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平成23年度 ソフトウェアに関する調査報告書Ⅱ(IS−12−情シ−6)要旨
組込み系ソフトウェア開発の課題分析と提言
〜開発現場に求められるアーキテクトとは〜

1. 活動の概要
 ソフトウェア事業基盤専門委員会では、2011 年度から「アーキテクト」という新たな視点から組込み系ソフトウェア開発の課題解決に取組み、2011 年度はワークショップ開催とアンケート調査を行っている。2011 年度は10 月初めにCEATEC JAPAN 2011 において開発スピードアップに関する当専門委員会の取組みについて講演を行い、ここでアーキテクチャ設計の重要性を訴えた。続く10 月下旬には「組込み系開発スピードアップ・ワークショップ2011 日本の組込み系開発におけるアーキテクト〜開発現場に求められるアーキテクトとは」を開催し、アーキテクチャ設計やアーキテクトに関する事例報告と意見交換の場を設けるとともに、アーキテクチャ設計やアーキテクトの現状や役割、求められるスキルなどに関して参加申込み者への事前アンケートも実施した。
 そして、11月から12月にかけて組込み系ソフトウェア開発におけるアーキテクトの役割などの調査を行うために、当協会および財団法人にいがた産業創造機構(NICO)、組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)、組込みシステム産業振興機構(ESIP)の参加企業等を対象にアンケート調査を実施し、71 名から回答を得た。この回答をもとに、アーキテクトの実態分析を行い、報告書としてまとめた。


2. 組込み系アーキテクトの定義と役割
 最初にアーキテクトの定義と役割について述べる。アンケートではアーキテクチャの決定方法や開発の各工程における役割を聞き、その結果を分析してまとめている。例えばアンケートではアーキテクチャの決定方法としてはチームで選定し最終的には一人で決定するのが望ましいという結果を得た。またアーキテクトの役割は企画戦略や技術ロードマップ検討などのような上流工程へシフトすることを期待されていることが分かった。一方、スーパーマン的なアーキテクトを望む声もあったが、これはアンケート形式に依存した可能性もあるので今後深堀していきたい。


3. 組込み系アーキテクトの必要性
 次にアーキテクトの必要性やアーキテクトの有無、課題について述べる。アーキテクトの必要性は広く認識され、半数以上の組織でアーキテクトを置いていることが分かった。
またアーキテクトが必要な理由としては、技術系が「全体最適な構造設計するため」、組織・管理系は「意思決定の迅速化及び戦略的な開発を行なうため」がトップの回答であった。そしてアーキテクトを置いているときの課題は、「アーキテクトに権限が無い」、「アーキテクトの役割と定義が不明確」な点が挙げられた。またアーキテクトを置かない理由としては、「人材面での不足」や「組織におけるアーキテクトの明確な役割が認知されていない」が挙げられた。


4. アーキテクトに必要なスキル
 ここではアーキテクトに必要なスキルについて述べる。アーキテクトに必要なスキルとしては製品戦略や将来の技術についてのスキル、設計パターンや開発手法の選定、アーキテクチャの妥当性の説明のスキルが必要だとして求められていることが分かった。これらは上流工程の活動と大規模化するソフトウェア開発の効率化のためのスキルである。逆に詳細な実装のスキルは求められておらず、またプロジェクトの規模や組織特性によって求められているスキルに違いがあることも分かった。例えば大規模プロジェクトの従事者ほど、ソフトウェア方式設計を実施するのに最低限必要なスキルを持っていると判断していることが分かった。またアーキテクトを置いている組織は、主要なスキルは充足していると判断していることが分かった。さらに伝達能力の一部としてドキュメントやコミュニケーションのスキルも求められていることが分かった。


5. アーキテクトの権限
 ここではアーキテクトの役割と権限について述べる。現状としてはアーキテクトにプロジェクト進行などの強い権限は期待されておらず、レビューに参加して指摘をするという役割を求められている。逆にアーキテクチャ設計を決定するなどの権限がないため、役割が果たせていないと推測される。次にアーキテクトの組織体制上の位置付けとしては人事職制上にないがプロジェクト運営としては明示していることが多いことが分かった。一方でアーキテクトの役割や職制を明示化せずにアーキテクトとしての仕事をしている場合もあることが分かった。またアーキテクトの処遇として、給与面などで優遇されているのがほとんどないことが分かった。


6. アーキテクトの育成
 最後にアーキテクトの育成について述べる。アンケート調査から回答者の6 割以上がアーキテクトの育成のために施策を実施していることが分かった。実施している施策は社内研修や OJT による育成が挙がった。またアーキテクトの認定制度を設けている組織もあった。しかし一方でアーキテクトの育成については困難であるという意見も多く、今後はアーキテクト像を明確にして、アーキテクトの選抜や育成を調査する必要がある。さらにアンケートでは産学官で何を行うべきかを自由記述で意見を求めている。その意見をまとめると、アーキテクトの定義、資格認定制度、ガイドライン、育成プロセスといった「制度/規定類の整備」を望んでいるのと、コミュニティ、交流の場、情報発信といった「啓蒙活動」を望んでいる考えが大半であることから、これらの意見を深く掘り下げることで、アーキテクト育成に対する今後取り組むべき課題を明らかにし、施策について提示していきたい。

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