技術戦略部会


10年後のICT関連技術開発提案に関する検討


要    約

日本が得意とする材料・電子デバイス技術と環境・社会インフラ技術を活用し、10年後に、実世界をイノベートする日本の電子情報産業が手がけるべきICT・エレクトロニクス技術分野を明らかにする。少子高齢化、環境規制、高法人税、円高、FTA・TPP問題、電力供給制約という厳しい条件の中で、日本産業が激しく毀損している。世界市場での生き残りをかけて、グローバルに勝つための復活シナリオが必要である。
メガトレンドを分析し、今後、伸長が期待できる市場と日本の強みを検討し、10年後有望となるスマートコミュニティにおける4分野( A:ヘルス、B:ICTの第一次産業への活用、C:都市・モビリティ、D:人間社会)に注目した。各分野においてニーズと狙いを明確にし、民間だけではリスクがとれない、国が支援して推進すべき重要な技術開発項目を示す。
また、“実世界をイノベートする”共通の“仕組み”として、実世界(フィジカル)を膨大な数のセンサーでリアルタイムにセンシングし、取得された多量なビックデータを用いて、クラウド上の仮想空間(サイバー)にモデリングされた実世界をシミュレートし、予測される近未来に対して備えるために、実世界を操作(アクチュエート)し、新しい価値を創造するシステム、いわゆる“サイバー・フィジカル・システム”をモチーフに検討を行った。 以下に、各分野における要約を記す。
(A)ヘルス
世界で最も急速に高齢化が進む我が国では、国民が心身ともに健康で、老いてなお、豊かで快適な人生を過ごせるような社会を実現しなければ、経済社会の活力は減退する一方である。そこで、ICT・エレクトロニクス技術によってそのような人生を可能にするとともに、我が国が世界に先駆けて、超高齢化社会における新たな産業を育成することを目的とする。具体的には、センシングネットワーク技術を用いて体内データを常時監視し、生活習慣病等を予防すること、MEMS技術による自走式ロボットを用いて消化器官全域をリアルタイムで精密画像診断すること、および遠隔制御による腫瘍の切除や患部への薬剤噴射等の治療を行うこと、ワイヤレス給電技術を用いて埋め込み型人工臓器への電源供給を行うこと、パワーアシスト技術や介護用ロボットを用いてリハビリテーションを支援することなどである。いずれもICT・エレクトロニクス業界が、医療業界と連携しながら、リードしていくべき技術開発であり、我が国の強みが活かせる技術分野である。
(B)ICTの第一次産業への活用
第一次産業を、従来の「モノづくり」から「コトづくり」へ転換することによって、新たな雇用とサービス産業を創出し、地域を再生することを目指す。農業においては、いわゆる「6次産業化」の概念を超えて、第一次産業を「生態系サービス」の原動力にするという視点を持ちながら、自然環境に大きくかかわる第一次産業にICTを活用することを提案する。また、林業・水産業においては、高品質・高付加価値の産物を少人数で大規模生産することを可能にし、輸出のできる強い産業に育てる施策を提案する。その実現のため、ICTを駆使した基盤技術・生産システムを描出し、各課題を解決する技術を、サービス、ソフトウェア、ハードウェアに分類して示す。
(C)都市・モビリティ
新興国を中心に人口増大・都市への人口集中が急速に進んでいる。同時に、気候変動や資源の枯渇の問題が顕在化してきている。以上のような背景から快適で安全便利な暮らしと自然環境との調和を両立するスマートシティの構築が必要となっている。世界中で約400のプロジェクトが計画されており、その市場は2030年に累計で4000兆円に迫ると予測されている。このような潮流を受け、10年後にはモデル都市での大規模実証、先進国都市での要素実証が完了、AMI、M2Mネットワーク、HEMS、BEMSなどの基礎技術は確立され、欧米先進企業(IBM、 GE、 Siemens、 ABBなど)は社会システムインテグレータとして事業拡大を本格化している。また、モデル都市構築で実績を積んだ新興国企業/ディベロッパが台頭、世界市場を狙って活動を活発化している。そのような状況の中で、日本企業群が世界のスマートシティ構築をリードするための開発として、次の3つを提案する。
   (1)スマートシティの全体設計最適化、都市構築後の高効率運用と拡張性の確保、
      リスク予測と回避策の提案などを可能とする「都市経営シミュレーション」の開発
   (2)人流・物流の鍵となる「自動運転モビリティ」の早期大規模実証とデファクト化の推進
   (3)インフラ維持や災害からの復興で活躍する「小型連携ロボット」の開発
(D)人間社会
低炭素化社会への転換ニーズの高まりや高齢化といった社会的背景に対し、人間が安全・安心・快適に生活し、仕事ができる環境を提供することを目的とする。具体的には、人の動きに応じて待ち時間を短くするようなエレベータの制御や、快適かつ省エネを両立する空調の制御、あるいは人の状況に合わせたディスプレイや携帯端末による情報の提供などがある。そのためには、
   (1)センサーによるデータ収集
   (2)収集した(ビッグ)データの処理
   (3)表示/ディスプレイによるユーザへの促し
が必要となる。また、個人ごとの情報提供やサービスの実現には?C認証やプライバシー保護が必要となる。これらの技術により、人が意識することなく、さりげないガイダンスによって安全・安心・快適な社会を創出する。
※ 11月28日開催予定「IT・エレクトロニクス技術戦略シンポジウム2012」
  にご参加の方に、「提言書」を限定的に配布致します。

以上

実世界イノベーション実現のための基盤技術

PAGE TOP