財団法人労働科学研究所 冨永洋志夫氏

出典:EMC誌
      「生体と電磁環境(8)VDTの電磁界―オフィスの電磁環境の諸問題『後編』」
      (1995年6月5日号No.86)



8.本章のまとめー対策は必要か
 
  VDT電磁波環境やオフィス内の電磁波環境が健康に悪影響を生じる可能性はきわめて小さい。しかし、強電界、強磁界では細胞膜や体液中のイオンなど生体内の電気的環境に強く影響することは確かめられていることを考えれば無視するわけにはいかない。
  目安としては、生体内に筋活動や神経活動など常時存在する電気的環境を乱さない程度の外部電磁波に止めることである。国際放射線防護委員会の暫定ガイドラインはこの考え方で許容値を定めている。その許容値はオフィスの現状よりも数百倍高い。生理学的影響の前に機器動作への影響が現れる。現状では特に健康への影響を懸念して対策を考える必要はない。
 ただし、静電気は汚れや不快刺激の原因になる。静電気対策では空気湿度、じゅうたんなどのVDT以外の対象を考えなければならない。VDT用の静電気防止フィルタもあるが文字がゆがんで見えるものもある。管面に帯電防止処理をしたディスプレィがあり、その使用を奨める。
 著者の所に電磁波防止エプロンの使用、配付の妥当性についての質問がしばしば寄せられる。すでに述べたようにその必要性がない。百歩ゆずっても、エプロンでVDT電磁波は防げない。VDT電磁波は数十Hz、数十kHz、波長にすれば10kmから5000kmに至るものである。身体全体がアンテナとなり、その一部をシールドしても効果はない。電界に関しては静電気対策と同じで、フィルタや管面の帯電防止処理は有効である。とかく問題視される磁界には無効である。必要もなく、効果もないものを使用することは無意味であろう。必要なのは時間規制、作業量規制や一般的環境対策であり、電磁波防止エプロンの使用で、VDT作業の精神的な負担やストレスから注意がそれるようならばむしろ逆効果である。



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