WHO国際EMFプロジェクトの公開資料Fact Sheet 201
厚生労働省 国立保健医療科学院生活環境部 大久保千代次様の許可を得て、以下に転載
資料「電磁界と公衆衛生」 資料番号201 1998 年7月
VDU(表示装置)と人の健康
VDUは、VDTとも呼ばれ、主としてコンピュータの表示装置として使用されています。 表示装置(VDU)が大量生産され、職場に導入しはじめてから30年以上経過しています。 急速なコンピュータの普及により、職場や家庭内でのVDUの使用が飛躍的に増加しました。 西暦2000年までには北アメリカの労働人口の60%がVDUを使用し、また全世界では合計1億5千万台以上のVDUが使用されるといわれています。
VDUとは何か?
VDUはコンピュータからの情報を表示する為の表示装置で、多くの場合、テレビのような形をしています。 しかしながら、テレビ放送を受信してその番組の映像を表示するというものではありません。 ブラウン管(CRT)を採用したVDUでは、CRT内部の電子銃から発射された高エネルギーの電子ビームを、コンピュータからの信号によって、CRT後部のコイルにより垂直および水平方向に走査し、CRT前面ガラスの内面に塗布された蛍光体に衝突させることで蛍光体から光を出し、目に見える画像とします。
このコイルは偏向ヨーク(垂直コイルおよび水平コイルで形成)と呼ばれています。 これらの画像を作り出す電子回路から、静電界及び静磁界が生じるとともに、低周波及び高周波の電磁界が発生します。
光と電磁界
VDUから光を含むほとんど全てのスペクトラム帯域の電磁界が発生しています。 その光には、紫外線(UV)(可視光に近い波長の長い紫外線)、可視光、赤外線(IR)などが含まれています。 可視光はVDUが本来目的とする画像を形成しています。 赤外線はVDUから熱として放散されます。 CRTからは極めて僅かな量の紫外線が放射されますが、冬場の窓越しに入ってくるよりもはるかに少ない量です。
VDUから放射する電磁界は次の3種類の周波数帯に分けることができます。 水平偏向コイルから15-35キロヘルツの周波数帯の電磁界が主として放射されています。 電源回路、トランス、垂直偏向コイルからは超低周波の50あるいは60ヘルツの電磁界が放射されています。 また、コンピュータから受信する信号やVDU内部の電子回路から微弱な高周波電磁界(ラジオ波:RF)が発生します。
また、CRTの前面ガラス内面に電子が衝突することで発生する電荷の蓄積によって静電気が生じます(一般的にはCRT内部の高電圧が静電誘導によって前面ガラスに発生する:訳注)。 特に室内の空気が乾燥している時に静電気の発生が顕著になります。 さらには、高い周波数の音波や超音波が、主として水平偏向回路などの種々のVDU内部部品から発生し、高い周波数のノイズとしてかろうじて聴き取れることがあります。
非常に低エネルギーのエックス線(軟エックス線)がCRT内部で発生しますが、前面ガラスが十分に厚いので、CRT内部から外に漏れる以前に完全に吸収されます。
健康への関心
職場にVDUが導入された当初、VDUは頭痛、めまい、疲労、白内障、異常妊娠、皮膚発疹といった多くの健康障害を引き起こす原因ではないかと懸念されました。 これを受けて、電磁界(EMF)が何らかの健康影響をもたらすのではないかと多くの科学研究が行われました。 室内空気汚染、職務に伴うストレス、VDU使用時の姿勢や腰掛け方といった人間工学的問題などを含めて,原因となる因子をWHOや他の研究機関が検討しました。
その結果(詳細は以下を参照)、VDU 作業に関連した健康影響の決定因子は、VDUからの電磁界の発生そのものではなく、職場環境にあるだろうとの見解を述べています。 以下に科学的な検討結果の概要を示します。
妊娠への悪影響
北米、ヨーロッパ、オーストラリアでいくつかの妊娠異常を呈する集団(クラスタ)が認められ、VDU作業が妊娠に影響を与える可能性があるとの指摘が1970 年代末に出されました。 これらの集団(クラスタ)はVDU作業を行い、グループとしては奇形児出産や自然流産を異常な高頻度で経験していると思われる妊婦のグループでした。
これが多くの疫学研究と動物実験を北アメリカとヨーロッパで行わせる契機となりました。 これらの研究ではVDUからの電磁界曝露に起因する生殖過程へのいかなる影響をも見つけられませんでした。 しかしながら、もし生殖に影響を与えるとしたら、恐らくは仕事からもたらされるストレスといった、他の作業環境要因が関連しているのではないかという見解が示されました。
眼への影響
白内障や他の眼の疾病とVDU作業との間には何の関連も認められませんでした。 しかし、VDUの表示画面のグレアや外光の反射が極端に大きい場合には、眼の疲労や頭痛の原因になることが分かっています。
皮膚への影響
発疹やかゆみといった皮膚症状の増加については、特にスカンジナビア諸国で研究されてきました。 しかしながら、これらの症状とVDUからの電磁界放射との関連を見いだすことは出来ませんでした。 こうした症状を持つ人々に対する再現実験(研究室での試験)によって、これらの症状は電磁界暴露とはなんら関係が無いことが分かりました。
ほかの因子
研究者は室内作業環境に関連のある種々の因子についても検討しました。 これには、室内空気の状態、室温、不適切な照明による眼の疲労、人間工学的に不適切な作業配置などが含まれます。 人によっては頭痛やめまい、筋・骨格系の不快を訴える事がありますが、VDU作業環境の適正化と人間工学的対策によって、これらの症状の多くは予防する事ができます。 例えば、機器類の選定や照明、正しい姿勢を保ったり、筋や眼の疲労やストレスの原因となる緊張を少なくする様々な環境づくりがその対策に含まれます。
以上の結論は国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)、国際労働機関(ILO)及びWHOによる検討結果とー致しています。
防護手段
VDUから放射される電磁界による健康影響への不安は、健康影響の防護を目的とする多くの用品を生み出しました。 VDU使用時のための防護エプロン、画面フィルタ、電磁界低減用品などがそうです。 しかし、もともとVDUからの電磁界放射などは各国の基準や国際的基準により許容された暴露限度値よりもはるかに低い値であるため、たとえこれらの用品を用いてさらに電磁界を低減させることができたとしても、実際的な意味はありません。
眼の疲労の原因となる画面のグレアを低減させる画面フィルタを除き、電磁界防護用品の使用をWHOは推奨していません。 国際労働機構(ILO)も同様に電磁界放射の低減を目的とした防護用品の使用を推奨していません。
詳細情報の入手について
WHOの国際電磁界プロジェクトは、電磁界曝露と健康に関するさまざまな知見を載せているWHOファクトシートとリンクしているホームページを持っています。 このホームページは国際電磁界プロジェクトの詳細な情報や出版物の案内、科学的情報や広報資料も提供しています。 WHOの国際電磁界プロジェクトのホームページhttp://www.who.ch/emf/をアクセスして下さい。
以下の参考文献には、VDUに関してより詳細な情報が掲載されています。
- [Visual Display Terminals and Workers' Health, WHO Offset Publication NO. 99, World Health Organization, Geneva l987] には、眼の疲労や筋・骨格系障害などの電磁界放射が原因でない障害について特集しています。
- [Electromagnetic Fields 300 Hz-300 GHz, WHO Environmental Health Criteria NO. 137, World Health Organization, Geneva 1993.] VDUから放射される電磁界の物理学と生物学的影響を総合的に再検討しています。
- [Visual Display Units: Radiation Protection Guidance, Occupational Safety and Health Series NO. 70, International Labour Office, Geneva, 1994 ] にはVDUに関する簡潔な、最近の総説が掲載されています。
- [Matthew, R. editor: Non-lonizing Radiation: Proceedings of the Third International Nonlonizing Radiation Workshop, Baden, Austria, ICNIRP, 1996] にはVDUからの電磁界放射を含む非電離放射線防護に関する一連の情報が掲載されています。)
以下の参考文献には、VDUに関してより詳細な情報が掲載されています。
全てのWHOからの報道広報文、ファクトシート、その他関連情報は、インターネットのホームページ( http://www.who.ch/)で得られます。
「付記:この翻訳は、日本電子工業振興協会のVDT対策専門委員会の協力を得て、厚生労働省 国立保健医療科学院生活環境部大久保千代次が担当しました。 本文中不明な点がありましたら、電子メイルohkubo@niph.go.jpへご連絡ください