電磁波の生体影響に関する台湾交流団報告

 

日本電子工業振興協会(JEIDA)

VDT対策専門委員会

交流実施:1998年5月

 

 

この報告書は、平成10年5月に実施された、当協会VDT対策専門委員会による、台湾交流団の委員会としての記録です。

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t-amano@jeita.or.jp>まで

 


1.概要

 

1−1 目的

電子協のVDT対策専門委員会(パソコンモニターに関連する電磁波等の健康への影響を、業界として対応・協議を担当している)では、健康への影響に関連して、国内に留まって、国内で入手可能な研究や規格制定等に関する情報や状況を把握するだけではなく、日本と同じく世界に向けてモニターの供給を行っている台湾の業界(メーカー、業界団体)と、直接的に意見交換を計ることが有効な手段と考え、交流会を立案した。

低周波電磁界の規定作成の新しい動きとして、スウェーデンのMPR−3を基にしたセネレック欧州統合規格の制定の動きもあり、これに合わせて電子協のガイドラインも改訂検討に入った。この改訂案に関して、台湾の業界と意見交換を行うことも目的の一つとした。

日程の関係もあり、各企業・工場と個別に意見交換を行うのは一部の台湾島内に限定され(台北でのTCA交流会に参加しにくい高雄等、台北から離れた企業を訪問した)、多くは業界団体であるTCAで、多数の企業からの参集を依頼して、業界どうしの交流に力点を注いだ。


1−2 日程と訪問先

5月5日(祝)東京から台北へ 移動。

5月6日(水)基隆のライトン社を訪問、後に高雄に移動

5月7日(木)日立電視、ケープトロニクス社を訪問、 後に台北に移動

5月8日(金)大同公司を訪問、後にTCAを訪問「JEIDA−TCA交流会」実施

5月9日(土)台北から東京へ帰国。


1−3 メンバー

(株)日立製作所
日本電気ホームエレクトロニクス(株)
沖電気工業(株)
(株)東芝、日本IBM(株)
日本事務機械工業会
日本電子工業振興協会
(合計9名)


1−4 TCA−JEIDA交流会の台湾側の参加者

モニター関係の企業、電磁波の生体影響を研究されている大学の研究者など18の組織から計24名の参加を得た。また、TCAの関係者と、台北の報道関係者が取材の目的で参加した。


2.調査概要―台湾における電磁波(生体影響関連)の対応状況

 

1)ライトン

欧州向けは、MPRー2とTCO95に全モデル対応している。

アメリカ向けでは、対応しているモデルもあるが、割合は少ない。

MPRー3への対応は、基隆の工場では特な業務はしていないが、台北の開発部門では対応などを検討している。

 

2)日立電視

欧州向けは全モデルTCO95に対応している。

アメリカ向けは、顧客(営業)からの要求が無く、TCO95には対応していない、但しTCO92には対応している。MPRー3への未対応である。

 

3)ケープトロニクス

100%OEM受注生産なので、対応の如何はその客先の仕様によっている。

MPRー3に関しては、客先の仕様書などを厳密に見直さないとはっきり言えないが、全体的な要求仕様などからいえば、TCO−99への対応の要求はあっても、MPRー3の要求はほとんどない。

 

 

4)大同公司

関係する実務者がミーテングに出席しておらず、電磁波の生体影響に関しては議論しないで終わった。

大同公司社長林氏と

 

5)フィリップス社

(TCAとの会合に出席していたフィリップスの人からの情報)

* フィリップスは、MPRー3に対応した複数のモデルを持っている。

* MPRー3では、対応する走査周波数の全ての周波数で規定の放射レベル以下にしなければならないと規定されているが、実際には走査周波数の上限と下限の周波数でのテストだけを済ましている。

* MPRー3でのテストでは台湾のテスト条件と、SEMKOでのテスト条件等で、

細かい点で相関がとれず、結構苦労をした、とのこと。

 

以上の様に、台湾の多くのメーカーは今まではMPRー2やTCO95を実効的な設計基準に考えていたので、今回の交流会で紹介した電子協のMPRー3(セネレック欧州統合規格ドラフト)対応の動きに対しては驚いていた。


3.TCAでの交流会の記録(抄録)


3―1 交流会開催

日時:平成10年5月8日午後1時〜4時

場所:TCAビル6階会議室


3―2 TCAからの挨拶

台北コンピュータアソシエーション(TCA)の副総幹事をしております、張と申します。JEIDAの団長様、遠路はるばる日本からいらっしゃいましたみなさま、台湾の業界のみなさま、こんにちは。本日の交流座談会においでいただきましてまことにありがとうございます。台北市コンピュータ同業協会を代表いたしまして、歓迎の意を表したいと思います。今回の交流会を通じて、いままで培ってきました交流・人間関係をより強固なものとしていただきたいと思います。

台湾の経済、貿易の歴史を振り返ってみますと、日本は昔も今も台湾の大切なるパートナーであり、地理的にも近い、隣近所ということであります。日台両国の、共通の利益を考えるとなれば、台湾が日本のパートナーとなるのは何ら不思議なことではありません。政府経済部の統計によりますと、情報製品に対する対日貿易赤字は40億米ドルに上っております。また、最近の為替レートなど、対日輸出を阻害するマイナス要因が働いております。情報産業に関する、貿易赤字を解消することは、今後の主要課題として、真剣に取り組んでいきたいと思います。

本日、日本の情報産業業界を牛耳っております、JEIDAのみなさまをお迎えしておりますが、低周波電磁界のガイドライン改訂をふまえて、ディスカッション及び意見交流をしていただきたいと思います。経済や考え方についてもいろいろと意見交換をしていただけたらとおもいます。

これから、日台両国のますます発展するビジネスチャンスのきっかけになれば幸いと思います。最後に、みなさまのご健勝とさらなる発展を祝して、私のご挨拶にかえさせていただきたいと思います。


3−3 VDT対策専門委員会委員長の挨拶

本日は、TCAのご協力によりまして、VDT交流会という、TCA−JEIDAのジョイントミーティングを開催することができまして、まことにありがとうございます。

また、台湾のメーカのみなさまにも大勢参加をいただきまして、ありがとうございます。われわれは、約8年前からVDT専門委員会を作って、VDTから出てくるエミッションの人間の健康への影響について、検討してきました。

この電磁波の問題は、本当に危ないのかという結論はまだないのですけれども、私どもJEIDAといたしましては、問題が人間の健康に関することですので、メーカとしてできるだけの努力はしようということで進めてきました。

本日は、我々がこれまでやってきました活動をお話しし、またどんなガイドラインを使ってやっているかといったことについてご説明し、今後の我々の対応、あるいは台湾のメーカのみなさまにもいろいろお願いしたいということで交流会を開きたいと思います。よろしくお願いいたします。


3−4 JEIDAからのプレゼンテーション

A)メンバ紹介

JEIDAからの出席委員の紹介

B)電子協の概要

電子協の活動全体の紹介

C)事務機械工業会の概要

事務機械工業会の活動全体の紹介、

電磁波に関しては電子協と共同歩調をとっている旨の説明。

D)VDT対策専門委員会の活動概要

VDT対策委員会の歴史と活動、基本方針などを説明。

E)JEIDAガイドラインの改訂内容の紹介

セネレック欧州統合規格ドラフトを基に、現行のJEIDAの低周波電磁界の

ガイドラインの改訂を検討中である。その内容を説明した。

F)VDT作業の労働衛生に関する報告

労働衛生の職場調査を長い間行ってきている。その解析結果では、VDT労働の

増加の割には、個々の従業員からの愁訴が減ってきている。

G)人間工学に関する最近の国際規格に関する概説

最近のISO規格の審議状況などの紹介を行った。

H)電磁波暴露の実際測定例の紹介

VDT対策専門委員会で行った各職場での電磁波(低周波磁界成分のみ)の実測の結果を紹介。これらの実測から各従業員の電磁波曝露は職場のVDTが主要な曝露源になっていないで、個々の生活条件(自宅の近くに送電線がある、通勤時間の電車、等)に大きく依存することがわかった。


3−5 TCAからのプレゼンテーション(ビデオ):

情報産業は、いまや台湾最大の産業となりました。そして、台湾の輸出部門でも主力となってまいりました。台北電脳商業公会(TCA)も、いまや全国で指折りの産業協会として活動しています。

私どもは会員に対して、ビジネスチャンスを提供するサービスを行っています。また、官公庁・学術関係との相部屋的存在としても活動しています。1974年の創立以来、初代理事長オンコウテツから、リメイセイ、シシンキ、コウセイキ、そして現理事長リュウスイフクおよび各理事、監査役、役員等の積極的指導のもと、現在会員数3000社を上回る規模にまで成長しました。

TCAは、会員のプロフェッショナル化、情報システム化、国際化を目指して、サービスの提供を行っています。

 

主な業務・サービスの内容

展示会業務:

法律顧問サービス:

コミュニケーション機関としての役割:

情報技術推進サービス:

標準規格推進に対するサービス:

協力:

情報諮問サービス:

人材育成サービス:

コンピュータ技能推進サービス:

医療情報ネットワーク推進サービス:

 

TCAは創立以来、台湾コンピュータ業界の向上心を理解し、その会員同士の相互理解を培うため努力してきました。そして、たえず職員自らの質と作業効率の向上に努力し、会員のニーズに対応してきました。

さらには、創立当初より積極的に政府とコンピュータ業界とのコミュニケーションを図ってきました。4年前に開設された、会務発展策略委員会において、常務理事らはTCAの2大目標を掲げました。世界レベルの産業強化。台湾情報工業の原動力。これは大いなる挑戦です。

しかし、ここ数年来の台湾情報産業の発展と、TCAの成長から見れば、会員とTCA職員一同が一丸となって、努力に努力を続け、闘志を燃やし続ければ、国内はもとより、TCAは必ずや世界レベルの産業協会となる日がくることを確信しています。

 

以上で、TCAの概要説明を終わらせていただきます。ありがとうございました。

 

 

3−6 質疑応答

Q1:本日ご紹介いただきました(提案なさいました)仕様(スペック)は、MPR2よりも、ゆるい(厳しくない)と受け止めております。このドラフトの仕様は、これから日本市場(日本の産業界)のスタンダードになりますか?

A1:基本的には、我々はMPR2と同じにしようとしました。ただ現実には、日本の配電システム(電源線)には、接地(アース)端子がついていません。ヨーロッパのMPR2というのは、アース付きの三極の配線を基に規格が作られています。現実の問題として日本で、アースがない二線式で、特に電界輻射の規格を厳格に守ろうとすると、技術的にかなり難しいということもあって、日本の現実にある程度合わせた標準にしてあります。その為に電界の値が甘い様に見えることは事実で、使用条件を加味した実力に応じた規定値にしてあります。

今MPR3がヨーロッパの規格に(そのままかどうかわからないが)なろうとしているところです。我々は、そうした欧州規格に合わせていくことで考えています。現在のJEIDAの規定は「ガイドライン」です。したがって、これに政府が関与しているわけではありません。日本では3年ほど前から製造物責任法という法律ができました。それ以外にも、最近政府は規制緩和を一生懸命やっています。それは、政府が企業活動に関する関与を最小限に抑えるということです。その代わりに企業、メーカが消費者に対する責任を負うということであります。この電子協のガイドラインは、そうしたメーカーとしての責任を果たす役割を持っている。

そういう時代になったものですから、我々メーカとしてはメーカの責任をいかに果たすかということで、JEIDAのガイドラインというレベルですけれども一生懸命に実行しています。

規定の内容が強いか弱いかということでは、MPR2、MPR3が認められた認定機関でしか、評価できないのに対し、JEIDAガイドラインでは、みなさん(製造者)が測定してよいことになっています。

 

Q2:ガイドラインの改訂ドラフトでは、カテゴリA、B、Cと3つありますが、カテゴリCの場合には、クラスT、クラスUの両方を備えていますが、カテゴリのA,Bでは、クラスUも入っているか?

A2:カテゴリA、Bというのは、元々TCOやMPR2のレベルです。そういうところでは保護接地(フレーム・グランド)を持っています、そういったものを考慮しています。カテゴリCのクラスUというのは、日本のような、フレームグランドのないところを想定しています。そういう意味からは、カテゴリA、BにはクラスUはないということになります。

A:繰り返すと、MPR3では、3つのカテゴリA、B、Cを定めました。これらのカテゴリーは既存の各規定やガイドラインを一つの規定に一体化することをねらったものです。この中のカテゴリCは、JEIDAガイドラインの値を考慮したということです。JEIDAの値というのは、日本の電源事情を見て決めています。我々は今日も説明しましたが、CENERECの基準にハーモナイズしていく訳ですが、その為にターミノロジーを変えたくないのです。その為、カテゴリCには、クラスT、クラスUがある訳です。

そして、我々が規定としてガイドラインの本文に記載しているのはカテゴリCのみであり、カテゴリAとBは「参考」です。

 

Q3:(清華大学の研究者からの質問。)4−4−Fの報告で、電磁波の影響は考えているのか? 技術の向上によって目の疲労等を訴える比率が下がっていると、いわれたが、その具体的な内容は?

A3:私の発表の中でのクレームレートというのは、主に自覚症状の訴え率を中心に出しております。それが、年を追うごとに特に目の疲れとか視力低下を訴える率が減ってきていることをいったわけです。

それで、エミッション等については特に検討はしておりません。ここでハードウェア・ソフトウェアといったのは、特にソフトウェアについては、最初の頃のものでは文字の大きさや、色の変更はほとんどできなかったですけれども、最近では自由にフォントを変えることによって自分の気に入った大きさ等にセレクトできるというのが一つです。

それから、ハードウェアについては、これも定量的にどれくらい改良されたというデータはないのですが、スクリーンの大きさがだんだん大きくなってきて、見やすくなっている。また、画面の明るさやコントラスト等も調整が可能になってきています。それから、特に反射等に関しても、この部屋にもこうしてディフューザがついておりますが、最近のスクリーンはほとんどすべて反射防止コーティングがされており、別個の反射防止用スクリーン等は必要なくなっていると思われます。これらのハードウェア・ソフトウェアの改良といったことから、作業者一人一人が見やすくなっていると感じ、自覚症状の訴え率が少なくなってきているのではないかと推定しております。

少し、私の意見としての補足を述べます。台湾も同じだと思いますけれども、10年前に比べますと、VDTの使用形態がずいぶん変わってまいりました。ほとんどの設計者がネットワーク化されたパソコンで作業をする。その人たちは、一日8時間VDTの前で作業したとしても、自発的な自分でコントロールできる作業をしている。10年前ですと、入力作業専門の人とか、ワードプロセッサ専門の人がおりました、こうした作業者は自己のペースで仕事を行うことができにくい状態でした。

今は誰もがコンピュータを持って、誰もが作業をするというふうになっています、多くの作業者は自己のペースで仕事を進めることができるようになっています。こうした作業形態の変化というのも、訴え率の低下に効果があるというのが、私の意見です。

 

Q4:(清華大学の研究者からの質問)電子協では、大学の研究者等とタイアップして、電磁波の生体影響の研究などを行なっているのか?

A:VDT対策専門委員の一委員がBEMS等の専門学会に加入して、最新の情報の入手に務めている。4−4−Hで先程報告したように、我々の身の回りの電磁波曝露量等は測定を行なっているが、それ以上の研究は行なっていない。

A4:さらに一つ追加しますと、先ほど私が紹介しました「日本IBMのインターネットホームページ」に日本政府(環境庁と資源エネルギー庁)がスタディした電磁波に関する調査結果報告書の要約も載せていますので、そちらの方もよろしかったらご参考にしてください。

 

Q5:JEIDAさんでは、電磁波の人体に対する影響等の研究・調査を行っておられますが、その他に表示色、性能、色温度やガンマ値が人体にどのような影響するのかというような研究・調査はございますか?

A:エルゴノミクス全般・目の疲労等に関しては、我々VDT対策専門委員会の活動の対象からは外している。どちらかといえば、電磁波の問題等、健康関連の項目に限定している。従って、VDT対策専門委員会としては、そうした面での研究活動は行なっていない。但し、委員の中に人間工学に造詣の深い人もいるので、情報としてのレベルでは考えている。

A5:補足して説明します。日本のISOの委員会で、今のISO9241のパート8に対して日本から出した意見で採用されている部分について、簡単にご紹介します。

色の付いた背景の文字の読みやすさについて、当初は色の差が大きければ読みやすいのではないかということで、ISOの原案は色差でもって読みやすさを規定しようとしていました。色差で読みやすさを考えると、これは、目の空間周波数特性の問題が大きく関与してきます。高い空間周波数、すなわち小さな文字を考えてください。その時に背景と文字の色の差がいくら大きくても読みやすくはありません。これは日本でも実験して確認しています。ですから、色つき背景の文字の読みやすさ、これに対するrequirementは色差ではなくて、コントラスト3:1以上、これが日本からの提案です。これは、現在のISOに採用されております。

それから、ISO9241のパート8では、暗い背景に青い文字、暗い背景に赤い文字、このようなスペクトラムの両極端の色は使用が推奨されません。ということで、色の使い方については、ISO9241のパート8を参照いただければと思います。

 

Q6:台湾では、台湾島内の市場に向けたVDTに関してエルゴノミクスの観点、電磁波等の健康問題の観点等で、法的な規制等の形で、規格やガイドラインは存在するか?

A6:台湾では現在そうした規制類は存在しない。