ニューヨーク駐在員2002年報告書
「米国のIT政策の動向に関する調査研究」
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【 要約(はじめに) 】
1990年代に長期にわたる成長を謳歌した米経済は、2001年には情報技術(IT)投資の大幅な落ち込みなどを背景とするいわゆるIT不況に陥り、通信産業をはじめとするIT関連産業は大幅な業績悪化に苦しむこととなった。こうしたなか、ITの発展によって高い生産性の伸び、景気振動幅の縮小、低インフレと低失業率の共存を特徴とする“ニュー・エコノミー”がもたらされたとする見方についても、一部見直しが行われるなど、ITに対する過剰な期待は影を潜めている。
しかし、米国におけるIT投資は落ち込んだとはいえ、引き続き高い水準にあり、ITはさまざまな産業において、生産性向上のために不可欠であると考えられている。また、米連邦政府や州・地方政府における電子政府の進展等によって、市民生活における利便性向上ももたらされている。こういったことから、米政府は引き続き、セキュリティ確保、電子政府の実現、競争政策や税制面での環境整備、デジタル・ディバイドの解消、プライバシー保護、IT関連研究開発の推進といったさまざまなIT関連政策を講じている。
本調査では、ITをめぐる諸条件の変化も踏まえつつ、米政府が推進する、以下のようなIT政策の概要・特徴を調査し、分析した。
■ 米政府のホームランド・セキュリティとサイバー・セキュリティ
国土安全保障に関する各省庁を一元化する新構想が、2001年9月11日の同時多発テロ事件の勃発で加速化した。1年以上の紆余曲折を経て、「国土安全保障法(Homeland Security Act of 2002)」法案は2002年11月19日、上院で可決され、同25日にはブッシュ大統領が法案に署名、同省設立法が発効した。新・国土安全保障省は食料、飲料水、緊急サービス、電力、農業、輸送、通信ネットワーク、文化財、郵便、金融などの国家ライフラインをテロ行為から守ることを目的としている。
また、国土安全保障省の情報技術(IT)への投資額は莫大で、IT関連企業にとって大きなチャンス到来になると期待されている。
■ プライバシー保護
2001年の同時多発テロ事件を境に、国家の安全を図るためであれば、国民のプライバシーが一部侵害されてもやむを得ないとの空気が流れているようである。たとえば、前述の国土安全保障省設立の際の「国土安全保障法案」にはもともと、「テロリスト情報・防止システム(Terrorist Information and Prevention System、TIPS)」と「国民身分証(ID)システム」あるいは「IDカード」を導入する条項が含まれていた。これらは司法省が提案していたもので、TIPSとは郵政局職員に不審な人物や行動を報告させるという内容で、国民IDシステム・IDカードとは国民にIDの保持を義務付ける構想である。しかし、この2項目は最終的に除外された。
■ ブロードバンド
業界団体からの圧力や、世界の急速なブロードバンド普及に危機感を抱き、ブッシュ大統領はFCCに対し、ブロードバンド振興策を取りまとめるよう指示している。また、ブッシュ大統領は2002年6月、「米国はブロードバンド普及を積極的に行うべきである」と発言しブロードバンド普及を大きな目標の一つとして位置づけた。
■ デジタルテレビ
米国では、地上波放送局をデジタル放送化規制の対象と規定し、2002年5月10日までに、地方の系列局を含む全米の民間放送局全てがデジタル放送を開始し、2006年までにデジタル放送への転換を終え、全放送局が現在アナログ放送用に利用している周波数帯域を連邦政府に返還するとしている。しかし、デジタル放送の普及に必要不可欠なデジタルテレビが依然として高価であることから、一般家庭への普及が予想以上に難航しているという側面も、放送開始時期より引続き存在している。また、受信機の需要が伸び悩むことで、一方のテレビ放送局側も、デジタル放送用番組などのコンテンツ制作にも本腰をいれるに至らないという状況に陥っている。このため、連邦政府や米議会は、デジタル放送への全面移行を促すような推進策を講じている。
■ 情報技術研究開発(IT R&D)
米国における情報技術(IT)研究開発(R&D)は同時多発テロ事件から、以前にも増して非常に重要視されるようになったといえる。ブッシュ大統領が2002年1月に行った一般教書演説のなかで、「国家」「国土」「経済」の安全保障がブッシュ政権にとって3優先事項と述べたが、こういった安全保障の確保のためにはIT R&Dは大きな礎となる。連邦政府の12機関は共同で、「ネットワーキング・情報技術研究開発(Networking and Information Technology Re-search and Development、NITRD)」プログラムにおいて連携し、共同研究活動を行っている。
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