2009年06月

国際標準化対応支援委員会(CISAP) 発行

 
適合性評価制度の国際標準化について思うこと (梶屋俊幸/パナソニック(株))
ISO/IEC/IEA合同「エネルギィ有効利用と二酸化炭素排出削除ワークショップ」出席報告 (平川秀治/(株)東芝)
SMB(2月)会合報告について (原田節雄/(財)日本規格協会)
 
 

 「正確にモノを測るには、正確なモノサシが必要」という言葉がある。「モノ」とは所定の規格に基づいて設計された製品であり、「測る」とはその規格に適合しているかどうかを評価すること、つまり適合性評価である。また「モノサシ」とは合否を判定する基準であり、製品規格と適合性評価とは車の両輪であることを端的に説明した表現といえる。

 WTO/TBT協定(貿易の技術障壁に関する協定)では、強制・任意分野に関わらず各国の適合性評価手続きが貿易の阻害要因になってはならず、国際標準を各国手続きのベースにし、その結果を相互に認め合う旨が規定されている。ISOやIECではこの規定をベースにして適合性評価基準やルールの国際標準化を精力的に推進し、これら国際標準を活用する産業界にとってはグローバル事業を円滑に進めるための有効なツールのひとつとなっている。筆者は社内で製品認証に関わる業務に20年、適合性評価に関わる国際標準化に10年携わってきた経験から、標題に関する所見の一端を述べてみたい。

 「適合性評価の標準化」の目指すところは、「信頼性のある1回の適合性評価結果が、重複の評価なしに世界的に受け入れられる」ことであろう。ただ、目指すところに到達しないのが世の常であり、解決すべき種々の障害が存在するのが現実である。筆者がここ数年来関わっているIECEE(IEC電気機器・部品適合試験・認証制度)の国際審議では、

   

1)製品安全を中心とする認証分野は、独自の国内規制を実施している国が多い

2)従いCMC(認証管理委員会)に参加する各国代表には規制当局や認証機関が多い

という現状であり、委員から改善提案が提出されてもこれを採用するには法律改正が必要となる国があるために、結果として標準化が遅々として進まないといった事態が生じる。メーカーデータの活用制限がそのよい事例である。一部の国では国内法令の制約により、制度上の資格要件を満たすメーカーラボを活用した製品認証が与えられないという現実がある。また、適合性評価活動自体をその国の国内ラボで実施することを法律で義務づけている国もある。こうした標準化の阻害要因を取り除くためには該当国の規制当局にアプローチして国際制度の採用を働きかける必要があるが、この役割を上層のマネジメント組織であるCAB(適合性評価評議会)に担ってほしいと願うのは筆者に限ったことではない。CABには単に傘下3制度(IECEE、IECQ、IECEx)を監督する内向きの取組みのみならず、各国当局へのアプローチといった外向きの取組みに大いに期待したいところである。

 一方、こうした状況の中で制度のメインプレーヤである産業界の立場はいかにあるべきか。筆者が初めて国際会議に参加した時、審議の場に産業界代表があまりに少ないのに驚いた、というのが第一印象であった。特に適合性評価の分野では前述のように、中立性・公平性の観点から規制当局・認証機関の代表が大多数を占めることはある程度止むを得ぬこととはいえ、やはり制度のディベロッパ、プロバイダとユーザーとは同じ土俵で審議され合意されるべきと強く感じたものである。各国の規制緩和が進み、メーカーの自己責任原則が浸透していくなかで、今まさしく行政当局・認証機関・産業界に公平な制度実現のために産業界の国際審議への参画が強く求められている。また、たとえ産業界からの更なる参画が実現したとしても、自らの提案を国際舞台で採用させることが最終ゴールである以上、提案を実現するための何らかのテクニックが必要である。このテクニックが欧米の多国籍企業に見られる、企業のコーポレート部門と各国に散らばる分社の標準化仲間とのコラボレーションである。この点、日系企業は事業をグローバルに展開していながら、その長所を存分に生かせていないのではないかと感じる次第である。こうした水平展開を可能にするにはコーポレート部門の強力なリーダーシップが必要なことは言うまでもなく、同時に垂直展開、つまり経営幹部への啓発や、ものづくりの現場のニーズ把握といったアプローチも自らの標準化提案を実現する不可欠な要素といえる。

 筆者は昨年11月のIECサンパウロ会議にて、関係各位の助力によりCAB日本代表委員に選任された。適合性評価の実働部隊であるIECEEに関与しながら、同時にこれを管理監督するCABに身をおくという少々微妙な立場であるが、制度のユーザーであるという事実に変わりはない。IECの推進する“One standard, one test, accepted everywhere”の実現を目指し、微力ながら国際標準化に貢献したいと決意を新たにしているところである。

 標準化の真髄を端的に物語る私の好きな言葉を最後に引用したい。“Standards are of no use if not used.”の言葉は、疑いなく適合性評価の分野にも当てはまる。

筆者の梶屋俊幸氏

以上

 
 
 

1.まえがき

 本ワークショップは、IEA(国際エネルギィ機関/International Energy Agency)と、IEC、ISOの共催で、本年3月16日、17日にIEAが所属するOECD(経済協力開発機構/Organisation for Economic Co-operation and Development)パリ会議場(写真1)で開催された。もう一つの国際標準化団体であるITU-Tからもセッション議長等でこのワークショップに参加があった。

 全体の参加者は、登録ベースで290名程度、日本からは13名、IEA事務局長である田中伸男、その他2名の日本人がIEAから参加した。JEITAからはTC100正副国際幹事である平川秀治(報告者)江崎正(以上がCISAP渡航費補助対象)、南典政が参加した。

 会議の目的は、国際標準化団体がエネルギィ有効利用と二酸化炭素排出削減に寄与できるのはどの様な分野が一番効果的かを立案することであった。議論は幅広く行われ、政策、方針を中心に、標準化団体の上層委員会に、この分野での活動の活発化を促す勧告が出された。

 TC100国際幹事団としては、本ワークショップ参加の他、エネルギィ有効利用標準化でリエゾン関係にあるIEC TC59、TC111関係者と面談することができ、今回のWS参加をより有効に活用することができた。

写真1 パリ市内にあるOECD会議場

   
2.会議の構成と概要
 

 会議は、第1日目の最初の2セッションが全体会合、その後の2セッション、第2日の2セッションは二つの会議室で並行に行われ、最後のまとめを全体会合(写真2)、という構成で進行した。各セッションのタイトルを下記に示した。

 

   

OPENING PLENARY: The importance of energy efficiency standardisation
TOP DOWN VS BOTTOM UP: Can we measure efficiency from the end-use to the sectoral level?

1.A         TERMINOLOGY AND CALCULATION METHODS
1.B.        ENERGY MANAGEMENT
1.C.        SYSTEMIC APPROACH FOR INDUSTRIAL SYSTEMS
1.D.        SYSTEMIC APPROACH FOR POWER GENERATION

2.A         ENERGY EFFICIENCY OF BUILDINGS
2.B.        ENERGY EFFICIENCY OF ELECTRICAL AND ELECTRONIC APPLIANCES
2.C.        ENERGY EFFICIENCY OF DATA CENTRES AND NETWORKS
2.D.        ENERGY EFFICIENCY OF TRANSPORTATION

CLOSING PLENARY: introduced by Nobuo Tanaka, Executive Director, IEA
PANEL DISCUSSION and CONCLUSIONS

写真2 締めくくりの全体会合

   
3.各セッションから

 全体セッションでは、各国の一人あたりのGDP/一次エネルギィ消費の関係が示された資料が紹介された(図1参照)。日本は一人あたりGDPが多いのに一次エネルギィ消費が少ないことがわかる。EU諸国も少ない。反対に、米国、カナダ、オーストラリア、ロシアはエネルギィ消費が多いことが判る。また、図2では、2006年から2030年までにエネルギィ消費が87%増えると予想され、その多くが中国とインドであるなどが示されている。

図1 各国の一人あたりのGDP/一次エネルギィ供給の関係

 

図2 中国・インドと他のOECD以外の国のエネルギィ消費量の推移

 

 並行セッションでは個別のテーマで審議があった。

 エネルギィ効率の測定法は標準化団体で審議すべきテーマとして議論された。ISOから、この課題は、以前は魅力的(セクシー)なテーマではなかったが、最近は変わってきた。議長から、グラマーではないが重要な課題であると説明された。

 データセンターでのエネルギィ消費に関して、日本から発表があった。IP通信の通信量は年率40%で増加し、エネルギィ消費が同じ比率で増えると、2020年頃には、2005年の日本全体の発電量を総て消費することになる、という報告である(図3参照)。

図3 日本のデータセンターでのエネルギィ消費予想

 

 その他、いろいろなテーマで興味深い議論が行われた。ここでは紹介できないが、資料は下記のURLからダウンロードできる。

http://www.standardsinfo.net/info/livelink/fetch/2000/148478/13547330/index.html

 

   
4.提言

 本ワークショップでは、エネルギィ有効利用の促進には、IEAがG8向けに提案した25分野でのEE活動を実現するために、国際標準化団体であるIEC、ISOの役割の重要性が認識されたことは言うまでもない。

 議論の中で、施策と技術標準の整合性が必要なこと、標準化団体は再現性のある試験方法を検討し、規制の基準は公共機関が決めるべきであること、などの基本的合意が再確認された。

 また、民生用/商用の電気・電子機器は電気エネルギィ消費の約60%を占めており、また、増加傾向が続いていることから、JEITAがカバーする分野は非常に重要であることが認識された。IEAによれば、OECD諸国で現在利用可能な省エネルギィ機器を民生用として採用することにより、35%の節約と報告されている。しかし、これを実現するには、のり越えるべき各種の課題があり、国際標準化団体は、継続的に技術的寄与をすべきとしている。
   
5.むすび
 

 IEA-IEC-ISOの共催で開催された第一回省エネルギィ関連ワークショップに参加し、国際標準化団体の省エネルギィ分野での活動の重要性を、改めて認識することができた。IEC TC100は、5月中旬にAGS (Advisory Group for Strategy)とAGM (Advisory Group for Management)会合を開催し、AGSの勧告により、AGMで省エネルギィ標準化を所掌する新TA (Technical Area) 12を新設することが決まった。

 CISAP渡航費補助により今回のワークショップに参加することが可能となったことを記し、本報告を終わりたい。


以上

 
 
 

 2月18日に韓国(ソウル)で第134回IEC/SMB(標準管理評議会)会議が開催された。ジュネーブ以外の場所でSMB会議が開催されるのは、2007年2月の東京開催についで二回目になる。場所はソウルプラザホテル。ウェルカムディナーや昼食も含めて、二年前の東京会議を上回る賑やかな会議だった。韓国の電力系企業がスポンサーについていたのが大きいと思うが、国際標準の重要性を今の日本以上に認識しているのも韓国だ。

 今回のSMB会議ではブラジルが欠席し、合計14カ国の参加となった。各TCからの特別プレゼンテーションとして、日本が国際幹事を務めるTC110(フラットパネルディスプレイ)の御子柴議長からフラットパネルの市場拡大の動向や消費電力測定の問題に関するTC110活動が紹介された。JEITA関係の主な議事は以下のとおり。
 
 

EMF測定方法の指針作成(カナダNC提案)

カナダ作成文書を基本に、日本など数カ国がレビューする。
 

エネルギー効率と再生可能エネルギー(SG1)

用語の標準化がフランス主導でISO/IECプロジェクト委員会で進行する。

 

TC/SCの構造改革(アドホック26)

日本に不利な内容があったが、参考資料に留めることに成功した。
 

CDV/FDISでのフランス語翻訳必須化問題(フランスNC提案)

TC100の例外規定については、TC100とUTEの間で別途協議してもらうことにした。
 

決議は次期SMB委員会まで延期。

 

TC100の例外規定のIEC Directivesサプリメントへの記載(SMB決議)

DMTコンビナー、IECスタッフ、TC100幹事の間で討議し合意の上で作成する。
 

SC47EとISO/TC108の半導体加速度計標準化コンフリクト問題(ISO/TMB決議)

IEC案を若干修正したISO案をSMBで受け入れることにした。

 SMB会議終了後、韓国のSMB委員から、日本の国際会議出席支援体制を教えて欲しいとの依頼があった。韓国としても、より多くの専門家を国際会議に参加させて、国内の産業強化を図りたいという意向だった。

 国際標準化の世界は、友好関係だけでは進まない場合が多い。そのような国際標準化の表と裏を解説するために、筆者は数冊の著書を出している。国際標準化の世界の現実を知りたいなら「世界市場を制覇する国際標準化戦略」(東京電機大学出版局)を読んで欲しい。海外での会議に際し、外人と英語で互角に話し、外人と互角に食事をするのなら「目からウロコの英語とタイプの常識」(パレード・星雲社)を読んで欲しい。洋食のテーブルマナーについても詳しく説明している。

 今回のSMB会議を含めて、日本の国際標準化への取り組みの様子が、4月18日から始まるNHKの新番組「追跡!A to Z」(土曜日:夜8時から45分間)で7月25日に放映される予定になった。イタリアの委員が耳打ちしてくれたが、今回のNHKの放映取材により、各国のSMB委員が日本に一目置くようになったようだ。他国に余計な警戒心を抱かせるという懸念もあるが、ともかく国際標準化の場で日本のプレゼンス強化に繋がるだろう。

筆者の原田節雄氏

以上