目指す姿①:政府の最重要政策である物価上昇を上回る賃上げの実現
政府情報システム調達においても、元請・下請を問わない適正な価格転嫁と利益の確保が進めば、賃上げ実現のモメンタムの維持、加速につながると考えます。
2024年12月4日
一般社団法人 電子情報技術産業協会
ソリューションサービス事業委員会
IT サービス調達政策専門委員会
政府の最重要政策である物価上昇を上回る賃上げと、産業全体の発展を両立させるとともに、持続可能な人材確保による日本全体のDXを実現するため、発注者(官公庁)を起点とする商取引全体において適正取引を実現すべきであるとの考えから、下記のとおり提言します。
ソリューションサービス事業委員会ITサービス調達政策専門委員会(以下、「本専門委員会」)は、政府情報システム調達に係る諸課題の解決に向けた政府動向等の把握に努め、情報システム調達に関する諸政策に対し、関係機関への意見、提言等を通して、適切な制度の採用や、ガイドライン等への反映を図る活動を推進しております。
この活動の一環として、昨年9月26日には、「政府情報システムのソリューションサービス事業分野における適正取引の確保に向けた提言について」ⅰを公表しました。
昨年の提言公表以降も、我が国経済は依然として賃金上昇を上回る形で物価上昇が続いています。政府は「成長と分配の好循環」及び「賃金と物価の好循環」の実現に向けた取組を推進し、物価高を上回る所得の増加に向けた政策を進めています。構造的な賃上げに係る政策として、中小企業の賃上げに向けた価格転嫁の促進や、企業への賃上げ要請と税制優遇措置、政府調達における賃上げ実施事業者に対する加点措置等を実施しているところです。
事業者側は、こうした政策を受けて本年の春季労使交渉で33年ぶりの高水準の賃上げを実現しています。元請事業者は、賃上げに対応するとともに、価格転嫁政策にも対応することにより、中小企業をはじめとした下請事業者の価格転嫁は促進されておりⅱ、政策が着実に効果を生み出してきたと言えます。
その一方で、従業員の賃上げと下請事業者の価格転嫁の両方への対応により、元請事業者は適正な利益を確保することが非常に困難な状況となっています。ソリューションサービス事業にとって非常にインパクトのある政府情報システム調達においてⅲ、これは喫緊の課題です。
これを解決するためには、元請・下請のような民民取引における価格転嫁だけでなく、官民取引における価格転嫁が必要不可欠ですが、官民取引の慣行上、人件費単価等の見直しが難しいという別の課題も存在しています。例えば、予算確定後からの予算額あるいは契約金額の変更は忌避されることや、前年度予算の踏襲もしくは削減が慣例化していること、また、複数年契約等ではそもそも予算が固定化されていることといった実態があります。
これに対して元請事業者各社は、最新技術の活用や効率化による生産性向上を通じた運用経費削減など、個別努力で対応しているものの、こうした政策への対応と事業成長を両立し続けることが非常に厳しい状況となっています。
以上のような状況を踏まえ、本専門委員会では、本年も引き続きこの提言テーマを最重要テーマと位置付け、提言により目指す姿の実現に向けて取り組んでまいります。
政府情報システム調達においても、元請・下請を問わない適正な価格転嫁と利益の確保が進めば、賃上げ実現のモメンタムの維持、加速につながると考えます。
国際競争力確保や経済安全保障、生産性向上による国民の豊かさの享受等の観点から、我が国のDX推進は極めて重要であり、この担い手たる人材の確保が成功の鍵を握ります。国内売上全体の3割超がDX関連の売上ⅳとして着実に伸長しているソリューションサービス事業において、官民取引も含む価格転嫁の実現、それによる持続可能な賃上げにより、さらに魅力ある事業環境が生み出され、持続可能な人材確保やDXの推進にも大きく貢献するものと考えます。
本専門委員会は、政府情報システムのソリューションサービス事業分野における適正取引の確保に向けた本活動を通じて、政府の政策実現ならびに電子情報技術産業の発展、ひいては我が国経済の持続可能な発展の一助となるべく取り組んでまいります。