
【 2004年3月号 】
T.欧州での電子政府進捗に関するベンチマーク・レポート
欧州委員会は2004年1月27日、「行政サービスのオンラインでの利用可能度」と題する、電子政府の進捗状況に関する調査結果を発表した。同調査はeEurope計画のベンチマークプログラムの一環として行われたもので、調査時点は2003年10月、調査対象国はEU15か国とアイスランド、ノルウェー及びスイスの計18か国、調査対象行政サービス数は20である。同調査は、インターネットを利用して手続全体が電子的に行える水準のなのか、あるいは様式がダウンロードできるまでの水準なのかといった観点から、オンライン化状況をパーセンテージ化してまとめている。
まず、国別のオンライン化状況を第1回調査(2001年10月)及び第2回調査(2002年10月)を含め、図1に示す。なお、第1回調査ではスイスが対象に含まれていない。
図1 行政サービスのオンライン化状況(国別)

(備考)2003年10月時点での18か国の平均値は66%
(出所)行政サービスのオンラインでの利用可能度(欧州委員会)、2004年1月
このオンライン化状況のパーセンテージは、以下を意味する。
- 0〜24% 以下のいずれにも達しない
- 25〜49% 手続きに必要な情報がWebサイトから得られる
- 50〜74% 手続きに必要な様式がWebサイトからダウンロードできる
- 75〜99% 電子的に様式を送付することができる
- 100% 許認可の結果を含め、手続きが電子的に完結し、紙を要しない
2003年10月時点では上位6か国が75%以上、すなわち多くの行政サービスについて電子的に手続きが完結するか、少なくとも電子的に様式を送付できる水準に達している。
さて、20の行政手続き別に、オンライン化状況100%、すなわち手続きが完全に電子的に行える状況に達している国の割合を図2に示す。
図2 行政手続き別オンライン化状況100%の国の割合

(備考)国別補正済み。分野@からCについては、本文参照
(出所)行政サービスのオンラインでの利用可能度(欧州委員会)、2004年1月
図2では、国によって法的に存在しない手続きがある国があることから、当該国を数字から除外する補正を行っている。具体的には、例えば転出・転入届に関して、ギリシャ、アイルランド及びポルトガルでは地方自治体に届け出る義務がないことから、これら3か国を除いた残りの15か国の中で、転出・転入届が完全にオンライン化されている国の割合を示している。
また、図中の@からCの分野は、それぞれ以下のとおりである。
@ 収入分野
A 登録分野
B 戻り分野(届出のような一方的な手続きでなく、戻ってくるものや情報がある)
C 許認可分野
収入分野では、手続きが完全に電子的に行える国の割合が70%以上と高率である。これらは手続体系が簡単かつ定型的であり、窓口がもともとよく整備されていることから、オンラインへの移行が容易であったのではないかと思われる。
他方で、許認可分野においてはオンライン化が進んでいない。これら手続きについては、他の手続きに比べて手続体系が複雑であり、また手続きに際して様々な付加資料が必要となることが多いことから、オンライン化が進んでいないのではないかと思われる。
さて、日本での状況はどうであろうか。e-Japan重点計画-2003(2003年8月8日IT戦略本部決定)では、2003年度中に国の申請・届出等手続きを実質的に全てオンライン化することとされているが、2003年6月末時点でのオンライン化済み手続き数は6,048で、全体の半分強という状況である。ベンチマーク手法が異なるため、欧州の数字と単純に比較することはできないが、図1及び図2に見るように欧州でも行政サービスのオンライン化が急速に進んでおり、日本が立ち後れないことを期待したい。
U.仏「ADeLE」プロジェクト
仏ラファラン首相は2004年2月9日、「ADeLE」(ADministration ELEctronique 2004/2007)と題する電子政府推進プロジェクトを発表した。このプロジェクトは政府、公的団体の代表、そして市民が6か月以上に渡って議論を行った結果をとりまとめたもので、簡単、安全、秘匿、個人への対応を主眼としている。
このプロジェクトは、2002年11月12日に発表されたIT推進計画「RE/SO 2007」と、2003年2月22日の電子政府推進庁(ADAE)設置を受け、電子政府の新たなステップを示すものである。他の欧州諸国と比較した電子政府の遅れを取り戻すべく、日常生活を便利にし、インターネットでのやりとりの秘匿性を保証し、政府サービスを向上させることを狙っている。
仏政府は、欧州諸国の例に倣い、2007年までに電子政府化により50〜70億ユーロのコスト削減を図ることを目的としている。これは、仏中央政府の一般行政経費(700億ユーロ)の7〜10%に当たる数字である。
このプロジェクトの予算は2004年から2007年までの4年間で18億ユーロ(1年当たり4.5億ユーロ)と見積もられている。そのうち8.5億ユーロは、仏財政省の3つの主要プログラム、コペルニック(COPERNIC:オンライン納税)、アコールU(ACCORD II:中央政府会計)及びエリオス(HERIOS:地方自治体会計)に充てられる。カルト・ビタル(Carte Vitale:ICカードによる健康保険証、日本の健康保険証に相当)と電子IDカードも、大きな予算項目である。
このプロジェクトでは、電子政府アクションプラン(P2AE)として今後実施される140の措置が挙げられ、それぞれの実施年限も記載されている。その項目と、項目ごとの措置数を以下に示す。
T.簡単に、誰でもいつでも使えるより多くのサービスの提案(合計74措置)
A. 市民向けサービス(計38措置)
1. 雇用と人生の形成(3措置)
2. 家族、健康、退職(9措置)
3. 教育(7措置)
4. 環境(2措置)
5. 道路情報(1措置)
6. スポーツ(1措置)
7. 行政手続き(8措置)
8. 選挙(1措置)
9. 行政との関係(5措置)
10. 税(1措置)
B. 企業向けサービス(計26措置)
1. 企業の日常活動(5措置)
2. 行政手続きと経済発展(4措置)
3. 社会、健康及び環境分野(8措置)
4. 職業収入へのサービス(9措置)
C. 団体向けサービス(4措置)
D. 地方自治体向けサービス(6措置)
U.欧州パートナーとの協力による公共サービスの現代化への貢献と、相互の信頼による電子政府の発展の加速(合計66措置)
A. 公共サービスと電子政府の改善(計40措置)
1. 公務員へのサービス(5措置)
2. 行政向け情報システム(28措置)
3. 教育管理の現代化(4措置)
4. 改革の推進(3措置)
B. 情報システムのセキュリティの実装と強化(計7措置)
1. 情報システムのセキュリティ強化計画への貢献(4措置)
2. セクター別安全基準政策(1措置)
3. サービスの安全性と相互接続性を強化するために必要な認証(1措置)
4. アクセスと資格授与の管理(1措置)
C. 電子政府の概要(計15措置)
1. 電子政府に関する法律の整備(1措置)
2. 共通参照基準の確立(4措置)
3. ノウハウと相互接続性の組み込み(3措置)
4. サービス導入前のインフラ整備(3措置)
5. 通信インフラの整備(2措置)
6. ユーザの支援(1措置)
(1.〜6.に分類されない措置が1つある)
D. コミュニケーションと評価のツール(計4措置)
1. コミュニケーション計画(1措置)
2. プロジェクトフォローアップのための指標観測(2措置)
3. ネットワークの先導(1措置)
今後のスケジュールは、以下のとおりとされている。
- 2004年 政府内サービスの第1段階の立ち上げ、電子政府推進計画(SDAE)作成
- 2005年 産業界での準備、SDAEの第1段階の実施
- 2006年 「私の公共サービス」の開始
- 2007年 電子政府の開始、行政情報システムの共通参照基準への収束
ADeLEプロジェクト発表の後、ADAEのソレ長官は、「公的資金は情報サービス企業を援助する性質のものではない」として、情報サービス産業を牽制した。
ところで、ADAEのADeLEプロジェクトのページ(http://www.adae.gouv.fr/adele/)に関係するドキュメントが公表されているのだが、ここではMS Wordフォーマット(.doc)、PDFフォーマット(.pdf)、Rich Textフォーマット(.rtf)に加え、OpenOfficeフォーマット(.sxw)でもダウンロードが可能である。
ソレ長官は「今日、政府のコンピュータの98%が同じOSを使っており、競争状態にない。我々はLinuxのようなフリーソフトウェアを徐々に導入し、競争状態を創り出す。この件について政府は明確な立場だ。我々は代替品を創り出すために、フリーソフトウェアを支持する」と述べているが、ADAEのサイトが実際にフリーソフトウェア(OpenOffice)の支持を実践している。経済・財政・産業省 産業・情報技術・郵政総局(DiGITIP:IT産業を所管)のサイトでは未だそういう動きは見られないが、仏国内をはじめ、ゆくゆくは国外へも波及していくことを期待したい。
余談になるが、先日、小生の自宅に「国勢調査」の調査票が届いた。仏では全数調査の国勢調査を10年ごとに行っているが、そのデータを補完するために、毎年、標本調査を行うこととなった。小生の居住地区の場合、地区単位で標本を決めており、約8%の世帯が今回対象となっている。小生は、たまたまそれに当たったようである。
記入項目数がかなり多く、面倒だと思っていたら、督促状が来た。「先日、お宅を訪ねたが不在だったので」で始まる督促状によれば、仏国に居住する全ての者が法的に回答義務を負っているとのこと。調べてみたら、罰金を含む罰則措置があるようだ。
仏全土で見ると数百万の回答があるわけで、当然オンラインでの回答もできるのだろうと思ったら、調査票にはその旨の記載はない。仏政府の電子政府ポータルサイト(http://www.service-public.fr/)や調査主体である国立統計経済研究所(INSEE)のサイト(http://www.insee.fr/)、居住地区の自治体(調査実施を委託されている)のサイトなどを探し、さらには検索エンジンで探してみたが、どうやらオンラインでの回答システムはなさそうである。先のP2AEでは、市町村から統計局への戸籍情報の送付を2004年から2006年にオンライン化する、という項目はあるが、国勢調査の話は出てこない。
ちなみに、あまり好ましくない例かも知れないが、小生の知人がフランスで無人速度取締機に速度違反の現場を押さえられた。その話を聞いた小生は、反則金の支払いを命じる書類が3〜4日で郵送されてきたという迅速さにも驚いたが、それにも増して、オンラインでクレジットカード番号(と反則金書類にある番号)を打つだけで反則金の支払いが完了するシステム(https://www.amendes.gouv.fr/saisienum.jsp)が既に稼働していることにとても驚いた。
それはそれで便利であることを否定するつもりはない。しかし、反則金よりももっと多くの国民が関係し、かつ集計等の労力も莫大な国勢調査の方を、先にオンライン化してはいかがなものかと思うのである。小生は、調査員を介した調査票回収よりは、SSL等を使ったオンラインでの調査集計の方が、プライバシーの面でも安心できる。お金が絡まない分、技術的には国勢調査の方がオンライン化が楽なのではないかと思うのだが、先の図2にも見るように、収入が絡むところからオンライン化してしっかり徴収することが優先されるということなのだろうか。
V.産業動向
<仏:オレンジ、2004年下半期にUMTS商業サービスを開始予定>
仏オレンジ(移動体通信、フランス・テレコム子会社)は2月23日、UMTS商業サービスを英及び仏にて2004年下半期から開始する予定であると発表した。同社はまた、2004年にUMTS開発センターを英、仏、タイ、蘭、中国、日本及び米国(3か所)に設置する予定で、このうち英、仏、タイのセンターは既にオープンしているとした。
同社のブルトン会長は、「我々が英及び仏で今年後半にUMTSサービスを提供する旨発表することにより、固定系及び移動体の双方で、フランス・テレコム・グループの戦略にとってブロードバンドが重要であると再度主張する。我々の集約化されたアプローチのおかげで、ユーザは固定系・無線系・インターネットの間でシームレスなサービスを享受できる」とした。
なお、同社は2003年に、UMTSの無線アクセスネットワーク(RAN)の構築に関し、アルカテル、ノキア、ノーテルの3社をパートナーとして選定している。
W.政策動向
<EU:IT発展に向けた報告書>
欧州委員会は2月3日、「欧州を高速で繋ぐ:電気通信分野の最近の発展」と題する報告書を採択した。欧州委員会のリーカネン委員(企業・情報社会担当)は、「eEurope計画はEUにおける生産性と競争力を向上させ、またEUの全ての地域の人々が情報社会から最大の利益を得るための、我々のアプローチのカギとなる要素である。それは根付き始めた。しかし、この報告書は、加盟国と協力しつつ、我々が今やギアをシフトアップする必要があることを示している」と述べた。
この報告書では、ITを効果的に活用するために継続的な政治的コミットメントが必要であることと、更なる発展に対する障害を除去するための行動を特定することに、主眼が置かれている。特に、以下の点が強調されている。
- 通信新フレームワーク法を自国国内法へ適用していない(そもそも2003年10月末までに適用することとされていた)加盟国は、完全かつ効果的にこれを適用すること。
- 政府は、様々な方法によりIT産業を支援すること。ブロードバンドと第3世代携帯電話は特に加盟国の戦略が期待されている。知的所有権、デジタル著作権管理、信用とセキュリティ、相互運用性と標準化、周波数管理の各分野で、利害関係者との間で作業を続けていく。
- ブロードバンド国家戦略を策定していない加盟国は、直ちにこれを策定する必要がある。同国家戦略の下、昨年12月に決定された「欧州成長イニシアチブ」(パリ駐在員報告2003年12月号参照)のブロードバンド/デジタルデバイドプロジェクトを推進する必要がある。
この報告書は、今後、欧州議会に報告される予定である。
©JEITA,2004
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