VDTからの電磁波は健康に影響を及ぼすのだろうか?
−− VDT対策専門委員会の理解と対応 −−
目次
1.概要2.電磁波の健康への影響は?
2-1. 電磁波とは何か、また、その影響は
2-2. 低周波電磁界の健康影響に関する研究の経緯
2-3. VDTからの電磁波
3. WHOの見解 (Fact Sheet 201より抜粋)
4. VDT対策専門委員会の活動と提案
4-1.基本的な見解
4-2.これまでの活動
4-3.今後の活動
4-4.VDT対策専門委員会からの提案
5.参考文献
VDT対策専門委員会では1990年以降、VDT機器に関する健康への影響の問題を調査・論議してきました。VDT:Visual Display Terminal 表示装置
1998年7月に世界保健機構(WHO)の国際EMFプロジェクトが発行した Fact Sheet 201によれば、VDTからの電磁波は問題の無いレベルであり、電磁波防護用品の使用は不要となっています。
EMF:Electromagnetic Field (電磁界)
(1)現状:
WHOの公式見解に反して、市場において種々の電磁波防護用品が販売されており、これらの電磁波防護用品の中には、次のようなものがあります。(2)このホームページの目的:・電磁波低減効果等が疑わしいもの
・「VDTの電磁波が人体に影響を与える」といった表現によりユーザの
不安をあおるもの
ユーザに対して
・電磁波に対する問題を正しく理解してもらう
・「経済的」、「心理的」な負担を軽減する
(3)本委員会の対応:
日本電子工業振興協会(以下,電子協)の会員各社が電磁波防護用品の製造・販売あるいは使用する場合に留意すべき事項を提案することとしました。
提案1:カタログ等への記載表現について提案2:電磁波防護用品について
提案3:VDT機器の選択について
2-1. 電磁波とは何か、また、その影響は
電磁波とは:電界と磁界が相互に作用しあって伝播するものです。ラジオやテレビの放送波、光(可視光等)、X線等も電磁波であり、広い周波数範囲を包含しますが、二種類に大別できます。
(1)電離放射線:X線やガンマ線といわれる電磁波は電離放射線(一般に放射線)と呼ばれ、細胞などに直接的な影響を与える力を持っています。このため、電離放射線に対して国際的な安全基準が科学的な観点から制定されています。
(2)非電離放射線
可視光およびそれよりも低い周波数の電磁波は、非電離放射線とも呼ばれ、細胞などに電離放射線のような直接的な作用を与えることがありません。しかし、健康への影響があるのではないかと研究が行われています。
このように「電磁波」は、周波数によってその影響が異なるうえ、強度も広範囲であり、一言で健康への影響を語ることはできません。VDTから放射する電磁波は広い周波数範囲にわたっています。高い周波数範囲については科学的定見が得られており、放射強度も微弱であるので、問題は無いと考えられています。そこで本委員会では以下に述べる低周波電磁界に関して言及します。
2-2. 低周波電磁界の健康影響に関する研究の経緯
1950年頃〜低周波電界の健康影響の研究が始まる。1979年〜低周波磁界の研究が始まる。1996年5月高圧送電線からの電磁界による健康影響も話題となったのもこの頃です。そして低周波電磁界が「健康に影響を与える」という研究結果も発表されました。一方では「健康に影響を与えない」という研究も発表されました。
WHO国際EMFプロジェクト設立:1998年電磁界発生源の増加やその形態の多様化による電磁界曝露に伴う健康影響が懸念されていること等を受けて、電磁界曝露の健康や環境影響を評価するWHOの国際プロジェクト。このプロジェクトの中でWHOは公式かつ独立性を保って「電磁界による生物学的影響に関する研究論文」の厳正な評価を行っている。現在も活動中。
=>「WHOの見解や発行文書は十分に信頼のおける科学的な根拠である」と言えます。
・アメリカのRAPID計画の中間報告書発行・WHOの国際EMFプロジェクトよりFact Sheet 201発行
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2-3. VDTからの電磁波
1980年代の初頭(1)VDTの普及が始まった頃に、以下のケースが一部の職場で発生した。1986年 第 1回 WWDU(ストックホルム)・VDT作業者の中に妊娠異常のケース
・皮膚に異常を訴えるケース
(2)当時推測された原因
・VDTからのX線
・VDTからの電磁波
(3)調査結果
VDTからの電磁波が原因ではなかった。
セッション別 発表内容1989年 第2回 WWDU(モントリオール)
・電磁波関連------------------3件・妊娠への影響----------------9件
・皮膚への異常----------------5件
・作業姿勢・見易さ・
作業などの関連するストレス--- 85件「VDTの電磁波と妊娠異常に関係が認められない」ことが報告された。1992年 第3回 WWDU(ベルリン)・電磁波、妊娠への影響、皮膚への影響と言うセッション自体がなくなる。WWDUはその後、ミラノと東京で開催されています。東京での内容についてはこちらを参照してください。・皮膚異常、妊娠への異常等-------4件
「作業環境」等のセッションに含まれ、これらの
ほとんどが電磁波とは無関係・電磁波関連--------------------1件
(TCOの研究者も参加した研究のみ)・その他に作業姿勢・見易さ・
作業などの関連するストレス------89件WWDU:Work With Display Unit
VDTの使用に関連する諸問題の研究発表の国際会議このように、当初様々な疾病の原因はVDTからの電磁波ではないかと疑われていましたが、その後の研究の進展によりVDTからの電磁波が原因ではないと判明しました。現在では「作業のストレス、作業姿勢がより重要である」という認識に至っています。
このような研究報告がなされているのにも関わらず、北欧ではVDT利用者の「VDTからの電磁波が健康に影響をあたえるのではないか」という懸念を払拭することができず、VDTからの電磁波を規制しようという動きがありました。こうした動きを受けて策定されたのが、今日のスウェーデンのMPRUのガイドライン等です。
3. WHOの見解 ( Fact Sheet 201より抜粋 )Fact Sheet 201とは:
WHOの国際EMFプロジェクトが1998年7月に発行した「表示装置と人の健康」に関するWHOの公式見解です。
健康への関心:
職場にVDUが導入された当初、VDUは頭痛、めまい、疲労、白内障、異常妊娠、皮膚発疹といった多くの健康障害を引き起こす原因ではないかと懸念されました。
これを受けて、電磁界(EMF)が何らかの健康影響をもたらすのではないかと多くの科学研究が行われました。
室内空気汚染、職務に伴うストレス、VDU使用時の姿勢や腰掛け方といった人間工学的問題などを含めて,原因となる因子をWHOや他の研究機関が検討しました。その結果(詳細は以下を参照)、VDU作業に関連した健康影響の決定因子は、VDUからの電磁界の発生そのものではなく、職場環境にあるだろうとの見解を述べています。以下に科学的な検討結果の概要を示します。妊娠への悪影響:
北米、ヨーロッパ、オーストラリアでいくつかの妊娠異常を呈する集団(クラスタ)が認められ、VDU作業が妊娠に影響を与える可能性があるとの指摘が1970年代末に出されました。これらの集団(クラスタ)はVDU作業を行い、グループとしては奇形児出産や自然流産を異常な高頻度で経験していると思われる妊婦のグループでした。
これが多くの疫学研究と動物実験を北アメリカとヨーロッパで行わせる契機となりました。
これらの研究ではVDUからの電磁界曝露に起因する生殖過程へのいかなる影響をも見つけられませんでした。
しかしながら、もし生殖に影響を与えるとしたら、恐らくは仕事からもたらされるストレスといった、他の作業環境要因が関連しているのではないかという見解が示されました。眼への影響:
白内障や他の眼の疾病とVDU作業との間には何の関連も認められませんでした。しかし、VDUの表示画面のグレアや外光の反射が極端に大きい場合には、眼の疲労や頭痛の原因になることが分かっています。皮膚への影響:
発疹やかゆみといった皮膚症状の増加については、特にスカンジナビア諸国で研究されてきました。
しかしながら、これらの症状とVDUからの電磁界放射との関連を見いだすことは出来ませんでした。
こうした症状を持つ人々に対する再現実験(研究室での試験)によって、これらの症状は電磁界曝露とはなんら関係が無いことが分かりました。ほかの因子:
研究者は室内作業環境に関連のある種々の因子についても検討しました。これには、室内空気の状態、室温、不適切な照明による眼の疲労、人間工学的に不適切な作業配置などが含まれます。
人によっては頭痛やめまい、筋・骨格系の不快を訴える事がありますが、VDU作業環境の適正化と人間工学的対策によって、これらの症状の多くは予防する事ができます。例えば、機器類の選定や照明、正しい姿勢を保ったり、筋や眼の疲労やストレスの原因となる緊張を少なくする様々な環境づくりがその対策に含まれます。以上の結論は国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)、国際労働機関(ILO)及びWHOによる検討結果とー致しています。
防護対策:
VDUから放射される電磁波による健康影響への不安は、健康影響の防護を目的とする多くの用品を生み出しました。VDU使用時のための防護エプロン、画面フィルタ、電磁波低減用品などがそうです。
しかし、もともとVDUからの電磁波放射などは各国の基準や国際的基準により許容された曝露限度値よりもはるかに低い値であるため、たとえこれらの用品を用いてさらに電磁波を低減させることができたとしても、実際的な意味はありません。
眼の疲労の原因となる画面のグレアを低減させる画面フィルタを除き、電磁波防護用品の使用をWHOは推奨していません。国際労働機構(ILO)も同様に電磁波放射の低減を目的とした防護用品の使用を推奨していません。
Fact Sheet 201の全文はこちらのWHOのホームページで参照できます。
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4-1.基本的な見解
現在市販されているVDTについて 「静電気や電磁波に関しては、健康への影響はなく、何ら対策の必要もない」と確信しています。しかしながら、ユーザの一部に、低周波電磁界による健康影響を気にする声があることを承知しています。そうしたユーザの要望に応えることもメーカの努めであることから、「VDTの安全性や性能の向上が目的ではなく、あくまでも電磁波による健康影響に関して不安を抱くユーザの要望に応えることを優先させて、より安心してもらえる製品を提供していく必要がある」と考えます。
4-2.これまでの活動
1980年代の初頭「VDTから発生する静電気や電磁界の輻射が健康に悪影響を及ぼす恐れがある」との記事がに米国等で発表されて以来、これがユーザの強い関心を呼ぶ。また、スウェーデンではVDTの静電気および低周波電磁界の規制を行おうという動きが起こる。
1987年MPRTが制定
1990年MPRUが制定
1990年9月当委員会を設置
「静電気および低周波電磁界による健康影響に関する内外の情報収集とその対応」
スウェーデンのMPRUに準じて1991年10月
「情報処理機器用表示装置の静電気に関するガイドライン」作成
1993年10月「情報処理機器用表示装置の低周波電磁界に関するガイドライン」作成上記二つのガイドラインの概要はこちらで参照できます。
1999年2月スイス、ベルギー、スウェーデンに調査団を派遣・欧州における低周波電磁界による健康影響に関する最新の研究の調査
・低周波電磁界に対する規格の動向を調査
4-3.今後の活動
1)電磁波による健康影響に関する研究の調査
現在、最新の情報は第3章で紹介したFact Sheet 201と考えておりますが、今後も継続して 国内外の電磁波による健康影響に関する研究報告の動向を調査していきます。
2)国内外の規格との調和
・低周波電磁界に関する規格の動向を調査
欧州のprEN50279(審議中の規格案)等の動向を調査・上記「ガイドライン」の改廃
4-4. VDT対策専門委員会からの提案
以上の見地から当委員会としては、以下の3点を電子協の参加会員会社に提案します。
提案1:カタログ等への記載表現について「VDTの電磁界が健康に影響を与える」等、ユーザに誤解を与える表現の自粛をお願いします。
提案2:電磁波防護用品について
当委員会でも「VDT機器に対するOAエプロン・画面フィルタ等の電磁波防護用品」の使用を推奨しません。
なぜなら、これらの電磁波防護用品にうたわれている効果には疑問点が多々あるからです。販売・利用を行うのであれば、その電磁波防護用品の効果を科学的に確認すべきと考えます。・専門家への相談
電磁波防護用品の効果の確認は、その製造会社から提供されたデ−タを読むだけでは不十分な場合もあります。これらの場合には専門的な知識を持つ人に相談したり、会員各社において再確認の実施が必要です。注:提案3:VDT機器の選択について
電磁波による健康影響を気にするユーザにとっては、科学的には効果が皆無であっても、プラセボ効果があるかも知れません。他に副作用がなければ、VDTからの電磁波による健康影響を気にして仕事ができない場合等は、画面フィルタを付けることによって、気休めとなり、ストレスが解消されて、仕事が順調にいくという側面までは、当委員会では否定しません。「もともとVDUからの電磁界放射などは各国の基準や国際的基準により許容された曝露限度値よりもはるかに低い値である」というWHOの見解にもあるようにVDTから放射する電磁界は問題はないと考えられます。
ここで言う国際的な曝露基準(ICNIRP)と比較すると、表1に示すようにMPRU、TCOおよび当協会のガイドラインは充分に低いものです。
ICNRP:国際非電離放射線防護委員会
一般にユーザは実際に電磁界のレベルを確認する手段を持っていないため、不安を解消しきれない場合もあります。そこで電磁界レベルが低減されたことを保証するためには、当協会の低周波電磁界に関するガイドラインへの適合品で充分であり、これらの製品の使用を推奨します。
表1 ICNIRPの曝露基準と電磁界強度に対する技術基準値
(50Hz 磁界の場合) 単位[μT(マイクロテスラ)]
ICNIRPの曝露基準 100 TCO 0.2 MPRU 0.25 電子協 0.25
この「理解と対応」の取りまとめに際し、以下の資料を参考にしました。
5.1 電磁波に関する防護基準、ガイドライン類
1-1]「生体と電磁環境(8)VDTの電磁界-オフィスの電磁環境の諸問題『後編』」: 冨永洋志夫5.2 電磁波防護用品に関する文献1-2]「解明困難な人体への影響 心配し過ぎは無用だ」:古賀佑彦 1990
1-3]「ICNIRPのガイドラインの概要」:当委員会要約
1-4]「アメリカ RAPID計画のサマリ」:当委員会要約
1-5]情報処理機器用表示装置の静電気に関するガイドライン:当協会
1-6]情報処理機器用表示装置の低周波電磁界に関するガイドライン:当協会
1-7]情報処理機器用表示装置の低周波電磁界に関する調査活動報告書:当協会
2-1]「電磁波汚染」:天笠啓祐2-2]産経新聞97年3月31日
2-3] ガウス通信第28号
2-4] ガウス通信第36号
5.3 その他
1]「Fact Sheet 201」:WHO ELF Project2]「Biological effects of Electric and Magnetic fields from Video Display Terminals」
:IEEE Entity Position Statement3]「Magnetic field(磁界編)」:WHO Environmental Criteria 69, 1987
4]「効果が疑わしい電磁波防護グッズ」:有泉均
End of the contents