
【 2005年5月号 】
はじめに
ここしばらくの間、RoHS/WEEE指令の仏国内法制化の議論が続いたので、目先を変えて、今回は仏の経済力の源泉について取り上げてみる。
このテーマについては、小生の前任である山本氏がパリ駐在員報告2002年4月号で取り上げているところであるが、今回はその数字を最新のものに改めた。ただし、一部用いた資料が異なる点を御了承願いたい。
基礎指標
議論の前提として、日仏の経済力の比較を行ってみる。現在のユーロ高(約140円/ユーロ)は、経済実態を反映したものとは考えがたいことから、購買力平価で換算したGDPを見る(表1)。1人当たりGDPでは日仏に殆ど差がないが、年間労働時間は仏の方がはるかに少ない(表2)。つまり、仏は日本と同等の1人当たりGDPを有しながら、余暇の時間も確保しているのである。ただし、ここでは議論しないが、仏の方が日本よりも国民各層間の経済的格差が大きいことも、忘れてはなるまい。
表1 購買力平価で見た1人当たりGDP(2001年)
資料:OECD
表2 年間実労働時間(2001年)
資料:OECD
産業構造
日仏のGDPに占める第一次産業、第二次産業及び第三次産業の比率を表3に示す。
第一次産業の比率は日仏で倍の格差がある。しかも、仏の生鮮食料品価格は、生活者実感として日本の半額程度であることから、実態的な格差は更に大きいのではないかと思われる。
表3 GDPに占める各産業の比率(2002年)
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第一次産業 |
第二次産業 |
第三次産業 |
日本 |
1.4% |
31.8% |
66.8% |
仏国 |
2.9% |
25.6% |
71.6% |
資料:世界銀行
農業
広大な平野に展開する仏農業は、GDPの5%近く、輸出額の8%以上を占める重要な産業である。農業の付加価値額及び生産額の対GDP比を表4に示す。
表4 農業の付加価値額及び生産額の対GDP
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付加価値額比率 |
生産額比率 |
日本(2002年) |
1.32% |
2.52% |
仏国(2003年) |
2.42% |
4.73% |
日仏の差 |
1.10% |
2.21% |
資料:INSEE、内閣府経済社会総合研究所
ちなみに、供給熱量ベースでの総合食料自給率を見ると、日本の40%(2003年)に対し、仏は130%(2002年)である。
食料品の輸出入の状況を表5に示す。日本を基準にすれば、仏の食料品の貿易収支はGDPに1.28%貢献している計算となる。
表5 食料品の輸出入額(2003年)
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輸出 |
輸入 |
(輸出-輸入)/GDP |
日本 |
19億ドル |
392億ドル |
-0.86% |
仏国 |
300億ドル |
261億ドル |
0.42% |
資料:国連、世界銀行
食品産業
仏食品産業は1,247億ユーロの生産高(2003年)で、自動車(同1,080億ユーロ)、電気電子機器・部品(同771億ユーロ)、化学(同749億ユーロ)等を上回る、仏最大の製造業である。
しかし、意外なことに付加価値額ベースで見ると、
日本の食品産業の方が、GDPへの寄与率が高い(表6)。
表6 食品産業の付加価値額及び生産額の対GDP比
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付加価値額比率 |
生産額比率 |
日本(2002年) |
2.47% |
6.44% |
仏国(2003年) |
2.25% |
8.73% |
日仏の差 |
-0.22% |
1.79% |
資料:INSEE、内閣府経済社会総合研究所
観光関連産業
仏は歴史的・文化的遺産という観光資源に恵まれているのみならず、欧州各国との地の利がよいこと、南仏の海岸やアルプス山脈といったバカンスの名所を有し、観光関連産業が発達している(表7)。
表7 観光関連産業の付加価値額及び売上高の対GDP比(2002年)
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付加価値額比率 |
生産額比率 |
日本 |
2.10% |
4.26% |
仏国 |
4.20% |
8.40% |
日仏の差 |
2.10% |
4.14% |
資料:観光白書2003年版、Compte du tourisme2003
注:売上高は観光・兼観光。兼観光とは、出張や帰省に含めて1泊以上の観光を行った場合をいう。
仏の付加価値額は売上高の1/2として試算した
なお、仏は外国旅行者の受入数で世界第1位、国際旅行収支の黒字幅で西、米に続き世界第3位である。逆に日本は国際旅行収支の赤字幅で独に次いで世界第2位である。
航空宇宙産業
欧州の航空宇宙産業は、米国のそれと対抗する一大勢力である。特に仏は民間航空機ではエアバス社の本社、宇宙ではアリアン・スペース社を有し、欧州の航空宇宙産業の中心といえる。
表8 航空宇宙産業の付加価値額及び生産額の対GDP比(2002年)
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付加価値額比率 |
生産額比率 |
日本 |
0.08% |
0.27% |
仏国 |
0.48% |
1.61% |
日仏の差 |
0.40% |
1.33% |
資料:SESSI、GIFAS、(社)日本航空宇宙工業会
注:日本の付加価値額は、生産額に仏の付加価値額/生産額を乗じて試算した
防衛産業
仏はEADS、タレスといった防衛産業を有する武器輸出国である。防衛産業の大半は航空宇宙分野が占めるため、これを除いた数字を表9に示す。日本には武器輸出三原則という事情があるとはいえ、いずれにせよ仏防衛産業は大きな産業であることは確かである。
表9 防衛産業の付加価値額及び生産額の対GDP比(2002年)
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付加価値額比率 |
生産額比率 |
日本 |
0.03% |
0.06% |
仏国 |
0.36% |
0.72% |
日仏の差 |
0.33% |
0.66% |
資料:仏国防省、防衛庁、GIFAS、(社)日本航空宇宙工業会
注:仏の数字は全防衛産業生産額(143億ユーロ)から航空宇宙分野関連分(28%)を除いたもの。 日本の数字は防衛庁資料に工業生産額の0.6%との記述があるため、これを基に推計
原子力関連産業
仏はコジェマ社、フラマトム社といった原子力関連企業を有するとともに、総発電量の78%を原子力で賄っている原子力大国である。
ただ、原子力関連産業を網羅した適切な統計項目がないことから、仏については国民経済統計から「原子力産業・コークス化」の項目を採用した。また、電力輸出額に占める原子力発電分をこれに加算した(表10)。
表10 原子力関連産業の付加価値額及び生産額の対GDP比(2002年)
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付加価値額比率 |
生産額比率 |
仏国 |
0.19% |
0.38% |
資料:MINEFI
注:原子力発電による電力輸出については、電力輸出額に原子力比率を乗じて算出し、 付加価値額は生産額の1/2とした
ファッション産業
いわゆるブランド物は、仏国の競争力ある分野であろう。ただし、適切な統計項目が存在しないため、ここではファッション産業として捕捉する(表11)。
表11 ファッション産業の付加価値額及び生産額の対GDP比(2003年)
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付加価値額比率 |
生産額比率 |
日本 |
0.33% |
1.26% |
仏国 |
0.58% |
2.21% |
日仏の差 |
0.25% |
0.95% |
資料:INSEE、内閣府経済社会総合研究所
注:仏の数字は「衣料・毛皮」、「靴・皮革」、「石鹸・香水」。 日本の数字は「皮革・毛皮」、「身回品」で、生産額比率は仏の付加価値額比率/生産額比率を用いて推計
まとめ
以上に述べた仏の特徴的な産業について、付加価値額及び生産額ベースでの、GDPへの貢献度の日仏の差を表12に示す。
これら7つの産業だけで、付加価値額ベースで4%強、生産額ベースでは11%強、仏産業の方が強い。特に農業と観光関連が際だって強いことが目をひく。
表12 仏に特徴的な産業の日仏差(対GDP比)
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付加価値額比率 |
生産額比率 |
農業 |
1.10% |
2.21% |
食品産業 |
-0.22% |
1.79% |
観光関連産業 |
2.10% |
4.14% |
航空宇宙産業 |
0.40% |
1.33% |
防衛産業 |
0.33% |
0.66% |
原子力関連産業 |
0.19% |
0.38% |
ファッション産業 |
0.25% |
0.95% |
合計 |
4.15% |
11.46% |
農業を考えると、日本は可耕作面積が少なく、気候条件も厳しいことから、仏のようにはいかない。
また、観光関連についても、日本は島国であり、かつ欧米から遠い地にあり、気候的にも観光に適する期間が短いという悩みがある。
航空宇宙、防衛、原子力は、いずれも技術と経験の蓄積が重要な産業であり、キャッチアップは容易ではないであろう。
こういった産業を有することも国力の1つなのかと考えさせられてしまった。
■ 参考:ICT産業 ■
ICT産業の日仏比較を表13に示す。上に挙げた仏の強い産業の優位分が、日本のIT産業の優位分とほぼ同じであることが分かる。
表13 ICT産業の付加価値額及び生産額の対GDP比(2002年)
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付加価値額比率 |
生産額比率 |
日本 |
8.79% |
18.57% |
仏国 |
3.76% |
7.94% |
日仏の差 |
-5.03% |
-10.63% |
資料:資料:INSEE、情報通信白書2004年版
注:仏の数字は「電気電子機器製造業」、「同部品製造業」及び「通信サービス業」
© JEITA,2005
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