影響についてはWHOが検討していきたい。
* TCOの基準や動きについて、WHOの国際EMFプロジェクトでは何も知らなかった。
* Fact Sheet 201の日本語訳については、JEIDAでレビューしてもらいたい。修正した日本語訳はできればPDFファイルで送って欲しい。また英文の内容に関してもコメントがあれば連絡して欲しい、次回のFact Sheetの改訂時に検討する。
* 2000年5月に京都でWHO Work shop が開催される、ICNIRPの会議も2000年に日本で開かれる。
2)質疑応答
WHOより:
Q1. なぜJEIDA ガイドラインはMPRUと同等のものを作成したのか。
A1. MPRUは以前より日本でも知られており、JEIDA会員会社がVDT関連製品を製造する際に
「Double Standard」にならないよう配慮した。
Q2. JEIDAとスウエーデン基準との違いは何か。
A2. スウェーデン規格がMPRUを基準としている点で相違はあまり多くない。但し,JEIDAガイ
ドラインは複数のカテゴリーを設定してないし、また、測定において試験所の認証を要求しても
いない。電界の低周波水準値は、アース配線が一般化していない日本の電源事情を考慮したものと
なっている。
Q3. VDT委員会の実際の職場における電磁波曝露測定にはコンビノーバ社のEMF測定器(FD
3)を使用したが、環境研究所で使用中の測定器とはどちらが有効か。
A3.VDT対策専門委員会の研究ではコンビノーバ社のEMF測定器(FD3)を使用した。EM
DEXの測定器も知っている。理由は3軸測定の検出部を有することから選ん
だ。MPRU測定などで実績がある機器メーカの測定機であり、信頼性も高いと考えた。
3)感想
WHOは健康影響について積極的に見解を出していく方針のようだ。一方現在ある各種ガイドライン、規格等については測定方法の標準に限定したいともみられた。今後委員会とは密接な関係を構築し維持していくことにより、影響力も行使できるように感じられた。
3.2 IEC(International Electrotechnical Commission )
面会者:Mr. Remy Ballif(前列中央)
1)確認事項
* IECは55カ国のメンバからなり、200の技術委員会、小委員会を構成しており、主に企業からの1500人の専門家と独自技術者を抱えている。
* 本人は20の技術委員会の担当者である。(TC62、TC29、TC76(laser safety、ultra sonic)、TC56、TC90、TC77など)
* IECは、標準測定方法を提案するが、Human Limit Value(健康影響基準値)を提案しない。
* IECはWHOの依頼を受て、生体の電磁波の曝露量を測定する手順を策定している。ICNIRPの電磁波曝露ガイドラインと同じ周波数帯域で0Hzから300GHzをカバーする。TC85のTask Force として'98年9月/10月にlow frequency Standardを発行した。IECー61786「Title: Measurement of Low Frequency EMF,Special Requirement of Instrument for Measurement」である。対象は、周波数が50Hzから9kHz、測定範囲は磁界が100nTから100mT、電界が1V/mから5kV/mである。今後は各電磁波発生源を考えて、Amendmentを作成して行く。
300GHzまでのHigh frequency Standardについては現在進行中で2〜3年かかる。Task Forceの現在の検討優先順位はMobile Phone/Power Lineである。
IECのlow frequency Standard とCENELECのものについては今後ハーモナイズしていく予定(現在違いは知らない)。
IEC規格とEN規格の重複回避と規格策定の簡略化を目的に、1996年にドレスデン協定として、IECとCENELEC間でIEC規格とEN規格を調和させていくことを合意した。この合意に基づき、CENELECはIEC規格に準拠したかたちでEN規格を策定する。この時、同じ内容の規格に関して規格番号はENxxx=IECxxxとする。EU各国でこのEN規格を元に法令やガイドライン等、国内運用規格を策定する。
* IECでは現在進行中であるCENELECのprEN50279のことは知らなかった。
3.3 CENELEC
面会者: Pieter Parlevliat(前列右),Bernard Mertens(前列左)
1)確認事項
* 19カ国より構成され、投票で賛成多数であれば、ヨーロッパスタンダードとなる。加盟各国の国家規格に採用され、各国の既存の規制と競合したりする時は、徐々に既存の各国別の規制は廃止され、この欧州統合規格に調和していくことにとなる。
* ドレスデン協定:IECとCENELECで規格策定の重複を避けるとともに、規格策定作業の簡略化を目的に、お互いの策定した規格を採用し合うことを合意したもの。EUにおいて5カ国以上の賛同が得られれば、EN規格をIEC規格に提案することができる。
* 「Vilamoura 手続き」:EU加盟国各国の国内規格をEN規格にする手続き。一般には各国から提案された規格に対して、CENELECのTCがprENを作成し審議を行う。
* しかし、今回のスウェーデンからの提案(MPRVをベースとしたVDTからの低周波電磁界に関する規定:prEN50279)の場合、EMCでもなく、製品安全でもないとこで既存のTCから取り扱いが拒否されたため、スウェーデンのNC主導で手続きを開始した。3月15日までに有力な反対意見が出ない限り、6月15日にEU内での採択是非に関して投票が行われる。
* prEN50279に関しては、現在加盟国のうち3カ国しか賛同していないため、このprではまだCENELECからIECに提案できる状態にない。prが最終的にEN規格に制定された場合、改めてIECに提案することになるかもしれない。
* 既存のVDT規定としては、欧州にはVDT Directiveがある。「 Article 100A : Official Journal of the European Committee, Safety and Health at the workplace」である。
* WHOのFact Sheet 201はIECでは知らなかった。
3.4 COMBINOVA社
面会者:Mr.Hjahmar Bondesten(Combinova 左から3人目),
Hans Wendschlag(IBM Nordic 左から4人目)
1)確認事項
* Combinoba社は基本的に技術コンサルタント会社であった。1986年頃、低放射モニタの測定器として、エリクソン社の依頼で機器を開発・納入したのが、この低周波電磁界の世界にのめり込んだはしりである。1987年以降はこうした測定器のビジネスがスタートした。社員10人で最終組立てとテストを行い、製造は子会社で行う。95%は輸出、5%が国内向け、世界に30〜50の代理店を持つ(日本は東洋テクニカ)。
* MPRUの時から、労働組合サイドとメーカサイドの中間に立つ為に、ガイドライン作成のチェアマンに押されている。
* 1991年にスウエーデン政府購買部門が"Low Radiation"VDTの購入を決定したため、多くのVDTメーカーが "Low Radiation"VDTの生産を開始した。1986年に最初の"Low Radiation"VDT Productがエリクソンから出荷された。
* スウエーデンではオフィス用にはCRT(大きい画面)、個人用にはノートブックタイプを使用する傾向がある。
* モニタメーカはTCOのcertificationを取得するのに熱心である。
3.5 ITCompany (SITO) at IBM Svenska
面会者:Bjorn Axelsson(SITO),Ulf Bergquist(NIWL)
1)確認事項
SITOよりの確認事項
SITOとしてECO DECLARATIONを実施しており、製品別に2種類のフォームを使用している。PC PRODUCTとしてはTCO91、MPRU、prEN50279のカテゴリーA,B,Cの規格値を満たしているかという設問がある。
Ulf Bergquistよりの確認事項
* 過去VDTの低周波電磁界に関係すると見られた症例は白内障、流産、皮膚疾患であった。
* 最近では、子供が近距離で見ることによる目の影響が心配である。
* 一つの研究成果として、Erythema(紅疹)のOdd Rationはhigh Pace Workでは 8倍Low Pace Work(作業者が自分のペースで仕事ができる)では 0倍(症状を訴えるケースがなかった) がある。
* また、他の研究成果として、EMF Hypersensitivity(電磁波過敏症)の再現実験−1では(研究者 Andersson et al、1996年)磁界印加して再現性を調査した。印加磁界はバンド1で 0.24マイクロテスラ、バンド2で0.02マイクロテスラであった。結果としては、EMF Hypersensitivityの患者に再現実験を行ったが、関連性が見られなかった。
* 二重盲検法による磁界の認知の正解率は、ほぼ50%(あてずっぽで正解する確立)であっため、HypersensitivityとEMFとの関連は希薄である、と見ている。
* Skin Rashに関する話題では、「VDTの画面の洗浄で治り」、VDTの電磁波とは関係ないのでは、と言っている。
* 結論として、健康の問題に関しては、VDTのEMFは携帯電話などに比べて、もはや優先課題とは言えない。
* Ulfの最終メッセージとしては、「VDTに関する症例は個々人によって異り、対応も異なることから、これらを科学的物理的見地からVDTによる影響を議論するのは困難であると考えている。 」とのことである。
2)感想
皮膚疾患の研究報告を紹介していたが、症例発生グループと未発生グループは同じビルあるいは同じオフイスにいたものを比較したのかと尋ねたが、同一場所とははっきり言わず、NOであった。当然違った環境では違った結果もありうるわけで、データの信憑性には疑問のあるものもあった。
我々にとって、スウエーデンはVDT関連の研究の先進国という認識があり、その結果は信頼に値するものであると無条件に受け入れていたきらいがあるが、研究として正確を期しているか、設定条件にバイアスが入っていないかベリフィケーションが常に必要と思った。
VDT電磁界による電磁界過敏症が、従来疑われていたが、スウェーデンの実験により再現性がなく、他に原因があるという知見を得たことは今回の大きな成果であった。
3.6 TCO
Martin Soderberg(TCO 右から3人目)
* 確認事項
* 電磁波の問題の歴史:「TCOは、労働者からの電磁波が健康に及ぼす懸念が多くあることを政府に伝え、政府の早急の対応を求めた。目に見える政府の動きがなかったために、独自に識者を集め意見を求めた。
その結果からVDTのEMFが健康とは無関係とはいえないという」報告を行ったというTCOからの説明があった。これが、政府がMPRにガイドラインの策定を指示するきっかけとなったという。1985年以降、ExpertがMPRにてガイドラインを作成したり(MPRー1、MPRU、)TCOではTCO91として、ALARA(実現の妥当な範囲で可能な限り低い値とするアプローチ)でLow Radiationの規定を策定したきっかけとなった。
* TCOのエルゴノミクスの規定は、ISOの規定値はNot tough enoughであるので、より厳しくしてある。
* 1998年7月TCO(TCOはスウェーデンの18の労働組合連合を束ねる、いわゆる労働組合総連組織である)は認証部門を独立させ、100%出資の子会社TCO Developmentを設立し、認証業務に当たらせている。ビジネスとして成功している。 試験は実質的にSEMKOのみが行っている。
* 現在有効なTCOラベルはTCO92と99のラベルである。TCO95、99はCRT、LCD 両者をカバーしている。95ラベルは99年末で終了する。(注1)
* 98年10月時点で、TCO99を満足しているものは16〜17社、約100機種で、モニタの約90%がラベルを持っており、デファクトスタンダードになりつつある。ラベルのあるものは価格が少し高いであろう。
* CRTモニタに関しては、Swedenでは90%以上の割合でTCO認証ラベルがついている。組合や官公庁だけではなく、ボルボ社の社員が家庭で使用するモニタに関してもTCO95が要求仕様になっている。
* TCO認定の測定機関はSEMKO、英国の認証機関NAMASから認証を受けたIBM Hursleyがある(ただし、EMF及び、ESF計測のみ)。
* TCO基準をMPRUより厳しくしたのは、ALARA(技術的に可能な限り低くする)アプローチであり、それ以上の科学的な根拠はない。
* CENELECのprEN50279が正式に発行されれば、TCOとしてはこれを受入れる予定。
注1)
訪問時の情報では、「TCO95ラベルは99年末で終了する」となっていたが、
1999年6月にTCOは方針変更を行い、TCO92を終了し、逆にTCO95を当面
継続することとした。
3.7 SEMKO
面会者:Jan−Olof Danielsson,Kjell andersson,Glenn Lennartsson ,NIWL Kjell Hansson Mild,Kalorinsca Bengt Arnetz
1)確認事項
SEMKOよりの確認事項
* 1925年設立され元々国有機関であったが、1994年に英国のItertek Services(ITS)より、買収され100%民間会社となった。ただし、SEMKOの名の元に業務を継続している。"SEMKO" としては社員300人中200人が技術者である。
* SEMKOの業務の5ー10%がVDTのテストである。
* TCO92,95,99で1700モデルが認証を受けており、全て外国製品である。(スウエーデンにはモニタメーカは存在しない。)
* EMISSION TESTの内訳は、TCO99:50%、TCO92/95:35%、MPRU/V:15%であり(内数としてMPRーVは2ー3%である)、 試験で不合格になる割合failure rateは10%(5年前は30%)程度である。
Kjell Hansson Mildよりの確認事項
* Window95の時代になっても、過去の経緯からか、画面のリフレッシュ周波数はまだ60Hzでの使用が多い。従って、フリッカーや画面のジッター、近傍の交流磁界とモニタの干渉による画面の揺れ等が問題となっている。画面の揺れに関する研究報告を入手した。
* 電磁波過敏症と思われる人を集めて電磁波を印可して再現テストしても症状が再現しないので、電磁波が原因ではなく、他の原因、たとえば光のフリッカーが過敏症の症状をおこさないか、等を研究している。
Bengt Arnetzよりの確認事項
* 電磁波が生体に影響している可能性はある。
* 60Hzの磁界で0.1マイクロテスラ(1ミリガウスとほぼ等価)程度の強度でも、睡眠に影響するという研究もある。
* 技術の進展に伴うストレス、すなわちテクノストレスも問題である。
* 電磁界が脳にストレスを与えている可能性があり、 脳の機能への影響が身体各部の変調等の原因になっている可能性もある。
* 電磁波だけの曝露では問題が発生しなくても、 電磁波曝露と合わせてストレスを与えると電磁波の曝露を感知する、といった研究もある。
* 電磁波の健康影響に関しては、他の環境因子の検討が重要である。
* 情報処理テクノロジーは、社会を変革しているが、同時に健康問題も提起している。
* 携帯電話と電磁波の問題は、生活スタイルに関連する。
論議:
* Hans Wendschlagの経験から、過敏症は特定の薬の副作用による可能性があるのではないかと提議を行った。結論は出なかった。
* Swedenでは事務所等の電源はアースがとられているが、家庭ではアース無しの2芯がほとんどである。Swedenでは家庭のPCを使用して、仕事をするケースが増加している。このアース無しによって、低周波電界の放射が増加することが心配である。
* Kjell Hansson Mildによれば、TCOの低放射モニタを使用していていれば大丈夫であろう、と安心している。(しかし、TCOに合致していても、アース接続がなければ、それなりに大きい電界放射となるが、、、、、これに関しては時間の関係で特に議論はしなかった。)
2)質疑応答
JEIDAよりカロリンスカ研究所に
Q1.電磁波過敏症はどのように発生するのか。ある日突然にか
あるいはある一定量の曝露量があって発生するのか。
A1.詳細は不明。新しい機種に変更になった時に生じているケースがある。
Q2.電磁波過敏症になったらどのような医学的治療をするのか。
A2.カウンセリングで対応している。
B.Arnetz氏より
Q3.日本には電磁波過敏症の症例はあるか。
A3.正式なものは聞いたことがない。日本にもいくつかの症例はあるのだろうが、患者がいたとし
ても、医者も事業者もこれが電磁波過敏症だとは認識していないので、表面には現れて
こないのではないか。
3.8 SEK
面会者:Hans Erik Rundqvist(SEK 前列中央)
1)確認事項
* もし、現在審議中のpr EN50279の EN規格化がうまく行けば、IECへの提案時に参考的に(科学的根拠希薄な)基準値を示したアネックスを省くことを考えたい。WHOのFact Sheet 201を尊重したい。
* MPRガイドラインの制定、及びそれにつながるスウェーデン規格の発行に至る経緯について説明を受けた。
* 1995年に「Vilamoura手続き」によりCENELECに対し、このスウェーデン規格(MPRーVと俗称)をCENELEC規格に昇格させるための手続きに入った。この提案に賛意を示している国はフランス・英国・フィンランド・ドイツ・スウェーデンの5カ国である。1997年にPAを行い、JEIDAのコメントも入れて1998年9月に案を改訂した。現在は1999年6月15日を各国の回答最終期限としたUPAの中にある。昨年のPAでは多くの国が「Favorable」という回答を寄せており、UPAでもうまく行くと信じている。 その後はIECの方へこの規格を提出し、「CDV」として各国へ回送されることになる。
しかしながら、これまでの主要国の反応を見てみると、科学的根拠及び要求に基づかない基準値を入れることに難色を示していることも理解できる。したがって、prEN50279では基準値を「Informative Annex」へ移しているが、これでもやはり規格の成立に反対される等の問題が生ずる可能性が高い。
単純に測定技術を標準化したものとの位置付けを明確にすべきである。しかし、「基準値」なしでは、種々の組織で任意の「基準値」を設定運用するという懸念があり、「Informative」の中へ「基準値」を挿入した。
(しかしながら,この議論はあまり正しいとは思われない。 TCOを例としてみると、規格の中でどのような値が与えられようが、voluntaryな組織は、それより厳しい値を「品質」として要求することが可能である。ここ、数日間の関連科学者達との議論で明白となったように、VDTのEMFは問題ないという事実に考え方の基礎を置くことを薦める。)
IECへ提出する際はInformative Annex の基準値をはずす方向で検討したい。