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パリ駐在員報告
 【 2004年9月号 】



 欧州景気動向とIT関連企業業績

  JEITAパリ駐在員 福田 賢一 (JETROパリ事務所)


【 欧州景気動向 】

90年代中頃から安定的な成長を見せていたユーロ圏経済は、2001年から減速傾向に転じたものの、2003年後半から回復傾向にある。しかしながら、日本及び米国に比べ、ユーロ圏の景気の回復は緩やかである(図1)。また、2004年に入ってからは、輸出・輸入ともに緩やかに増加傾向にあり、景況感も改善している。他方、失業率は緩やかに上昇を続け、直近の数字では9.0%(2003年6月)となっており、個人消費も低調である。

図1 ユーロ圏及び日米の実質GDP成長率(前期比)
図1
(出所)欧州委員会統計局、内閣府経済社会総合研究所、米国商務省経済分析局


為替に目を転じると、ユーロは円及び米ドルに対して2002年半ば頃から値を上げ続け、2003年に入ってユーロ高の勢いが顕著なものとなった(図2)。2003年後半以降、特に米ドルに対して高値をつけている。ユーロの高止まりは、企業活動に大きな影響をもたらしている。


図2 ユーロの対円及び対米ドル為替レート
図2
(出所)欧州中央銀行

景気の回復は緩やかに進みつつあるものの、投資及び個人消費の回復が遅れており、引き続き景気動向は厳しい状況にある。IT関連企業の業績がどうなっているか、2004年第2四半期の各社業績が発表されたので、簡単にまとめてみた。


【 IT関連企業の業績 】

欧州IT関連大手企業の業績をいくつかまとめた。企業によっては、第2四半期の計数を公表せず上半期の計数としている場合があり、企業ごとに数字の取り方が異なっているが、ご容赦願いたい。

1.通信
 携帯電話及びインターネット関係が好調である。

  • ブリティッシュ・テレコム(英)
     2004年第2四半期の売上は45億6,700万ポンド(前年同期比0.4%減)、EBITDAは14億4,400万ポンド(前年同期比1.8%増)とともに減少した。また、6月末時点での同社のADSL加入者数は270万で、1年間で154%の増となった。

  • ドイツ・テレコム(英)
     2004年第2四半期の売上は144億1,200万ユーロ(前年同期比6.0%増)に増加し、EBITDAは61億5,500万ユーロ(前年同期比30.7%)と大幅に増加した。
     同社の携帯電話子会社Tモバイルの2004年第2四半期売上は、62億3,700万ユーロ(前年同期比12.2%増)、EBITDAは32億1,000万ユーロ(前年同期比53.7%増)と大幅に増加した。
     同社のインターネット子会社Tオンラインの2004年第2四半期売上は、5億ユーロ(前年同期比11.4%増)、EBITDAは1億2,800万ユーロ(前年同期比26.7%増)と大幅に増加した。また、同社のDSL加入者数は6月末で290万、1年間で32.6%の増となった。

  • フランス・テレコム(仏)
     2004年上半期の売上は231億8,200万ユーロ(前年同期比1.4%増)、償却前営業利益は89億ユーロ(前年同期比4.5%増)と増加した。
     同社の携帯電話子会社オレンジの2004年上半期売上は、95億3,600万ユーロ(前年同期比10.7%増)、償却前営業利益は36億8,300万ユーロ(前年同期比12.7%増)と大幅に増加した。
     同社のインターネット子会社ワナドゥーの2004年上半期売上は、13億6,000万ユーロ(前年同期比10.8%増)、償却前営業利益は1億2,600万ユーロ(前年同期比15.9%増)と増加した。同社ブロードバンド接続の6月末時点での仏国内加入者数は231万5,000で、1年間で66.0%の大幅な増となった。

  • テレフォニカ(西)
     2004年第2四半期の売上は、73億6,550万ユーロ(前年同期比3.7%増)、EBITDAは32億5,510万ユーロ(前年同期比3.8%増)と増加した。
    同社の携帯電話子会社テレフォニカ・モビレスの2004年第2四半期売上は、28億1,030万ユーロ(前年同期比8.8%増)、EBITDAは11億6,910万ユーロ(前年同期比0.9%増)と増加した。

2.通信機器
 収益は引き続き改善傾向にある。

  • ノキア(フィンランド)
     2004年第2四半期の売上は66億4,000万ユーロ(前年同期比5.4%減)に減少したが、純益は7億1,200万ユーロ(前年同期比14.1%増)へ増加した。同社は売上の減少について、携帯電話機の販売台数が南米及び中国で大幅に伸びたものの、欧州及びアフリカで大きく落ち込んだことを理由のひとつに挙げている。同社は第3四半期の売上を66〜68億ユーロと予測しているが、これは昨年同期(69億ユーロ)よりも少ない数字となっている。

  • エリクソン(瑞)
     2004年第2四半期の売上は、326億瑞クローナ(前年同期比18.1%増)と増加し、純益は53億瑞クローナ(前年同期は27億瑞クローナの損失)と黒字に転じた。同社は携帯電話 場の今後について、現在は契約数15億、普及率24%であるが、2007年には契約数20億超、普及率30%に達すると見ている。

  • アルカテル(仏)
     2004年第2四半期の売上は30億7,800万ユーロ(前年同期比2.3%減)と減少したが、営業利益は1億9,000万ユーロ(前年同期比9.0倍)に回復、純益も2,300万ユーロ(前年同期は6億7,500万ユーロの損失)と黒字に転じた。同社は「米ドル・ユーロの為替レートが変化しなければ、第3四半期の売上は、前年比で10%以上の増加が予想される」としている。
3.その他
  • トムソン(仏、家電、旧トムソン・マルチメディア)
     2004年第2四半期の売上は18億6,600万ユーロ(前年同期比8.9%増)、営業利益は2億5,700万ユーロ(前年同期比24.2%増)と大きく増加した。同社CEOは、「2004年の急成長には非常に満足している。2004年通年での売上の増加は7〜9%になると予想される」としている。

  • フィリップス(蘭、家電・電子)
     2004年第2四半期の売上は72億8,000万ユーロ(前年同期比11.5%増)へ増加し、純益は6億1,600万ユーロ(前年同期比17.7倍)と回復した。同社売上の約2割を占める半導体部門の売上が27.3%増加し、1億3,900万ユーロの営業損失から1億4,300万ユーロの営業利益へ転じたことが大きい。同社は2005年末までに4億ユーロのコストを削減する計画を進めている。

  • SAP(独、企業向けソフトウェア)
     2004年第2四半期の売上は、17億8,100万ユーロ(前年同期比8.7%増)、営業利益は3億9,100万ユーロ(前年同期比15.0%増)と増加した。同社は「2004年通年でのソフトウェア部門での売上は、約10%増加すると予想される」としている。

  • STマイクロエレクトロニクス(仏伊、半導体)
     2004年第2四半期の売上は、21億7,200万米ドル(前年同期比27.6%増)、営業利益は1億7,900万米ドル(前年同期比47.9%増)と大幅に増加した。同社CEOは、「第3四半期の売上は、前期比で2〜8%、前年同期比で23〜30%の増加になると予想される」としている。

  • インフィニオン(独、半導体)
     2004年第2四半期の売上は、19億800万ユーロ(前年同期比29.7%増)と大幅に増加し、営業利益は500万ユーロ(前年同期は1億1,000万ユーロの損失)と黒字に転じた。売上の約4割を占めるメモリ製品が、前年同期比42.5%の大幅な売上増となったことが主因である。売上高を市場別に見ると、アジア太平洋地域が前年同期比39.8%の大幅な増で全体の36.4%を占めており、欧州外での売上が全体の約6割を占めている。

【 政策動向 】

<仏:仏上院、電子政府に関する報告書発表>
 仏上院は7月、電子政府に関する報告書を発表した。同報告書によると、仏において現時点でオンライン化されている手続きは全体の15%であり、政府はこれを2006年末に66%、2007年末に100%とすることを目標としている。オンライン化された手続きの数で見ると、世界で12番目、欧州で7番目である。2004年3月時点での、電子政府の進展状況は以下のとおりである。

  • オンラインサービス数200以上
  • 行政サイト数5,500(2002年比17%増)
  • オンラインで入手可能な行政手続様式の割合90%以上(2002年74%)
  • 行政サービスポータルサイト(http://www.service-public.fr/)へのアクセス毎月約200万人(前年比54%増)
  • 2004年のオンライン税申告者数125万人(前年60万人)。インターネットを保有する仏人の18%に相当。しかし、申告者全体の3.7%に過ぎない
  • 国民健康保険ICカード(SESAM-Vital)発行数5,000万枚。半数以上の保険料申請が、このICカードからなされている

 仏では既にADELEプロジェクトとして電子政府を推進しており、2004年から2007年のプロジェクト期間中に18億ユーロの投資を予定している。同プロジェクトでは、2007年までに電子政府化により50〜70億ユーロのコスト削減を図ることを目的としており、これは仏中央政府の一般行政経費(700億ユーロ)の7〜10%に当たる数字である。また、電子政府化により、2003年に1,200人、2004年に4,500人、2005年に約8,000人(職員数の0.5%に相当)の削減を見込んでいる。
 同プロジェクトでは、一般国民向けのサービス、具体的には引っ越し届けの一元化、戸籍の電子化、電子身分証明書(電子署名登録により、この証明書からパスポートの発行等が可能となる)等をアピールしている。企業に対しても、税申告、職業紹介サービス、公共調達手続きの電子化等のサービスがあるが、2004年1月にMEDEF(仏企業運動:日本の経団連に相当)が発表した白書「電子政府に関するMEDEFの提案と薦め」では、行政電子化は一般国民向けサービスの簡素化及び効率化を目指しており、企業に対するメリットは少ないと指摘されている。



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