ASEAN諸国は、経済の急成長と共にエネルギー消費量が急増している地域である。地球温暖化問題への対策を進める上で、このような地域における省エネを推進することは、重要な課題である。このようなエネルギー消費量の急増に対して、ITを用いた省エネ(グリーンIT)は大きく貢献できると考えられる。
本事業は、経済産業省からの受託事業として、ASEAN諸国の産業界に対して、ITを用いた我が国の最新の省エネ技術及び製品によるソリューションを紹介・導入し、省エネを推進することを目指して、「 ITを活用した省エネルギーの実現に向けた診断」を実施するものである。
データセンタ、公共施設・ビル、プラント・工場等に省エネ専門家を派遣し、我が国の最新ITを利用した省エネの実現にむけて、各種設備の診断や最適化計画の立案、改善効果の予測等を行った。
本事業のうち主な以下の3つの事業について紹介する。
ASEAN諸国の産業界に対して、我が国の最新の省エネ技術及び製品によるソリューションを紹介・導入することを目指して、グリーンIT省エネ診断を実施した。ASEAN諸国において省エネ対策が必ずしも進んでいないデータセンタや公共施設、プラント・工場等を対象に、エネルギー消費削減の可能性をITの活用にて定量的に評価した後、我が国の最新ITに基づく省エネ技術や省エネ製品によるソリューションが導入可能か否かを診断した。
診断は、本年度はマレーシアにおいてデータセンタ、公共施設、プラント・工場それぞれ1ヶ所、東南アジア某国において公共施設1ヶ所の合計2ヶ国4ヶ所を対象とした(表1-1)。また、診断によって得られた省エネポテンシャルを表1-2にまとめた。
なお、診断先4件のうち3件については相手先の意向により、診断国名および企業名を非公表とした。
診断先 | マレーシア国内、総合大学内の学校向けデータセンタ |
---|---|
診断担当企業 | NTTデータ先端技術(株)、高砂熱学工業(株) |
診断概要 | ・ 温熱環境調査、熱流体解析による省エネ診断、PUEおよびDPPE計測の実施 -サーモカメラを用いた温熱環境調査、空調能力測定、熱量、風量測定 -数値流体力学(Computational Fluid Dynamics)ソフトによる気流シミュレーション -関連設備の消費電力量調査、ICT機器諸元調査 |
診断結果(提案) | ・PUE改善(変換ロス改善)のため、給電方式の変更(HVDC化)、およびUPS装置の並列冗長化を提案 ・室内冷却効果や、CRAC運転効率改善のため、空調方式の変更(壁吹出し方式)を提案 ・PUEは3.04であった。(なお、DPPE値については、対象IT機器にカスタムメイドが多く定格能力、および定格電力が特定出来ないため算出不可とした。) |
診断先 | MEGAJANA(マレーシア) |
---|---|
診断担当企業 | アズビル(株) |
診断概要 | ・設備運用最適化技術である「U-OPT」のオフライン・シミュレータによる省エネ診断 -地域冷房設備運転データによる解析 -テンポラリーの電力計等による計測(データ不足箇所)および解析 |
診断結果(提案) | ・MEGAJANAの持つ3プラント間に共通ヘッダーを設置することによる3プラント全体の効率運用の提案(来年度設置計画) ・3プラント統合後の多数の冷凍機や蓄熱槽の同時最適運用を助ける設備運用最適化オンラインガイダンスシステム「U-OPT」の導入の提案 |
診断先 | 東南アジア某国 送電網 |
---|---|
診断担当企業 | (株)東芝 |
診断概要 | ・電力インフラの基本調査、課題要因設備、改善条件、改善評価に係る現地調査の実施 |
診断結果(提案) | ・EMS導入による省エネを提案 |
診断先 | マレーシア国内、石油・ガス化学工業の企業 |
---|---|
診断担当企業 | 横河電機(株) |
診断概要 | ・現地企業が提供するクラウド(PaaS)環境下での運転解析 ・PAT (Process Analytical Tool)を使用したプラント運転データ解析実施および各種PATの有効性検証 |
診断結果(提案) | ・以下の改善策を提案 -プラント運転データの遠隔解析 クラウド上にプラント運転データを読み込みクラウド上に構築された解析ツールを使用して遠隔地においてデータ解析を行うことで、物理的移動エネルギーの節約を行う -プラント運転データ解析による省エネ機会の同定各種の解析ツールを駆使してプラント運転データを解析し、エネルギーロスにつながる案件を同定。見出された課題を解決することにより石油精製エネルギーの節約を行う(今回のデータ解析の結果、蒸気発生ボイラーでの燃料節約が可能であることが判明した) |
診断先 | 主要な省エネ対策 | 対象 | 年間CO2削減ポテンシャル | |
---|---|---|---|---|
A) | マレーシア国内、総合大学内の学校向けデータセンタ | ・空調設備運用改善 ・UPS装置の並列冗長化 ・給電方式の変更(HVDC化) ・壁吹出空調導入 |
・サーバルーム(177m2) ・熱源室 |
空調設備運用改善および UPS装置の並列冗長化 ・81,630 [kWh/年] ・51.2 [t-CO2/年] ・23,509 [MYR /年] ・7,688 [USD/年] 給電方式の変更(HVDC化)および 壁吹出空調導入 ・205,488 [kWh/年] ・128.6 [t-CO2/年] ・59,180 [MYR /年] ・14,673 [USD/年] |
B) | Megajana(マレーシア)地域冷暖房施設 | ・ユーティリティ運用最適化システム”U-OPT”の導入 ・冷却塔冷水温度制御 ・冷水2次送水ポンプのインバータ制御 |
・地域冷熱供給設備全体(3施設) ・冷却水システム ・冷水送水系 |
・2,518,845[kWh/年] ・1,576.8 [t-CO2/年] ・392,773[MYR/年] ・128,441 [USD/年] |
C) | 東南アジア某国、送電網 | ・EMSによる省エネ | ・発電所 ・変電所 |
・158,970[t-CO2/年) ・4,800万[USD/年] |
D) | マレーシア国内、石油・ガス化学工業の企業 | ・プラント運転データの遠隔解析 ・プラント運転データ解析による省エネ機会の同定 |
・クラウド環境 ・常圧蒸留装置 |
遠隔解析 ・10 [KL/年] ・27 [t-CO2/年] ・400,000[MYR/年] ・130,000[USD/年] 省エネ解析 ・1,000 [KL/年] ・2,700 [t-CO2/年] ・400万[MYR/年] ・130万[USD/年] |
注:換算係数の詳細は、下記を参照。
会社名 | 国名 | 業務用電力料金※1 | 現地通貨・ 米ドルレート (2011/11/28時点) |
排出係数※2 |
---|---|---|---|---|
NTTデータ先端技術(株) | マレーシア | 月額基本料:600リンギ 1kWh当たり料金: 0.288リンギ |
1ドル = 3.0580リンギ | 0.626 t-CO2/MWh |
アズビル(株) | ||||
(株)東芝 | 東南アジア某国 | ― (非公開) |
― (非公開) |
|
横河電機(株) | マレーシア | 月額基本料:600リンギ 1kWh当たり料金: 0.288リンギ |
1ドル = 3.0580リンギ | 0.626 t-CO2/MWh |
※1出典:JETRO 第21回アジア・オセアニア主要都市/地域の投資関連コスト比較
料金範囲より任意の数値を選択(オペレーティングマージン使用)
※2出典:財団法人地球環境戦略研究機関 CDMグリッド排出係数関連データ
日本の省エネ製品やソリューションをASEAN諸国に広く紹介するため、ベストプラクティス集および連携制御ガイドブックを作成し、アジア諸国をはじめとする海外で配布した。各企業が提案する省エネ製品・ソリューションの一覧に加え、製品の内容や効果について活用事例を追加し、読者の理解を助けることを目指した。
特に、本事業の省エネ診断を受け入れた現地企業やセミナー出席者等に対して同冊子を配布することにより、グリーンIT省エネ診断に用いた技術に限らず、我が国のその他のグリーンITを用いた省エネ製品・ソリューションの紹介やその導入方法や導入効果の紹介を行った。配布したアジア現地の診断先、ワークショップやセミナーでは、日本の最新製品・技術や導入方法がわかる資料として評価する声を多数頂いた。
あわせて、ウェブサイトも作成・公開した。ベストプラクティス集ウェブサイトでは、企業名、分類、キーワード等から検索が可能なため、是非ご活用願いたい。
平成25年1月29日に、クアラルンプール(マレーシア)において、グリーンITセミナーを開催した。セミナーでは本事業で得られた省エネ診断の成果、及び我が国のグリーンITに係る事例やグリーンIT推進協議会の取組み等を紹介した。
セミナーの開催には、JEITAとマレーシアグリーン技術開発促進機関(GreenTech)が主催となり、日本経済産業省(METI)、マレーシアエネルギー・環境技術・水省(KeTTHA)、JETROクアラルンプールから後援をいただいた。運営はグリーンIT推進協議会(GIPC)が行った。
セミナーは聴講者230名を集めるほどの盛況であり、休憩時や閉会後には、聴講者より講演者に対する個別の質問や問い合わせを受けるなど、省エネ取り組みに対する意識の高さが伺えた。年度の新たな取り組みとして、金融機関による省エネ機器導入の際に活用可能な融資の講演をプログラムに加えた。これは現地カウンターパートの勧めによるものであり、現地企業が日本の先端技術を導入する際に障壁となる価格問題を解消し、導入促進を行う目的である。
また、昨年度のセミナー同様、セミナー開会前、休憩時、閉会後に商談時間を設定した。商談コーナーでは昨年度盛況であった企業ブースの商談コーナーに倣い、各社ブースにモニターやパンフ、ポスターを設けることで集客効果や視覚的理解を高めた。さらに、現地スタッフを配置し商談対応の充実を図った。その結果、現地企業からの講演内容に対する問い合わせ等、今後の商談につながる大きな反響があった。
平成24年度事業報告書は経済産業省のホームページに掲載予定です。
アジア省エネ診断(平成23年度事業)については
アジア省エネ診断(平成23年度)をご覧下さい。